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第34話 ー未開の大陸ー
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海を越える旅は、ただの航海ではなかった。
常世の霧を抜けた瞬間、世界は音を変えた。白い靄に包まれた船団を、圧し掛かるような沈黙が支配する。鳥の声もなく、波の砕ける音すら鈍く沈んで聞こえる。まるで霧そのものが世界の音を飲み込んでいるかのようだった。
ー数日後ー
レイジは甲板に立ち、かすむ視界の奥に浮かぶ黒い陸影を睨んだ。
「……あれが、未開の大陸」
声に出した瞬間、胸の奥で鼓動が跳ねた。霧を越えるまでただの伝説だった場所が、いまは確かに眼前にある。
隣でセレーナが短く息を吐いた。
「気配が重すぎる……。魔王城よりも濃い。理そのものが歪んでいる」
彼女の青白い横顔には冷や汗が滲んでいる。冷徹な分析を口にしながらも、その声は微かに震えていた。
「でも、行くしかないよね」
無邪気に見せかけたリリィナの笑みは、逆に緊張の深さを物語っていた。彼女は双剣の柄に指を滑らせ、いつでも抜けるように身構える。
「兄様、怖いのは嫌いじゃないけど……この“違和感”は、正直背筋がゾクゾクする」
カリーネは遠眼鏡を覗き、唇を噛んだ。
「……海流が止まっている。波が進まず、押し返されている。あの陸の方から……まるで意思を持った圧力が押し寄せてるみたい」
影の王女が静かに視線を上げる。
「影が濃すぎる……。本来なら形があって影が生まれるはず。けれどここでは影が先にあり、後から形が寄せ集まっている。逆立ちした世界よ」
船団の後方では、王宮兵たちが整列していた。甲板を打つ鎧の音が一斉に重なり、硬直した士気の高さを示していた。
「魔王を討った英雄が共にいる!」
「恐れるな、ここも必ず征服できる!」
兵士たちは声を張り上げ、自らを鼓舞していた。だがその喉の奥には震えが潜んでいた。彼らの眼差しは霧に呑まれた陸影から逸らせず、笑う兵も拳を突き上げる兵も、その動きが硬直している。
レイジは剣帯を締め直し、深く息を吸った。潮の匂いが混じっているはずの風には、奇妙な甘さが漂っている。官能的で、同時に生臭い。喉を撫でられるようなその匂いは、彼に魔王との戦いを思い出させた。
(……魔王のさらに奥。世界の根に近づいている。ここはただの異国じゃない、欲望そのものの源流だ)
やがて、霧が裂けた。
船首が進む先に広がるのは、墨をぶちまけたような砂浜だった。波が引いた後の砂は黒光りし、ざらつきではなく繊維のように絡み合っている。まるで数億の細い舌が地面を覆っているかのように、船上から見ても蠢いていた。
「……気味が悪いな」
兵の一人が吐き出した瞬間、周囲が静まる。全員が同じことを思っていたのだ。
セレーナが短く呟いた。
「影の動きが……砂と一体になっている。上陸すれば、何かを奪われるでしょう」
だが逃げる選択肢はなかった。
士官が喉を張り裂けさせるように叫ぶ。
「第一梯団、上陸準備! 弓兵、幕壁を展開! 槍兵、森側に陣を!」
命令に従い、台船が降ろされ、梯子が波に揺れた。
レイジは振り返り、仲間たちを見た。
「行くぞ」
その声にセレーナが頷き、リリィナが剣を握り、カリーネと影の王女も無言で従う。五人は兵の先頭に立ち、砂浜へと第一歩を踏み出した。
――黒砂が沈む。
靴底に絡みつく感触は、ただの砂ではない。指のように細かい線が足首を舐め回し、形を覚えようと吸い付いてくる。
「歓迎が過ぎるわね」
セレーナは結界を足元に展開し、砂を押し返した。ひたり、と音を立てて退く砂の舌。
兵たちが次々と浜に降りる。規律正しい隊列が黒砂を踏みしめ、整然と広がった。旗手が王宮の紋章を掲げ、鼓手が太鼓を鳴らす。だが――。
風向きが変わった。森の奥から、鈴の音が重なって流れ込んでくる。涼やかで、耳に心地よいはずの音色が、皮膚の裏をぞわりと撫でた。
影の王女が鋭く叫ぶ。
「聞くな! それは音じゃない、“合図”だ!」
レイジが剣を抜いた瞬間、黒砂がうねり、兵の足首を捕らえた。
未開の大陸は、人間を迎え入れる気など、初めから持っていなかった。
最初の死は、あまりに静かであまりに唐突だった。
砂に足を取られた一人の兵士が、叫ぶ間もなく沈んだ。次の瞬間、砂浜の下から黒い茎のようなものが突き出し、彼の喉を貫いた。槍の穂先に吊るされた獲物のように身体が跳ね上がり、兵士の絶叫は血に濡れて途切れる。
「な、なんだっ……!?」
周囲の兵が駆け寄ろうとした瞬間、茎が何十本も一斉に伸び、列を成す兵たちを串刺しにした。鎧を貫き、肉を裂き、鮮血が砂に吸い込まれる。
砂は血を啜るたび、赤黒く脈打った。まるで“食べ物を味わっている”かのように。
「退け! 陣を崩すな!」
士官の怒声が響いたが、その声もすぐに悲鳴にかき消される。森の方角から白い粉が風に乗って舞い、兵士たちの顔や鎧に降りかかる。触れた粉は瞬時に皮膚へ溶け、甘い匂いを放ちながら脳を痺れさせた。
「……ふふ、あったかい……」
兵の一人が笑みを浮かべ、武器を手放して座り込む。そのまま全身の力を失い、砂に沈み込むと、黒砂が彼の体を包み込み、ゆっくりと飲み込んでいった。
「やめろ! しっかりしろ!」
隣の兵が必死に腕を掴むが、掴んだ手ごと引きずり込まれる。二人の姿は瞬く間に砂に呑まれ、残ったのは小さな隆起だけだった。
「結界を張れ!」
セレーナが詠唱を重ね、透明な障壁を展開する。粉は一時的に弾かれたが、視界の端ではすでに数十名の兵が笑顔のまま崩れ落ち、砂と一体化していく。
「……こんな……っ、まだ浜に降りて数分だぞ!」
カリーネの声は怒りと恐怖に震えていた。外交官としての彼女の冷静さは崩れ、ただの一人の女性としての感情が剥き出しになっている。
リリィナが必死に兵士の腕を掴んで引き戻す。
「目を開けて! 寝ちゃ駄目だよ! ここで眠ったらもう帰れないんだから!」
だが兵士の瞳はすでに焦点を失い、口から甘い吐息を漏らすだけだった。リリィナは歯を食いしばり、彼を抱きしめるようにして後退した。
その頭上で、再び鈴の音が重なり合う。
耳に心地よいはずの音色が、理性を一枚一枚剥がし取るように心を侵す。兵士たちの半数以上が剣を落とし、笑みを浮かべて膝をついた。
「……影が、歌っている……」
影の王女の低い声は震えていた。
「これは、この大陸そのものの“囁き”。生者を喰らい、欲望を餌にする声よ」
レイジは剣を振り抜き、迫る黒い茎を斬り払った。血ではなく粘液が飛び散り、肌に触れた瞬間、背筋をぞわりと震わせる快感が走る。
「っ……これは……!」
剣を握る指が一瞬緩みそうになる。だがレイジは歯を食いしばり、気力で耐えた。
その横で、兵の大群が崩壊していく。
上陸して間もない浜辺は、すでに血と砂の泥沼に変わっていた。数百の兵のうち、まだ立っているのは数十。わずか数分で9割が失われたのだ。
「撤退だ! これ以上は……!」
残った士官が叫ぶが、すでに撤退の余地はない。森の奥から、さらに巨大な影が姿を現していた。
セレーナが振り返り、レイジに言う。
「……これは、ただの入り口よ。この大陸そのものが、侵入者を“拒んでいる”。人間の兵など、最初から生き残れるはずがなかった」
レイジは血と砂にまみれた足を踏みしめ、叫んだ。
「ここから先は、俺たち五人で切り開くしかない! 生き残った兵は船へ戻れ! ――ここは、もう戦場じゃない。地獄だ!」
残った数十名の兵が必死に後退する。その背を、黒砂が次々と飲み込み、逃げられる者はさらに減っていく。
こうして、未開の大陸の最初の一歩は、血と死で塗りつぶされた。
浜辺は、もはや戦場ではなかった。
わずかに生き残った兵士たちが、血と粘液に塗れた砂の上に膝をつき、空ろな目で海を振り返っていた。数百いたはずの兵は、ほんの数十名にまで減っている。その大半も負傷し、鎧は砕け、剣は手から滑り落ち、残された者の多くが恐怖で口を閉ざしたまま震えていた。
「……ひどい」
カリーネは蒼白な顔で吐き出した。外交官として数々の戦場を見てきた彼女ですら、この光景は初めてだった。
「これでは軍など……紙屑と同じじゃない」
セレーナは深呼吸し、傷ついた兵を庇うように前に出た。
「とにかく、ここに簡易の拠点を築くしかない。防御結界を張り、負傷者を保護しなければ」
彼女は冷静に言ったが、その瞳の奥には焦りが揺らめいていた。
リリィナは妹らしい明るさを必死に装い、兵士の肩を抱き起こした。
「大丈夫、大丈夫だから……ほら、呼吸して! あたしたちがついてるから!」
しかし兵士は虚ろな笑みを浮かべ、砂に倒れ込むと二度と動かなかった。リリィナの腕に残るのは、冷えた体温だけだった。
「……うそ……だめだよ……」
彼女の声が震える。
レイジは剣を突き立て、声を張った。
「生き残った者は聞け! 今は恐怖に呑まれるな! ここで踏みとどまれなければ、戻る船すらない!」
その叫びに、兵の一部が顔を上げた。英雄の言葉だけが、まだ心を繋ぎ止めていた。
やがて、残った兵士たちが力を振り絞り、破片となった木材や残存の装備を積み上げて簡易の防壁を作り始めた。
セレーナが結界を重ね、影の王女が影の幕を展開する。二重三重の防御が、ようやく人間の営みの形を築き出す。
だが、大陸は静かにそれを見下ろしていた。
森の奥からは不気味な鈴の音が絶え間なく響き、黒砂は防壁の下で蠢き続ける。兵士たちの寝息が深くなるたび、砂は結界にじり寄り、まるで夢を食らおうとしているようだった。
「眠るな! 眠ったら終わりだ!」
レイジの声が夜のような空気に響く。
だが負傷した兵士たちの多くは疲労に抗えず、瞼を閉じた。次の瞬間、夢の中で笑顔を浮かべたまま、砂に沈み始める。仲間の叫び声が拠点の中に木霊する。
「……やはり、これは“人間のための大地”じゃない」
影の王女の言葉は冷たく、それでいて確信に満ちていた。
「ここは生者を拒絶し、欲望だけを餌にする土地。魔王の治めていた均衡が失われた今、この地こそが本性をさらけ出したのだ」
セレーナが唇を結び、リリィナの肩を抱く。
「私たち五人で、この地を切り開くしかない。兵士を犠牲にしたくないけれど……この大陸では彼らは生き残れない」
カリーネは拳を握り、震えながらも頷いた。
「……それでも、進むしかない。ここに留まれば、じわじわと全滅するだけ」
レイジは闇に沈む森を睨みつけ、低く呟いた。
「魔王の先にあるもの……。未開の大陸は、これほどまでに人を拒むのか。なら――俺たちがその意思を叩き折る」
黒砂が防壁に打ち付けられる音が、夜の太鼓のように鳴り響いた。
そのリズムはまるで、大陸そのものが兵士たちの命を数えているかのようだった。
夜が訪れると、大陸はさらに牙を剥いた。
