64 / 70
第64話 ー命を賭した抱擁ー
しおりを挟む
黄金の心臓が轟音を上げて鳴り響いた。神殿全体が揺れ、石柱がひび割れ、壁に刻まれた神の像たちが涙を流す。その一滴一滴が床へと滴り落ち、黒い肉の波に飲み込まれていった。
セレーナは血に濡れた胸を押さえ、呻くように声を洩らした。
「……もう、限界よ……私たちには……抗う力なんて……」
視界は赤黒く染まり、吐血で喉が焼ける。もはや自分の命の灯は風前の灯だと悟っていた。
影の女王もまた、腕の嵐に絡め取られ、必死に闇糸を放とうとしたが、指先からは血が滴るばかりだった。
「……くっ……我が糸すら……届かぬのか……」
誇り高い王女であった彼女の瞳に、今は絶望しか映っていなかった。
その中でただ一人、レイジは血まみれになりながらも両腕を広げていた。全身の骨はきしみ、皮膚は裂け、臓腑は悲鳴を上げている。それでもなお、彼は微笑んでいた。
「……神をも抱いた王……か。だったら……俺が……お前を抱き潰してやる」
その宣言に、娼王の仮面が一斉に揺れた。千もの顔が嗤い、千もの声が同時に囁く。
《愚カナ……命ヲ賭シテ抱クト? 滑稽ナリ。汝ノ犠牲ハ無意味。抱クモノハ常ニ我。汝ハ抱カレル側……》
黄金の心臓が強く脈打つたび、無数の腕がレイジに絡みついた。だが彼は、その全てを自らの腕で掴み取り、血で濡れた手に力を込めた。
「……そうだ、抱かれる……でもな……俺は違う。俺は抱き返す……命ごと!」
腕が軋み、骨が砕ける音が響いた。喉から大量の血が噴き出した。それでもレイジは、死の予感を恐れなかった。むしろその死を、最後の力に変えようとしていた。
セレーナは涙を流し、かすれ声で叫んだ。
「やめて……そんなことをしたら……あなたは……!」
影の女王も呻きながら声を振り絞った。
「愚か者! 命を投げ出して勝つなど……勝利ではない……!」
だがレイジは二人を見つめ、微笑んだ。血に濡れ、崩れ落ちそうな顔でありながら、確固たる決意を宿していた。
「……犠牲を見てきた。仲間の涙を背負ってきた。だから……最後は俺が犠牲になる。俺が命を賭けて、この世界を……救う」
その言葉に、二人は声を失った。彼の決意はあまりに重く、そして美しかった。
娼王の仮面が再び嗤った。
《抱ク? 汝ガ我ヲ? 不可能ナリ! 汝ノ命ハココデ潰エル!》
神殿が震え、床の肉が波打ち、三人を呑み込もうとした。
だがレイジは両腕をさらに広げ、迫り来る闇を抱き締めるかのように叫んだ。
「来い……! 俺の全てを懸けて……お前を抱く!」
その瞬間、黄金の心臓の鼓動が止まり、広間に静寂が訪れた。
――命を賭した抱擁が、いま始まろうとしていた。
静寂を破ったのは、レイジの鼓動だった。
ドクン、とひとつ鳴るたびに、空気が揺れ、黒い肉の波が押し戻される。
「……感じるか……俺の全てを……」
レイジの声は掠れていたが、確かな響きを持っていた。これまで培ったすべての「性技」が、肉体の奥底で解き放たれていくのを自覚していた。
その瞬間、彼の身体から熱が放たれた。抱擁、愛撫、淫靡な技の数々――積み重ねてきた行為の記憶と技巧が、呪文のように彼の血肉を通じて放射される。
《……何ダ……此ノ感覚ハ……?》
娼王の仮面が一斉に震えた。無数の手がレイジを締め上げようと迫るが、逆に彼に抱かれた瞬間、震え、痙攣した。
「……これは……抗えぬ……」
セレーナは息を呑んだ。かつて彼女も、レイジの腕に抱かれ、その技に溺れたことがある。だが今、目の前にいるのは、彼女が知る以上の存在だった。
影の女王もまた、震える声を洩らした。
「……まさか……性技だけで……ここまでの……」
レイジの肉体は崩壊寸前だった。骨は軋み、臓腑は裂け、血が滲み続けている。だが彼の抱擁は、娼王の無数の腕を包み込み、その支配を逆転させ始めていた。
《馬鹿ナ……我ハ抱クモノ……抱カレル側ニハナリ得ヌ!》
娼王の声は怒号へと変わった。黄金の心臓が暴れ狂うように鼓動し、神殿の壁を裂いた。像が崩れ、黒い肉が洪水のように押し寄せる。
レイジは全身を抱き締め、呻くように叫んだ。
「……神をも抱いた王……なら……俺が神を超えて抱き尽くす!」
圧がさらに強まり、血が噴き出す。視界は赤に染まり、意識は薄れかける。だが彼の腕だけは緩まなかった。
セレーナは涙を流し、嗚咽した。
「……レイジ……やめて……そんなことをすれば……本当に……」
彼女は理解していた。この力は彼の命を燃やす炎そのものだと。
影の女王も声を振り絞った。
「お前が消えたら……我々は……!」
レイジは微笑み、血に濡れた顔で答えた。
「……大丈夫だ。俺は……消えても……お前たちの中に……残る」
その言葉に、二人は嗚咽し、力なく首を振った。
娼王は怒号を放ち、さらに無数の腕を解き放った。
《我ヲ抱クナド、許サヌ! 神ヲモ抱イタ我ガ、汝如キニ屈スハズ!》
