オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第33話 ー均衡の崩壊と新たな影ー ~人の理を持たぬ5つの天凶~

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 魔王の絶叫が大広間から消え、重苦しい静寂が訪れた。
 その身体は床に崩れ落ち、艶やかな肢体を震わせながらも、もはや力を振るうことはできなかった。
 レイジは剣を下ろし、荒い呼吸を整える。耳に残るのは仲間たちの吐息と、魔王が最後に漏らした言葉――「五つの天凶」。

 セレーナが膝をつき、魔王の横顔を見下ろした。
 「……不思議ね。敗北の顔なのに、恐怖や悔しさよりも……安らぎが見える」
 その言葉にリリィナが首をかしげる。
 「うん、あたしもそう思う。まるで……“これで役目が終わった”って顔」

 影の王女が瞳を細め、低く呟いた。
 「……彼女は“均衡の番人”だったのだろう。支配者ではなく、この世界をひとつの形に保つための存在」

 その瞬間、大広間の空気が震えた。
 崩れた天井の向こうに、血のように赤い月が現れる。
 月は禍々しい光を放ち、城全体を覆う瘴気が膨張していく。
 セレーナが結界を張り、リリィナが悲鳴を上げた。
 「な、なにこれっ!? 空気が変になってる!」

 カリーネが苦い顔で言う。
 「魔王が押さえ込んでいた力が解き放たれたのよ……。この瘴気、どこまで広がるのかしら……」

 レイジは剣を握り直し、必死に周囲を見渡す。
 だが瘴気は止まる気配なく、逆に地面を震わせながら黒い亀裂を広げていった。

 その裂け目の奥から――声がした。
 いや、声というより、世界の底から響く呻き。
 「……喰ラワセロ……」
 「……快楽デ染メヨ……」

 仲間たちが震える。
 その声には、明確な形はなかった。だが、異様に生々しい官能が滲んでいた。
 耳に届くたび、背筋が凍り、同時に熱が腹の奥に灯るような感覚。

 魔王が最後に漏らした声が、頭の中で蘇る。
 ――「未開の大陸」「人型ではない化け物」「五つの天凶」。

 レイジは唇を噛み締めた。
 (魔王を倒したことで、均衡が壊れた……。その先に眠っていた存在が……)

 その時、魔王の唇がわずかに動いた。
 「……遅かれ早かれ……彼らは……目覚めていた……。人の形を持たぬ……五つの凶災……」

 紅い瞳が最後にレイジを映し、すっと閉じられる。
 完全なる沈黙。魔王は、役目を終えたのだ。

 レイジは深く息を吐き、剣を握る手に力を込めた。
 「……いいさ。均衡が崩れたなら、俺たちが新しい均衡を作る。どんな化け物が出てこようが……俺が全部叩き斬ってやる!」

 その宣言に、仲間たちの瞳が再び輝きを取り戻した。
 戦いは終わったのではない。今ようやく、新たな戦いが始まったのだ。

 魔王の死から数刻後、王宮には混乱が押し寄せていた。
 倒れた魔王の気配が消えると同時に、世界を覆っていた均衡が瓦解し、各地の結界や防護術式が軒並み弱まっていったのだ。

 「南部の街から報告です! 瘴気の濃度が急激に上昇し、魔物の出現率が……!」
 「北の防壁も崩壊しています! 今まで現れなかった異形が街道に――!」

 王宮の広間では、次々と飛び込む報告に大臣たちが顔を青ざめさせていた。
 魔王という脅威が消えたことは人々にとって歓喜であるはずだった。だが、同時に彼女が「封じていた何か」も解き放たれ、世界は混沌に揺らぎ始めていた。

 「……やはり魔王は“支配者”ではなく“均衡の楔”だったのですね」
 静かに告げたのはセレーナだった。
 彼女の言葉に、集まった王侯や学者たちは重い沈黙で答えるしかなかった。