兵士たちが必死に築いた防壁は、森から吹き込む瘴気と黒砂の脈動に浸食され、次々と崩れ落ちた。杭を打ち直す兵の腕が震え、木槌を振り下ろすたびに手の皮膚から黒い痣が広がっていく。
「やめろ! もう触るな!」
レイジが叫んだときには、兵の手はすでに腐葉のように崩れ、指ごと砂に呑まれていた。兵は絶叫をあげるが、その声はすぐに砂に吸い込まれ、静寂だけが残る。
「……拠点なんて、築ける場所じゃない」
セレーナは結界の維持をしながら低く吐き捨てた。魔術の光がゆらめくたび、黒砂は波のように退くが、次の瞬間にはより強い圧力で押し返してくる。
「この地は人間を“許していない”。存在そのものを拒んでいる」
リリィナが兵士の背を支えながら叫ぶ。
「じゃあどうすんの!? ここに残ったら、全員喰われちゃうんだよ!」
彼女の声には珍しく恐怖が混じっていた。無邪気に挑発する余裕は、もはやどこにもない。
カリーネは兵士たちの顔を見渡し、唇を噛んだ。
「外交も和平も、この大地の前では意味を失う……。文明を受け入れる気が、初めからないんだわ」
その声には怒りと無力感が入り混じり、外交官としての誇りを否定される痛みが滲んでいた。
影の王女は沈黙を保ったまま、影の幕を展開し続けていた。だがその瞳には、冷徹な観察と共に、わずかな哀しみが揺らめいている。
「……影が語る。この大陸は“孕ませの地”。踏み入る者すべてを抱き潰し、影に返す場所。だから兵士たちは抗えず、女神の夢を見るように笑いながら死んでいくの」
その言葉を裏付けるように、防壁の内側から兵の悲鳴があがった。眠りについた兵士の胸が膨れ、そこから黒砂の花が咲き誇ったのだ。花弁は粘液を滴らせ、周囲に甘い香りを撒き散らす。兵たちはその香りに酔い、剣を落とし、笑顔のまま花の中に沈んでいった。
「もう無理だ……これ以上は……!」
士官が膝をつき、涙を流しながら叫んだ。兵を率いてきた彼の顔は、もはや絶望に塗りつぶされていた。
レイジは剣を高く掲げ、声を張り上げた。
「聞け! ここはもう兵の居場所じゃない! 生き残った者は船に戻れ! ここから先は俺たち五人で切り開く!」
その宣言に、兵たちは顔を上げた。英雄の言葉が、せめて退路を選ぶ勇気を与えたのだ。数少ない生存者たちは互いに肩を貸し合い、海の方角へと後退を始める。砂はなお彼らを追い、何人かは道半ばで呑まれたが、それでも数名は必死に波打ち際へ逃げ帰った。
残されたのは、レイジたち五人だけだった。
黒砂に囲まれ、森の奥からは絶え間ない鈴の音。空には赤黒い月が浮かび、光すら淫らな匂いを帯びている。
セレーナが息を整え、レイジを見つめた。
「ここからが本当の始まりよ。兵士では無理だった……だから、私たちが進むしかない」
リリィナは剣を握りしめ、無理やり笑った。
「へへ、地獄の中で兄様と一緒なら……あたしは平気だよ」
カリーネは唇を震わせつつも、真っ直ぐな瞳をレイジに向ける。
「この地の恐怖を……必ず伝えるわ。だから絶対に負けないで」
影の王女は長い髪をかき上げ、月を仰いだ。
「五つの天凶は、この大陸の奥に眠っている。いま聞こえている鈴の音は、その“予兆”にすぎない。だが、進めば必ず出会うことになる」
レイジは剣を掲げ、仲間たちを見渡した。
「……いいさ。未開の大陸が人を拒むなら、俺たちがその意思ごとぶち破ってやる。五つの天凶? この地獄の先に待つなら、まとめて相手にしてやる!」
彼の声は黒砂を震わせ、森の鈴音を一瞬掻き消した。
だがその奥から、新たなざわめきが響く。幻惑と淫夢を孕んだ、蝶の羽ばたきのような音が――確かに。
