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欲毒 前編
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全てが解決してかれこれ一ヶ月が経った。
爪痕は色濃く残り、地球と似て異なる惑星からの来訪者に世界が混乱した。
N,O,I,D世界、「惑星アナザ」と名付けられた惑星との交流、つまり現地の国際的な組織、フロンティア同盟と真っ先に同盟を組み共同戦線まで張ったKENZAKIグループはそのうち名前が改名されるようだ。
それもこれも、アリスが正式に社長となる為だ。
それはさておき。
今重要なことはそれではない。
希美とアリスは高級そうな旅館の一室に案内された。恭しく一礼して去っていくのは猫耳を生やした女性の小間使い。
惑星アナザの和の国テンビに正式に招待されたため、希美とアリスは生身でテンビの地に訪れていた。
「まさかVRの世界にこうして生身で来ることになるとは」
「こっちの世界の転送技術、地球に持ち込んだら物流軒並み死にますね。リストラの嵐になります」
希美は座椅子に腰掛けながら外の景色を眺める。希美とアリスは戦艦アルカディアの転送装置からノータイムで惑星アナザのテンビにまで旅行に来ることが出来た。
アリスは地球の、しかもツキヨとの交流が深い賓客として扱われ、これは一国の王への対応だという。
更に言えばこの旅館はテンビの全ての技術が詰め込まれた王族以上しか立ち入れない最早聖域のような場所。そんな所に招待されても希美は呑気なものだ。
「ツキヨさんのことだから隠しカメラとか盗聴器とか仕込んでますよ」
「妾をなんやと思ってる」
「うわ出た」
「ノックはしたで」
部屋の入口にはツキヨが立っていた。相変わらずアリスと似た不敵な笑みを浮かべる。
「今日はお呼び頂きありがとうございます。所で部屋になんも仕掛けてませんよね?」
「賓客にそんなことはせんで。お主らの世界も国というしがらみに縛られているのなら、この外遊は有効に働くやろ」
ツキヨ…というより、エヴァンもシャナもアリスのテンビ外遊には賛成なようであった。
と言うのも、地球側ではやや面倒なことになっている。
アメリカが失墜した今、世界の頂点に君臨する為にありとあらゆる国や組織が動いている。
当然、惑星アナザの技術は地球の技術より遥かに上。交友を持ちたいと思うのは当然の帰結である。
その中でもフロンティア同盟が最も交流を持ちたい組織、と言うのがKENZAKIグループだっただけだ。何せ三大勢力の長が親しい人物が全員揃っている組織だ。
「私達は貴方達からしてみたら遥か過去の文明の中で生きている劣等人種のはずですがね」
「そう言うでないアリス。こちらとしてもクリフォニウムなるものは気になる。その技術を確立しているのはお主らくらいなものや」
クリフォニウム。
優れたエネルギーを生み出す反面、大きなデメリットもある。
「更に言えばルインか。神に打ち勝った……いいや、友になったお主らの価値はこちらでも計り知れない」
ルインは姿こそ消した。
しかしルインは希美に力を託した。つまり、希美にまた新たな可能性が芽生えていることでもある。
「ま、堅苦しい話はええか。そうやそうや。いいことを伝えに来たんや」
ツキヨはそう言って話を強引に締めるとニヤリと笑う。
「この旅館、お主らが滞在している間は”幽世”に隔離されておる」
「なんですかそれ」
「別次元だとでも思っておれ。テンビの最高セキュリティや。まず外部から侵入できないし、”音も漏れない”」
なにやら含みのあるツキヨの言い方に希美は首を傾げてから思い付いたように「ああ」と声を漏らした。
「防音ですか」
「せや」
「温泉もあるんですよね」
「そこも防音や。叫んでも外には届かぬ。汚しても良いぞ」
「ほう。因みにアレはあるんですか?」
「この部屋にも風呂にも置いといた。好きに使いや」
「……いやいや、何の話ですか? ついていけないんですけどー!」
希美とツキヨのあまりにも主語のない会話にアリスは置いてけぼりにされていた。
「ん? 色々配慮されてるってことです。まだ子供は早いですからね」
「………え?」
「ま、ゆっくり楽しみや。妾からのささやかな……プレゼントや」
