オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第52話 ー増殖の胎内、絶望の迷宮ー

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 四人は卵の海に囲まれていた。数え切れぬほどの透明な殻が脈打ち、その中で蠢く影が彼らをじっと見つめている。鼓動は速まり、空気は粘液の匂いで満たされ、呼吸すら重くなる。

 「……一歩進めば十歩分、押し返されるわね」
 セレーナが吐き捨てるように言った。紅黒の符で何度も炎を放ったが、焼き尽くした肉塊はすぐに卵へ戻り、さらに膨れ上がっていく。

 「斬っても無駄、焼いても無駄……。このままじゃジリ貧だ」
 レイジは共鳴剣を構えたまま、歯を食いしばった。蒼刃は唸り続けているが、敵の数があまりにも多すぎる。

 「外交の場なら、ここで交渉材料を探す。でも、この相手は……欲望だけを語っている」
 カリーネの声は震えを帯びていたが、瞳は鋭さを失わなかった。「欲望は止められない。なら、分散させるしかないわ」

 影の女王は腕を組み、低く唸った。「確かに……奴の“増殖”は、欲望を取り込んで膨らむ仕組みだ。ならば、私たちが誓約で均した欲望を流し込めば……増殖のリズムを狂わせられるかもしれない」

 「……危険だな。誓約の力を逆流させれば、俺たち自身が核に取り込まれるかもしれない」
 レイジの言葉に、三人は黙り込む。だが退路はない。

 その時、足元の卵が割れ、半透明の幼体が這い出した。人の形に似ているが、顔は溶けており、口だけが異様に大きい。
 《母胎ニ還レ……誓約モ欲望モ、等シク喰ラウ》

 幼体の口が大きく裂け、四人に向かって吐息を吹きかける。甘い香りに混じって、舌の根を痺れさせるほどの快感が神経を刺した。

 「うッ……!」
 セレーナが膝をつく。頬が紅潮し、手が勝手に衣の紐を解こうと動き始めた。

 「しっかりしろ!」
 レイジが共鳴剣を叩きつけ、その蒼光で彼女を覆う。光に包まれたセレーナの身体は震え、やがて動きが止まった。

 「ありがとう……。危なかった……」
 セレーナは額の汗を拭い、再び立ち上がる。

 影の女王が唇を噛んだ。「今のはほんの端緒……奥に近づけば近づくほど、この誘惑と増殖は激しくなる。力ずくでは決して辿り着けない」

 カリーネは視線を巡らせ、囁くように言った。「……なら、利用しましょう。あえて欲望を増幅させ、誓約の力でそれを均す。核に流し込み、逆に“飽和”させるのよ」

 「……敵の糧を、毒に変えるのか」
 レイジは息を呑む。

 セレーナが目を細める。「無茶な策よ。でも、それしか突破口はない」
 影の女王は小さく笑った。「裸で誓った時から、私たちは常に無茶を選んできただろう」

 四人の胸の紋が同時に光を帯びた。共鳴剣が震え、迷宮全体に青白い波紋が走る。卵たちの脈動が一瞬だけ狂い、増殖のリズムが途切れた。

 「今だ、進め!」
 レイジの叫びと共に、四人は卵の海を切り裂いて走り出した。

 だが――

 奥の巨大な胎核が、まるで彼らの挑戦を嘲笑うように大きく膨らんだ。
 破裂音とともに、数百の卵が一斉に孵化し、迷宮全体が怪物の咆哮で満たされた。

 「……! くそっ、本体に近づくほど数が暴発していく……!」
 カリーネが声を荒げる。

 「このままじゃ……本当に辿り着けない!」
 セレーナが叫んだ。

 ――終淫核メギアの異常な増殖。
 その前に立ちはだかるのは、“本体まで届かぬ”という絶望的な現実だった。

 数百の卵が一斉に割れ、肉塊とも幼体ともつかぬ存在が這い出してくる。半透明の皮膚の下で脈動する血管が光を帯び、その度に甘い香りと腐臭が入り混じった風が吹き荒れた。

 「これじゃ……壁が動いてるのと変わらない!」
 セレーナが符を投げ放つ。炎が迸り、十数体を焼き払う。だが焼け残った粘液が床を覆い、そこからさらに新たな卵が芽吹いていく。