こうして、未開の大陸での戦いの幕が上がった。
次なる脅威――幻淫の蝶姫が、彼らを待ち構えていることを誰も知らぬままに。
常世の霧を抜けた瞬間、世界は音を変えた。白い靄に包まれた船団を、圧し掛かるような沈黙が支配する。鳥の声もなく、波の砕ける音すら鈍く沈んで聞こえる。まるで霧そのものが世界の音を飲み込んでいるかのようだった。
ー数日後ー
レイジは甲板に立ち、かすむ視界の奥に浮かぶ黒い陸影を睨んだ。
「……あれが、未開の大陸」
声に出した瞬間、胸の奥で鼓動が跳ねた。霧を越えるまでただの伝説だった場所が、いまは確かに眼前にある。
隣でセレーナが短く息を吐いた。
「気配が重すぎる……。魔王城よりも濃い。理そのものが歪んでいる」
彼女の青白い横顔には冷や汗が滲んでいる。冷徹な分析を口にしながらも、その声は微かに震えていた。
「でも、行くしかないよね」
無邪気に見せかけたリリィナの笑みは、逆に緊張の深さを物語っていた。彼女は双剣の柄に指を滑らせ、いつでも抜けるように身構える。
「兄様、怖いのは嫌いじゃないけど……この“違和感”は、正直背筋がゾクゾクする」
カリーネは遠眼鏡を覗き、唇を噛んだ。
「……海流が止まっている。波が進まず、押し返されている。あの陸の方から……まるで意思を持った圧力が押し寄せてるみたい」
影の王女が静かに視線を上げる。
「影が濃すぎる……。本来なら形があって影が生まれるはず。けれどここでは影が先にあり、後から形が寄せ集まっている。逆立ちした世界よ」
船団の後方では、王宮兵たちが整列していた。甲板を打つ鎧の音が一斉に重なり、硬直した士気の高さを示していた。
「魔王を討った英雄が共にいる!」
「恐れるな、ここも必ず征服できる!」
兵士たちは声を張り上げ、自らを鼓舞していた。だがその喉の奥には震えが潜んでいた。彼らの眼差しは霧に呑まれた陸影から逸らせず、笑う兵も拳を突き上げる兵も、その動きが硬直している。
レイジは剣帯を締め直し、深く息を吸った。潮の匂いが混じっているはずの風には、奇妙な甘さが漂っている。官能的で、同時に生臭い。喉を撫でられるようなその匂いは、彼に魔王との戦いを思い出させた。
(……魔王のさらに奥。世界の根に近づいている。ここはただの異国じゃない、欲望そのものの源流だ)
やがて、霧が裂けた。
船首が進む先に広がるのは、墨をぶちまけたような砂浜だった。波が引いた後の砂は黒光りし、ざらつきではなく繊維のように絡み合っている。まるで数億の細い舌が地面を覆っているかのように、船上から見ても蠢いていた。
「……気味が悪いな」
兵の一人が吐き出した瞬間、周囲が静まる。全員が同じことを思っていたのだ。
セレーナが短く呟いた。
「影の動きが……砂と一体になっている。上陸すれば、何かを奪われるでしょう」
だが逃げる選択肢はなかった。
士官が喉を張り裂けさせるように叫ぶ。
「第一梯団、上陸準備! 弓兵、幕壁を展開! 槍兵、森側に陣を!」
命令に従い、台船が降ろされ、梯子が波に揺れた。
レイジは振り返り、仲間たちを見た。
「行くぞ」
その声にセレーナが頷き、リリィナが剣を握り、カリーネと影の王女も無言で従う。五人は兵の先頭に立ち、砂浜へと第一歩を踏み出した。
――黒砂が沈む。
靴底に絡みつく感触は、ただの砂ではない。指のように細かい線が足首を舐め回し、形を覚えようと吸い付いてくる。
「歓迎が過ぎるわね」
セレーナは結界を足元に展開し、砂を押し返した。ひたり、と音を立てて退く砂の舌。
兵たちが次々と浜に降りる。規律正しい隊列が黒砂を踏みしめ、整然と広がった。旗手が王宮の紋章を掲げ、鼓手が太鼓を鳴らす。だが――。
