ギガシス スリー

ミロrice

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「ごちそうさまでした。ふー、お腹いっぱい。それにおいしかったー」
 紗和は自分のお腹をぽんぽんと叩いた。
 ふたりはラーメン店から出たばかりだ。
「そうだね。しかし、紗和ちゃんはよく食べるね。驚いたよ」
 宗介は笑った。
 紗和は大盛りチャーシューメンに餃子を二皿、ぺろりとたいらげたのだ。
「ほんと、自分でもびっくりです。あたし、いつの間にこんなに大食いになったんだろう? って、まさかピンクたちのせい⁉︎」
〝そういうことになるかな。パワーが上がった分、消費するエネルギーも増えたし〟
「むむむ、普段通りのご飯じゃ困るじゃん!」
〝それは、君たちでなんとかしてくれ〟
〝動けなくなったりはしないから安心して。いざとなったらあたしたちがエネルギーを分けてあげるから〟
〝空腹感は感じるだろうけどな〟
「一番つらいよ、それ」
 紗和は情けない顔になった。
「まあ、しばらくは僕がなんとかしよう。会社が残ってればいいなぁ」
〝金銭問題は我々ではどうしようもないからね。いや、そういうわけでもないか?〟
「どうせ悪いことでしょ?」
〝うむ。君たちの法を破ってもいいなら話は簡単だ〟
「それはダメ。あたしは清く貧しく美しく生きていくの」
「うん、紗和ちゃんは立派だね。いくらお腹が減っても、正義のヒーローが法を破っちゃね」
「えへへ。とはいってもなぁ、お腹ペコはやだな。どこかにお宝でも埋まってないかな? それともアルバイトでもしようかしら?」
〝ほう、それはいい考えかもしれないぞ〟
「えっ? アルバイト?」
〝いや、お宝のほうさ〟
 ふたりは思わず立ち止まった。
「どどどどゆこと⁉︎」
「なにかあてがあるのかい⁉︎」
〝まあ、落ち着きたまえ。なにも我々が財宝のありかを知っているわけじゃない〟
〝ふたりとも、通行の邪魔。歩きながら話そ〟
「あ」
 歩道の真ん中でふたりは突っ立っていた。
 ふたりは歩みを再開する。
〝宗介、君は宝探しに興味があるだろう?〟
「う。そ、それは」
「そうなんですか、宗介さん?」
「いや、子供っぽいと──」
「素敵! ロマンを忘れない男性ってカッコいいです!」
「え? あ、そ、そう?」
〝とにかく、我々には近くの物質を感知する能力がある。地中に埋まったものだって手に取るようにわかるぞ。宗介、君はトレジャーハンターになりたまえ〟
「ええっ!」
「すごい!」
「そ、そんなこと──」
「宗介さん、うちのお父さんが昨日言ってたけど……なんだっけ、ピンク?」
〝命短し、恋せよ乙女?〟
「違う、それじゃなくって、悔いの残らないように生きろ、だっけ? そんな感じのこと言ってました」
「そうか……そうだね! トレジャーハンターになれないまま死んでも悔いは残らない気がするけど、やってみるか!」
「うん! あたしはその助手ね!」
「いや、君は学校にいかないと」
「うええ⁉︎」
〝そんな話はまた今度だ。次の道場に行こう〟
「次はなに? 決めてるの?」
「うん、合気道だ」
「どんなの?」
「触らずに相手を投げ飛ばすんだよ」
「へー! すごい!」
 ふたりは合気道の道場に向かった。

