40 / 75
6皿目 ソバ粉のガレット
(4)
しおりを挟む
「この街を離れる前に、ぜひもう一度当店へお立ち寄りください」
「はい、また来ますね。ごちそうさまでした」
食事を終えたリリアナたちをヨアナが見送る。
外に出てみると、あたりはすっかり日が暮れて薄闇になっている。
ブルーノ会長とはソバの実亭の前で別れ、宿の方向へと足を進めてしばらく経った時だった。
刺すような視線を感じた気がして振り返ろうとするリリアナを、横を歩くハリスが小声で制した。
「このまま気付かないふりをして歩くぞ」
ここで神妙な顔をして頷いては、尾行に気付いたことがバレてしまう。
「先生、ガレット美味しかったわね!」
リリアナが明るく言うと、ハリスが口角を上げる。
「そうだな」
その調子だと言ってくれているような微笑みに安心してリリアナも笑った。
ふたりは宿に向かう途中の商店や酒場で、あえて大っぴらにペットの違法取引に関する聞き込みをして回った。その間もずっと尾行がついている気配を感じていたが、気付かないふりを続ける。
聞き込みで得られた情報は、檻やカゴに入れられた猫や犬を見かけたことはあるが、それがガーデンの生き物かどうかはわからないという内容ばかりだった。
ガーデンの魔物の見分け方は、赤い石がはめ込まれた首輪を着けているか否かだが、ガーデンに興味のない者たちはそこまで知らないため、動物たちの首輪に注目しないのだろう。
ガーデン管理ギルドが手配してくれた宿に到着した。街で最も高級な宿のため、盗聴されたり賊に寝込みを襲われたりする心配はなさそうだ。
部屋は当然別々に取ってもらった。リリアナが女性だからというのもあるが、ハリスのいびきがうるさすぎて眠れないという理由のほうが大きい。
3階のハリスの客室でくつろぎながら今日のことをおさらいする。
「先生はヨアナさんと知り合いなの?」
「直接の関わり合いはなかったが、彼女は元調理士だ」
ガーデンで調理士を専業にしている冒険者の人数は多くない。だから言葉を交わしたことはなくても、顔と名前ぐらいは知っているのが普通だ。
それにハリスのことを知らない調理士はいない。ソバの実亭でハリスとヨアナが無言のまま一瞬視線を絡めていたのは、互いの素性を知ってのことだろう。
「たしか怪我を負って引退して、故郷に帰ったと聞いた」
「商会長さんと仲がよさそうだったわね」
ヨアナが気安い口調で話していた様子を思い返す。
成金趣味の商会長とナチュラルで質素な女性シェフ。気が合いそうだとは思えない。
「年齢が近いから、子供の頃からの知り合いかもしれないな」
なるほど、その線はあるかもしれないと納得したリリアナだ。
ここまでくれば今回の依頼のタレコミを誰がしたのか、リリアナにもなんとなく見えてくる。
その答えを口にしていいものか迷った時、窓をカリカリ引っ掻く音が聞こえた。
ハリスが窓を開けるとコハクがするりと中へ入ってきた。
「コハク、ご苦労様」
ピョンと膝に飛び乗ったコハクは、リリアナに抱きしめられて嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らす。
実はマルドに着いて馬車を降りてから、コハクとは距離をとって歩いていた。
ブルーノ商会に入る時は外で待機させていたため、リリアナとハリスがペットを連れてきていると気付かれていないだろう。
魔道具の首輪の上から別の首輪をつけていたため、よほど接近しなければ本当は魔物だとバレる心配もない。
食事の後、ハリスはさりげなくコハクにハンドサインを送った。それに従ってブルーノ会長へ着いていったコハクがようやく合流した。
ガーデンのペットは主人の居場所がわかるため、離れていてもきちんと主人の元へ戻ってくる。
ハリスがコハクの首に重ねてつけた首輪のひとつを外した。
「はい、また来ますね。ごちそうさまでした」
食事を終えたリリアナたちをヨアナが見送る。
外に出てみると、あたりはすっかり日が暮れて薄闇になっている。
ブルーノ会長とはソバの実亭の前で別れ、宿の方向へと足を進めてしばらく経った時だった。
刺すような視線を感じた気がして振り返ろうとするリリアナを、横を歩くハリスが小声で制した。
「このまま気付かないふりをして歩くぞ」
ここで神妙な顔をして頷いては、尾行に気付いたことがバレてしまう。
「先生、ガレット美味しかったわね!」
リリアナが明るく言うと、ハリスが口角を上げる。
「そうだな」
その調子だと言ってくれているような微笑みに安心してリリアナも笑った。