ツキヨはそう言い残すと姿を消す。
希美と二人、部屋に残されたアリスは完全に目を泳がせていた。
「さーて、温泉行きましょう温泉。夕飯は18時らしいですよ」
「いや、あのちょっと、先輩…」
「どうしました?」
「えっと……あ、いや、はい。温泉…行きましょうか」
アリスは顔に熱が籠っているのを希美に悟られないように顔を背けた。
希美はこの短期間で色々成長している。肉体的にも精神的にも。
以前のように煽ったら恥ずかしがる希美はいない。なんなら煽れば甘い言葉を耳元で囁いてくる。
つまり、そういう事だ。
その時が来たのだとアリスは覚悟を決めた。
温泉には男女に別れた更衣室が用意されている。とは言え、女性二人組なのであまり意味はない。
そして風呂場は屋外……のように見える異空間であった。空を見上げると天の川が浮かんでいる。
謎の技術で宙に浮かぶ提灯が露天風呂を暖かく照らす。
露天風呂には屋根が設けられていて、振り散る紅葉が浴槽に浮かんでいた。
希美は桶を手にすると浴槽のお湯を掬って頭からかけた。
「よし」
「よしじゃあないんですよ。ちゃんと体洗ってからお風呂入ってください」
今にも浴槽に向かって駆け出しそうな希美の肩を掴んで止める。
大体希美はさっさと風呂に入りたがる。一人暮らしの弊害だ。
「全く、頭洗ってあげますよ」
「折角の貸切なんだしいいじゃないですか」
「スッキリしてから入った方がいいでしょう? えーっとシャンプーシャンプー…」
希美を洗面台の前に座らせてアリスが手探りでボトルを手に取ろうとすると、なにやら包装に包まれた物に手が当たり、それを手にして顔の前に持ってくる。
それは四角形のビニール包装に包まれた手のひらよりも一回り小さいくらいの包装紙で、中にはリング状の…。
「ギャアアアアアアッ!!?」
アリスが思わずそれを全力で放り投げるとそれは異空間の彼方にすっ飛んで行った。
「なんですか!?」
「い、いいいいや、な、なんでもないです…あ、ボトル…」
アリスは今度こそシャンプーやらコンディショナーやらの入ったボトルを確保して希美の髪を洗う。
「ふー……。そもそもなんであんなのが…」
「んぇ? なんか言いました?」
「あ、いえ。痒いところありませんかー?」
「声裏返ってますよ」
アリスは希美の頭を握り締めて希美は「いたたたた」と暴れていた。
そうして身体を洗い終えた二人は湯船に浸かっていた。希美はぼんやりと天の川を眺めながら、ゆっくりと舞い落ちる紅葉を指で摘んでみる。
「温泉なんていつぶりでしょうね」
「そう言えば、色々ゴタゴタしてて先輩と旅行とかあんまりしませんでしたねぇ」
「インドア趣味なので外出は敵ですよ」
「この陰キャ~」
希美はアリスのことを脚の間に抱えながらタオルで結ったアリスの後頭部に軽く頭突きする。
「アリスさん、私達不老らしいですけど」
「どうしたんですか? 急に」
「いや、何歳くらいに結婚しようかなって」
「ぶゴフッ」
アリスが噎せた。
「二十歳過ぎてからですかねやっぱり。でもこのままじゃ私がヒモではないですか?」
「う゛ぅん。…先輩にも給料は発生しますし…それに、多分そこらの役員より多いですよ。私の護衛という立場ですから。それに先輩のお金も別に無から発生する訳では無く、労働しなかったら発生しませんよ」
「へぇ、楽しみですね」
希美はアリスの下腹部あたりを指でなぞる。
アリスはゾクゾクとした感覚に襲われた。
希美の吐息が、今はまるで熱を持って首筋に当たっているような気がした。
「子供は何人くらい欲しいですか?」
「あ、え、っと…」
「車も大きいの買わないといけませんよね。あ、護送車暮らしですかね? 装甲車とかそっちの方になっちまうんですかね?」
「…先、ぱい…えっと…」
アリスは徐々に自分の顔に熱が籠ってくのがわかる。それは湯あたりではない。
下腹部あたりにある内臓がやけに疼く。
まるでそれは自分の身体が希美のことを求めているようだった。
「まあ、子供は早いですかね。私達はまだ未成年だし…」
「そ、うですね。そうです。私達はまだ…」
「でも、今夜は抱きますね。もう我慢できないので」
希美がアリスの耳元で囁いた。
アリスは疼く鼓動を感じながらその言葉を聞いて、ただ、ただただ、自分がどうなるのか、その事ばかりに思考を巡らせてしまう。
