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同窓会 一章〜好きだった人と再会した春〜
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~~~~~~
「もー、クロ子、ごめんな。その、」
「あははは、良いよ~!でもビックリしちゃった!友子ちゃんの彼氏が寛治くんだったなんて」
私にしがみついていた友子ちゃんを引き剥がして、寛治くんは苦笑いをしながら背負った。
「……普通、お姫様抱っことかじゃないの?」
「?なんで?おんぶして、膝の裏から友子の手を持つのが一番安定するし、お互いに負担がないぞ?これ、山岳救助とかでも使われる担ぎ方だけど」
あ、寛治くんは意外と合理主義だ。
「それにしても、友子ちゃんの彼氏とは……」
「はは、意外?」
「…いやっ、別にそうは思わないけど」
私は笑って、寛治くんの背中に凭れている友子ちゃんの頭を撫でた。
「友子ちゃんが幸せそうで嬉しい」
「友子の親友のクロ子に御墨付きを貰って俺も嬉しい♪」
寛治くんと二人、クスクスと笑い合う。
と、そこに春田くんが大きく手を振りながら私達に声をかけた。
「寛治、タクシー来たよ」
春田くんは、タクシーを待たせると、寛治くんと友子ちゃんを車内に導く。
「気を付けてね、今日は楽しかった。友子ちゃんをよろしくね」
「おう」
「じゃあね、寛治」
私と春田くんは車内に声を掛けると、少し後退りをして、走り出すタクシーを見送った。
他の面子は帰る組と二次会に行く組と別れて、今はもう店の前には誰も居なかった。
私と春田くんの二人だけ。
(このまま、バイバイなのかな)
恋心が死んでいるはずなのに、胸に寂しさが湧いた。
いや、てっきり友子ちゃんの彼氏は春田くんだと思っていたからさ?!
まさかのまさかじゃん!?
死んだ筈の恋心も、ゾンビになって復活するじゃん!?
帰りたくない。
春田くんと、もっと一緒にいたい。
私は、隣の春田くんに無意識のまま手を伸ばした。
「!!」
春田くんの血の気のない指に、私の指を絡めた。
春田くんは目を見開き固まっている。
「…っ、ほ、火照っちゃって!春田くんの手、相変わらず冷たくて気持ちいいね!」
私は、慌てて取り繕った。
「……黒川さん、この後どうする?」
春田くんは私の言葉には応えず、じっと射抜くように私の瞳を見詰めた。
春田くんの瞳はどこか神秘的で、心の中を見透かされているような気になる。
ドキ、と胸が大きく跳ねた。
「…えっ、と…」
「すぐ帰るのも味気無いし、……少し休んで行く?」
そう言って、繋いだ手をギュッと強く握り締めながら、どこかを指差した。
ラブホ街だった。
~~~~~
「あっはは、ウケる『ぎゃあああ』って。黒川さん、顔、すごい顔で、ふっ、はは」
「もぉぉー!笑いすぎーっ」
ラブホ街の先の線路沿いの公園で、春田くんはブランコの柵に腰を乗せながらケラケラと笑っている。
私はそのとなりで同じように腰掛けながら、顔を赤くしたまま口をヘの字に曲げていた。
(穴があったら入りたい…)
ラブホ街を指差した上に『休んで行こう』なんて言葉を掛けられ、年齢=彼氏居ない歴の処女としてはですね、エッチな知識だけは満載なんですよ、ええ。そんな女にそんな事を言ったら、勘違いして真っ赤になって動揺して変な声をあげるのなんて予定調和じゃないんですかね?!
それに、そんな私の反応見て、ウケてるけど、自分だってホテル街を指差してるって1テンポ遅れて気付いたよね?!
私の反応面白がっているけど、春田くんも『あっ、ヤバッ』って真っ赤になったの見逃さなかったからね?!
「公園があったから良いけど、び、ビックリするでしょ!急に……」
「うわぁ、私さんのエッチー、僕襲われちゃう」
「ちっ、違うもんんん!!」
私はペシンと春田くんの肩を叩いた。
叩かれて嬉しそうに笑う春田くんと、至近距離でそれを見る私。
手はまだ繋がったまま。
春田くんヘの恋心は死んだ筈なのに、今ドキドキと心臓が五月蝿い。血が体を巡って熱い。
汗ばんで滑ってきた。
恥ずかしくて死ぬ…。
「なんか熱くなって来ちゃった!」
私はわざとらしくそう言って、繋いだ手を外そうと絡んだ指をほどこうとする。
が、その度に春田くんの細くてひんやりとした指が、私の指を逃さぬように絡んだ。
「…っ」
私は心底困った顔で春田くんを見上げた。
ドキドキして爆発しちゃうよ?