ふたりは宿に向かう途中の商店や酒場で、あえて大っぴらにペットの違法取引に関する聞き込みをして回った。その間もずっと尾行がついている気配を感じていたが、気付かないふりを続ける。
聞き込みで得られた情報は、檻やカゴに入れられた猫や犬を見かけたことはあるが、それがガーデンの生き物かどうかはわからないという内容ばかりだった。
ガーデンの魔物の見分け方は、赤い石がはめ込まれた首輪を着けているか否かだが、ガーデンに興味のない者たちはそこまで知らないため、動物たちの首輪に注目しないのだろう。
ガーデン管理ギルドが手配してくれた宿に到着した。街で最も高級な宿のため、盗聴されたり賊に寝込みを襲われたりする心配はなさそうだ。
部屋は当然別々に取ってもらった。リリアナが女性だからというのもあるが、ハリスのいびきがうるさすぎて眠れないという理由のほうが大きい。
3階のハリスの客室でくつろぎながら今日のことをおさらいする。
「先生はヨアナさんと知り合いなの?」
「直接の関わり合いはなかったが、彼女は元調理士だ」
ガーデンで調理士を専業にしている冒険者の人数は多くない。だから言葉を交わしたことはなくても、顔と名前ぐらいは知っているのが普通だ。
それにハリスのことを知らない調理士はいない。ソバの実亭でハリスとヨアナが無言のまま一瞬視線を絡めていたのは、互いの素性を知ってのことだろう。
「たしか怪我を負って引退して、故郷に帰ったと聞いた」
「商会長さんと仲がよさそうだったわね」
ヨアナが気安い口調で話していた様子を思い返す。
成金趣味の商会長とナチュラルで質素な女性シェフ。気が合いそうだとは思えない。
「年齢が近いから、子供の頃からの知り合いかもしれないな」
なるほど、その線はあるかもしれないと納得したリリアナだ。
ここまでくれば今回の依頼のタレコミを誰がしたのか、リリアナにもなんとなく見えてくる。
その答えを口にしていいものか迷った時、窓をカリカリ引っ掻く音が聞こえた。
ハリスが窓を開けるとコハクがするりと中へ入ってきた。
「コハク、ご苦労様」
ピョンと膝に飛び乗ったコハクは、リリアナに抱きしめられて嬉しそうに喉をゴロゴロ鳴らす。
実はマルドに着いて馬車を降りてから、コハクとは距離をとって歩いていた。
ブルーノ商会に入る時は外で待機させていたため、リリアナとハリスがペットを連れてきていると気付かれていないだろう。
魔道具の首輪の上から別の首輪をつけていたため、よほど接近しなければ本当は魔物だとバレる心配もない。
食事の後、ハリスはさりげなくコハクにハンドサインを送った。それに従ってブルーノ会長へ着いていったコハクがようやく合流した。
ガーデンのペットは主人の居場所がわかるため、離れていてもきちんと主人の元へ戻ってくる。
ハリスがコハクの首に重ねてつけた首輪のひとつを外した。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~
紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。
そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。
大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。
しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。
フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。
しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。
「あのときからずっと……お慕いしています」
かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。
ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。
「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、
シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」
あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる