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内緒のドリンクファイト 1
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差し出されたグラスの中で、炭酸が弾ける。彼と同じピンクの底には、黄色や赤などのゼリーが入っており、どの角度から見ても綺麗なドリンクだった。
ナースデーにちなんで、コンセプトに従って注射器の中の赤いシロップを目の前で入れていく。ドリンクの縁が上がっていくのを見ると、腹部が辛くなった。
ベビーピンクのナースが、そんな俺に微笑みかける。
「ほら、飲んで」
飲みたくない。でも、拒絶したらお腹を押される。それはもう経験済みだった。
指先は震えながらグラスを掴んだ。まだ飲んですらいないのにベリー系の甘い炭酸水が口いっぱいに広がった。
*
残業前提の休憩は、昼休みも、おやつ時もとっくに過ぎた時間だった。給湯室で煮詰まったブラックコーヒーを啜る。昼は食事がないのが当たり前になっているから、これだけで十分だった。
一息ついてスマホを開けば、めいくんから画像が送られてきていた。一応周りに人がいないことを確認して、メッセージアプリを立ち上げる。
『今日も可愛いおれに絶対会いに来てね』
胸上が空いた黒のメイド服姿の自撮りに、そんなメッセージが添えられていた。すでにヘアメイクは完了済みで、今日は左右の高い位置で小さなお団子が作られていた。首元には黒いリボンを大きなフリルで囲ったようなチョーカーがあり、その白の隙間から顔を出す鎖骨の曲線上にはほくろがある。初対面の日を思い出しそうになって、慌ててアプリを閉じようとした。しかし、タイミング良くもう一枚写真が送られてくる。
『準備中に寝始めた癸に怒るりっちゃん』
珍しく三人が同じ衣装を着ているらしかった。気持ち良さそうに寝ているみ~くんさんと、目元を一層吊り上げてヘアアイロンを今にも押し当てそうなりっちゃんさんが写っている。
相変わらずりっちゃんさんは大変そうだ。お疲れさまです、と心の中で写真の彼に伝える。それから、自分の本心で、一言だけ返信した。
『新しい衣装も似合ってて今日のめいくんも可愛いね』
今までのメイド服も、今日のものも、やはり彼に似合っていた。その、可愛い、と思う。メイド服も、フリルも、レースも、リボンも彼の内から出る可愛さを引き立てているもののように、今は思えてしまっている。
メッセージには既読が付いただけで、返信は来ない。嫌だったかな。少し不安に思いながらもスマホを閉じ、また一口に含んだ。
めいくんが朝食を食べさせてきた後に、連絡先を交換した。一向に帰ろうとしない彼が、帰宅条件として指定してきたのだ。
意外にも、めいくんは今日みたいな自撮りを送ってくることはなかった。帰宅前に二日分の食事の作り置きをしてくれて、この週末は適切なタイミングに適切な温め方を指示出されるだけだった。
そして、帰宅条件はもう一つある。
コーヒーを飲み干し、洗ってマグカップの群生地と化している冷蔵庫上に置いた。休憩時間は後四十分ほどあるが、まあ、いつものことだ。
今日は、少しでも早く帰りたい。
「おかえり~! 約束守ってくれるご主人クンが大好き~!」
入り口近くにいたりっちゃんさんを押しのけて、めいくんが飛んできた。強く抱きしめた後、カウンター席へ強制移動させられる。
彼に提示されたもう一つの条件は、毎日この『おむ♡ふぁた~る』に来店することだった。
追いかけてきたメイド長が、俺達にしか聞こえないような大きさで注意した。
「あっくん、そういうことはやめようね?」
「え~、オーナー権限でおれがご主人クンに抱きつくのは良いものとしま~す」
「ほ、他の人の迷惑になることは嫌だなー……」
「嫌で~す、おれはご主人クンの専属メイドとして、体調管理目的に触らなければならないものとしま~す」
