オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第51話 ー終淫核メギア出現ー

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 絶対肢体レキナが崩れ落ち、瘴気が霧散してから幾刻も経たぬうちに、大陸そのものが変質を始めた。地の脈動は収まるどころか逆に強まり、大地がまるで巨大な心臓の鼓動のように波打つ。

 「……聞こえるか?」
 レイジが足裏に伝わる震えに眉をひそめる。

 「ええ。これは――鼓動ね。だけど、ただの鼓動じゃない」
 セレーナは紅黒の衣を握りしめ、唇を噛む。「これは“増殖の脈”よ。欲望そのものを動力にして、この大陸を胎内へ変えようとしている」

 見渡す限りの地平がゆっくりと盛り上がり、やがて膨らんだ丘は割れて中から半透明の卵を吐き出した。卵の中には肉塊とも人影ともつかぬものが蠢いており、時折こちらを見ているかのように赤い眼孔が浮かぶ。

 「……気色悪ぃな」レイジが吐き捨てる。
 「ただの幻じゃないわ」カリーネが首を振る。「触れれば本当に孵化する。これは“核”の分身よ」

 影の女王は漆黒のヴェールを翻し、低く告げる。「この大陸全体が母胎となり、終淫核メギアの卵巣に変じている。倒したレキナの瘴気すら、ここでは養分に過ぎなかった……」

 四人の視線の先、地平のさらに奥で巨大な柱がそびえ立つ。それは岩でも樹でもない。半透明の巨大な卵――いや、“大陸の胎核”としか言えぬものだった。内側で赤黒い光が明滅し、無数の影が絡み合っている。

 「……あれが、終淫核メギア」レイジが呟いた。

 《増殖セヨ……交ワレ……全テハ核トナリ、世界ハ胎内トナル》

 声が大地を通じて響き、耳ではなく骨へと染み込む。瞬間、卵群のいくつかが破裂し、半透明の粘液を纏った怪物が這い出してきた。頭も脚もなく、ただ人の四肢だけを寄せ集めた塊。だがそれらは倒すごとに別の卵へ飛び込み、数を増していく。

 「くっ……! 倒しても意味がない!」
 カリーネが魔力で風刃を放ち、怪物の群れを吹き飛ばす。しかし飛び散った肉片はすぐに地に吸い込まれ、別の卵を膨らませた。

 「増える……これが終淫核の力」セレーナが青ざめる。

 影の女王は冷ややかな眼差しで卵の群れを見渡した。「核そのものを絶たなければ、いくらでも生まれる。だが近づけば欲望の脈に呑まれる……」

 四人の胸の誓約紋が微かに熱を帯び、共鳴剣が蒼く揺れた。レイジは深く息を吐き、仲間を見渡す。
 「ここから先は、欲望そのものとの戦いだ。分散させ、均して、俺たちの誓いで抑え込む。裸で誓ったあの時を思い出せ」

 セレーナは頷き、手を差し出した。
 カリーネと影の女王も手を重ねる。誓約の紋が共鳴し、四人の鎧に脈動が広がった。

 「よし……行くぞ」

 巨大な胎核へ向かい、四人は卵の群れの中へ踏み込んだ。足元から粘液が跳ね、卵の壁越しに無数の眼が彼らを見つめていた。

 ――終淫核メギアの胎内領域が、いま彼らを迎え入れた。

 卵の群れに足を踏み入れた瞬間、四人の視界は歪んだ。
 地面はぬめる肉壁へと変質し、天井からは粘液の滴る蔦が垂れ下がっている。まるで巨大な胎内に迷い込んだかのように、空気は甘ったるく湿り、呼吸するだけで胸が焼けるような熱を帯びた。

 「ここは……生きている……」
 カリーネの声が震えた。外交の場で百戦錬磨の彼女でさえ、言葉に恐怖を隠せなかった。

 《快楽ヲ与エヨウ……苦痛ヲ与エヨウ……増エヨ……交ワレ……》

 耳ではなく、皮膚の下から声が響く。足元の肉壁が波打ち、触れた瞬間に脈動が伝わってきた。血管のような模様が光を帯び、彼らの胸の鼓動に合わせてリズムを変えていく。

 「わ、私たちの心拍を……真似ている?」
 セレーナが目を細めた。
 影の女王は低く唸る。「いや、同調して侵入を試みている。鼓動を奪われれば、身体の支配権そのものを核に持っていかれる」

