12 / 44
12
しおりを挟む
紗和が老婆を郊外行きのバスに乗せて、ほっとひと息ついたのは、二時半を少し回った頃だった。
「もう怪獣なんて出なきゃいいんだけど」
紗和はバスを見送りながらつぶやいた。
そのバスも見えなくなると、急に一緒に来た友人のことが心配になってきた。
怪獣は近くにいるらしいが、探せるだけ探してみようと見失ったところを目指した。
〝紗和〟
どこからか声がした。
「ん? 美世?」
あたりを見回すが、友人の姿は見えない。
「変だなあ」
首をかしげるが、空耳だったのかと再びあたりを見回しながら歩き始めた。
〝闘え〟
声がしたが、そのまま歩き続ける。
〝お前に言ってるんだ、紗和〟
「えっ、あたし⁉︎」
紗和は驚いて足を止めた。
自分に言っているとは思わなかったのだ。
「誰?」
知り合いがいるのかと思ったが、それらしい人物は見えない。
「誰のいたずらー⁉︎」
声を大きくしたが、道ゆく人々の視線を集めただけだった。
〝いたずらじゃない〟
「むむっ⁉︎」
やっと頭の中で声がすることに気づいた。
「なんだこりゃ!」
道行く人の視線が冷たい。
〝声を出さずともおしゃべりはできるよ〟
「エスパーか」
〝うん、それに近いかな〟
──本当かよ。
〝本当だよ〟
「うおっ! マジか⁉︎」
〝マジマジ〟
──ってーか、あんた、誰?
〝あたしはお前たちが言う宇宙人だ〟
──えー? それはちょっと信じられないなあ。エスパーのいたずらか?
〝いたずらじゃないって!〟
──なんだかさっぱりわかんないな。なにが起こってんの?
〝あたしはお前と、えーと、混ざったんだ〟
──混ざったってどういう意味?
〝んー、乗り移ったっていうか〟
──幽霊か!
〝宇宙人だってば!〟
──ふーん。で、その宇宙人がなんの用?
〝お前に地球を救って欲しいのだ〟
「あはははは!」
JKがいきなり笑い出したので、道ゆく人は大きく距離をとり、ヒソヒソとささやきあった。
──なにそれ? あたしに巨大化して怪獣と闘えってーの?
〝おっ、話が早いじゃないか。そういうことだ〟
──はいはい。いいよー、巨大化してやっつけちゃうよー。
〝ちなみにどんな格好で闘いたい?〟
──そうだなぁ、ちょっとエロい格好で闘っちゃう? 全裸とか?
〝ほほう〟
──いや、それはさすがにないか。でも、肌をたくさん出すような格好で闘うってのはどう?
〝ふむ。素顔をそのまま見せていいのか?〟
──そりゃダメだな。やっぱりヒーローは謎でなきゃ。顔は隠して、耳の辺りに鳥の羽根みたいなのが生えちゃって――。
紗和は、もやもやっとしたデザインを頭に思い浮かべた。
〝ふむ、だいたいわかった〟
──あんた、面白いな。どこかであたしを見てたの? まさか今も見てるとか?
〝うん、お前がおばあちゃんを救ったとき、いや、救おうとした時か〟
──えっ、あの時、近くにいたのか?
〝うん、誰かのために、命をも投げ出すような者を探してたのだ。お前にはその資格があるよ〟
──いやー、まあ、偶然助かったけどね。
〝偶然ではない。あたしが落下物を操作したんだ〟
──え?
〝お前たちの周りだけなにも落ちてこなかっただろう?〟
──そう言えば……じゃあ、あんたがおばあちゃんを助けてくれたのか?
〝ははは、お前らしいな。自分のことではなく、まずおばあちゃんのことを考えたか。うん、お前に巡り会って嬉しいよ〟
──な、なんだよ、褒めてんの?
〝もちろんだとも。お前はあたしが求めていた人材にぴったりだ〟
宇宙人がそう言った時、
「ちょっと、なにあれ⁉︎」
道ゆく人々が、ビルの壁面の巨大モニターを指差した。
紗和もつられて見てみると、怪獣と黒い巨人が向き合っている、上空からの映像が映し出されていた。
テロップには「謎の巨人、現る!」みたいなことが書かれている。
〝ほう、もうひとり目のヒーローが闘い始めたか〟
──え? あれって、あんたの仲間なの?
〝そうだ。何人かがこの地球にやってきた〟
──えーと、巨大化ってマジな話だったの?
〝そう言ったはずだよ〟
──ごめん、無理、怪獣と闘うなんて無理だよ!
