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『あかり、どうしたの?』
『どこか痛いの?』
泣きそうな顔をしているわたしを心配して花子さんたちがのぞきこんでくる。
花子さんたちの優しさに感謝しながらどうにか笑ってみせた。
「だいじょうぶだよ。ほら、もうすぐ花火がはじまるよ」
せっかくだから、花火を楽しまないと損だ。
外は夕焼け空から夜空に変わろうとしていた。
地面に近い部分はオレンジ色と金色で、そこに紫と群青色が混ざり合ってその上に濃紺の夜空が広がっている。
みんなで窓にならんで花火が打ち上げられるのを待っていると、階段をバタバタと駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
だれだろうと思って西側の階段のほうを見ると、そこから現れたのは藤堂君だった。
4階まで一気に上ってきたのか肩で大きく息をしている。
そんな藤堂君とは逆に、背中に乗る妖たちがこっちに向かって「おーい」と陽気に手をふっているのがおかしくて、ふふっと笑いながら手をふりかえした。
息を整えるためか両膝に手をついて少しうつむいたあと、こっちを向いた藤堂君の顔は明らかに不機嫌だった。
もしかして……怒ってる?
「なんだよもう、すっげえ探した」
近づいてくる藤堂君は、ムスっとしたままだ。
わたしにくっついていた花子さんが気を利かせてくれて少し横にずれると、藤堂君がその空いたスペースに入って来てわたしの隣に立った。
「電話しても出ねえし」
窓枠に頬杖をついてわたしを見上げる。
「だって校内ではスマホ使用禁止だよ」
「真面目か!」
そのとき、ヒュ~ッという音が聞こえて空を見上げると、ドンという音とともに大きな花火が咲いた。
グラウンドから歓声があがり、花子さんたちも「わあっ!」と喜んでいる。
続けざまに色とりどりの花火が絶え間なく上がり、わたしと藤堂君はしばらく無言で夜空に咲く大輪の花火をながめた。
体の右側が重くなった気がして確認すると、藤堂君がわたしのほうへ体をあずけてもたれかかっている。
「藤堂君?」
「おつかれさまも言ってくんないの? 俺、すっげえがんばったのに」
すねている様子の藤堂君をかわいいと思いながら「おつかれさま」と言った。
でも、こっちだってすねているんだからね。
「あっちこっちで声かけられてたじゃん。みんなにおつかれさまって言ってもらったんでしょう?」
「それとこれとは別。俺は浮島さんにそう言ってもらえれば、あとのヤツらなんてどうだっていい」
それなのにさあ……と藤堂君の文句が続く。
着替えと片付けを終えたあと、第二校舎の入り口にいればわたしが来るかと思ってしばらく待っていたらしい。
でも来る気配がまったくないからたこ焼き売り場に行ってみたらもう完売御礼で閉店していて、そこからはひたすらウロウロして探し回ったけど、少し歩くとだれかに声をかけられてめんどうだったようだ。
花火見物のためにグラウンドに人が集まり始めて、これじゃもう多すぎて探しきれないとあきらめかけたとき、背中に背負ってる妖の山から手がにゅうっとのびてきて、藤堂君の頭を左右からはさむと校舎の上の方を向かせたんだとか。
校舎4階の窓で、転落しそうになっているトイレの花子さんを助けているわたしを見つけて、ここまで走って来たらしい。
なるほど、さっき花子さんが「やーいちー!」と呼んだあの声は、藤堂君本人には聞こえなくても背中の妖たちには聞こえていたってことか。
「整美委員の仕事があるなら言えよ、俺知らなかったし。カバンに腕章入れっぱなしにしておかなかったらここまで入れないところだった」
校舎の中に入ろうとして、先生にこの時間は整美委員以外は立ち入り禁止だと止められ、カバンをあさって腕章を見せてようやく入れてもらったんだとか。
その様子を想像して笑っていると、藤堂君が
「ありえない方向に曲げられた首が痛い」
と言って、わたしの肩に頭をこてんと乗せてきた。
『どこか痛いの?』
泣きそうな顔をしているわたしを心配して花子さんたちがのぞきこんでくる。
花子さんたちの優しさに感謝しながらどうにか笑ってみせた。
「だいじょうぶだよ。ほら、もうすぐ花火がはじまるよ」
せっかくだから、花火を楽しまないと損だ。
外は夕焼け空から夜空に変わろうとしていた。
地面に近い部分はオレンジ色と金色で、そこに紫と群青色が混ざり合ってその上に濃紺の夜空が広がっている。
みんなで窓にならんで花火が打ち上げられるのを待っていると、階段をバタバタと駆け上がってくる足音が聞こえてきた。
だれだろうと思って西側の階段のほうを見ると、そこから現れたのは藤堂君だった。
4階まで一気に上ってきたのか肩で大きく息をしている。
そんな藤堂君とは逆に、背中に乗る妖たちがこっちに向かって「おーい」と陽気に手をふっているのがおかしくて、ふふっと笑いながら手をふりかえした。
息を整えるためか両膝に手をついて少しうつむいたあと、こっちを向いた藤堂君の顔は明らかに不機嫌だった。
もしかして……怒ってる?
