ギガシス スリー

ミロrice

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「で、なにを無くしたの?」
 電車はいていた。
 怪獣が上陸するかもしれない場所に近づくことになるこの電車に、好き好んで乗る者は少ないのだろう。
 煌と美麻里は並んで座席に腰かけていた。
「あ、たいした物じゃありません」
「そんな物を探しに怪獣が来るところに行くの⁉︎」
「あ、いや、じゃあ諦めますか」
 煌が美麻里の車を借りようと思い立ったのは、怪獣がどこに上陸するかはっきりわからないからだ。
 車があれば多少離れていても迅速に移動できるだろう。
 レンタカーを借りるのは、この先、住居や家具などを揃えなければならず、出費を抑えたかったからだ。
 しかし、うっかり美麻里の運転を飲んでしまったが、やはり危険を冒すわけにはいかないだろう。
 レンタカーを借りることにするか、と煌は考えていた。
「あ、しまった、じゃなくて、ひ、人にはなにか大切な物があるよね。他の人には価値がなくても、その人にとってはかけがえのないものだったり。うん、わかった。手伝ってあげる」
 美麻里は慌てた様子で言った。
「でも」
「遠慮しないで」
「はあ」
 煌は美麻里の好意に甘えることにした。

  ☆ ☆ ☆

「えーと、どうやるんだっけ?」
 紗和は宗介に細い手首を掴まれていた。
 宗介もすっかり紗和の格好にも慣れて、今は合気道の練習中だ。
〝左手で宗介の手を押さえるんだ〟
「あ、わかった。ちょっと黙ってて」
 紗和は宗介の手を左手で押さえ、右手を引いた。
 宗介の体勢が崩れると、腕をねじりながら左前方に踏み出す。
「おっ」
 宗介の肘が肩に付きそうなほど曲がり、宗介は後ろに倒れた。
「できたっ!」
〝ちょっと力に頼りすぎじゃない?〟
「えー?」
〝まあ、転ばせたんだからいいじゃないか。すごいぞ、紗和〟
「うへへ、でしょ?」
〝その調子で続けるんだ〟
「よーし」
 宗介と紗和は、交互に技を掛けあっていった。
 そのうちに、動きも滑らかになる。
 しかし、時には失敗もある。
「うわっ」
「きゃっ」
 仰向けに倒れた宗介の上に、紗和が倒れ込んだ。
「ごめんなさい」
「大丈夫」
 ふたりは平気な顔をして起き上がったが、
──ひゃー! 宗介さんにおっぱい、押しつけちゃった!
〝失敗もあるさ、次々〟
──さ、紗和ちゃんの胸は柔らかいなあ。
〝柔よく剛を制するだな〟
 内心どきどきしながらも、ふたりは練習を続けた。
 宗介が技を掛けると、紗和が宙を舞い、背中から激しく畳に叩きつけられた。
 どーん、と武道場全体が揺れるほどだ。
「だ、大丈夫かい⁉︎」
 宗介が驚いて声をかけるも、
「ん? へーきへーき」
 紗和はなに事もなかったように、起きあがった。
〝今は肉体強化でなんともないが、巨大化していたらさっきのはかなりダメージを負ったな〟
〝受け身、だっけ? あれを練習しなくちゃね〟
「あー、そういえば、受け身をきちんと習ってなかったか」
「そんなの投げ飛ばされなきゃいいじゃない。次々!」
「そうかい?」
 ふたりは投げたり投げられたりを続けた。

  ☆ ☆ ☆

「周囲に民間人はいません!」
 戦闘装備に身を固めた若い自衛隊員が言った。
 同じく戦闘装備の上官と思われる男が厳しい眼で、
「間違いないな?」
「はい!」
「よし、配置につけ!」
 地下に小型怪獣のいるビルが、すぐ目の前にある。
 怪獣いる穴までベルトコンベアが設置されていた。
 発電機がそばで唸りを上げる。
 ベルトコンベアの近くにはあちこちから集めてきた瓦礫が山と積まれ、スコップを手にした隊員が大勢いた。
「これを全部ベルトコンベアに乗せないとならないのか?」
 隊員のひとりが小声で隣の隊員にささやいた。
「これだけじゃないぞ」
 隊員の眼の先には瓦礫を満載したダンプトラックが、何台も並んでいる。
「やれやれ、こりゃちょっと骨が折れそうだ」
 怪獣の穴に通じる道路は、ダンプトラックの搬入口を除き、装甲車や輸送車で塞がれていた。
 銃を持った自衛隊員が車両の前に待機している。
 穴と車両の前には金属ワイヤー製の大きなネットが敷かれ、その四隅から伸びるワイヤーは上空でホバリングするヘリコプターに接続されていた。
 怪獣の穴を瓦礫で埋めていき、怪獣が出てきたところを網で吊り上げるという作戦だ。
 怪獣もおとなしく瓦礫に埋められたりはしまいという判断だったが、それならそれでもよかった。
「──了解です!」
 無線でどこかと話していた上官が、通信機を口から離した。
「よし! 作戦開始だ! 作業、はじめ!」
 上官の言葉に、スコップを持った隊員が、声を揃えた。
「おう!」
 ベルトコンベアが、瓦礫を怪獣の潜む穴へ送りはじめた。

  ☆ ☆ ☆

「これでうまくいくのかね?」
 首相が言った。
 首相官邸の会議室には大型のモニターがテレビの横に設置され、瓦礫埋め捕獲作戦の様子が映し出されていた。
「きっと必ず」
「そうかなあ? ネットの周りを装甲車で塞いだらどうかね?」
「装甲車がいくらすると思ってるんですか」
「しかし、怪獣がネットの上でおとなしく止まってくれるかな?」
「タイミング勝負です」
 会議室内のほとんどの者が、失敗すると思った。
「壊れた車を積んだらどうなの?」
 国土交通大臣が言った。
「補償は必要ですかね?」
「どうなんだろうなあ」
「全壊の車だけ使っては?」
「なるほど。できるかね? あ、無理ならいいんだけど」
 首相の物言いに、防衛大臣と制服の男は内心むっとした。
「お茶の子です」
 防衛大臣が答え、制服の男はうなずいた。
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