 不意に、右側の卵が破裂した。中から現れたのは、見覚えのある人影。
 「……リリィナ?」
 セレーナの顔から血の気が引いた。裸の妹の幻影が、微笑みながら腕を広げて立っていたのだ。

 「違う! これは幻影だ!」
 レイジが叫ぶが、幻影は甘く囁く。
 《姉サマ……一緒ニ……誓イヲ忘レテ……核ニ抱カレテ》

 セレーナの足が一歩前に出た。
 「セレーナ! しっかりしろ!」レイジが腕を掴む。
 「わかってる……でも……この声、心の奥に刺さる……!」

 その隙を狙い、左側の卵も破裂した。カリーネの前には、彼女が救えなかった民の姿が現れる。彼らは涙を流しながら叫んだ。
 《裏切リノ外交官……罪ヲ返セ……命ヲ寄越セ》
 「やめろ……! 私は……私は――!」カリーネが両耳を塞ぐ。

 影の女王の前にも、かつて王座に座っていた自分自身が現れた。豪奢な衣装を纏い、従者を足元に跪かせ、陶酔の笑みを浮かべている。
 《戻レ……影ハオマエノ力……支配コソ喜ビ》
 女王は唇を噛み切り、血を垂らしながら睨み返す。「影は過去だ。私は仲間と歩む」

 「くそっ、幻影の群れまで出てきやがる!」
 レイジは共鳴剣を振り抜き、幻影を切り裂いた。だが斬った瞬間、血のような粘液が飛び散り、彼の肌に触れる。触れた部分から熱が走り、腕の筋肉が勝手に収縮した。

 《貸セ……貸セ……貸セ》

 レイジの腕が勝手に動き、刃が仲間へと向かう。
 「やめろ……ッ!」
 必死に抗うが、粘液は神経を乗っ取り、肢体を操ろうとする。

 セレーナが両手を組み、紅黒の符をレイジの腕へ押し当てた。符は光を放ち、粘液を焼き払う。
 「誓いを忘れるな! 裸で誓った時のように、心を一つにすれば抗える!」

 「そうだ……俺たちは誓った!」
 レイジの胸の紋が輝き、共鳴剣が青白い光を噴き上げる。

 四人の誓約が重なり、幻影は悲鳴を上げて消えた。しかし卵は次々と破裂し、さらに無数の幻影が現れる。リリィナ、失われた民、支配に酔う影の女王、過去の天凶たち――。

 「試してるのね、私たちの欲と罪を」
 セレーナが唇を噛みしめた。
 「なら、突破口は一つ――全部まとめて焼き払うしかない!」

 四人は背を合わせ、卵の迷宮の中心へ突き進む。肉壁が波打ち、幻影が群れとなって迫る。だが胸の紋は確かに輝き続けていた。

 ――終淫核メギアの本体は、さらに深くにある。

 卵の迷宮を突破するたびに、空気はさらに重くなっていった。壁は鼓動を強め、粘液の滴が滝のように流れ落ちる。足元の肉壁が蠢き、まるで歩くたびに「胎内へ深く引き込まれている」錯覚を与える。

 「……心拍が速くなってきたわ」
 セレーナが胸に手を当てた。衣の下の誓約紋が赤熱し、拍動が迷宮そのものの脈と同期している。

 「俺もだ。こいつは……俺たちの鼓動を取り込もうとしてやがる」
 レイジは歯を食いしばり、共鳴剣を握り締める。刃が蒼く揺れながらも、まるで鎮魂歌のように低い振動を響かせていた。

 《交ワレ……交ワレ……全テ核トナレ……》

 卵の壁から、再び幻影が飛び出した。今度は四人同時に。
 セレーナの前には、リリィナが幼い姿で現れた。血の付いた小さな手を差し伸べてくる。
 カリーネの前には、外交の席で命を奪われた同僚が、胸に剣を刺したまま笑いかける。
 影の女王の前には、玉座に座る自分が現れ、「この力を棄てて何が残る」と嘲笑う。
 そしてレイジの前には――現世の自分が現れた。スーツ姿で、机に向かい、虚ろな目をして働く“かつての社畜”の自分。

