貴方だけにご奉仕♡きゅるるんおちんぽメイド

近井とお

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一番可愛いあなたへ 4

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 翌朝、起きたときにはすでに朝食も弁当も用意されていた。置き手紙が本人不在だと伝えている。

『食べてね』

 たった、それだけだった。
 スマホには特にメッセージも来ておらず、彼の意図をうまく読めずにいる。手に取ったサンドイッチは何の温度も感じず、流れ作業のように口に放り込んだ。
 自惚れた者勝ちです、あいつの場合。
 昨日もらった言葉が脳内に浮かび上がる。確かに、あんな状態だったのに作りに来てくれたということは、嫌われているわけではないらしい。かといって、進展したのかも、怪しい。
 それに、約束のことも、特に分かっていない。ただ、メイドカフェの始まりは去年末らしいのは、何となく伝わった。

「去年末……。俺が、酔ってやらかしたのも、初めは去年末だった……」

 でも、そんな都合の良いことがあるのだろうか。関係ないとは言い切れないけど、かといって確実な証拠もない。
 悩みながらの朝食は驚くほどに味気なかった。
 今日の夜は、どうするべきだろうか。そう悩んでいた矢先だった。
 『おむ♡ふぁた~る』には、しばらく行けなくなった。

「どうしても出社が厳しいみたいで……」

 朝礼で申し訳なさそうに話が切り出された。お子さんの病気で急遽有給を二週間ほど消化することになった、と言われ、何となく思い当たるところがあった。昨日、林さんが呼ばれていたのは、それだったのか。
 ただでさえ回っていない部分があるが、こればかりはどうしようもない。それに、行けない口実があるのは、むしろありがたかった。
 受け持ちを全員で確認しながら、後からなんて連絡しよう、と一人考えていた。


『自信作だよ』
『可愛く作ったよ』
『今日は和食だよ』
『三食作ったよ』
『ちゃんと食べてくれて、嬉しい』
『早くお店来てよ』
『お仕事なんか、やめちゃえ』
『有クン、まだ?』

 仕事終わりと朝食時に、彼からのメッセージを見るのは日課になっていた。日が経つごとに言葉に彼らしさが滲み出ていくのが、好きだった。
 ローテーブルに日付ごとに並べて、その横にスタンプカードも置いている。最後の来店日で、ちょうど十四個まで貯まっており、あと一個で特典を受けられるらしかった。
 改めて見ると、自分がほぼ毎日通っていた事実に驚かされる。そのどれにも思い出があって、思い出すたびに寂しさを突きつけられる。
 めいくんにも、りっちゃんさんにも、しばらく行けないと伝えていた。めいくんからはそれ以降返信がなく、フォローするようにりっちゃんさんからメイドカフェの日常が送られてきている。
 病気の方は順調に回復しているらしく、予定通り消化して来週の月曜日からは問題なく出社とのことだった。後二日頑張れば、福が遊びに来て、また彼らのお店にも通うことが出来る。
 そう自分に言い聞かせても、身体の倦怠感は消えることなく、以前のような睡眠不足に悩まされていた。


  *


 久しぶりにあった妹は、随分と大人びていた。新幹線ホームまで迎えに行って、初めは自分の家族だと気付かないほどだった。

「大きくなったね……」
「そう?」

 荷物を預かれば、きょとんとした表情でこちらを見ていた。そこには、まだ幼い頃の面影がある。

「身長は変わってないけど、なんか成長したなって。前に会ったときは髪も長かったし、染めてなかったよね」
「似合ってない?」
「ううん、すごく似合ってる。俺の妹じゃないみたい」

 良かった、と顔を綻ばせた。
 思わず抱きしめると、福は腕の中で楽しそうに笑った。肩ほどの身長のため、すっぽりと収まってしまうことに違和感を覚える。背中に回る手はいつもよりも小さく、位置も全く違う。

「有くん?」

 有クン!
 同じ呼び方に、彼の笑顔が重なる。前まで逆だったのに、本当に重症だ。

「なんでもないよ。ほら、行こう」

 手を離して、出発を促した。めいくんだったら、勝手に歩き出していたのだろうな、とまた考えてしまった。


「悩み事あるでしょ」

 昼食の途中に、そう切り出された。ぱっちりとした瞳が瞬きを忘れたかのように、じっとこちらを射抜いている。確信を持っているときの、福の癖だった。

「……分かる?」
「分かるよ、それくらい」

 デザートのパフェを食べる手を止め、寿も心配してたよ、と付け加える。

「前に有くんが変なこと送ってたじゃん。だから聞いてきてってお願いされてる」
「変なこと? ごめん、それは記憶にないかも」

 寿にもたまにやりとりをするけど、その内容はしっかりと覚えてる。心配されるほどのことは言ってないはずだ。それに、わざわざ仕事の愚痴みたいなものは妹弟に送るものでもない。

「私も寿も寝ぼけてるのかなと思ってスルーしてたけど、今日の有クン見て確信した。もしかして仕事、つらい?」
「待って、そんなに!?」
「有くんが消してないなら、履歴残ってると思うよ。去年末と、春頃の二回」
「去年末と、春頃……」

 どっちも、めいくんに関係のある時期だ。
 食べてるね、と気を使われながら、スマホを取り出した。画面から目を逸らしてから立ち上げ、寿とのメッセージ履歴を確認する。少し遡って、問題の言葉が見つかった。

『きょうはありかまとここあこめんゆくそう』

「なにこれ……」

 送られているのは深夜とも朝方とも言えない時間だし、絶対に酔って寝ぼけたまま送っている。自分で打ったけれど、何を言いたいのか、さっぱり分からなかった。
 その次のメッセージは、比較的まともだった。