 「数が尽きる気配がないわ……!」
 カリーネは風刃を飛ばすが、切り裂いた肉片は粒のようになって飛散し、別の卵へ吸い込まれていった。

 影の女王は闇糸で群れを押し留めながら低く唸った。「やはり……ただ破壊するだけでは無意味だ。核に辿り着くどころか、迷宮そのものが厚みを増している」

 レイジは歯を食いしばり、共鳴剣を胸の前で構えた。刃の震えは強くなっている。仲間の誓約の鼓動と同調し、青白い光を放っていた。
 「なら、やるしかないな……。さっきの試しだ。敵の欲望を利用する!」

 「……危険すぎる」セレーナが首を振る。「核のリズムを直接引き込めば、私たちの心臓まで壊されるかもしれない」
 「でも、それ以外に道はない」カリーネの声は震えていたが、確信に満ちていた。「外交でもそうだった。相手の嘘を飲み込み、その中から本音を引き出す。危険だからこそ、突破口になる」

 影の女王が苦笑する。「裸で誓った時から、私たちは死地しか歩んでいない。いまさらだろう」

 四人は背を合わせ、手を重ねた。誓約の紋が輝き、共鳴剣へと脈動が集束する。

 「……聞こえるか?」
 レイジの声に、三人は目を閉じた。

 ――脈動が流れ込んでくる。
 迷宮そのものの鼓動。卵が孵化するたびに生まれる欲望のリズム。それが四人の胸に流れ込み、身体を焼くように苦しみを与える。

 《交ワレ……交ワレ……増エヨ……》

 耳元で囁く声に、セレーナの膝が震えた。
 「う……心臓が……!」
 カリーネの額から汗が滴り落ちる。
 影の女王も呻きを漏らし、血を吐いた。

 だがレイジは声を張り上げる。「誓いを思い出せ! 俺たちは“裸で誓った”! 恥も痛みも、全部分け合ってきた!」

 その叫びに応じるように、共鳴剣が閃光を放った。吸い込んだ欲望の脈動が均され、刃の蒼光へと変換されていく。

 「……できる……!」セレーナが息を吐いた。「この力なら……敵の増殖を逆に抑えられる!」
 「いや、抑えるんじゃない」カリーネが震える声で続ける。「逆に“過剰に流し込んで”奴を飽和させる……!」

 影の女王の目が細く光った。「敵の母胎を、自らの欲望で破裂させる……か」

 レイジは刃を振り上げた。
 「よし……その方針で行く! 欲望を吸い込み、均し、飽和させる! 誓約の鎧が俺たちを守ってくれるはずだ!」

 四人の胸の紋が燃えるように輝き、蒼刃から放たれた波動が迷宮全体に広がった。
 その瞬間、卵の群れが一斉に悲鳴を上げ、孵化のリズムが狂った。

 ――だが同時に。

 奥の巨大な胎核が、彼らの挑戦に応じるように鼓動をさらに速めた。
 壁が崩れ、さらに広大な卵の迷宮が姿を現す。

 「……まだ奥がある……!」
 セレーナの顔が蒼白になった。

 「核はさらに深く……!」カリーネが叫ぶ。

 四人は確信した。
 ――本体まで辿り着くには、この“無限の胎内”を突破しなければならない。

 奥へ進むほど、迷宮は果てしなく広がっていた。無数の卵が脈打ち、孵化の衝撃で空気が揺らぐたびに、四人の身体は本能的な拒絶反応を起こす。

 「……視界が、ゆがむ……」
 セレーナが壁に手をつき、吐息を荒げた。周囲の卵の殻が透け、妹リリィナの面影や失った仲間の姿がちらついて見える。

 「これは誘惑だ。惑わされるな!」
 レイジは共鳴剣を振り、幻影を切り裂く。しかし、斬ったはずの影は粘液となり、別の卵に吸い込まれて膨張を始めた。

 「斬撃が……増殖を手助けしてる?」
 カリーネが声を詰まらせる。外交の場で言葉を読み解いてきた彼女だからこそ、その理を理解した。「この迷宮は“否定”そのものを糧にしている。攻撃も拒絶も、全て増殖に繋がる……」