  ☆ ☆ ☆

「うん、うまい! 琴子ちゃんは料理上手だね」
「や、やだなあ、それ、冷凍です」
 煌は琴子がレンジでチンしたチャーハンを食べていた。
 白い座卓で琴子と向かいあっている。
「あ、そうなの?」
「レンジでチンしただけです」
「なるほど」
 レンジでチンするのが上手だとも言えず、煌は黙った。
「あの」
「ん?」
「わたし、きっと料理がうまくなってみせますから」
「あー、でも、そんなに長くはいないから」
「あ、そ、そうですね」
「うまくなったら呼んでくれるかい?」
「は、はい! 必ず!」
「そりゃ楽しみだ」
「うふふ」
 そんなこんなで煌はチャーハンをたいらげた。
「ごちそうさま」
「いえ」
 琴子は食器をキッチンに持っていくと、洗いはじめた。
「あ、お世話になるんだし、食器洗いは俺がやろうか?」
「いえ! とんでもないです」
「なんか悪いな。じゃあ次からは、ゲームでどっちが洗うか決めよう」
「あはは。面白そうですね、いいですよ」
 煌はソファーに座った。
 なんだか他人の家は落ち着かない。
 ましてや女の子の家であるならなおさらだ。
「テレビを点けても?」
「どうぞ、この家の物はなんでも自由に使ってください」
「ありがとう」
 煌はテレビを点けた。
 怪獣と爆発と黒い巨人のことをやっていた。
 自分が変身した姿をテレビで観るのは、奇妙な気分だった。
 美麻里から聞いてはいたが、この騒動が世界的なものだとテレビで放送されているのを観ると、改めて事態の重大さを思い知った。
 そして、怪獣が昨日現れたものだけではないと知っているのは、煌ら宇宙人に同化された者だけなのだ。
 人類は、仮初かりそめの安息の日々を過ごしているに過ぎない。
「あの」
 声に顔を上げると、琴子がそばに立っていた。
 煌には、琴子がどこか儚げに見えた。
 侵略者にとっての人類、地球を現しているかのように。
「隣に座ってもいいですか?」
「あ、ああ。君の持ち物なんだから、俺に許可を求めることはない」
「ふふ、そうですね」
 琴子は静かに腰を下ろした。
「一体なにが起こったんでしょうね」
 琴子がテレビに映る大惨事に眼を向けたまま言った。
「起こった、か」
「え? なにか変なこと言いました?」
「いや、なんだか、これだけでは済まないような気がして」
「また怪獣が現れるというんですか?」
「そう。きっとまた怪獣は現れる」
「や、やだなぁ、怖いこと言わないでくださいよ」
 琴子は引きつった笑顔を見せた。
「冗談じゃないぞ、琴子ちゃん。覚悟はしておくんだ」
「は、はい……」
 それからふたりは黙ってテレビ画面をながめた。
 やや沈んだ空気がふたりを包む。
──怖がらせちゃったかな?
〝うむ、根拠も、具体的な指示もなく、ただ、怪獣がまた出ると言われてもな〟
──むむむ、そうだ。
「琴子ちゃん」
「はい?」
「手当ては、手を当てるって書くだろ?」
「はあ」
「人の手のひらには不思議な力があって、傷に手を当てることで怪我の治りを早めることができるんだ」
「えーと?」
「俺が膝の手当てをしてやろう」
「ええっ!」
 琴子は自分の膝を見下ろした。
 スカートから包帯を巻かれた膝がのぞいている。
「動かないで」
「は、はい……」
 琴子は頬を染めた。
 煌は琴子の膝に手のひらを近づけていく。
──治療を頼むよ。触らなくていいんだな?
〝ああ、かざすだけでいい。触ってもいいぞ〟
──触らないよ。
 煌は琴子の膝から五センチほどのところで手のひらを止めた。
 特に見た目ではなんの変化も起こらなかった。
「あれっ?」
 琴子が不思議そうな声を出した。
「なんだか、膝が温かくなってきました」
〝もういいぞ〟
「こんなものかな」
 煌は手のひらを離した。
「ありがとうございます! ちょっと楽になったような気がします」
 琴子は自分の膝に手を当てて笑った。
「ホントに効くとは驚きだ」
「ええっ! からかったんですか⁉︎」
 琴子は笑った。
 ふたりはテレビをながめた。
 重い空気は、もうなかった。
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