繋いだ私の指が、身体が、どんどん熱を帯びていく。
あー、これはもう爆散コースですよ……。
春田くんはどこか悪戯っ子のような瞳で、クスクスと笑いながら、私の指に指を絡めて動きを封じてる。
「ちょっ、春田くん、その、手、離して…」
「私さんが繋いできたのに?」
「…っ、そ、そうだけど、手汗っ、かいてきちゃったからっ!」
私は正直に叫んだ。
どうせ、汗をかいてるのなんてバレてる。
春田くんと居たくて帰りたくなかったけど、今は逃げ出したいくらい恥ずかしい。
春田くんが友子ちゃんの彼氏じゃなくて安心したけど、フリーだとは限らない。
死んだ筈の恋心が、ゾンビのように甦り、でも怖気づいて棺桶の中に戻っていく。
繋いだ手から伝わってしまいそうで、私は怖かった。
「黒川さん、手を離しても逃げない?」
「えっ?」
それまでからかう様に笑っていた春くんが、手握りながら私の瞳を覗き込むようにじっと見詰めた。
整った顔立ちは、まるでモデルさんのように可愛らしい。春田くんの長い睫毛をぽかんと見上げながら、私は彼の言葉を反芻する。
逃げ出したいって思ってたのを見抜かれたのかな。
でも、なんだろう、どこかで…。
私は、うーん、と首を傾げて記憶を探る。
何か思い出しそう。何かが。
何かが頭に引っ掛かる。
「手を離すけど、走って行ったらダメだよ」
春田くんはそう言って、繋いだ手を離した。
私はどこか寂しさを感じながら、繋いでいた掌をもう片方で覆った。手汗を拭うも、思ったより濡れてはいなかった。
柔らかく湿った掌はポカポカと温かい。
「黒川さん、はい。これ」
春くんは、そういって鞄から小さな包みを取り出した。
細やかにラッピングされたそれを私の掌に乗せる。
「!!えっ!?」
「差し入れするよって言ったでしょ」
「えっ、えっ?!…ありがとう、…あの、開けてもいい?」
「どうぞ?」
「わー、なんだろ…あっ!」
私はピンクのリボンを解くと、小さな包みを開いた。
「…クッキー!」
「食べていいよ」
「わぁーい!いっただきまーす」
私は照れ隠しに子供っぽくはしゃぐと、中から1枚取り出してかじりついた。
サクサクとした触感と、バターの香り、はちみつの甘み。
「おいひい…」
モグモグと口に含みながら、私は感想を呟いた。程よく解れるサクサクの生地と素朴な味わいに自然と頬が緩む。
(あれ?これってもしかして手作り…?いやいや、そんなまさか)
「あの、春田くんこれって」
「僕作ったやつだから、喜んで貰えて嬉しい」
ゴクンと飲み込んだ私に、春くんははにかむように笑った。
「…春田くんスゴい!お菓子作れるなんて」
私のテンションがダダ上がりである。
好きな人の新しい一面と、わざわざ作ってくれた手間とか、凄く美味しくて普通に売ってたら買っちゃうような、癖になる味というか、何もかもが嬉しくて楽しくて、それだけで幸せ。
「久し振りに作って楽しかった」
「えー、そうなんだ?!春くんスイーツ男子なの??スゴいよー!美味しいもん!お店みたい!」
私はニコニコしながら、無意識の内に2枚目に手を伸ばすと、さっきとは違うチョコチップ入りの感触に、うへへと食いしん坊の子供のように笑った。
そんな私を、春田くんは目を細めながら笑っている。
「スイーツ男子…?そうなのかな、…でもバレンタインのお返しにクッキー作ると不評なんだよね。なんでだろ」
サラッと呟いた言葉に、私はチョコチップクッキーを食べようと大きく開いたまま固まる。
(ば、バレンタイン…。そうか、そうだよね。モテない筈が無いもんね)
心に影を落とした私には気付かぬまま、春田くんは言葉を重ねた。
「ホワイトデーのお返し、財布が大変な事になるから手作りで返したら、まぁ不評で。皆三倍返し狙いだから、あの時期キツイ……。男子からもあげれたら良いのに。あと、好きな子だけに返すとかさ……。だから、僕」