『かえったのまたきてね』

 こっちに関しては、記憶がある。寿に送ってもらったと思い込んで、お礼を言ったつもりだった。きせいここあ、と中途半端なものも打ち込まれている。たしか、お歳暮のお裾分けでもらったココアが当時家にあったはずで、それを振る舞った形跡が部屋にあった。この直後に何のこと、と返事が来て、ようやく自分が知らない人間に家まで連れてきてもらったのだと気付いている。しかし、肝心のその人のことは、さっぱり覚えていない。
 福には申し訳ないと思いながら、トーク相手をりっちゃんさんに切り替えた。ずっと聞けていなかった言葉を打ち込む。

『俺とめいくんって去年末に会っているか、知ってませんか? もしも心当たりがあれば、日付も知りたくて』

 返事が来ることを祈っていると画面が切り替わる。福とスマホを交互に見ると、いいよ、と先に許可を出された。

「仕事関係?」
「いや、知り合いからの電話なんだけど……」
「有くんにとって大事なんでしょ。パフェのアイス溶けそうだから、食べすすめないといけないし、ね?」
「ごめん!」

 早足で外に出て電話を取ると、聞いてないんですけど、と第一声から怒りを滲ませていた。

「あの、お二人は年末に会ってますよね」
「そう、みたいです……」
「みたい、とは?」
「酔っていてほとんど記憶がないんだけど、おそらくめいくんに絡んでいって、介抱してもらったみたいで……」

 飲み会の日付を伝えれば、場所はどこです、とすかさず飛んできた。カレンダー残していたメモを頼りに店名地名ともに伝えると、最悪だ、と音声からも引きつる表情が見えた。

「俺と阿左美も同じ日に、近い場所で飲んでます……」
「ってことは、その可能性が」
「ものすごく高いです。本当にすみません! あのとき、もっと深く聞いておけばよかった! 言い訳でしかないんですけど、俺もメイドカフェの話を聞いたときに浮かれていて、阿左美のことだからオープン前に興味失うだろうなって思い込んでて!」
「気にしてないよ」

 そうは言っても、しっかり者の彼はずっと俺に謝ってくれていた。
 今、すごく安心している。めいくんは二度も俺を助けてくれていて、なにをしたかは知らないけどそれが理由でメイドカフェまでオープンさせた。こんな状況でも食事を用意してくれる彼に、早く会いたかった。

「ごめんね、今、妹が遊びに来ていて。明日の午後には帰るから、また連絡しても良いかな」
「そんなときにすみません! ……ちなみにそれって阿左美には伝えてます?」
「用事があるから土日は家に来ないでとは伝えたけど、妹のことは伝えてないですよ。返事はないけど見てはくれたみたい」

 そう返せば、りっちゃんさんは画面の奥で唸っていた。いや、でも、だけど、を何度か繰り返した後、仮に、と言葉を紡いだ。

「仮にですよ、仮に。主藤さんは、どんな形であれ、阿左美と付き合いたいですか。仮にですからね」
「そう、だね。ちゃんと恋人になれたら、嬉しいかな」
「何が起きても?」
「まあ、そうかも……」
「覚悟はありますか」
「うん」

 俺は、これから二人のどちらかに殺されるのだろうか。
 りっちゃんさんは否定をして欲しいようで、同じような質問を何度か繰り返してきた。そのたびに、彼と対等になりたいという感情は強まっていく。
 きちんとお礼を言って、好きだともう一度伝えたい。
 今まで散々な行動を取られているから、多少のことは気にならない。彼なりの可愛い行動だと、笑って許してしまう自分がいる。

「分かりました。何かあったら、俺と阿左美の家族が責任取ります」
「そんな大事……?」
「明日の予定、暇なときに教えて下さい」

 具体的な指示を受けて、脳内にメモしていく。それから一言二言話して、彼との通話は終わった。
 店内に戻ればすでに福はパフェを食べ終わっていて、スマホで時間を潰してくれている。

「ごめん……」
「そんなことよりも、暗号の解読終わったよ!」
「暗号の解読?」

 席に座るとすぐに、福が画面を見せてくれた。先ほど確認したのと同じ内容だが、メッセージの位置が俺とは反対になっている。

「寿がバイト前だったからすぐに送ってくれたんだ。有くんによろしくと、特製ココアまた作ってね、だって」

 スクショが消え、二人の会話内容が現れた。暗号を読み解こうと苦戦しているところから、ここあってココアそのままだよ、というところをターニングポイントにどんどん解析が進んでいる。

「今日はありがとう、ココアごめん、約束。有くん、冬になると炒った特製ココア作ってくれたでしょ。あれの話をしたかったんじゃないのかなって」
「……ありえる」

 なんでそんな約束をしたのか、全く思いつきもしない。それに、そんなので喜ばれるのかも分からない。でも、可能性が見えた以上試す価値はあった。

「福、買い物に付き合ってくれる?」

 いいよ、と言いながら、福が楽しそうに笑っていた。

「悩み事が解決したみたいだね。すごく幸せそう」

 首を傾げれば、唇を指さされた。口角に触れると、何故か上向いている。あまりにも自分が素直で、愛おしい。

「全部解決したら、伝えるね」
「分かった。帰ったら寿にも言っておく!」

 本当に自分には勿体ないくらい、可愛くて優しい子達だ。今年の年末はちゃんと帰って、二人にもココアを振る舞ってあげたい。
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