「なんだよもう、すっげえ探した」
近づいてくる藤堂君は、ムスっとしたままだ。
わたしにくっついていた花子さんが気を利かせてくれて少し横にずれると、藤堂君がその空いたスペースに入って来てわたしの隣に立った。
「電話しても出ねえし」
窓枠に頬杖をついてわたしを見上げる。
「だって校内ではスマホ使用禁止だよ」
「真面目か!」
そのとき、ヒュ~ッという音が聞こえて空を見上げると、ドンという音とともに大きな花火が咲いた。
グラウンドから歓声があがり、花子さんたちも「わあっ!」と喜んでいる。
続けざまに色とりどりの花火が絶え間なく上がり、わたしと藤堂君はしばらく無言で夜空に咲く大輪の花火をながめた。
体の右側が重くなった気がして確認すると、藤堂君がわたしのほうへ体をあずけてもたれかかっている。
「藤堂君?」
「おつかれさまも言ってくんないの? 俺、すっげえがんばったのに」
すねている様子の藤堂君をかわいいと思いながら「おつかれさま」と言った。
でも、こっちだってすねているんだからね。
「あっちこっちで声かけられてたじゃん。みんなにおつかれさまって言ってもらったんでしょう?」
「それとこれとは別。俺は浮島さんにそう言ってもらえれば、あとのヤツらなんてどうだっていい」
それなのにさあ……と藤堂君の文句が続く。
着替えと片付けを終えたあと、第二校舎の入り口にいればわたしが来るかと思ってしばらく待っていたらしい。
でも来る気配がまったくないからたこ焼き売り場に行ってみたらもう完売御礼で閉店していて、そこからはひたすらウロウロして探し回ったけど、少し歩くとだれかに声をかけられてめんどうだったようだ。
花火見物のためにグラウンドに人が集まり始めて、これじゃもう多すぎて探しきれないとあきらめかけたとき、背中に背負ってる妖の山から手がにゅうっとのびてきて、藤堂君の頭を左右からはさむと校舎の上の方を向かせたんだとか。
校舎4階の窓で、転落しそうになっているトイレの花子さんを助けているわたしを見つけて、ここまで走って来たらしい。
なるほど、さっき花子さんが「やーいちー!」と呼んだあの声は、藤堂君本人には聞こえなくても背中の妖たちには聞こえていたってことか。
「整美委員の仕事があるなら言えよ、俺知らなかったし。カバンに腕章入れっぱなしにしておかなかったらここまで入れないところだった」
校舎の中に入ろうとして、先生にこの時間は整美委員以外は立ち入り禁止だと止められ、カバンをあさって腕章を見せてようやく入れてもらったんだとか。
その様子を想像して笑っていると、藤堂君が
「ありえない方向に曲げられた首が痛い」
と言って、わたしの肩に頭をこてんと乗せてきた。
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