ギガシス スリー

ミロrice

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 紗和が老婆を郊外行きのバスに乗せて、ほっとひと息ついたのは、二時半を少し回った頃だった。
「もう怪獣なんて出なきゃいいんだけど」
 紗和はバスを見送りながらつぶやいた。
 そのバスも見えなくなると、急に一緒に来た友人のことが心配になってきた。
 怪獣は近くにいるらしいが、探せるだけ探してみようと見失ったところを目指した。
〝紗和〟
 どこからか声がした。
「ん? 美世みよ?」
 あたりを見回すが、友人の姿は見えない。
「変だなあ」
 首をかしげるが、空耳だったのかと再びあたりを見回しながら歩き始めた。
〝闘え〟
 声がしたが、そのまま歩き続ける。
〝お前に言ってるんだ、紗和〟
「えっ、あたし⁉︎」
 紗和は驚いて足を止めた。
 自分に言っているとは思わなかったのだ。
「誰?」
 知り合いがいるのかと思ったが、それらしい人物は見えない。
「誰のいたずらー⁉︎」
 声を大きくしたが、道ゆく人々の視線を集めただけだった。
〝いたずらじゃない〟
「むむっ⁉︎」
 やっと頭の中で声がすることに気づいた。
「なんだこりゃ!」
 道行く人の視線が冷たい。
〝声を出さずともおしゃべりはできるよ〟
「エスパーか」
〝うん、それに近いかな〟
──本当かよ。
〝本当だよ〟
「うおっ! マジか⁉︎」
〝マジマジ〟
──ってーか、あんた、誰?
〝あたしはお前たちが言う宇宙人だ〟
──えー? それはちょっと信じられないなあ。エスパーのいたずらか?
〝いたずらじゃないって!〟
──なんだかさっぱりわかんないな。なにが起こってんの?
〝あたしはお前と、えーと、混ざったんだ〟
──混ざったってどういう意味?
〝んー、乗り移ったっていうか〟
──幽霊か!
〝宇宙人だってば!〟
──ふーん。で、その宇宙人がなんの用?
〝お前に地球を救って欲しいのだ〟
「あはははは!」
 JKがいきなり笑い出したので、道ゆく人は大きく距離をとり、ヒソヒソとささやきあった。
──なにそれ? あたしに巨大化して怪獣と闘えってーの?
〝おっ、話が早いじゃないか。そういうことだ〟
──はいはい。いいよー、巨大化してやっつけちゃうよー。
〝ちなみにどんな格好で闘いたい?〟
──そうだなぁ、ちょっとエロい格好で闘っちゃう? 全裸とか?
〝ほほう〟
──いや、それはさすがにないか。でも、肌をたくさん出すような格好で闘うってのはどう?
〝ふむ。素顔をそのまま見せていいのか?〟
──そりゃダメだな。やっぱりヒーローは謎でなきゃ。顔は隠して、耳の辺りに鳥の羽根みたいなのが生えちゃって――。
 紗和は、もやもやっとしたデザインを頭に思い浮かべた。
〝ふむ、だいたいわかった〟
──あんた、面白いな。どこかであたしを見てたの? まさか今も見てるとか?
〝うん、お前がおばあちゃんを救ったとき、いや、救おうとした時か〟
──えっ、あの時、近くにいたのか?
〝うん、誰かのために、命をも投げ出すような者を探してたのだ。お前にはその資格があるよ〟
──いやー、まあ、偶然助かったけどね。
〝偶然ではない。あたしが落下物を操作したんだ〟
──え?
〝お前たちの周りだけなにも落ちてこなかっただろう?〟
──そう言えば……じゃあ、あんたがおばあちゃんを助けてくれたのか?
〝ははは、お前らしいな。自分のことではなく、まずおばあちゃんのことを考えたか。うん、お前に巡り会って嬉しいよ〟
──な、なんだよ、褒めてんの?
〝もちろんだとも。お前はあたしが求めていた人材にぴったりだ〟
 宇宙人がそう言った時、
「ちょっと、なにあれ⁉︎」
 道ゆく人々が、ビルの壁面の巨大モニターを指差した。
 紗和もつられて見てみると、怪獣と黒い巨人が向き合っている、上空からの映像が映し出されていた。
 テロップには「謎の巨人、現る!」みたいなことが書かれている。
〝ほう、もうひとり目のヒーローが闘い始めたか〟
──え? あれって、あんたの仲間なの?
〝そうだ。何人かがこの地球にやってきた〟
──えーと、巨大化ってマジな話だったの?
〝そう言ったはずだよ〟
──ごめん、無理、怪獣と闘うなんて無理だよ!
〝なにを言う。お前なら大丈夫。おや? もうひとりのヒーローがこちらにやってくるぞ〟
──ええっ⁉︎
 宇宙人の意識が向かうところには、太った中年男性が立っている。
 その男はうっすらと光っていた。
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