オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第50話 ー激戦、絶対肢体レキナー

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 黒い大地の裂け目で、絶対肢体レキナが立ち上がった。
 人型を基調にしながら、背と脇腹から幾十もの手脚が芽吹き、伸び、絡み、またほどけて別の形へと組み替わる。女の腕は刃に、男の脚は鞭に、獣の背は甲冑に――その全てが一つの意志に従うようにうねり、見る者の「身体の常識」を根本から否定してきた。

 「来るぞ」
 レイジが共鳴剣を肩に構える。蒼い刃は微かに唸り、四人の胸奥の鼓動と同期していた。
 セレーナは紅黒の衣の襟元に指を添え、呼吸を一定に整える。「支配の波はさっきより強い。視線を合わせ過ぎないこと、触れられた箇所から侵食されるわ」
 「交渉の余地はない。言葉は餌にされる」カリーネは顎を引き、足場を素早く確認した。
 影の女王は漆黒のヴェールを揺らし、「合図は私が出す。三手で入って、二手で抜ける。長居は禁物だ」と短く告げる。

 レキナの輪郭が一瞬だけ静止した。次の瞬間、地面から無数の「肢」が芽吹き、四人の足首と膝を狙って走る。
 「下!」
 レイジが踏み込み、蒼刃で一線を薙ぐ。切断された肢は肉片ではなく、半透明の“神経の束”のような線となって霧散したが、その残滓が四人の装束に触れた途端、鎧の内側で筋肉が痙攣するほどの拒否反応が走る。

 《貸セ。使ワセロ。統ベヨウ》
 レキナの声は文字では記せない震えで脳の深部を叩いた。言葉というより、関節の噛み合わせを逆向きにする命令に近い。
 セレーナの瞳が鋭く細くなる。「“運動命令の上書き”。意識と思考の間に割り込んでくるタイプ……!」
 「なら、意識を分散させる」レイジが叫ぶ。「痛みも恐れも、四人で割る!」
 《了解》
 共鳴剣が低く応え、誓約の紋が四人の胸で脈打った。次の瞬間、侵食の圧はたしかに薄まる。個にかかる負荷を、全体で希釈する――《官能融合》の逆用だ。

 影の女王が闇の糸を一直線に放った。糸は空中で三叉に割れ、レキナの肩・腰・膝の“関節っぽいもの”へ同時に打ち込まれる。
 「いまだ、カリーネ!」
 「了解!」
 カリーネは円弧を描きながら接近し、足場の割れ目を利用して石礫を跳ね上げる。礫はセレーナの短詠唱で圧縮され、鋭い弾丸となってレキナの“視束”に突き刺さった。短い硬直。

 レイジは迷わず正面に出た。蒼刃が三度閃く。
 一閃――胸郭らしき装甲を割り、内部の光る束を断つ。
 二閃――伸びてくる脚の付け根を切り落とし、動力の流れを乱す。
 三閃――背面に回り込む別肢の関節を叩き折る。
 反撃は早い。切り落とした肢が地面を這い、逆側から起き上がって「別の脚」として再生する。切断=無効化ではない。形態そのものが“余剰”だ。

 「再生速度、予想以上!」カリーネが警告する。
 セレーナの指先が弾き、赤い文字式が空中に走る。「“換骨の陣”。流路を錯乱させる!」
 術式がレキナの周囲で炸裂し、肢の伸長方向が一瞬だけ逆転した。右に伸びるはずの腕が左へ曲がり、足が自分の胴に絡みつく。
 《――――》
 無音の絶叫。レキナの本能的な均衡が崩れる。そこへ影の女王の糸が深く食い込んだ。

 「押し切る!」
 レイジが跳ぶ。だが、レキナは躊躇なく自らの胴を割り、内側から“第二の体幹”を押し出してきた。新しい脊柱、新しい肩帯、新しい腰。まるで“全身が予備部品”の怪物。
 蒼刃と新生した肢が正面衝突し、衝撃波が走る。レイジの足が半歩滑った。その隙を嗅ぎ取った触手が、彼の喉と手首を狙って疾駆――

 「させない!」
 セレーナの紅が閃き、触手の基部に符を縫い付ける。瞬間、触手は自壊し、砂のように崩れた。
 影の女王が低く告げる。「弱点は“全体整合”。どれだけ余剰を増やしても、制御の核は一つ。そこを見つけて断て」
 「探りは私がやるわ」カリーネが一歩前へ。「交渉の席と同じ。相手の嘘を暴く」

 カリーネは佇立した。敵の目前、風さえ切らぬ距離。
 レキナの肢が殺到する――が、彼女は半歩も動かない。
 「いま」
 囁きと同時、共鳴剣が青白く瞬いた。四人の視界が一つに繋がる。カリーネの視線に重なって、レキナの内部配列が“音”として聞こえた。無数の筋と腱、骨と束。そのうち、ただ一筋だけ、全ての動きにコンマ一秒先行して脈打つ線がある。

 「見えた――左胸の下、第三肋間から奥!」
 「取る!」レイジが地を砕いて踏み込む。
 しかしレキナの反応はさらに速い。標的の部位を守るように、胸前に“他人の胸郭”を二重三重に増設し、盾のように重ねてきた。
 「積層防御……!」
 セレーナの詠唱が一段高くなる。「なら、剥いで――削る!」

 紅と蒼と黒が交錯した。
 セレーナの“剥皮陣”が積層を一枚ずつ剥ぎ、影の女王の糸が剥いだ境目を縫い止め、レイジの蒼刃が“核へ向かう斜線”だけを選んで貫く。
 レキナは身をくねらせ、余剰の肢を犠牲にしてでも核線をずらそうとする。地は裂け、空は唸り、腐香に甘露が混じる。支配の波が再び押し寄せ――

 「保て!」
 レイジの叫びに応じて、四人の鎧の紋が強く輝いた。痛みも恐れも羞恥も、すべてを共有して均し、ただ一つの矛へと収束させる。
 蒼刃が“核線”のすぐ手前で弾かれた。あと一層。あと一呼吸。

 その時、レキナが初めて“言葉”を発した。
 《愚カ……体ハ、私ノ言語。意志ハ、私ノ玩具》
 直後、地中から突き出た“膝”がレイジの足首を絡め取る。反射で体勢が崩れる――

 「レイジ!」
 セレーナの手が彼の背を押し戻し、影の女王の糸が足首の肢を断つ。カリーネは一歩も引かず、左胸下の座標を視線で射抜き続けた。
 レイジは転倒をこらえ、踵で地を叩きつける。蒼刃が“最後の一層”へ届く軌道を再構築――

 「抜く!」
 刃が落ちる。
 レキナの胸前に走る“核の鼓動”が、刹那、遅れた。

 手応えは――わずか。
 核を穿つには至らない。だが、防御の均衡が崩れ、レキナの全身にコンマ単位の遅延が走ったのは確かだった。
 「通る。やれる」レイジが息を吐く。
 セレーナが頷く。「次で割れる。段取り、もう一度」
 影の女王の声が低く響く。「合図は三。私の糸が十字に重なった瞬間、全力で」

 レキナの肢体が荒れ狂う。
 四人は一歩も退かず、刃と術と糸で波を裂いた。
 始まりの一合。
 均衡は、わずかにこちらへ傾き始めている。

 レイジの蒼刃が核の周囲にわずかな裂け目を生んだ瞬間、レキナは全身を震わせ、地を割るような咆哮をあげた。裂け目から噴き出す赤黒い瘴気が辺りを包み込み、視界は瞬く間に曇る。

 「視界を奪ってきた!」
 セレーナが素早く符を刻み、紅黒の衣を輝かせて光の膜を張る。しかし霧の濃さは尋常ではなく、光を呑み込むように広がり続ける。

 「くそっ……音も歪んでる!」
 カリーネが耳を押さえた。瘴気には奇妙な反響が混じり、足音や声が何重にも重なって聞こえる。敵の位置がわからない。

 影の女王は静かに目を閉じ、ヴェールを広げた。「ならば、影で探す」
 闇の糸が地面に散らばり、周囲を這う。霧の中で動く異形の肢を一つ一つ捕らえ、位置を浮かび上がらせた。