 影の女王が唇を噛む。「否定も肯定も飲み込み、ただ増え続ける……これが“核”の本質か」

 「じゃあ……どうすれば!」
 セレーナが絶望に声を震わせた。

 レイジは刃を握り直し、深く息を吐く。
 「……なら、逆に認めてやればいい。欲望を否定せず、誓約の中で均す。それが俺たちの刃になる!」

 四人は互いに視線を交わした。思い浮かんだのは、裸で誓ったあの時の記憶。羞恥も恐怖も、欲望さえも共有し、均し合って進んできた。

 「……そうね。なら試すしかない」
 セレーナが手を差し出す。カリーネも影の女王もその上に手を重ねた。

 四人の胸の紋が強烈に輝き、共鳴剣が蒼光を噴き上げる。刃から放たれる光は炎でも風でも闇でもなく、四人の“均された欲望”そのものだった。

 「誓約の刃――開放ッ!」
 レイジの叫びと共に、蒼光が波となって広がった。

 その光を浴びた卵たちは、一斉に震えた。通常なら孵化して怪物を生むはずが、今回は逆に殻が自らを圧縮し始めた。粘液が内側に吸い込まれ、殻が収縮し、やがて「破裂」ではなく「消滅」する。

 「……やった……! 欲望を均すと、増殖が止まる!」
 カリーネが目を見開いた。

 だが、その成果は一瞬だった。奥の巨大な胎核が脈動を強め、迷宮全体にさらなる衝撃を走らせる。新たな卵が地面や壁から溢れ出し、光で消えたはずの空間をすぐに埋め尽くした。

 「やっぱり……! 奴は“本体”を壊さない限り無限に産む!」
 セレーナが叫ぶ。

 影の女王が低く唸る。「だが確かに、道は開けた。誓約の刃を維持すれば、増殖を相殺しつつ進める」

 レイジは剣を掲げ、奥に見える巨大な胎核を睨みつけた。
 「いいか、みんな……! この刃で卵を消しながら進む! 本体に辿り着けるかどうかは、誓約の強さ次第だ!」

 四人は頷き合い、蒼光の刃を盾に卵の海を切り裂いた。
 しかし、進めば進むほど迷宮は厚みを増し、鼓動は速まり、世界そのものが敵になったかのようだった。

 ――終淫核メギアの本体に辿り着くまでの道は、想像を絶する死地であった。

 蒼光の波が走るたび、卵の群れは縮み、粘液を内へと吸い込んで消えていった。四人はその隙に前へと進む。だが、進んだ先では新たな卵が壁や床から芽吹き、まるで歩みを計算したかのように通路を塞いでいく。

 「……間に合わない!」
 セレーナが額の汗を拭い、符を叩き込んだ。炎が広がり、一帯の卵を焼き尽くす。しかしその炎さえも養分にされ、奥の胎核がさらに脈動を増した。

 「敵に力を貸してるみたいね……」
 カリーネが唇を噛む。外交で見抜いてきた「交渉の罠」を、今まさに体感していた。

 「誓約の刃を維持するだけで……身体が削られていく」
 影の女王が苦しげに言い、口元から血を垂らした。闇糸を走らせる力はまだ残っていたが、均す負荷が確実に命を蝕んでいた。

 レイジも同じだった。共鳴剣を握る腕が痙攣し、視界が霞む。それでも刃を振り下ろすたび、仲間の心臓が共に鼓動し、身体が動いた。
 「……まだ……行ける!」

 《交ワレ……交ワレ……増エヨ……》

 胎核の囁きが迷宮全体に木霊し、卵の数はさらに加速して増えていく。壁も天井も床も卵に覆われ、まるで“閉じ込める”ように迷宮は狭まっていった。

 「……押し潰す気か!」
 セレーナが叫び、符で光の壁を張る。しかし光壁は圧力に耐えきれず、ひび割れ始める。

 「このままじゃ全員呑まれる!」
 カリーネの声に、レイジは歯を食いしばった。

 「違う……俺たちはここまで来た。裸で誓った時から、恥も痛みも分け合ってきた。なら――この死地すら均して進む!」

 胸の紋が一斉に輝き、共鳴剣が爆ぜるように光を放った。卵の圧力を切り裂き、進路が一瞬だけ開く。

 「走れ!」
 レイジの叫びに、三人は力を振り絞って駆け出した。

 血を吐き、汗に濡れながら、それでも彼らは足を止めなかった。誓約の刃は消えかけていたが、奥に見える巨大な胎核の光だけが彼らを導いていた。

 ――たどり着けるかどうかはわからない。
 だが、進む以外に道はない。

 終淫核メギアの本体へ。
 四人の決死の突入が、いま始まった。
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