春くんの言葉が、グサッグサッと私の胸に連続で刺さる。
まだ何かを話しているけど、衝撃が強すぎてその後の言葉が耳から耳へとすり抜けていく。
(好きでもない子からのチョコって、逆に迷惑だったりするのか……。お返しが大変だから……。そっか、そっかー、私は勇気出なくて春田くんにあげたことがなかったけど、逆に良かったんだ)
心にぽっかりと穴が空いたような気分になって、さっきまで暖かな気持ちで美味しく食べていたのが嘘みたいに血の気が引いていった。
突然の男子の本音に、私は急に申し訳無いような気持ちになって、ゆっくりとクッキーを袋に戻した。
「あっ!ありがとう、クッキー作ってくれて…、あのっ、ご、ごめんね!材料費払うね!!いくら??」
「えっ?!いや?!ちょっと待って、そういう意味じゃなくて!」
ショルダーバッグから財布を取り出そうとする私を、春田くんは慌てて手を伸ばして制した。
私の手の甲に春田くんの掌が重なる。
「……?!」
「ごめん、言い方が悪かった。黒川さんからの御代は要らないってば。僕が好きで作っただけだし、美味しいって言ってくれただけで嬉しいし…」
春田くんはそう言って、私の手を包むようにギュッと握った。
「!?」
「僕が勝手に作ってきただけだし、黒川さんに食べて欲しかっただけだし…」
「あっ、わ、わかった。そっかそっか、ありがと!うん、…だから、手を離して?」
私はもう片方の手を春くんの手に重ねた。キュッと掴んで引き剥がす。
だが、オトコノコの手はビクともしない。
春くんの手はもう冷たい手ではなかった。
あたたかく、それでいて力強い。
「黒川さん…」
春くんは私の手を握りながら腰掛けていた柵を降りると、私の正面に立ってじっと見詰めた。
(ひゃあああ!!!心臓爆発する痛い痛い痛い痛い)
「は、春田くん?!な、何??」
「僕、私さんに話したかった事があるんだ」
「え?」
「私さんは覚えて居ないかも知れないけど…」
春くんは、私の手を握ったまま、真剣な眼差しでぽつりぽつりと話し始めた。
「もー、クロ子、ごめんな。その、」
「あははは、良いよ~!でもビックリしちゃった!友子ちゃんの彼氏が寛治くんだったなんて」
私にしがみついていた友子ちゃんを引き剥がして、寛治くんは苦笑いをしながら背負った。
「……普通、お姫様抱っことかじゃないの?」
「?なんで?おんぶして、膝の裏から友子の手を持つのが一番安定するし、お互いに負担がないぞ?これ、山岳救助とかでも使われる担ぎ方だけど」
あ、寛治くんは意外と合理主義だ。
「それにしても、友子ちゃんの彼氏とは……」
「はは、意外?」
「…いやっ、別にそうは思わないけど」
私は笑って、寛治くんの背中に凭れている友子ちゃんの頭を撫でた。
「友子ちゃんが幸せそうで嬉しい」
「友子の親友のクロ子に御墨付きを貰って俺も嬉しい♪」
寛治くんと二人、クスクスと笑い合う。
と、そこに春田くんが大きく手を振りながら私達に声をかけた。
「寛治、タクシー来たよ」
春田くんは、タクシーを待たせると、寛治くんと友子ちゃんを車内に導く。
「気を付けてね、今日は楽しかった。友子ちゃんをよろしくね」
「おう」
「じゃあね、寛治」
私と春田くんは車内に声を掛けると、少し後退りをして、走り出すタクシーを見送った。
他の面子は帰る組と二次会に行く組と別れて、今はもう店の前には誰も居なかった。
私と春田くんの二人だけ。
(このまま、バイバイなのかな)
恋心が死んでいるはずなのに、胸に寂しさが湧いた。
いや、てっきり友子ちゃんの彼氏は春田くんだと思っていたからさ?!
まさかのまさかじゃん!?
死んだ筈の恋心も、ゾンビになって復活するじゃん!?