 リリィナは苛立たしげに手を振る。
 「じゃあさ、あたしたち……世界を救ったんじゃなくて、余計にヤバいものを呼び起こしちゃったってこと?」
 「……言葉を選ばなければ、そうね」
 セレーナは苦々しく認めた。

 その時、影の王女がふと視線を遠くへ向けた。
 「……潮流が変わったわ。海の向こうから、得体の知れない脈動が届いている」
 彼女の声は冷静だが、微かに震えていた。

 「海の……向こう?」
 レイジが問うと、王女は頷いた。
 「この世界の地図には記されていない。だが私の“影”は常に揺らぎを感じていた。魔王が均衡を保っている間は封じられていたけれど……今、壁が消えた」

 レイジは黙り込み、魔王の最期の言葉を思い出す。
 ――未開の大陸。人型ではない化け物。五つの天凶。

 そのとき、会議の場に現れたのは王宮付きの魔導師長だった。
 「王よ! 観測塔が……未知の“波動”を捕らえました。東方の海の向こう、常世の霧の彼方から……強大な存在が目覚めつつあります!」

 ざわめきが広間を覆った。
 王は蒼白になりながら椅子に縋りつき、声を絞り出す。
 「ま、魔王の死で……新たな怪物が……?」

 魔導師長は頷く。
 「はい。観測記録には……“人ではない”としか表せぬ形。すでにこちらへ干渉を始めています」

 セレーナの顔が強張った。
 「……五つの天凶。その存在が、現実のものとなりつつある」

 リリィナは唇を噛み、震える拳を握る。
 「せっかく魔王を倒したのに……今度は人間ですらない化け物たち? 冗談じゃない……!」

 レイジは皆の視線を受けながら、強く言い放った。
 「……俺たちが魔王を倒した。それで均衡が崩れたのなら、責任を取るのも俺たちだ。五つの天凶? 上等だ。必ずぶっ倒す!」

 広間に力強い声が響き、重苦しい空気をわずかに揺るがした。
 だがその瞬間、窓の外に赤黒い雷光が走る。
 誰もが直感した。
 ――これは始まりに過ぎない。

 王宮に届く報告は止むことがなかった。
 「西方の平原に巨大な裂け目が出現! 中から未知の魔物が湧き出しています!」
 「交易都市バラッドが、瘴気に覆われて壊滅寸前!」
 「港湾都市では海が赤黒く濁り、船が次々と沈没を――!」

 王や大臣たちは顔を見合わせ、恐怖に震えていた。
 魔王の死がもたらした均衡の崩壊は、ただの象徴ではない。現実として、国と人々の暮らしを根底から破壊し始めていた。

 「……このままでは人類は持ちません」
 セレーナの冷静な声が、広間を貫いた。
 「各地の異変は一時的なものではなく、拡大し続けています。魔王が押さえていた“扉”が開かれたのです」

 リリィナが腕を組み、苛立たしげに吐き出す。
 「つまり……あたしたちが引き金を引いたんだよね。でも、それなら……最後まで責任とるしかない!」

 影の王女が口を開く。
 「海の向こう、“常世の霧”の彼方に……揺らぐ影が見える。そこに眠っているのは、人の形を持たぬ存在たち。五つの凶災――天凶だろう」

 「未開の大陸……」
 レイジが呟いた瞬間、胸の奥に強烈な予感が走った。
 そこにこそ、魔王が恐れていたものがある。彼女の敗北が意味するものは、その解放にほかならないのだ。

 その時、会議に駆け込んできた兵士が叫んだ。
 「報告! 南海に巨大な渦潮が発生! その中心から……“人ではない影”が姿を見せ始めています!」
 兵士の顔は青ざめ、声は震えていた。