風向きが変わった。森の奥から、鈴の音が重なって流れ込んでくる。涼やかで、耳に心地よいはずの音色が、皮膚の裏をぞわりと撫でた。
影の王女が鋭く叫ぶ。
「聞くな! それは音じゃない、“合図”だ!」
レイジが剣を抜いた瞬間、黒砂がうねり、兵の足首を捕らえた。
未開の大陸は、人間を迎え入れる気など、初めから持っていなかった。
最初の死は、あまりに静かであまりに唐突だった。
砂に足を取られた一人の兵士が、叫ぶ間もなく沈んだ。次の瞬間、砂浜の下から黒い茎のようなものが突き出し、彼の喉を貫いた。槍の穂先に吊るされた獲物のように身体が跳ね上がり、兵士の絶叫は血に濡れて途切れる。
「な、なんだっ……!?」
周囲の兵が駆け寄ろうとした瞬間、茎が何十本も一斉に伸び、列を成す兵たちを串刺しにした。鎧を貫き、肉を裂き、鮮血が砂に吸い込まれる。
砂は血を啜るたび、赤黒く脈打った。まるで“食べ物を味わっている”かのように。
「退け! 陣を崩すな!」
士官の怒声が響いたが、その声もすぐに悲鳴にかき消される。森の方角から白い粉が風に乗って舞い、兵士たちの顔や鎧に降りかかる。触れた粉は瞬時に皮膚へ溶け、甘い匂いを放ちながら脳を痺れさせた。
「……ふふ、あったかい……」
兵の一人が笑みを浮かべ、武器を手放して座り込む。そのまま全身の力を失い、砂に沈み込むと、黒砂が彼の体を包み込み、ゆっくりと飲み込んでいった。
「やめろ! しっかりしろ!」
隣の兵が必死に腕を掴むが、掴んだ手ごと引きずり込まれる。二人の姿は瞬く間に砂に呑まれ、残ったのは小さな隆起だけだった。
「結界を張れ!」
セレーナが詠唱を重ね、透明な障壁を展開する。粉は一時的に弾かれたが、視界の端ではすでに数十名の兵が笑顔のまま崩れ落ち、砂と一体化していく。
「……こんな……っ、まだ浜に降りて数分だぞ!」
カリーネの声は怒りと恐怖に震えていた。外交官としての彼女の冷静さは崩れ、ただの一人の女性としての感情が剥き出しになっている。
リリィナが必死に兵士の腕を掴んで引き戻す。
「目を開けて! 寝ちゃ駄目だよ! ここで眠ったらもう帰れないんだから!」
だが兵士の瞳はすでに焦点を失い、口から甘い吐息を漏らすだけだった。リリィナは歯を食いしばり、彼を抱きしめるようにして後退した。
その頭上で、再び鈴の音が重なり合う。
耳に心地よいはずの音色が、理性を一枚一枚剥がし取るように心を侵す。兵士たちの半数以上が剣を落とし、笑みを浮かべて膝をついた。
「……影が、歌っている……」
影の王女の低い声は震えていた。
「これは、この大陸そのものの“囁き”。生者を喰らい、欲望を餌にする声よ」
レイジは剣を振り抜き、迫る黒い茎を斬り払った。血ではなく粘液が飛び散り、肌に触れた瞬間、背筋をぞわりと震わせる快感が走る。
「っ……これは……!」
剣を握る指が一瞬緩みそうになる。だがレイジは歯を食いしばり、気力で耐えた。
その横で、兵の大群が崩壊していく。
上陸して間もない浜辺は、すでに血と砂の泥沼に変わっていた。数百の兵のうち、まだ立っているのは数十。わずか数分で9割が失われたのだ。
「撤退だ! これ以上は……!」
残った士官が叫ぶが、すでに撤退の余地はない。森の奥から、さらに巨大な影が姿を現していた。
セレーナが振り返り、レイジに言う。
「……これは、ただの入り口よ。この大陸そのものが、侵入者を“拒んでいる”。人間の兵など、最初から生き残れるはずがなかった」
レイジは血と砂にまみれた足を踏みしめ、叫んだ。