 「右前方、三十肢!」
 「後方にも来る!」
 セレーナと影の女王の声が重なり、即座に対応する。

 レイジは息を吸い、全身の鼓動を共鳴剣へと流し込んだ。
 「俺たちの脈で、この霧を裂く!」

 蒼刃が振るわれた瞬間、仲間三人の胸の紋も同時に光を放った。四人の鼓動が共鳴し、刃から生じた青白い波動が霧を押し退ける。瘴気が裂け、数瞬だけ視界が開けた。

 そこにいたのは、再生を終えたレキナの姿。今度は巨体を縮め、人間の女性の姿に擬態していた。滑らかな肌、妖艶な肢体、しかしその背にはまだ蠢く無数の手足が揺れている。

 「……人の姿を真似る気か」
 レイジが刃を構える。

 レキナは紅い瞳を細め、囁くように声を放った。
 《望ム形ヲ示セ……オマエタチノ欲シタ肢体、我ガ与エヨウ》

 次の瞬間、四人の目の前に幻影が立ち現れた。
 セレーナの前にはリリィナの姿。微笑みを浮かべ、腕を広げている。
 カリーネの前には、彼女が救えなかった民の幻影が現れ、助けを求める声を上げる。
 影の女王の前には、かつての王座に座る「傲慢な自分自身」が現れ、甘美な支配の快楽を囁く。
 レイジの前には、過去に倒した天凶たちが次々と現れ、血と欲の幻を織り成していく。

 「また幻影か……!」
 セレーナは震える指先を握り締める。リリィナの幻影が彼女を抱き締めようと迫る。

 「違う……これは私の罪を餌にした幻!」
 カリーネが涙を浮かべながらも叫ぶ。

 影の女王はヴェールを翻し、幻影に手を伸ばしかけた自分を見据える。「支配の記憶など要らぬ!」

 レイジは共鳴剣を掲げ、仲間の声を繋ぐように叫んだ。
 「これは全部、俺たちの心の影だ! 誓約の鎧を纏った以上、幻影に触れる必要はない!」

 四人の胸の紋が同時に光を放つ。幻影たちは悲鳴のような声を上げ、霧とともに消え去った。

 「……やるじゃない」セレーナが微笑む。
 「だけど、これで本体が動きやすくなったわね」カリーネが警戒の目を向ける。

 レキナの擬態は崩れ、再び無数の肢が膨張していく。
 《強イ……ナラバ、全身デ抱キ潰ソウ》

 大地が震え、周囲の岩壁からも肢が生え出した。四方八方から絡みつくように迫る。

 「ここが本番だ……!」
 レイジが叫び、蒼刃を振り上げた。

 岩壁から伸びた無数の肢が、一斉に蠢いた。触手のようにうねる腕、剣のように尖った脚、抱きすくめる女の腕――それらが洪水のように押し寄せ、四人を包囲する。

 「四方から来る!」
 レイジが共鳴剣を振るい、正面の一群を斬り払った。蒼刃は確かに肢を断ち切るが、切り離された部位は地に落ちると再び肉芽を生み、別の肢として蘇る。

 「まるで増殖する森ね……!」
 セレーナが低く呟き、紅黒の符を次々と放った。符は炎を生み、断ち切られた肢を焼き尽くす。炎に包まれた肢は悲鳴を上げて灰となり、再生を阻まれる。
 「焼却……それが再生阻害の鍵!」

 「なら、こちらも合わせる!」
 カリーネが両腕を広げ、外交で培った魔力操作の技を転用する。彼女の鎧が蒼銀に輝き、周囲の風を鋭い刃に変える。断ち切られた肢を炎の中へ押し込み、焼き尽くす。

 「後方は任せろ」
 影の女王が闇の糸を幾十も放つ。糸は四方八方に伸び、壁から迫る肢を絡めて動きを止めた。
 「抑えているうちに、核へ繋がる糸を探せ!」

 レイジは頷き、共鳴剣を胸に掲げる。
 「俺たちの鼓動を合わせろ! 幻影の時と同じだ!」

 四人の胸の紋が同時に輝いた。鼓動が重なり合い、一つの律動を刻む。蒼刃が共鳴し、視界が広がった。
 ――見える。無数の肢の中に、核から直接伸びる一本の“太い血管のような線”が。

 「左の岩壁の奥! そこが核に繋がっている!」
 レイジが叫んだ。

 「道を開く!」
 セレーナが符を連続して放ち、紅蓮の炎が壁を覆った。焼かれた肢が悲鳴を上げ、道が一瞬だけ開く。
 カリーネがその隙を逃さず、風刃で残骸を押し退けた。
 「今よ、レイジ!」

 レイジは地を蹴り、蒼刃を振り下ろした。しかし――

 《甘イ》

 レキナの声と共に、岩壁の奥から新たな肢が幾重にも生え出した。人の腕、獣の脚、女の脚線美が絡み合い、まるで生きた盾のように核への通路を塞ぐ。

 「ちっ……!」
 レイジは即座に後退し、刃を振り抜いて距離を取った。

 影の女王が糸を走らせながら低く告げる。「あれが本当の守り……核を見抜かれたと気づいたのよ」
 「なら……守りを超えるための突破口を作るしかない!」セレーナが息を荒くする。

