ギガシス スリー

ミロrice

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 紗和は自宅のマンションに帰っていた。
 母親に、すぐに帰らなかったことを叱られた。
 母親が涙ぐんで小言をいってくるので、紗和はおとなしく聞いている。
「まあ無事だったからいいけど、心配かけないでよね」
 母親は鼻をすすった。
「一体どうなっちゃうんだろうね」
 そんな言葉を聞きながら、紗和は自室に入った。
 ぼすんとベッドに腰かける。
──宇宙人。
〝ん?〟
──眼ぇつぶっててくれる?
〝なんで?〟
──着替えるから。
〝なぜあんたが着替える時に、眼を瞑らなければならないの?〟
──恥ずかしいじゃん。
〝恥ずかしい?〟
──当たり前じゃない。
 宇宙人は、しばらく返事をしなかったが、
〝なるほど。恥ずかしいという感情はあたしにはよくわからないが、裸や下着でいる姿を見られるのが嫌なんだな〟
──うん。あー、体がないから、そういうのはないのか。
〝そうだね。しかし、あんたはそれに慣れなきゃならないな。あたしたちは一心同体なんだから〟
──ぐぐ。乙女にはつらいなあ。あんた、どっかに行ってくれない?
〝だが断る〟
──ちぇっ、しょうがないか。
 紗和は立ち上がると、制服を脱いだ。
 白い肌も露わにした下着姿になると、Tシャツを着て、ウエストにゴムの入ったズボンを履いた。
──うぐぐ。恥ずかしいぞ。
〝すぐに慣れるさ〟
 紗和はベッドに仰向けに寝転んだ。
──ねえ、なんか特訓するって言ってたけど。
〝なんだ、人ごとみたいに。あんたらは、パワーは上がるが技術がない。さいわい、地球には格闘技というものがあるじゃないか。それをマスターすれば、怪獣を倒しやすくなるだろ?〟
──んー、そんなんじゃ無くて、なんかこう、光線でずばーっとやっつけちゃうようなのはないの?
〝あるぞ〟
──じゃあ、それでいいじゃん。それだけ教えてよ。
〝人の、いや、宇宙人の話をなにも聞いていないんだな。あんたが言うような派手な攻撃は、エネルギーを大量に消費するんだ。外したら行動が大幅に制限されるぞ。そのために、殴ったり、蹴ったり、投げ飛ばしたりして怪獣を弱らせるんだ。そういうのはそれほどエネルギーを使わないからな〟
──あーあ。あたしって、格闘技なんかやったことないんだけど?
〝だから特訓するんだ〟
──痛いのはやだ!
〝あたしらが乗り移ったから、今の状態でも体は頑丈になっているし、痛みもそれほど感じないはずだ〟
──はずかよ。
〝うむ。力も強くなってるからな、気をつけてくれよ。ああ、シャークの方のは特訓に納得したみたいだぞ〟
──え? 宗介さん?
 紗和は頭を起こした。
〝そうだ。どうせ学校はしばらく休みだろう? その間に宗介と一緒に特訓すればいい〟
──そっかあ、宗介さんと一緒にかあ……。
〝うん。仲よく一緒にだ〟
──よし! やる! 特訓すっぞー!
〝その意気だ〟
 紗和は枕を抱え、なんだかじたばたしていた。

  ☆ ☆ ☆

──ふーん、僕たちが活動するには、エネルギーを使うんだね。
 宗介もまた、自宅に帰っていた。
 会社に連絡を入れたところ、電話は繋がらなかった。
 失業したかも、という不安を抱えつつ、安アパートに戻ってきたのだ。
〝そうだ。巨大化した場合、活動時間はおよそ一時間〟
──ふむふむ。食べながら会話ができるのは便利だな。
 宗介は座卓の前に座ってコンビニ弁当を食べていた。
 白いTシャツにトランクス姿だ。
〝ブラックの報告によれば、君たちは建物を壊すのをためらうようだから言っておくと、周囲の建物にバリアーを張ることができる〟
──へー、それはいいね。
〝だが、そうすると活動時間はおよそ三分となる〟
──エネルギーを使うからだね?
〝そうだ。理解が早くて助かるよ。ただ、それは巨大化した場合でね、体の大きさは自由に変えられるから、小さくなれば活動時間も伸びるぞ。一ミリになれば制限がないのと同じだろう〟
──そんなに小さくなれるのか。でも、それって物理法則に反してない?
〝君たちの理解している範囲の物理法則ではそう見えるかもしれないな。そうだな、君たちの言葉で言う超能力、とでも思ってくれたまえ。宇宙人の使う超能力だ〟
──ふーん、まあいいけど。
〝それで、君が変身した場合、様々な特殊能力を使うことができる。まずは飛行だね〟
──空を飛べるのか! すごいな。
〝飛行なんぞは鳥でもできるじゃないか。まあ速度は鳥の比ではないがね〟
──どれくらい出るんだい、スピードは?
〝宇宙空間であれば光速のちょっと手前までくらいかな〟
──そんなに⁉︎
〝しかし、大気中でそんなことをやったら大変なことになるぞ。大気中だとせいぜいマッハ百くらいかな〟
──すごいんだろうけど、どうもピンとこないなあ。
〝飛行は簡単だからね、エネルギーもそんなに使わない。通常の行動と考えてもらっていいくらいだ。攻撃系の特殊能力は消費は大きい〟
──一度しか使えない、みたいな?
〝そこまでじゃないな。ただ、連続して使ってエネルギーを消費してほしくはないんだ。ちょっと違うんだけど、君たちの言葉で言う疲れる、だな。我々も疲れるのはあまり好きじゃない〟
──あー、それで格闘技の特訓をしろって。
〝そうだ〟
──格闘技なんてしたことないし、暴力は苦手だけど、しょうがないかな。なにを習えばいいんだい?
〝我々の地球での知識は今のところ、君たちに依存しているからね。ちょっと我々にもわからない〟
──そっかあ。じゃあ色々試してみないとね。
〝人の形で闘うなら、人が編み出した格闘技術を習得した方が早いだろう。タコの格闘技を習ってもしょうがないだろう?〟
──タコにも格闘技があるのか⁉︎
〝例えばの話だよ〟
 シャークが笑った、気がした。
〝おや、ピンクのところの紗和も格闘技を習うことにしたようだぞ〟
──紗和ちゃんか。女の子なのに、大丈夫かな?
〝言っておくけど、君たちが格闘技を習うのは、怪獣相手に闘うためなんだぞ。人間相手なら、今の君たちは無敵だ。格闘技を習うところ、ジムや道場か、そういうところでは怪我や痛い思いをすることはないんだ。逆に先生を殺さないように気をつけてくれ〟
──ええ? そうなの?
〝ああ。体の使い方を学ぶんだ。素早く、高威力の攻撃で怪獣を倒すためにね〟
──なるほど。
〝そういうわけで、紗和とふたりで、どこかで習うようにしてくれ〟
──さ、紗和ちゃんと⁉︎
〝ああ、君たちふたりは学校も仕事もないようだからね。ブラックは連絡がつかないから〟
──え? 連絡がつかないって?
〝エネルギーを使い果たして眠ってる、とでもいう状態だ。しばらくしたら復活するさ。十時間くらいかな〟
──無事なんだね、それならひとまずは安心か。
〝そういうことだ。では、その他の特殊能力だが〟
──うん。
 宗介はそれからしばらく身動きをせずに、座卓の前に座っていた。
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