ぎゅ~、と言って座ったままの俺を抱きしめた。彼に振り回されるのは、もうそういうものだと慣れてきた。こういう接触はどぎまぎするが、自分のしたいことを優先するのは、……嫌いじゃない、かもしれない。
「もう! 話を聞かない人は可愛くないよ、あっくん」
「えっ」
俺達の意見を無視していためいくんが、その言葉にぎょっとして俺の瞳を覗いた。垂れ目がこれでもかと開き、いつも意地悪そうな唇の端がひきつっている。
「か、可愛くない……? 嘘だよね、ご主人クン……?」
触れる腕に力が籠もる。視界の端にいるりっちゃんさんも、何故か驚いた表情でこちらを見ていた。
どうしよう。めいくんが話を聞かないのは前提として考えていたから、改めて問われると難しい。俺の注意を聞いて欲しいし、変なことをするのは止めて欲しいけど、彼には一から十まで俺の意見を飲んで欲しいわけじゃない。
無言で悩んでいると、めいくんが怯えた表情で目を伏せた。長い睫毛が震えているのに気付いて、自分の考えていることをきちんと伝えなければならないと思った。
「大丈夫、めいくんは十分可愛いよ。俺のことは気にしなくていいけど、りっちゃんさんの言うことを守ってくれるめいくんはもっと可愛いかな」
「……本当? りっちゃんに脅されてない?」
「脅されてないよ」
「ふ~ん。……分かった、百回に一回は聞くようにする」
「ちゃんと百回俺の言葉を聞こうね、あっくん」
早速言ったことを無視して、俺の首元に顔を埋めた。ん~、と小さく唸って、んふふ、と笑い声に変わっていく。
「今日は絆創膏ない。やっぱりおれのこと可愛いんだ」
「そ、そうだね」
思いの外ぐっすりと眠ってしまい遅刻寸前で、貼るのを忘れてしまっていた。
「りっちゃんの嘘つき。でも、ご主人クンが可愛いって言ってくれたから、許してあげる」
めいくんは俺から離れて、いつものように一回転した。写真では良く見えなかったが、スカートの縁にフリルがない代わりか厚く膨らんでいる。黒のニーハイの始まりにも、首のチョーカーと同じフリルとリボンの飾りがあった。
「ご主人クンの大好きな鎖骨のほくろ、いっぱい見て良いからね」
視線が無意識に吸い寄せられて、笑われた。
「えっち」
いつものようにわざとらしい口調で咎められる。彼はそのままご機嫌そうにキッチンへと消えていった。
「あの、本当に、迷惑掛けてばかりで、その、なんとお詫びすればいいか……」
「こっちこそ、うちのあっくんが本当にすみません……。彼は悪い子です、普通にクズです。でも、ああやって人の注意を聞くところは初めて見ました」
それだけ言って、彼は慌てて接客に戻った。そうしてやっと周囲の注目がこちらに向いていることに気付いた。店内にいる女性が、全員こちらを見ている。
怖くなって、サッとカウンターの方を向くと、追い出されたキッチン担当の人と眼鏡越しに目が合う。
「あ、いや、すごいすね……」
「どうも……?」
互いにそこから言葉が詰まり、店内全体が一層ぎくしゃくしたように思えた。メイドカフェのすべてを握る本人は呑気に調理をしながら、お~くん手伝って~! と向かいの彼を呼んでいた。
通うようになってから、少しだけ残業が嫌になってきた。多分、これが正常な感覚なのだろう。
めいくんは相変わらず話を聞いてくれそうにないし、ご奉仕やお世話と言いながらも自分勝手な行動が多すぎる。
今日も、健康管理の名目で彼も家についてきていた。閉店作業中にいつの間にか着替えており、黒い詰め襟のメイド服のスカートをご機嫌そうに揺らしている。
「明日もお店のこととかあるでしょ? 俺にそんな構わなくたって……」
「あれ、言ってなかったっけ? ご主人クンの勤務形態に合わせて、平日の夕方しかお店は開けてないよ~。今日は金曜日だから、いっぱい癒してあげれるね」
「ええっ……」
聞いてない。
扉前まで来て思わず足が止まる。取り出していた鍵はめいくんに奪われて、勝手に自宅に入っていった。力ない足取りで、追いかける。
「めいくんって、本当にすごい人なんだ……」
彼のことが、ますます分からなくなった。
