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校舎の3階東側の女子トイレをのぞくと、入り口から3番目の個室のドアが閉まっていた。
つまり「使用中」なわけだけど、藤堂君とならんで西側のトイレからまっすぐに続く長い廊下を歩く間にこの女子トイレに入る生徒はいなかった。
2年生が体育館で学年集会を行っていることを考えると、中にいる人はかなり長時間ここにいることになる。
生徒がひとり来ないことに誰も気づいていないのか、よくあることなのか。
耳をすませてみても女子トイレはしんと静まりかえったままだ。
用を足す音は人には聞かれたくないものだから、わたしが入ってくる気配を感じてじっとしているんだろうか。
それだったらいいんだけど、中で倒れていたらどうしよう!?
ドアをノックして声をかけてみようか。
そう思ってそのドアに手をのばしかけたときに思い出した。
トイレの花子さん――。
誰もいない学校のトイレで入り口から順番に「花子さんいますか」と言いながらドアをノックしていくと、3番目の個室から「はあい」と返事が聞こえる。
そのドアを開けると中にひきずりこまれて死ぬという都市伝説だ。
急に背筋がゾっとしてきて、ドアをノックしないままあわててトイレを出る。
藤堂君は男子トイレの点検を終えて、共用トイレを確認中だった。
「藤堂君!」
「どうした?」
泣きそうなわたしの様子に藤堂君が面食らっている。
「出た! トイレの花子さんが出た!」
「なあんだ、そんなのいまさら怖いわけ?」
怖いにきまっている。
だって、死んじゃうんだよ!?
そりゃ藤堂君みたいに妖の山を味方につけていれば、花子さんにひきずりこまれそうになっても助けてもらえそうだから怖くなんてないかもしれないけどね。
藤堂君の背負っている妖の山から長い腕が一本にょきっと飛び出していることに気づいたわたしは、その腕を引っ張った。
「ちょっとこれ借りるから……うわっ!」
引き抜いてみたら腕だけが取れた。
もげた?
わたし、妖から腕だけもいじゃった!?
「だいじょうぶ、それ腕だけの妖だから」
なんだそうだったのかと安心したわたしは、相当混乱していたんだと思う。
腕だけの妖怪ね、オッケーオッケー! なんて、どうかしている。
そんな状態だったから、女子トイレの中へ入って行くわたしに「でも……」と藤堂君がまだ何か言いたそうにしていることにも気づいていなかった。
「あの閉まっているドアをノックしてもらえる?」
腕だけの妖にお願いすると、親指をグっと立てる様子に頼もしさすら感じた。
その腕が3番目の個室のドアをトントンとノックした。
中から返事はない。
誰もいないんだろうか……。
もう一度、トントンとノックするのに合わせておそるおそる「花子さんいますか」と言ってみたときだった。
「はあい」
「ひっ!」
大きな返事が聞こえて全身が総毛だつ。
でも声がした方向がおかしい。
声の方向、つまり藤堂君のいる女子トイレの入り口まで戻ると、彼の横に花子さんたちがいた。
「ちょっと! なんでトイレの花子さんが4人もいるのよっ!」
「つーかさ、見える人間がトイレの花子さんを怖がる必要ある? おまけにカイナデをこの山から引き抜いて素手で持つくせに」
藤堂君が肩をゆらして笑っている。
藤堂君のお父さんが代替わりしてからの2年間で、トイレの花子さんを4回お祓いしたという解釈であっているだろうか。
花子さんたちはみんな、おかっぱ頭に白いシャツ、赤い吊りスカートという定番スタイルではあるものの、あまり怖さは感じない。
きっと藤堂君のマイナスイオンで毒気が抜けたのだろう。
じゃあ、あの個室の中には花子さんはいないってこと? と聞こうとしたとき、いきなり後ろから右足首をつかまれた。
「ひっ……!」
再び心臓が凍りついたような寒気が走る。
すると4人の花子さんのひとりがサッと動いて、わたしの足首をつかんでいた腕を引き離した。
『コラ、だめでしょう』
花子さんがその腕をしかりつけている。
そう、わたしの足首をつかんだのは、さっきドアをノックしてくれた腕のみの、藤堂君が「カイナデ」と呼んでいた妖だった。
「カイナデってさ、トイレの中にいて無防備な人間の足とかおしりをなでる妖なんだ」
なんですって!
やだ、痴漢だわ!