帰りたくない。
春田くんと、もっと一緒にいたい。
私は、隣の春田くんに無意識のまま手を伸ばした。
「!!」
春田くんの血の気のない指に、私の指を絡めた。
春田くんは目を見開き固まっている。
「…っ、ほ、火照っちゃって!春田くんの手、相変わらず冷たくて気持ちいいね!」
私は、慌てて取り繕った。
「……黒川さん、この後どうする?」
春田くんは私の言葉には応えず、じっと射抜くように私の瞳を見詰めた。
春田くんの瞳はどこか神秘的で、心の中を見透かされているような気になる。
ドキ、と胸が大きく跳ねた。
「…えっ、と…」
「すぐ帰るのも味気無いし、……少し休んで行く?」
そう言って、繋いだ手をギュッと強く握り締めながら、どこかを指差した。
ラブホ街だった。
~~~~~
「あっはは、ウケる『ぎゃあああ』って。黒川さん、顔、すごい顔で、ふっ、はは」
「もぉぉー!笑いすぎーっ」
ラブホ街の先の線路沿いの公園で、春田くんはブランコの柵に腰を乗せながらケラケラと笑っている。
私はそのとなりで同じように腰掛けながら、顔を赤くしたまま口をヘの字に曲げていた。
(穴があったら入りたい…)
ラブホ街を指差した上に『休んで行こう』なんて言葉を掛けられ、年齢=彼氏居ない歴の処女としてはですね、エッチな知識だけは満載なんですよ、ええ。そんな女にそんな事を言ったら、勘違いして真っ赤になって動揺して変な声をあげるのなんて予定調和じゃないんですかね?!
それに、そんな私の反応見て、ウケてるけど、自分だってホテル街を指差してるって1テンポ遅れて気付いたよね?!
私の反応面白がっているけど、春田くんも『あっ、ヤバッ』って真っ赤になったの見逃さなかったからね?!
「公園があったから良いけど、び、ビックリするでしょ!急に……」
「うわぁ、私さんのエッチー、僕襲われちゃう」
「ちっ、違うもんんん!!」
私はペシンと春田くんの肩を叩いた。
叩かれて嬉しそうに笑う春田くんと、至近距離でそれを見る私。
手はまだ繋がったまま。
春田くんヘの恋心は死んだ筈なのに、今ドキドキと心臓が五月蝿い。血が体を巡って熱い。
汗ばんで滑ってきた。
恥ずかしくて死ぬ…。
「なんか熱くなって来ちゃった!」
私はわざとらしくそう言って、繋いだ手を外そうと絡んだ指をほどこうとする。
が、その度に春田くんの細くてひんやりとした指が、私の指を逃さぬように絡んだ。
「…っ」
私は心底困った顔で春田くんを見上げた。
ドキドキして爆発しちゃうよ?
繋いだ私の指が、身体が、どんどん熱を帯びていく。
あー、これはもう爆散コースですよ……。
春田くんはどこか悪戯っ子のような瞳で、クスクスと笑いながら、私の指に指を絡めて動きを封じてる。
「ちょっ、春田くん、その、手、離して…」
「私さんが繋いできたのに?」
「…っ、そ、そうだけど、手汗っ、かいてきちゃったからっ!」
私は正直に叫んだ。
どうせ、汗をかいてるのなんてバレてる。
春田くんと居たくて帰りたくなかったけど、今は逃げ出したいくらい恥ずかしい。
春田くんが友子ちゃんの彼氏じゃなくて安心したけど、フリーだとは限らない。
死んだ筈の恋心が、ゾンビのように甦り、でも怖気づいて棺桶の中に戻っていく。
繋いだ手から伝わってしまいそうで、私は怖かった。
「黒川さん、手を離しても逃げない?」
「えっ?」
それまでからかう様に笑っていた春くんが、手握りながら私の瞳を覗き込むようにじっと見詰めた。
整った顔立ちは、まるでモデルさんのように可愛らしい。春田くんの長い睫毛をぽかんと見上げながら、私は彼の言葉を反芻する。
逃げ出したいって思ってたのを見抜かれたのかな。
でも、なんだろう、どこかで…。
私は、うーん、と首を傾げて記憶を探る。
何か思い出しそう。何かが。
何かが頭に引っ掛かる。
「手を離すけど、走って行ったらダメだよ」
春田くんはそう言って、繋いだ手を離した。
私はどこか寂しさを感じながら、繋いでいた掌をもう片方で覆った。手汗を拭うも、思ったより濡れてはいなかった。
柔らかく湿った掌はポカポカと温かい。
「黒川さん、はい。これ」
春くんは、そういって鞄から小さな包みを取り出した。
細やかにラッピングされたそれを私の掌に乗せる。
「!!えっ!?」