「夕飯は精のつくものを頼んだんですよ。というか、家だと貴方のことを好きにできないことに気づいたんです」
希美はアリスが顔を赤くして俯かせているのを少し強引に、アリスの顎を持ち上げて首筋に唇を押し当てる。アリスの肩がピクリと揺れると希美は不敵に笑う。
「桂奈さん、あの人私達が致さないように見張ってたんですよ。少しいい雰囲気になると何かしら妨害してくる…。なのでこの旅行も、私がツキヨさんに頼んだんですよ」
希美とアリスの家の地下には桂奈とシャルロッテが住み着いている。別にここ最近まではそれは構わなかったのだが、希美の積極性やら思考能力が育ち始めると違和感に気づいた。
そう、希美とアリスがイチャつき始めると決まって妨害が入る、と。
そしてそれをやっていたのは間違いなく桂奈だった。なにせ、桂奈はアリスに惚れているからだ。だからこそささやかに妨害をしてきたのだと希美は推測し、工作の跡も見つけていた。
「ここでは絶対に妨害されない。貴方が怖がって逃げようとしてもここからは出られませんよ」
希美がアリスに囁く。
「アリスは私だけのものなんですから」
希美はそこでようやく本音をぶちまけた。
ずっと胸の奥底にしまっていたアリスへの感情。独占欲。ドロドロとした愛情を、希美はアリスにぶつける。
希美の顔にはやっと獲物を仕留めた猟犬のような笑みが張り付いている。
「嫉妬してるのも可愛らしい…。アリスは私が他の人に構うほど嫉妬してくれる。最初は気づきませんでしたが…ふふ、最近はわざとですよ」
「は…は、ァ……せ、先輩…身体が…熱くて…」
アリスはようやく異常事態に気づくが時すでに遅し。自分の身体がやけに火照っていることにアリスは気づかなかった。
呼吸も荒い。下腹部あたりも疼く。まるでそこにもう1つ心臓があるようだ。
ぼんやりとした頭でアリスは必死に思考を巡らせようとした。
「おや、アリスも興奮して来たんですね。さて、お風呂から出ましょうか。どうせまた入りに来ますから。夕飯まで……楽しみましょう?」
希美はもうクタクタになって動けないアリスを両手で抱えると、独占欲にまみれた笑みを浮かべながら優しく、アリスの唇に自分の唇を押し当てた。
爪痕は色濃く残り、地球と似て異なる惑星からの来訪者に世界が混乱した。
N,O,I,D世界、「惑星アナザ」と名付けられた惑星との交流、つまり現地の国際的な組織、フロンティア同盟と真っ先に同盟を組み共同戦線まで張ったKENZAKIグループはそのうち名前が改名されるようだ。
それもこれも、アリスが正式に社長となる為だ。
それはさておき。
今重要なことはそれではない。
希美とアリスは高級そうな旅館の一室に案内された。恭しく一礼して去っていくのは猫耳を生やした女性の小間使い。
惑星アナザの和の国テンビに正式に招待されたため、希美とアリスは生身でテンビの地に訪れていた。
「まさかVRの世界にこうして生身で来ることになるとは」
「こっちの世界の転送技術、地球に持ち込んだら物流軒並み死にますね。リストラの嵐になります」
希美は座椅子に腰掛けながら外の景色を眺める。希美とアリスは戦艦アルカディアの転送装置からノータイムで惑星アナザのテンビにまで旅行に来ることが出来た。
アリスは地球の、しかもツキヨとの交流が深い賓客として扱われ、これは一国の王への対応だという。
更に言えばこの旅館はテンビの全ての技術が詰め込まれた王族以上しか立ち入れない最早聖域のような場所。そんな所に招待されても希美は呑気なものだ。
「ツキヨさんのことだから隠しカメラとか盗聴器とか仕込んでますよ」
「妾をなんやと思ってる」
「うわ出た」
「ノックはしたで」
部屋の入口にはツキヨが立っていた。相変わらずアリスと似た不敵な笑みを浮かべる。
「今日はお呼び頂きありがとうございます。所で部屋になんも仕掛けてませんよね?」
「賓客にそんなことはせんで。お主らの世界も国というしがらみに縛られているのなら、この外遊は有効に働くやろ」
ツキヨ…というより、エヴァンもシャナもアリスのテンビ外遊には賛成なようであった。
と言うのも、地球側ではやや面倒なことになっている。
アメリカが失墜した今、世界の頂点に君臨する為にありとあらゆる国や組織が動いている。