りっちゃんさんはよく金持ちクズと呼んでいるし、み~くんさんも常に昇給とかボーナスとか言いながらめいくんの命令に従っている。いつぞやに給料がと話していたし、多分羽振りも悪くないはずだ。きっと彼の懐から出ていて、それの元を辿れば俺に行き着いてしまう。
「本当? おれ、すごい? 可愛い?」
玄関で言葉を求めるように、身体を左右に振る。フリルがない分男性らしい肩幅は隠しようがなく、黒タイツ越しにも筋肉質な脚をしていると分かる。なのに、どうしようもなくメイド服が似合っている。
「俺のための店って言われると、やっぱり怖い部分が多いけど……。メイドカフェを経営して、俺の世話も焼いてくれるめいくんは、その、可愛いよ」
「……嬉しい」
頬を赤く滲ませて、ぽつりとこぼした。こちらが一歩踏み出せば、びくっと肩を上げ、いつものように視線がさまよい始める。もう一歩前に出すと、耐えきれなくなったように振り返り、ウエストエプロンのリボンを跳ねさせながら部屋の中へと逃げていった。
本当に、彼がよく分からない。
それから、しばらくは落ち着きなく部屋をうろうろしていたが、明日の朝ご飯の仕込み! と宣言し、キッチンへと向かっていった。する事もないし、後ろを追いかければ、いくつものピアスに飾られた耳はまだ赤いままだった。
「ご、ご主人クン……?」
「めいくんが作ってるところ、ちゃんと見たことないなって。嫌だった、かな」
「嫌じゃない! 嫌じゃないけど、……どきどきする」
頑なにこちらを向こうとはせず、ずっとまな板に視線を落としている。動かない彼に罪悪感が生まれ、離れようと後ずさりした瞬間、やだ、と子どもっぽい言葉で呼び止めた。
「見てて、有クン。おれが料理して、お世話して、癒してあげるところ。有クンへのご奉仕の全部を、ちゃんと見て」
いつになく、優しい声色だった。甘くとろける垂れ目は、しっかりとこちらを捉えてくれている。
「分かった」
今日は催促される前に、彼を褒めてあげたい。どうしてか分からないけど、それを望んでくれるなら、俺も彼に応えてあげるべきだと思う。
でも、頭のどこかではメイドのめいくん以外の姿も知りたいと考えてしまっていた。
ナースデーにちなんで、コンセプトに従って注射器の中の赤いシロップを目の前で入れていく。ドリンクの縁が上がっていくのを見ると、腹部が辛くなった。
ベビーピンクのナースが、そんな俺に微笑みかける。
「ほら、飲んで」
飲みたくない。でも、拒絶したらお腹を押される。それはもう経験済みだった。
指先は震えながらグラスを掴んだ。まだ飲んですらいないのにベリー系の甘い炭酸水が口いっぱいに広がった。
*
残業前提の休憩は、昼休みも、おやつ時もとっくに過ぎた時間だった。給湯室で煮詰まったブラックコーヒーを啜る。昼は食事がないのが当たり前になっているから、これだけで十分だった。
一息ついてスマホを開けば、めいくんから画像が送られてきていた。一応周りに人がいないことを確認して、メッセージアプリを立ち上げる。
『今日も可愛いおれに絶対会いに来てね』
胸上が空いた黒のメイド服姿の自撮りに、そんなメッセージが添えられていた。すでにヘアメイクは完了済みで、今日は左右の高い位置で小さなお団子が作られていた。首元には黒いリボンを大きなフリルで囲ったようなチョーカーがあり、その白の隙間から顔を出す鎖骨の曲線上にはほくろがある。初対面の日を思い出しそうになって、慌ててアプリを閉じようとした。しかし、タイミング良くもう一枚写真が送られてくる。
『準備中に寝始めた癸に怒るりっちゃん』
珍しく三人が同じ衣装を着ているらしかった。気持ち良さそうに寝ているみ~くんさんと、目元を一層吊り上げてヘアアイロンを今にも押し当てそうなりっちゃんさんが写っている。
相変わらずりっちゃんさんは大変そうだ。お疲れさまです、と心の中で写真の彼に伝える。それから、自分の本心で、一言だけ返信した。
『新しい衣装も似合ってて今日のめいくんも可愛いね』