「ここから先は、俺たち五人で切り開くしかない! 生き残った兵は船へ戻れ! ――ここは、もう戦場じゃない。地獄だ!」
残った数十名の兵が必死に後退する。その背を、黒砂が次々と飲み込み、逃げられる者はさらに減っていく。
こうして、未開の大陸の最初の一歩は、血と死で塗りつぶされた。
浜辺は、もはや戦場ではなかった。
わずかに生き残った兵士たちが、血と粘液に塗れた砂の上に膝をつき、空ろな目で海を振り返っていた。数百いたはずの兵は、ほんの数十名にまで減っている。その大半も負傷し、鎧は砕け、剣は手から滑り落ち、残された者の多くが恐怖で口を閉ざしたまま震えていた。
「……ひどい」
カリーネは蒼白な顔で吐き出した。外交官として数々の戦場を見てきた彼女ですら、この光景は初めてだった。
「これでは軍など……紙屑と同じじゃない」
セレーナは深呼吸し、傷ついた兵を庇うように前に出た。
「とにかく、ここに簡易の拠点を築くしかない。防御結界を張り、負傷者を保護しなければ」
彼女は冷静に言ったが、その瞳の奥には焦りが揺らめいていた。
リリィナは妹らしい明るさを必死に装い、兵士の肩を抱き起こした。
「大丈夫、大丈夫だから……ほら、呼吸して! あたしたちがついてるから!」
しかし兵士は虚ろな笑みを浮かべ、砂に倒れ込むと二度と動かなかった。リリィナの腕に残るのは、冷えた体温だけだった。
「……うそ……だめだよ……」
彼女の声が震える。
レイジは剣を突き立て、声を張った。
「生き残った者は聞け! 今は恐怖に呑まれるな! ここで踏みとどまれなければ、戻る船すらない!」
その叫びに、兵の一部が顔を上げた。英雄の言葉だけが、まだ心を繋ぎ止めていた。
やがて、残った兵士たちが力を振り絞り、破片となった木材や残存の装備を積み上げて簡易の防壁を作り始めた。
セレーナが結界を重ね、影の王女が影の幕を展開する。二重三重の防御が、ようやく人間の営みの形を築き出す。
だが、大陸は静かにそれを見下ろしていた。
森の奥からは不気味な鈴の音が絶え間なく響き、黒砂は防壁の下で蠢き続ける。兵士たちの寝息が深くなるたび、砂は結界にじり寄り、まるで夢を食らおうとしているようだった。
「眠るな! 眠ったら終わりだ!」
レイジの声が夜のような空気に響く。
だが負傷した兵士たちの多くは疲労に抗えず、瞼を閉じた。次の瞬間、夢の中で笑顔を浮かべたまま、砂に沈み始める。仲間の叫び声が拠点の中に木霊する。
「……やはり、これは“人間のための大地”じゃない」
影の王女の言葉は冷たく、それでいて確信に満ちていた。
「ここは生者を拒絶し、欲望だけを餌にする土地。魔王の治めていた均衡が失われた今、この地こそが本性をさらけ出したのだ」
セレーナが唇を結び、リリィナの肩を抱く。
「私たち五人で、この地を切り開くしかない。兵士を犠牲にしたくないけれど……この大陸では彼らは生き残れない」
カリーネは拳を握り、震えながらも頷いた。
「……それでも、進むしかない。ここに留まれば、じわじわと全滅するだけ」
レイジは闇に沈む森を睨みつけ、低く呟いた。
「魔王の先にあるもの……。未開の大陸は、これほどまでに人を拒むのか。なら――俺たちがその意思を叩き折る」
黒砂が防壁に打ち付けられる音が、夜の太鼓のように鳴り響いた。
そのリズムはまるで、大陸そのものが兵士たちの命を数えているかのようだった。
夜が訪れると、大陸はさらに牙を剥いた。
兵士たちが必死に築いた防壁は、森から吹き込む瘴気と黒砂の脈動に浸食され、次々と崩れ落ちた。杭を打ち直す兵の腕が震え、木槌を振り下ろすたびに手の皮膚から黒い痣が広がっていく。