当然、惑星アナザの技術は地球の技術より遥かに上。交友を持ちたいと思うのは当然の帰結である。
その中でもフロンティア同盟が最も交流を持ちたい組織、と言うのがKENZAKIグループだっただけだ。何せ三大勢力の長が親しい人物が全員揃っている組織だ。
「私達は貴方達からしてみたら遥か過去の文明の中で生きている劣等人種のはずですがね」
「そう言うでないアリス。こちらとしてもクリフォニウムなるものは気になる。その技術を確立しているのはお主らくらいなものや」
クリフォニウム。
優れたエネルギーを生み出す反面、大きなデメリットもある。
「更に言えばルインか。神に打ち勝った……いいや、友になったお主らの価値はこちらでも計り知れない」
ルインは姿こそ消した。
しかしルインは希美に力を託した。つまり、希美にまた新たな可能性が芽生えていることでもある。
「ま、堅苦しい話はええか。そうやそうや。いいことを伝えに来たんや」
ツキヨはそう言って話を強引に締めるとニヤリと笑う。
「この旅館、お主らが滞在している間は”幽世”に隔離されておる」
「なんですかそれ」
「別次元だとでも思っておれ。テンビの最高セキュリティや。まず外部から侵入できないし、”音も漏れない”」
なにやら含みのあるツキヨの言い方に希美は首を傾げてから思い付いたように「ああ」と声を漏らした。
「防音ですか」
「せや」
「温泉もあるんですよね」
「そこも防音や。叫んでも外には届かぬ。汚しても良いぞ」
「ほう。因みにアレはあるんですか?」
「この部屋にも風呂にも置いといた。好きに使いや」
「……いやいや、何の話ですか? ついていけないんですけどー!」
希美とツキヨのあまりにも主語のない会話にアリスは置いてけぼりにされていた。
「ん? 色々配慮されてるってことです。まだ子供は早いですからね」
「………え?」
「ま、ゆっくり楽しみや。妾からのささやかな……プレゼントや」
ツキヨはそう言い残すと姿を消す。
希美と二人、部屋に残されたアリスは完全に目を泳がせていた。
「さーて、温泉行きましょう温泉。夕飯は18時らしいですよ」
「いや、あのちょっと、先輩…」
「どうしました?」
「えっと……あ、いや、はい。温泉…行きましょうか」
アリスは顔に熱が籠っているのを希美に悟られないように顔を背けた。
希美はこの短期間で色々成長している。肉体的にも精神的にも。
以前のように煽ったら恥ずかしがる希美はいない。なんなら煽れば甘い言葉を耳元で囁いてくる。
つまり、そういう事だ。
その時が来たのだとアリスは覚悟を決めた。
温泉には男女に別れた更衣室が用意されている。とは言え、女性二人組なのであまり意味はない。
そして風呂場は屋外……のように見える異空間であった。空を見上げると天の川が浮かんでいる。
謎の技術で宙に浮かぶ提灯が露天風呂を暖かく照らす。
露天風呂には屋根が設けられていて、振り散る紅葉が浴槽に浮かんでいた。
希美は桶を手にすると浴槽のお湯を掬って頭からかけた。
「よし」
「よしじゃあないんですよ。ちゃんと体洗ってからお風呂入ってください」
今にも浴槽に向かって駆け出しそうな希美の肩を掴んで止める。
大体希美はさっさと風呂に入りたがる。一人暮らしの弊害だ。
「全く、頭洗ってあげますよ」
「折角の貸切なんだしいいじゃないですか」
「スッキリしてから入った方がいいでしょう? えーっとシャンプーシャンプー…」
希美を洗面台の前に座らせてアリスが手探りでボトルを手に取ろうとすると、なにやら包装に包まれた物に手が当たり、それを手にして顔の前に持ってくる。
それは四角形のビニール包装に包まれた手のひらよりも一回り小さいくらいの包装紙で、中にはリング状の…。
「ギャアアアアアアッ!!?」
アリスが思わずそれを全力で放り投げるとそれは異空間の彼方にすっ飛んで行った。
「なんですか!?」
「い、いいいいや、な、なんでもないです…あ、ボトル…」
アリスは今度こそシャンプーやらコンディショナーやらの入ったボトルを確保して希美の髪を洗う。
「ふー……。そもそもなんであんなのが…」
「んぇ? なんか言いました?」
「あ、いえ。痒いところありませんかー?」
「声裏返ってますよ」
アリスは希美の頭を握り締めて希美は「いたたたた」と暴れていた。