 「……これが、俺の……」
 胸が締め付けられた。忘れたはずの記憶。異世界に来る前の日々。閉ざされたオフィス。抑圧された心。

 《戻レ……苦痛カラ解放シテヤル。欲望ノ胎内デ眠レ》

 レイジの刃先が震える。セレーナが横目で彼を見て、強く叫んだ。
 「レイジ! あなたはもう裸で誓ったでしょう! “生き直す”って!」

 「……ああ……!」
 レイジは共鳴剣を振り上げ、幻影の自分を切り裂いた。幻は悲鳴を上げ、灰のように消えていく。

 同時に、カリーネが風刃で同僚の幻を吹き飛ばし、影の女王は闇糸で玉座の幻を引き裂き、セレーナは幼い妹の幻を涙と共に燃やし尽くした。

 「……全部、私たちの影。でも、それを力に変えると誓った」
 セレーナが震える声で言い、涙を拭う。

 幻影を退けた瞬間、迷宮が大きく震えた。奥の壁が裂け、巨大な空洞が姿を現す。そこには――

 巨大な赤黒い心臓のような塊が脈動していた。表面には無数の卵胞が張り付き、脈動に合わせて膨らみ、縮み、時折破裂して粘液を飛び散らせる。破裂のたびに、欲望の囁きが空間を満たす。

 「……これが、終淫核メギアの本体……!」
 カリーネが息を呑む。

 影の女王は低く唸る。「核そのものが“母胎”……いや、“世界の卵巣”そのものに化している……」

 《欲望ハ無限……産メヨ……増エヨ……交ワレ……》

 声が轟き渡り、心臓が鼓動を強めた。四人の胸も同調して速まっていく。

 「くっ……! 鼓動を持っていかれる!」
 セレーナが膝をつきそうになる。

 「誓約を強めろ! 俺たちの鼓動を一つにすれば、奴のリズムを乱せる!」
 レイジが共鳴剣を掲げる。

 四人の誓約紋が輝き、胸の鼓動が一つに重なった。
 迷宮の胎動と戦いながら、彼らはついに“母胎の核”の前に立った。

 ――終淫核メギアとの直接の戦いが、いま始まろうとしていた。

 巨大な心臓のように脈動する“母胎の核”は、呼吸するように膨らみ、収縮していた。そのたびに表面に張り付いた卵胞が弾け、赤黒い液体をまき散らす。飛び散った粘液が床や壁に触れると、そこから新たな卵が芽吹き、瞬く間に膨らんでゆく。

 「……なんてこと……増えてる?」
 カリーネの声は震えていた。

 割れた卵から這い出してきたのは、人の手足だけを継ぎ合わせた肉塊。だが斬っても焼いても、その断片が再び卵へと戻り、さらに数を増やしていく。

 「倒せば倒すほど……!」
 セレーナが息を荒げる。符を連打して炎を撒き散らすが、焼き尽くしたはずの残骸が別の卵を肥大化させていた。

 影の女王は冷ややかに呟いた。「増殖こそが“核”の本質……卵は無限。ここで敵を払っても、すぐに補充される」

 レイジは共鳴剣を握りしめ、汗を滴らせながら呻く。
 「まるで……世界そのものが敵だ。前に進むどころか、押し返されている……!」

 《産メヨ……交ワレ……増エヨ……無限ノ胎内ヲ築ケ……》

 声が洞窟全体を揺さぶる。粘液が壁から滝のように流れ落ち、床に広がった。そこから次々と新たな卵が芽吹く。数瞬のうちに辺り一面は卵の海と化し、そのひとつひとつが光を帯び、孵化の準備を始めていた。

 「数が……多すぎる……!」
 セレーナが後ずさる。

 カリーネは必死に冷静さを保ちながら言う。「これでは本体にたどり着けない……攻めるたびに敵が増えて、近づくほどに遠ざかっていく……」

 影の女王の瞳に深い影が宿った。「この胎内そのものが“要塞”だ。核はただ産み続けるだけで勝利できる……」

 レイジは仲間を見渡し、奥に脈打つ巨大な核を睨みつけた。
 「……本体は目の前にあるのに、手が届かない。これが“終淫核”の異常な力……!」

 四人の胸の紋が熱を帯び、共鳴剣が微かに唸った。だが今は刃を振るう余裕すらない。迫り来る無数の卵と増殖する怪物たちを前に、本体へ続く道は完全に閉ざされていた。

 ――終淫核メギアの胎内で、本体にたどり着くことすら困難。
 それが最初に突きつけられた現実だった。
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