 大臣のひとりが震える声で言った。
 「馬鹿な……海の向こうは霧に覆われ、誰一人越えられなかったはず……!」

 セレーナが静かに首を振る。
 「霧は均衡の産物だったのでしょう。魔王が消えた今、その壁も消えた」

 リリィナが拳を握り、レイジを見つめた。
 「兄様……。行くんだよね? その未開の大陸に」

 レイジは短く息を吐き、仲間たちを見渡した。セレーナの冷ややかな眼差しも、リリィナの熱い瞳も、カリーネの不安げな視線も、影の王女の静かな覚悟も、すべてを胸に刻む。

 「……ああ。魔王を倒して終わりじゃない。ここからが本当の戦いだ。未開の大陸に渡り、五つの天凶を倒す。それが――俺たちの“在り様”だ!」

 その宣言に広間がざわめき、大臣や兵士たちの表情にわずかな希望が宿った。
 人の理解を超える脅威に怯えながらも、誰もが勇者の言葉を信じたいと願っていた。

 窓の外には、赤黒い雷光が再び走った。
 遠い海の彼方で、何かが蠢いている。
 その影は、これまでのどんな魔物とも違う、“人の形を持たぬ”異形の気配だった。

 赤黒い雷光が大地を裂き、遠い海の彼方から轟音が響く。
 王宮の窓から見える空は、不吉な霧に覆われ、昼であるはずなのに闇夜のように重く垂れ込めていた。
 人々は膝をつき、祈りを捧げながらも恐怖に震えている。

 そんな中、セレーナが低く言った。
 「……魔王が消えたことで、均衡が破られた。抑えられていた力が、海の向こうから押し寄せている」
 「やっぱり……来るんだね。五つの天凶が」
 リリィナの言葉は震えていたが、瞳の奥は燃えていた。

 影の王女が歩み出て、冷ややかな声を放った。
 「私は“影”を通じて見た。そこには、人ではないものが蠢いていた。異形の女、獣、光と影の化身……。その全てが、淫と欲を根源としている」

 「五つの天凶……」
 カリーネが囁くと、その名は会議の場に重く落ちた。

 王宮の壁に掛けられた古文書が、突如として淡く光を帯びた。
 セレーナがすぐさま駆け寄り、符を読み取る。
 「これは……禁書に記されていた伝承……?」

 そこには、血で染められたような筆致でこう記されていた。

 ――魔王を斃したのち、均衡は失われる。
 ――その先に顕現するは、人の理を持たぬ五つの凶災。
 ――淫蠱母、幻淫の蝶姫、絶対肢体レキナ、終淫核メギア、原初の娼王。

 セレーナが言葉をなぞると同時に、広間全体が震えた。
 「っ……名前が呼ばれただけで、この圧……!」
 リリィナが思わず耳を塞ぐ。脳裏に直接、淫靡な囁きが流れ込んできた。

 影の王女が吐息を漏らす。
 「……奴らは“存在”そのものが淫夢。抗えば狂い、呑まれれば世界ごと繁殖させられる。魔王でさえ……それを恐れて均衡を守っていたのだ」

 レイジは拳を握り締めた。
 「魔王は……俺たちに託したんだな。奴らを止める力を」
 彼の胸に、戦慄と同時に熱が宿る。

 「五つの天凶……。魔王を超える存在かもしれない。でも……」
 レイジは剣を掲げ、声を張り上げた。
 「俺たちは退かない! 淫も欲も、この世界の在り様ごと抱えて……必ず叩き斬る!」

 その宣言に、セレーナは静かに微笑み、リリィナは小悪魔のように笑い、カリーネは深く頷き、影の王女は冷ややかな光を宿した瞳を細めた。

 窓の外、赤黒い雷光が再び海の彼方を照らす。
 そこに、影のような巨躯が蠢くのが見えた。まだ遠く、輪郭も曖昧だ。だが確かに“何か”が存在していた。

 五つの天凶――。
 その脅威は、魔王との戦いをも凌駕する新たな戦場へと、レイジたちを導いていく。

 こうして、均衡の崩壊は終焉ではなく、未開の大陸への序章となったのだった。
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