「やめろ! もう触るな!」
レイジが叫んだときには、兵の手はすでに腐葉のように崩れ、指ごと砂に呑まれていた。兵は絶叫をあげるが、その声はすぐに砂に吸い込まれ、静寂だけが残る。
「……拠点なんて、築ける場所じゃない」
セレーナは結界の維持をしながら低く吐き捨てた。魔術の光がゆらめくたび、黒砂は波のように退くが、次の瞬間にはより強い圧力で押し返してくる。
「この地は人間を“許していない”。存在そのものを拒んでいる」
リリィナが兵士の背を支えながら叫ぶ。
「じゃあどうすんの!? ここに残ったら、全員喰われちゃうんだよ!」
彼女の声には珍しく恐怖が混じっていた。無邪気に挑発する余裕は、もはやどこにもない。
カリーネは兵士たちの顔を見渡し、唇を噛んだ。
「外交も和平も、この大地の前では意味を失う……。文明を受け入れる気が、初めからないんだわ」
その声には怒りと無力感が入り混じり、外交官としての誇りを否定される痛みが滲んでいた。
影の王女は沈黙を保ったまま、影の幕を展開し続けていた。だがその瞳には、冷徹な観察と共に、わずかな哀しみが揺らめいている。
「……影が語る。この大陸は“孕ませの地”。踏み入る者すべてを抱き潰し、影に返す場所。だから兵士たちは抗えず、女神の夢を見るように笑いながら死んでいくの」
その言葉を裏付けるように、防壁の内側から兵の悲鳴があがった。眠りについた兵士の胸が膨れ、そこから黒砂の花が咲き誇ったのだ。花弁は粘液を滴らせ、周囲に甘い香りを撒き散らす。兵たちはその香りに酔い、剣を落とし、笑顔のまま花の中に沈んでいった。
「もう無理だ……これ以上は……!」
士官が膝をつき、涙を流しながら叫んだ。兵を率いてきた彼の顔は、もはや絶望に塗りつぶされていた。
レイジは剣を高く掲げ、声を張り上げた。
「聞け! ここはもう兵の居場所じゃない! 生き残った者は船に戻れ! ここから先は俺たち五人で切り開く!」
その宣言に、兵たちは顔を上げた。英雄の言葉が、せめて退路を選ぶ勇気を与えたのだ。数少ない生存者たちは互いに肩を貸し合い、海の方角へと後退を始める。砂はなお彼らを追い、何人かは道半ばで呑まれたが、それでも数名は必死に波打ち際へ逃げ帰った。
残されたのは、レイジたち五人だけだった。
黒砂に囲まれ、森の奥からは絶え間ない鈴の音。空には赤黒い月が浮かび、光すら淫らな匂いを帯びている。
セレーナが息を整え、レイジを見つめた。
「ここからが本当の始まりよ。兵士では無理だった……だから、私たちが進むしかない」
リリィナは剣を握りしめ、無理やり笑った。
「へへ、地獄の中で兄様と一緒なら……あたしは平気だよ」
カリーネは唇を震わせつつも、真っ直ぐな瞳をレイジに向ける。
「この地の恐怖を……必ず伝えるわ。だから絶対に負けないで」
影の王女は長い髪をかき上げ、月を仰いだ。
「五つの天凶は、この大陸の奥に眠っている。いま聞こえている鈴の音は、その“予兆”にすぎない。だが、進めば必ず出会うことになる」
レイジは剣を掲げ、仲間たちを見渡した。
「……いいさ。未開の大陸が人を拒むなら、俺たちがその意思ごとぶち破ってやる。五つの天凶? この地獄の先に待つなら、まとめて相手にしてやる!」
彼の声は黒砂を震わせ、森の鈴音を一瞬掻き消した。
だがその奥から、新たなざわめきが響く。幻惑と淫夢を孕んだ、蝶の羽ばたきのような音が――確かに。
こうして、未開の大陸での戦いの幕が上がった。
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