今までのメイド服も、今日のものも、やはり彼に似合っていた。その、可愛い、と思う。メイド服も、フリルも、レースも、リボンも彼の内から出る可愛さを引き立てているもののように、今は思えてしまっている。
メッセージには既読が付いただけで、返信は来ない。嫌だったかな。少し不安に思いながらもスマホを閉じ、また一口に含んだ。
めいくんが朝食を食べさせてきた後に、連絡先を交換した。一向に帰ろうとしない彼が、帰宅条件として指定してきたのだ。
意外にも、めいくんは今日みたいな自撮りを送ってくることはなかった。帰宅前に二日分の食事の作り置きをしてくれて、この週末は適切なタイミングに適切な温め方を指示出されるだけだった。
そして、帰宅条件はもう一つある。
コーヒーを飲み干し、洗ってマグカップの群生地と化している冷蔵庫上に置いた。休憩時間は後四十分ほどあるが、まあ、いつものことだ。
今日は、少しでも早く帰りたい。
「おかえり~! 約束守ってくれるご主人クンが大好き~!」
入り口近くにいたりっちゃんさんを押しのけて、めいくんが飛んできた。強く抱きしめた後、カウンター席へ強制移動させられる。
彼に提示されたもう一つの条件は、毎日この『おむ♡ふぁた~る』に来店することだった。
追いかけてきたメイド長が、俺達にしか聞こえないような大きさで注意した。
「あっくん、そういうことはやめようね?」
「え~、オーナー権限でおれがご主人クンに抱きつくのは良いものとしま~す」
「ほ、他の人の迷惑になることは嫌だなー……」
「嫌で~す、おれはご主人クンの専属メイドとして、体調管理目的に触らなければならないものとしま~す」
ぎゅ~、と言って座ったままの俺を抱きしめた。彼に振り回されるのは、もうそういうものだと慣れてきた。こういう接触はどぎまぎするが、自分のしたいことを優先するのは、……嫌いじゃない、かもしれない。
「もう! 話を聞かない人は可愛くないよ、あっくん」
「えっ」
俺達の意見を無視していためいくんが、その言葉にぎょっとして俺の瞳を覗いた。垂れ目がこれでもかと開き、いつも意地悪そうな唇の端がひきつっている。
「か、可愛くない……? 嘘だよね、ご主人クン……?」
触れる腕に力が籠もる。視界の端にいるりっちゃんさんも、何故か驚いた表情でこちらを見ていた。
どうしよう。めいくんが話を聞かないのは前提として考えていたから、改めて問われると難しい。俺の注意を聞いて欲しいし、変なことをするのは止めて欲しいけど、彼には一から十まで俺の意見を飲んで欲しいわけじゃない。
無言で悩んでいると、めいくんが怯えた表情で目を伏せた。長い睫毛が震えているのに気付いて、自分の考えていることをきちんと伝えなければならないと思った。
「大丈夫、めいくんは十分可愛いよ。俺のことは気にしなくていいけど、りっちゃんさんの言うことを守ってくれるめいくんはもっと可愛いかな」
「……本当? りっちゃんに脅されてない?」
「脅されてないよ」
「ふ~ん。……分かった、百回に一回は聞くようにする」
「ちゃんと百回俺の言葉を聞こうね、あっくん」
早速言ったことを無視して、俺の首元に顔を埋めた。ん~、と小さく唸って、んふふ、と笑い声に変わっていく。
「今日は絆創膏ない。やっぱりおれのこと可愛いんだ」
「そ、そうだね」
思いの外ぐっすりと眠ってしまい遅刻寸前で、貼るのを忘れてしまっていた。
「りっちゃんの嘘つき。でも、ご主人クンが可愛いって言ってくれたから、許してあげる」
めいくんは俺から離れて、いつものように一回転した。写真では良く見えなかったが、スカートの縁にフリルがない代わりか厚く膨らんでいる。黒のニーハイの始まりにも、首のチョーカーと同じフリルとリボンの飾りがあった。
「ご主人クンの大好きな鎖骨のほくろ、いっぱい見て良いからね」
視線が無意識に吸い寄せられて、笑われた。
「えっち」
いつものようにわざとらしい口調で咎められる。彼はそのままご機嫌そうにキッチンへと消えていった。
「あの、本当に、迷惑掛けてばかりで、その、なんとお詫びすればいいか……」
