ギガシス スリー

ミロrice

文字の大きさ
44 / 44

44

しおりを挟む

「うおおおおおっ! 怪獣を倒したぞ!」
 首相官邸では、スタンディングオベーションが起こっていた。隣の者とハイタッチする者もいる。
「いやあ、さすがはサムライ・ギガスだ。私は信じていたぞ!」
 首相は上機嫌だ。
「海では負けたと思ってましたよね?」
「うるさい」
「あれ? 怪獣の死骸はあのまま?」
 三人のギガスたちは、それぞれ飛び立って姿を消した。小さくなったことには誰も気づかない。
「あんなとこに放置されたら大変じゃないか」
「どこが片付けるんだ? うちじゃないよな?」
「ははは、どこになるかわかりませんが、担当大臣は大変ですな」
 農林水産大臣が笑った。
「いや、君のところじゃないかな?」
「なんでっ!?」
「怪獣の生態を調べるべきじゃないですかね?」
 JAXAの額田が言った。
「おっ、君がやってくれるか?」
「いえ、報告だけいただければ」
 防衛大臣と文部科学大臣は黙っていた。
「あそこは空港ですよね?」
「ええっ!? うちにはそんな人材いないわよ!」
「静かに!」
 首相の一喝で会議室は静まり返った。
「今は怪獣が倒されたことを、素直に喜ぼうじゃないか」
 首相は笑顔で面々を見回した。

  ☆ ☆ ☆

 煌はヘリコプターがついてこないことを確認すると、美麻里の車の近くの砂浜に向かった。
──誰もいないな?
〝近くにはね〟
──よし。
 煌は変身を解いた。砂浜から階段をのぼり、美麻里の車に近づく。
 助手席側の窓から覗くと、美麻里はまだ気を失っていた。白いふとももが露わになっていて、煌は慌てて眼をそらした。
〝起こそうか?〟
──そんなことまでできるのか。やってくれ。
「ううん」
 すぐに美麻里がうめき声を上げた。眼を開く。
「……あれ? わたし……」
 こんこん、と窓を叩く音に眼を向けると、煌がのぞき込んでいた。
「鷹山くん……あれ?」
 ドアを開けようとして、ロックが掛かっていることに、美麻里は眉をひそめた。ロックを外してドアを開ける。
「えーと?」
 美麻里は不思議そうな顔で煌を見上げた。
「覚えてないんですか? 急に気を失って」
「ええっ!?」
「それで車に運んで、ちょっと離れる間、ドアをロックして。大丈夫ですか?」
「え? あ、うん、どうだろ? 急に気を失ったって、怖いなあ……」
「もう帰りましょう。運転できますか?」
「うーん、ちょっと怖いかな。運転してくれる?」
「わかりました。キーは運転席です。開けてください」
 煌が運転席側に回る間に、美麻里はロックを解除した。煌が運転席に座り、キーを受け取る。エンジンをかけて、車は駐車場を出た。
「ちょっと真ん中に寄りすぎ。スピード出し過ぎじゃない?」
 美麻里はひとの運転にうるさかった。

  ☆ ☆ ☆

 宗介と紗和は武道場に戻ってきていた。畳に、宗介はあぐらで、紗和は三角坐りで座っている。
「ふーん、怪獣にはしばらく攻撃が効かなかったのか」
〝ブラックの話だとそういうことだね〟
「それで自衛隊のミサイルも平気だったんだ」
〝そういうことでしょうね〟
「じゃあ怪獣を倒すには、まず殴ったりしてバリアーを無効にして、それから光の剣で、ずばっと倒すんだね」
〝光の剣だけではないけどね〟
「じゃあ特訓は続けないとかあ。練習したこと、全然役に立たなかったなあ」
〝いやいや、習ってなかったら、もっとひどかっただろう〟
──むむ、気になる言い方。
〝最初だったからね、気にしない!〟
「よし、ちょっと体を動かそうか。怪獣と闘った記憶が鮮明なうちにね」
「うん!」
 ふたりは立ち上がった。

  ☆ ☆ ☆

 美麻里のうちは豪邸だった。千葉県の東京よりにあって、何坪あるか煌には想像もできない。日本家屋だ。
「ごめんね。駅まで送ろうか?」
 広いカーポートに車を駐め、煌と美麻里は車を降りていた。
「いえいえ。そうしたら、また俺が一ノ瀬さんをここまで送らなきゃならない」
 そう言って煌は笑った。
「そう。わかった」
「じゃあ今日はありがとうございました」
「ううん。また明日ね」
「ええ? 会社入れますかね?」
「わからないし、倒れたのは心配だけど」
 美麻里はいつもの元気がなかった。
──やばいな、かなり気を失わせたことを心配しているぞ。
〝ああ、次からはもっといい言い訳を考えないとな〟
──使わないって選択肢はないのか?
〝それは君の判断だな〟
──ちぇっ。
「じゃあ、また明日」
「うん」
 煌は駅へ向かった。

  ☆ ☆ ☆

 琴子の部屋に戻ったのは、午後四時にもう少しという時間だった。
「おかえりなさい!」
 玄関を開けた琴子はやや興奮していた。
「どうしたの?」
「知らないんですか!? 怪獣が倒されたんです! テレビでやってますよ!」
 琴子は煌の腕を取ると、テレビのある部屋に引っ張った。
「あー、ネットでちょっと見たかな?」
 ソファに並んで座ると、ちょうどサムライ・ギガスが怪獣を光の剣で斬るところだったが、モザイクがかかっていた。
「おー、凄いじゃないか」
 煌の言葉はやや棒読みだった。
「でも、この巨人は怪獣の子供を踏み殺したんですよ! あんまりだと思いませんか!?」
「…………」
 煌はなにも返さなかった。

  ☆ ☆ ☆

 怪獣が倒された翌日の早朝。まだ空が朝焼けの赤い色を残している時刻、東京の上空には、巨大な黒い円盤が浮かんでいた。
 音もなく静かに浮かぶそれは、直径十キロを超えていた。
〝煌! 起きろ!〟
「うおっ! なんだ?」
 いつにないブラックの剣幕に、煌はソファの上でびくりと体を跳ねさせた。
「なんだ、一体? まだ早いだろう」
 煌は眼をこすった。
〝煌、外を見てみろ〟
「んー?」
 煌は毛布をのけて、ソファから降りた。掃き出し窓を覆うカーテンにいって開く。巨大な円盤に、なにを見ているのかすぐにはわからなかった。
「な、なんだこれは!」
〝宇宙人の乗り物だよ。UFO、というやつだな〟
「なんて大きさなんだ……」
「どうしたんですか、鷹山さん……」
 寝ぼけ眼の琴子がパジャマ姿で部屋に入ってきた。煌が外を見たままので、
「んー?」
 と、煌の横まで歩いてくる。煌の視線の先にあるものを見て、眼を見開いた。
「た、鷹山さん!」
 琴子が煌に抱きついた。琴子の体は柔らかかったが、煌は気づかない。
「怪獣を倒したと喜んでいたが──」
 煌はうめくように言った。
「俺たちの闘いはこれからだったんだ!」

※しばらく更新はお休みします。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...