〝なにを言う。お前なら大丈夫。おや? もうひとりのヒーローがこちらにやってくるぞ〟
──ええっ⁉︎
宇宙人の意識が向かうところには、太った中年男性が立っている。
その男はうっすらと光っていた。
「もう怪獣なんて出なきゃいいんだけど」
紗和はバスを見送りながらつぶやいた。
そのバスも見えなくなると、急に一緒に来た友人のことが心配になってきた。
怪獣は近くにいるらしいが、探せるだけ探してみようと見失ったところを目指した。
〝紗和〟
どこからか声がした。
「ん? 美世?」
あたりを見回すが、友人の姿は見えない。
「変だなあ」
首をかしげるが、空耳だったのかと再びあたりを見回しながら歩き始めた。
〝闘え〟
声がしたが、そのまま歩き続ける。
〝お前に言ってるんだ、紗和〟
「えっ、あたし⁉︎」
紗和は驚いて足を止めた。
自分に言っているとは思わなかったのだ。
「誰?」
知り合いがいるのかと思ったが、それらしい人物は見えない。
「誰のいたずらー⁉︎」
声を大きくしたが、道ゆく人々の視線を集めただけだった。
〝いたずらじゃない〟
「むむっ⁉︎」
やっと頭の中で声がすることに気づいた。
「なんだこりゃ!」
道行く人の視線が冷たい。
〝声を出さずともおしゃべりはできるよ〟
「エスパーか」
〝うん、それに近いかな〟
──本当かよ。
〝本当だよ〟
「うおっ! マジか⁉︎」
〝マジマジ〟
──ってーか、あんた、誰?
〝あたしはお前たちが言う宇宙人だ〟
──えー? それはちょっと信じられないなあ。エスパーのいたずらか?
〝いたずらじゃないって!〟
──なんだかさっぱりわかんないな。なにが起こってんの?
〝あたしはお前と、えーと、混ざったんだ〟
──混ざったってどういう意味?
〝んー、乗り移ったっていうか〟
──幽霊か!
〝宇宙人だってば!〟
──ふーん。で、その宇宙人がなんの用?
〝お前に地球を救って欲しいのだ〟
「あはははは!」
JKがいきなり笑い出したので、道ゆく人は大きく距離をとり、ヒソヒソとささやきあった。
──なにそれ? あたしに巨大化して怪獣と闘えってーの?
〝おっ、話が早いじゃないか。そういうことだ〟
──はいはい。いいよー、巨大化してやっつけちゃうよー。
〝ちなみにどんな格好で闘いたい?〟
──そうだなぁ、ちょっとエロい格好で闘っちゃう? 全裸とか?
〝ほほう〟
──いや、それはさすがにないか。でも、肌をたくさん出すような格好で闘うってのはどう?
〝ふむ。素顔をそのまま見せていいのか?〟
──そりゃダメだな。やっぱりヒーローは謎でなきゃ。顔は隠して、耳の辺りに鳥の羽根みたいなのが生えちゃって――。
紗和は、もやもやっとしたデザインを頭に思い浮かべた。
〝ふむ、だいたいわかった〟
──あんた、面白いな。どこかであたしを見てたの? まさか今も見てるとか?
〝うん、お前がおばあちゃんを救ったとき、いや、救おうとした時か〟
──えっ、あの時、近くにいたのか?
〝うん、誰かのために、命をも投げ出すような者を探してたのだ。お前にはその資格があるよ〟
──いやー、まあ、偶然助かったけどね。
〝偶然ではない。あたしが落下物を操作したんだ〟
──え?
〝お前たちの周りだけなにも落ちてこなかっただろう?〟
──そう言えば……じゃあ、あんたがおばあちゃんを助けてくれたのか?
〝ははは、お前らしいな。自分のことではなく、まずおばあちゃんのことを考えたか。うん、お前に巡り会って嬉しいよ〟
──な、なんだよ、褒めてんの?
〝もちろんだとも。お前はあたしが求めていた人材にぴったりだ〟
宇宙人がそう言った時、
「ちょっと、なにあれ⁉︎」
道ゆく人々が、ビルの壁面の巨大モニターを指差した。
紗和もつられて見てみると、怪獣と黒い巨人が向き合っている、上空からの映像が映し出されていた。
テロップには「謎の巨人、現る!」みたいなことが書かれている。
〝ほう、もうひとり目のヒーローが闘い始めたか〟
──え? あれって、あんたの仲間なの?
〝そうだ。何人かがこの地球にやってきた〟
──えーと、巨大化ってマジな話だったの?
〝そう言ったはずだよ〟
──ごめん、無理、怪獣と闘うなんて無理だよ!
〝なにを言う。お前なら大丈夫。おや? もうひとりのヒーローがこちらにやってくるぞ〟
──ええっ⁉︎
宇宙人の意識が向かうところには、太った中年男性が立っている。
その男はうっすらと光っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる