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夜会に参加しました⑤
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夜会の会場は、筆頭公爵家であるバージェス公爵家の邸宅。
招待客は王族と高位貴族のみらしい。
旦那様曰く「何かしら理由をつけて、酒を飲んで遊びたい大人たちの集会」なんだとか。
田舎の男爵家出身のわたしは、都会のきらびやかな社交パーティーに参加した経験がない。
つまり、今回が社交界デビューみたいなもので、実はとても緊張していた。
マーシェス侯爵家の名前に泥を塗るようなことがあってはならない。
侯爵夫人としての役目を果たしてこその自由があるのだから。
旦那様は顔見知りと会うたびにわたしのことを紹介し、こちらも精一杯の笑顔で「妻のヴィクトリアです。よろしくお願いします」と挨拶をする。
その挨拶回りがひと段落ついたところで、旦那様がキョロキョロと視線を巡らし始めた。
「エリックが来ているはずなんだけど……」
独り言とはいえエリック殿下を呼び捨てにするとは、ふたりの仲の良さがうかがえる。
わたしも是非ともお会いしたい。
探してくるから椅子に座って待っているように言われ、壁際の椅子に腰かけて旦那様の後ろ姿を目で追った。
離れていく後ろ姿まで秀麗でかっこいいだなんて、反則だ。
そんなことを思っていたら、派手なドレスをまとった女性が旦那様の腕に絡みつきながら何か囁いている様子が見えて胸がざわついた。
もしかして、あの人が旦那様の愛人だろうか。
ダンジョン攻略が順調でオラオラな状態なら余裕の笑みでその様子を見ていられたのかもしれない。
しかし、何もかも上手くいっていないこの状況では、些細なことが堪える。
見ているのが辛くなって目を伏せていると、
「どうされました? ご気分が優れないなら風に当たりに行きませんか。それとも別室で休憩します?」
と声を掛けられた。
見上げると、目の前に見知らぬ男性が気持ちの悪い笑みを貼り付けて立っている。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ここで待っているように旦那様に言いつけられておりますので」
はっきり断っているつもりなのに、相手の男はそれでもしつこく行こうと誘ってくる。
視線を巡らせて旦那様の姿を探したが、見当たらない。
さっきのあの女性とどこかへ行ってしまったんだろうか。
「ヴィー、どうした。僕と行こうか」
横から別の声がして、強引に腕を引っ張られた。
しつこく絡んできた男が邪魔するなとでも言いたげな険しい顔でその人物を睨んだ……と思ったら、さっと顔色を変えて頭を下げた。
「エリック殿下、ご機嫌麗しゅう存じます」
「堅苦しい挨拶はいらないよ。この子は僕がもらっていくから」
エリック殿下!?
驚いているうちに、腰に手を回されて強引にバルコニーに連れ出されてしまった。
「よく化けてるじゃないか。僕でなければ君が誰だかわからないよ、ヴィー。最高にキュートだね」
いやいや、待て待て。
こういう軽い口調でにこにこしながらわたしのことを「ヴィー」と呼ぶ男性の心当たりならある。
でも、まさか……。
それに容姿が違いすぎる。
「エリック殿下、握手してくださいっ!」
彼はふふっと笑って手袋をスルッと外し、素手でわたしが差し出した右手を握ってくれた。
ああ、やっぱり。
このじんわりと伝わってくる熱さは——。
「エルさん」
「あはっ、大正解! さすがだね、ヴィー」
招待客は王族と高位貴族のみらしい。
旦那様曰く「何かしら理由をつけて、酒を飲んで遊びたい大人たちの集会」なんだとか。
田舎の男爵家出身のわたしは、都会のきらびやかな社交パーティーに参加した経験がない。
つまり、今回が社交界デビューみたいなもので、実はとても緊張していた。
マーシェス侯爵家の名前に泥を塗るようなことがあってはならない。
侯爵夫人としての役目を果たしてこその自由があるのだから。
旦那様は顔見知りと会うたびにわたしのことを紹介し、こちらも精一杯の笑顔で「妻のヴィクトリアです。よろしくお願いします」と挨拶をする。
その挨拶回りがひと段落ついたところで、旦那様がキョロキョロと視線を巡らし始めた。
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独り言とはいえエリック殿下を呼び捨てにするとは、ふたりの仲の良さがうかがえる。
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離れていく後ろ姿まで秀麗でかっこいいだなんて、反則だ。
そんなことを思っていたら、派手なドレスをまとった女性が旦那様の腕に絡みつきながら何か囁いている様子が見えて胸がざわついた。
もしかして、あの人が旦那様の愛人だろうか。
ダンジョン攻略が順調でオラオラな状態なら余裕の笑みでその様子を見ていられたのかもしれない。
しかし、何もかも上手くいっていないこの状況では、些細なことが堪える。
見ているのが辛くなって目を伏せていると、
「どうされました? ご気分が優れないなら風に当たりに行きませんか。それとも別室で休憩します?」
と声を掛けられた。
見上げると、目の前に見知らぬ男性が気持ちの悪い笑みを貼り付けて立っている。
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ここで待っているように旦那様に言いつけられておりますので」
はっきり断っているつもりなのに、相手の男はそれでもしつこく行こうと誘ってくる。
視線を巡らせて旦那様の姿を探したが、見当たらない。
さっきのあの女性とどこかへ行ってしまったんだろうか。
「ヴィー、どうした。僕と行こうか」
横から別の声がして、強引に腕を引っ張られた。
しつこく絡んできた男が邪魔するなとでも言いたげな険しい顔でその人物を睨んだ……と思ったら、さっと顔色を変えて頭を下げた。
「エリック殿下、ご機嫌麗しゅう存じます」
「堅苦しい挨拶はいらないよ。この子は僕がもらっていくから」
エリック殿下!?
驚いているうちに、腰に手を回されて強引にバルコニーに連れ出されてしまった。
「よく化けてるじゃないか。僕でなければ君が誰だかわからないよ、ヴィー。最高にキュートだね」
いやいや、待て待て。
こういう軽い口調でにこにこしながらわたしのことを「ヴィー」と呼ぶ男性の心当たりならある。
でも、まさか……。
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「エリック殿下、握手してくださいっ!」
彼はふふっと笑って手袋をスルッと外し、素手でわたしが差し出した右手を握ってくれた。
ああ、やっぱり。
このじんわりと伝わってくる熱さは——。
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「あはっ、大正解! さすがだね、ヴィー」
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