「差し入れするよって言ったでしょ」
「えっ、えっ?!…ありがとう、…あの、開けてもいい?」
「どうぞ?」
「わー、なんだろ…あっ!」
私はピンクのリボンを解くと、小さな包みを開いた。
「…クッキー!」
「食べていいよ」
「わぁーい!いっただきまーす」
私は照れ隠しに子供っぽくはしゃぐと、中から1枚取り出してかじりついた。
サクサクとした触感と、バターの香り、はちみつの甘み。
「おいひい…」
モグモグと口に含みながら、私は感想を呟いた。程よく解れるサクサクの生地と素朴な味わいに自然と頬が緩む。
(あれ?これってもしかして手作り…?いやいや、そんなまさか)
「あの、春田くんこれって」
「僕作ったやつだから、喜んで貰えて嬉しい」
ゴクンと飲み込んだ私に、春くんははにかむように笑った。
「…春田くんスゴい!お菓子作れるなんて」
私のテンションがダダ上がりである。
好きな人の新しい一面と、わざわざ作ってくれた手間とか、凄く美味しくて普通に売ってたら買っちゃうような、癖になる味というか、何もかもが嬉しくて楽しくて、それだけで幸せ。
「久し振りに作って楽しかった」
「えー、そうなんだ?!春くんスイーツ男子なの??スゴいよー!美味しいもん!お店みたい!」
私はニコニコしながら、無意識の内に2枚目に手を伸ばすと、さっきとは違うチョコチップ入りの感触に、うへへと食いしん坊の子供のように笑った。
そんな私を、春田くんは目を細めながら笑っている。
「スイーツ男子…?そうなのかな、…でもバレンタインのお返しにクッキー作ると不評なんだよね。なんでだろ」
サラッと呟いた言葉に、私はチョコチップクッキーを食べようと大きく開いたまま固まる。
(ば、バレンタイン…。そうか、そうだよね。モテない筈が無いもんね)
心に影を落とした私には気付かぬまま、春田くんは言葉を重ねた。
「ホワイトデーのお返し、財布が大変な事になるから手作りで返したら、まぁ不評で。皆三倍返し狙いだから、あの時期キツイ……。男子からもあげれたら良いのに。あと、好きな子だけに返すとかさ……。だから、僕」
春くんの言葉が、グサッグサッと私の胸に連続で刺さる。
まだ何かを話しているけど、衝撃が強すぎてその後の言葉が耳から耳へとすり抜けていく。
(好きでもない子からのチョコって、逆に迷惑だったりするのか……。お返しが大変だから……。そっか、そっかー、私は勇気出なくて春田くんにあげたことがなかったけど、逆に良かったんだ)
心にぽっかりと穴が空いたような気分になって、さっきまで暖かな気持ちで美味しく食べていたのが嘘みたいに血の気が引いていった。
突然の男子の本音に、私は急に申し訳無いような気持ちになって、ゆっくりとクッキーを袋に戻した。
「あっ!ありがとう、クッキー作ってくれて…、あのっ、ご、ごめんね!材料費払うね!!いくら??」
「えっ?!いや?!ちょっと待って、そういう意味じゃなくて!」
ショルダーバッグから財布を取り出そうとする私を、春田くんは慌てて手を伸ばして制した。
私の手の甲に春田くんの掌が重なる。
「……?!」
「ごめん、言い方が悪かった。黒川さんからの御代は要らないってば。僕が好きで作っただけだし、美味しいって言ってくれただけで嬉しいし…」
春田くんはそう言って、私の手を包むようにギュッと握った。
「!?」
「僕が勝手に作ってきただけだし、黒川さんに食べて欲しかっただけだし…」
「あっ、わ、わかった。そっかそっか、ありがと!うん、…だから、手を離して?」
私はもう片方の手を春くんの手に重ねた。キュッと掴んで引き剥がす。
だが、オトコノコの手はビクともしない。
春くんの手はもう冷たい手ではなかった。
あたたかく、それでいて力強い。
「黒川さん…」
春くんは私の手を握りながら腰掛けていた柵を降りると、私の正面に立ってじっと見詰めた。
(ひゃあああ!!!心臓爆発する痛い痛い痛い痛い)
「は、春田くん?!な、何??」
「僕、私さんに話したかった事があるんだ」
「え?」
「私さんは覚えて居ないかも知れないけど…」
春くんは、私の手を握ったまま、真剣な眼差しでぽつりぽつりと話し始めた。
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