そうして身体を洗い終えた二人は湯船に浸かっていた。希美はぼんやりと天の川を眺めながら、ゆっくりと舞い落ちる紅葉を指で摘んでみる。
「温泉なんていつぶりでしょうね」
「そう言えば、色々ゴタゴタしてて先輩と旅行とかあんまりしませんでしたねぇ」
「インドア趣味なので外出は敵ですよ」
「この陰キャ~」
希美はアリスのことを脚の間に抱えながらタオルで結ったアリスの後頭部に軽く頭突きする。
「アリスさん、私達不老らしいですけど」
「どうしたんですか? 急に」
「いや、何歳くらいに結婚しようかなって」
「ぶゴフッ」
アリスが噎せた。
「二十歳過ぎてからですかねやっぱり。でもこのままじゃ私がヒモではないですか?」
「う゛ぅん。…先輩にも給料は発生しますし…それに、多分そこらの役員より多いですよ。私の護衛という立場ですから。それに先輩のお金も別に無から発生する訳では無く、労働しなかったら発生しませんよ」
「へぇ、楽しみですね」
希美はアリスの下腹部あたりを指でなぞる。
アリスはゾクゾクとした感覚に襲われた。
希美の吐息が、今はまるで熱を持って首筋に当たっているような気がした。
「子供は何人くらい欲しいですか?」
「あ、え、っと…」
「車も大きいの買わないといけませんよね。あ、護送車暮らしですかね? 装甲車とかそっちの方になっちまうんですかね?」
「…先、ぱい…えっと…」
アリスは徐々に自分の顔に熱が籠ってくのがわかる。それは湯あたりではない。
下腹部あたりにある内臓がやけに疼く。
まるでそれは自分の身体が希美のことを求めているようだった。
「まあ、子供は早いですかね。私達はまだ未成年だし…」
「そ、うですね。そうです。私達はまだ…」
「でも、今夜は抱きますね。もう我慢できないので」
希美がアリスの耳元で囁いた。
アリスは疼く鼓動を感じながらその言葉を聞いて、ただ、ただただ、自分がどうなるのか、その事ばかりに思考を巡らせてしまう。
「夕飯は精のつくものを頼んだんですよ。というか、家だと貴方のことを好きにできないことに気づいたんです」
希美はアリスが顔を赤くして俯かせているのを少し強引に、アリスの顎を持ち上げて首筋に唇を押し当てる。アリスの肩がピクリと揺れると希美は不敵に笑う。
「桂奈さん、あの人私達が致さないように見張ってたんですよ。少しいい雰囲気になると何かしら妨害してくる…。なのでこの旅行も、私がツキヨさんに頼んだんですよ」
希美とアリスの家の地下には桂奈とシャルロッテが住み着いている。別にここ最近まではそれは構わなかったのだが、希美の積極性やら思考能力が育ち始めると違和感に気づいた。
そう、希美とアリスがイチャつき始めると決まって妨害が入る、と。
そしてそれをやっていたのは間違いなく桂奈だった。なにせ、桂奈はアリスに惚れているからだ。だからこそささやかに妨害をしてきたのだと希美は推測し、工作の跡も見つけていた。
「ここでは絶対に妨害されない。貴方が怖がって逃げようとしてもここからは出られませんよ」
希美がアリスに囁く。
「アリスは私だけのものなんですから」
希美はそこでようやく本音をぶちまけた。
ずっと胸の奥底にしまっていたアリスへの感情。独占欲。ドロドロとした愛情を、希美はアリスにぶつける。
希美の顔にはやっと獲物を仕留めた猟犬のような笑みが張り付いている。
「嫉妬してるのも可愛らしい…。アリスは私が他の人に構うほど嫉妬してくれる。最初は気づきませんでしたが…ふふ、最近はわざとですよ」
「は…は、ァ……せ、先輩…身体が…熱くて…」
アリスはようやく異常事態に気づくが時すでに遅し。自分の身体がやけに火照っていることにアリスは気づかなかった。
呼吸も荒い。下腹部あたりも疼く。まるでそこにもう1つ心臓があるようだ。
ぼんやりとした頭でアリスは必死に思考を巡らせようとした。
「おや、アリスも興奮して来たんですね。さて、お風呂から出ましょうか。どうせまた入りに来ますから。夕飯まで……楽しみましょう?」
希美はもうクタクタになって動けないアリスを両手で抱えると、独占欲にまみれた笑みを浮かべながら優しく、アリスの唇に自分の唇を押し当てた。
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