「こっちこそ、うちのあっくんが本当にすみません……。彼は悪い子です、普通にクズです。でも、ああやって人の注意を聞くところは初めて見ました」
それだけ言って、彼は慌てて接客に戻った。そうしてやっと周囲の注目がこちらに向いていることに気付いた。店内にいる女性が、全員こちらを見ている。
怖くなって、サッとカウンターの方を向くと、追い出されたキッチン担当の人と眼鏡越しに目が合う。
「あ、いや、すごいすね……」
「どうも……?」
互いにそこから言葉が詰まり、店内全体が一層ぎくしゃくしたように思えた。メイドカフェのすべてを握る本人は呑気に調理をしながら、お~くん手伝って~! と向かいの彼を呼んでいた。
通うようになってから、少しだけ残業が嫌になってきた。多分、これが正常な感覚なのだろう。
めいくんは相変わらず話を聞いてくれそうにないし、ご奉仕やお世話と言いながらも自分勝手な行動が多すぎる。
今日も、健康管理の名目で彼も家についてきていた。閉店作業中にいつの間にか着替えており、黒い詰め襟のメイド服のスカートをご機嫌そうに揺らしている。
「明日もお店のこととかあるでしょ? 俺にそんな構わなくたって……」
「あれ、言ってなかったっけ? ご主人クンの勤務形態に合わせて、平日の夕方しかお店は開けてないよ~。今日は金曜日だから、いっぱい癒してあげれるね」
「ええっ……」
聞いてない。
扉前まで来て思わず足が止まる。取り出していた鍵はめいくんに奪われて、勝手に自宅に入っていった。力ない足取りで、追いかける。
「めいくんって、本当にすごい人なんだ……」
彼のことが、ますます分からなくなった。
りっちゃんさんはよく金持ちクズと呼んでいるし、み~くんさんも常に昇給とかボーナスとか言いながらめいくんの命令に従っている。いつぞやに給料がと話していたし、多分羽振りも悪くないはずだ。きっと彼の懐から出ていて、それの元を辿れば俺に行き着いてしまう。
「本当? おれ、すごい? 可愛い?」
玄関で言葉を求めるように、身体を左右に振る。フリルがない分男性らしい肩幅は隠しようがなく、黒タイツ越しにも筋肉質な脚をしていると分かる。なのに、どうしようもなくメイド服が似合っている。
「俺のための店って言われると、やっぱり怖い部分が多いけど……。メイドカフェを経営して、俺の世話も焼いてくれるめいくんは、その、可愛いよ」
「……嬉しい」
頬を赤く滲ませて、ぽつりとこぼした。こちらが一歩踏み出せば、びくっと肩を上げ、いつものように視線がさまよい始める。もう一歩前に出すと、耐えきれなくなったように振り返り、ウエストエプロンのリボンを跳ねさせながら部屋の中へと逃げていった。
本当に、彼がよく分からない。
それから、しばらくは落ち着きなく部屋をうろうろしていたが、明日の朝ご飯の仕込み! と宣言し、キッチンへと向かっていった。する事もないし、後ろを追いかければ、いくつものピアスに飾られた耳はまだ赤いままだった。
「ご、ご主人クン……?」
「めいくんが作ってるところ、ちゃんと見たことないなって。嫌だった、かな」
「嫌じゃない! 嫌じゃないけど、……どきどきする」
頑なにこちらを向こうとはせず、ずっとまな板に視線を落としている。動かない彼に罪悪感が生まれ、離れようと後ずさりした瞬間、やだ、と子どもっぽい言葉で呼び止めた。
「見てて、有クン。おれが料理して、お世話して、癒してあげるところ。有クンへのご奉仕の全部を、ちゃんと見て」
いつになく、優しい声色だった。甘くとろける垂れ目は、しっかりとこちらを捉えてくれている。
「分かった」
今日は催促される前に、彼を褒めてあげたい。どうしてか分からないけど、それを望んでくれるなら、俺も彼に応えてあげるべきだと思う。
でも、頭のどこかではメイドのめいくん以外の姿も知りたいと考えてしまっていた。
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