藤堂君は笑い続けている。
「さっき、そんな妖をトイレの中にわざわざ連れて行くなんてって思って止めようとしたのに、浮島さん聞いちゃいないし」
そして、いたずらしようとしたカイナデからわたしを助けてくれたのがトイレの花子さんだとは。
わたしはなんだかとても複雑な気分になったのだった。
つまり「使用中」なわけだけど、藤堂君とならんで西側のトイレからまっすぐに続く長い廊下を歩く間にこの女子トイレに入る生徒はいなかった。
2年生が体育館で学年集会を行っていることを考えると、中にいる人はかなり長時間ここにいることになる。
生徒がひとり来ないことに誰も気づいていないのか、よくあることなのか。
耳をすませてみても女子トイレはしんと静まりかえったままだ。
用を足す音は人には聞かれたくないものだから、わたしが入ってくる気配を感じてじっとしているんだろうか。
それだったらいいんだけど、中で倒れていたらどうしよう!?
ドアをノックして声をかけてみようか。
そう思ってそのドアに手をのばしかけたときに思い出した。
トイレの花子さん――。
誰もいない学校のトイレで入り口から順番に「花子さんいますか」と言いながらドアをノックしていくと、3番目の個室から「はあい」と返事が聞こえる。
そのドアを開けると中にひきずりこまれて死ぬという都市伝説だ。
急に背筋がゾっとしてきて、ドアをノックしないままあわててトイレを出る。
藤堂君は男子トイレの点検を終えて、共用トイレを確認中だった。
「藤堂君!」
「どうした?」
泣きそうなわたしの様子に藤堂君が面食らっている。
「出た! トイレの花子さんが出た!」
「なあんだ、そんなのいまさら怖いわけ?」
怖いにきまっている。
だって、死んじゃうんだよ!?
そりゃ藤堂君みたいに妖の山を味方につけていれば、花子さんにひきずりこまれそうになっても助けてもらえそうだから怖くなんてないかもしれないけどね。
藤堂君の背負っている妖の山から長い腕が一本にょきっと飛び出していることに気づいたわたしは、その腕を引っ張った。
「ちょっとこれ借りるから……うわっ!」
引き抜いてみたら腕だけが取れた。
もげた?
わたし、妖から腕だけもいじゃった!?
「だいじょうぶ、それ腕だけの妖だから」
なんだそうだったのかと安心したわたしは、相当混乱していたんだと思う。
腕だけの妖怪ね、オッケーオッケー! なんて、どうかしている。
そんな状態だったから、女子トイレの中へ入って行くわたしに「でも……」と藤堂君がまだ何か言いたそうにしていることにも気づいていなかった。
「あの閉まっているドアをノックしてもらえる?」
腕だけの妖にお願いすると、親指をグっと立てる様子に頼もしさすら感じた。
その腕が3番目の個室のドアをトントンとノックした。
中から返事はない。
誰もいないんだろうか……。
もう一度、トントンとノックするのに合わせておそるおそる「花子さんいますか」と言ってみたときだった。
「はあい」
「ひっ!」
大きな返事が聞こえて全身が総毛だつ。
でも声がした方向がおかしい。
声の方向、つまり藤堂君のいる女子トイレの入り口まで戻ると、彼の横に花子さんたちがいた。
「ちょっと! なんでトイレの花子さんが4人もいるのよっ!」
「つーかさ、見える人間がトイレの花子さんを怖がる必要ある? おまけにカイナデをこの山から引き抜いて素手で持つくせに」
藤堂君が肩をゆらして笑っている。
藤堂君のお父さんが代替わりしてからの2年間で、トイレの花子さんを4回お祓いしたという解釈であっているだろうか。
花子さんたちはみんな、おかっぱ頭に白いシャツ、赤い吊りスカートという定番スタイルではあるものの、あまり怖さは感じない。
きっと藤堂君のマイナスイオンで毒気が抜けたのだろう。
じゃあ、あの個室の中には花子さんはいないってこと? と聞こうとしたとき、いきなり後ろから右足首をつかまれた。
「ひっ……!」
再び心臓が凍りついたような寒気が走る。
すると4人の花子さんのひとりがサッと動いて、わたしの足首をつかんでいた腕を引き離した。
『コラ、だめでしょう』
花子さんがその腕をしかりつけている。
そう、わたしの足首をつかんだのは、さっきドアをノックしてくれた腕のみの、藤堂君が「カイナデ」と呼んでいた妖だった。
「カイナデってさ、トイレの中にいて無防備な人間の足とかおしりをなでる妖なんだ」
なんですって!
やだ、痴漢だわ!
藤堂君は笑い続けている。
「さっき、そんな妖をトイレの中にわざわざ連れて行くなんてって思って止めようとしたのに、浮島さん聞いちゃいないし」
そして、いたずらしようとしたカイナデからわたしを助けてくれたのがトイレの花子さんだとは。
わたしはなんだかとても複雑な気分になったのだった。
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