 レイジは深く息を吐き、仲間を見渡した。
 「次は総力戦だ。炎と風で削り、糸で拘束し、俺が蒼刃で貫く。タイミングは――」

 その時、地の底から震えが走った。裂け目の奥で、レキナの体がさらに膨張していく。無数の肢が絡み合い、ついに巨大な「肉の塔」と化してそびえ立った。
 《核ヲ守ル? 違ウ……核スラ不要ナ身体トナレバ良イ》

 全身が一つの核に変わるかのように、レキナは形を変えていく。

 「まずい……!」
 カリーネが声を失う。
 セレーナの瞳が鋭く光った。「完全体になる前に叩くしかない!」

 四人は背を合わせ、最後の連携を取る構えを整えた。
 次の一撃が、運命を分ける――。

 レキナの肉の塔が轟音を立てて成長する。肢が絡み合い、骨格と臓腑を模して次々と姿を変え、塔そのものが巨大な身体へと変貌していく。もはや「核を守る」のではなく、「全身を核に変える」異形の進化だった。

 《我ハ絶対。肢体ハ無限。核ナド不要》

 その声と共に、周囲の大地が脈動し、地表の裂け目からも無数の肢が噴き出す。天地を覆い尽くす肉の牢獄――。

 「本当に核を散らすつもりか……!」
 レイジは歯を食いしばった。「でも、必ず“中心”は残っている。全身が核だとしても、最も深く響く一点が!」

 セレーナが紅黒の衣を翻す。「なら、私が道を開く!」
 彼女の詠唱が炸裂し、炎符が次々と肢を焼き裂いた。炎は紅蓮の壁を作り、仲間の進路を無理やり切り拓く。

 「私が盾になる!」
 カリーネは風を纏い、肉の鞭を切断しながら前に出る。外交の場で相手の嘘を見抜いてきた瞳が、今は肉体の中の“偽の核”を見破っていく。

 「後退は許さない!」
 影の女王の闇糸が十字に走り、塔の四肢を縫い止めた。巨大な肉体が軋み、バランスを崩す。

 「今だ、レイジ!」
 仲間たちの声が重なった。

 レイジは共鳴剣を高く掲げ、全員の鼓動を刃へと流し込む。蒼刃が眩く震え、光の奔流が生まれる。
 「俺たちの誓いを、貫けえええッ!」

 刃が振り下ろされると同時に、三人の装束も強烈に輝いた。炎と風と闇が蒼刃へ吸い込まれ、四人の力が一本の光の矢に集約する。

 蒼白の閃光がレキナの胸奥を突き抜けた。

 《――――ッ!》

 無数の肢が暴れ狂い、大地を砕き、空を裂く。だが、次第に動きは鈍り、塔の形が崩れていく。四方から溢れ出た肢は砂となり、風に消えていった。

 やがて残ったのは、胸部の中心に浮かぶ紅い結晶だった。核――。
 セレーナが瞳を細める。「やっぱり……どんなに形を変えても、最後に残る核は一つ」
 カリーネが頷く。「交渉の裏に必ず本音があるようにね」
 影の女王は糸を伸ばし、結晶を絡め取った。「封じて――断ち切れ」

 レイジが最後の一閃を放つ。
 共鳴剣が紅い結晶を割り、光が炸裂した。

 轟音とともに、絶対肢体レキナの肉体は崩壊していった。赤黒い霧は散り、腐臭も消え、裂け目を覆っていた脈動が静かに止まる。

 「……やった、のか」
 レイジが膝をつき、息を荒げながらも刃を見つめる。蒼刃はなお輝き、誓約が揺らいでいないことを告げていた。

 「一体目……これで、残りは二つ」セレーナが小さく笑みを浮かべる。
 「終淫核メギア、そして――原初の娼王」カリーネが名を口にすると、空気がさらに重くなる。
 影の女王は静かにヴェールを撫でた。「ここからが、本当の地獄だ」

 四人は崩れゆく裂け目を後にし、次なる戦場を目指して歩み出した。誓約の鎧はなお光を宿し、裸で挑んだ試練の果てに得た絆を忘れさせなかった。
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