黒い腕の奔流が広間を覆い尽くし、三人を呑み込もうとした。
だが、その中心でレイジの抱擁は揺るがなかった。むしろ彼の全身から迸る「性技の奔流」が、娼王の肉を痙攣させ、仮面の笑みを歪ませた。
「……ほら、感じてるだろ……これが……俺の全てだ……!」
黄金の心臓が、初めて怯えるように震えた。
黄金の心臓が乱打のように鳴り響き、神殿は崩壊寸前の震動に包まれていた。壁の神像はすべて割れ落ち、砕け散った石片さえ黒い肉に吸い込まれていく。天井の亀裂から赤黒い光が差し込み、広間全体を業火のごとく染めた。
レイジの両腕は血に濡れ、皮膚は裂け、骨は露わになりつつあった。抱き締めるたびに、自身の肉体が砕けていくのを感じていた。それでも彼は決して腕を緩めなかった。
「……俺は……抱かれる側じゃない……俺が……抱くんだ……!」
その声と同時に、彼の体から奔流のような熱が放たれた。快楽と絶望を刻み続けてきた「性技」の全てが、血と魂を燃料にして迸る。抱擁はただの力ではない。肉体を溶かし、精神を崩し、存在の根幹にまで侵入する圧倒的な「技」だった。
《馬鹿ナ……ッ! コノ我ガ……揺ラグ……?》
娼王の仮面の群れが一斉に歪み、数千の唇から悲鳴が洩れた。これまで神をも抱いてきた存在が、今初めて「抱かれる側」として揺らいでいた。
セレーナはその光景に息を呑んだ。
「……まさか……本当に……」
誓いを失いかけていた彼女の胸に、再び希望の炎が灯る。
影の女王も涙を滲ませ、かすれ声で呟いた。
「……愚か者……だが、その愚かさが……王をも超える……」
だが娼王は屈しなかった。黄金の心臓が強烈に鼓動し、広間に血の波が溢れ出す。無数の腕が暴風のように広がり、レイジを押し潰す。
《我ハ抱ク者! 抱カレル事ナド、許サヌ!》
その怒号と共に、レイジの身体が音を立てて圧し潰されかけた。骨が砕け、血が噴き出し、視界が白に飛ぶ。
「ぐっ……があああああ!」
それでもレイジは笑った。血に濡れた顔で、苦痛に歪みながらも確かな笑みを浮かべた。
「……だから……言ったろ……。抱かれるんじゃない……俺が抱くんだ……!」
全身を引き裂かれながら、彼の腕はさらに強く閉じた。その瞬間、娼王の肉体が激しく痙攣し、広間に響く声が一斉に乱れた。
《や……め……ヨ……我ガ……ッ……》
仮面の顔が次々と割れ、黒い血を噴き出した。黄金の心臓ですら、まるで恐怖に震えるかのように脈動を乱した。
セレーナと影の女王は、その光景を涙に濡れた瞳で見つめた。希望と恐怖と悲しみがないまぜになり、胸を引き裂いた。
「レイジ……やめて……! 命が燃え尽きてしまう……!」
「愚か者! それ以上は……お前自身が……!」
だが、レイジは二人に目を向け、静かに頷いた。
「……心配するな……。俺の命は……もうお前たちに預けた……」
その言葉に、二人は嗚咽し、言葉を失った。
広間全体が震え、神殿が崩れ落ち始める。黄金の心臓が絶叫のように鳴り響き、無数の腕が最後の抵抗を見せた。
だが、その中心でレイジは全てを抱き締め続けていた。命を燃やし尽くしながら。
――決戦は、今まさに極限を迎えていた。
黄金の心臓が、雷鳴のような轟音を上げて鳴り響いた。神殿の壁は崩れ落ち、天井は裂け、赤黒い光が奔流となって流れ込む。その光に照らされ、娼王の仮面の群れが一斉に口を開いた。
《許サヌ……許サヌ……! 我ガ抱カレル事ナド……断ジテ許サヌ!》
無数の声が絶叫となって広間を揺るがした。その瞬間、黄金の心臓が脈動を変え、膨張し始めた。光の奔流が迸り、神殿全体がまるで内側から爆ぜようとしていた。
セレーナが青ざめた顔で叫んだ。
「……これは……心臓そのものを解き放とうとしているの!?」
影の女王の目も見開かれ、血に濡れた唇から言葉が洩れた。
「……愚か者……これは……大陸そのものを呑み込むつもりだ……!」
娼王は最終手段に出ていた。抱かれることを拒み、全てを呑み込む「終焉の波」を放とうとしていたのだ。
レイジの身体は既に限界だった。骨は砕け、皮膚は裂け、血が滝のように流れ続けていた。だが彼は腕を緩めなかった。むしろその腕にさらに力を込め、全身を燃やすかのように抱き締め続けた。
「……逃がすか……お前だけは……俺が……抱き潰す……!」
黄金の心臓が爆ぜ、光と闇が渦巻いた。無数の腕が狂ったように暴れ、レイジを引き裂こうとする。
《滅ベヨ……汝モ……仲間モ……大陸モ……全テ我ト共ニ!》
その怒号と共に、セレーナと影の女王の身体も宙に持ち上げられた。血に濡れた腕が二人を引き裂こうと迫る。
「いやあああ!」
「くっ……離セ……!」
絶望の声が広間を覆う。
だが、その中でレイジは最後の力を振り絞った。血に濡れた瞳が燃えるように輝き、掠れた声が響く。
「……ふざけるな……誰も……お前なんかに……渡すもんか……!」
その瞬間、彼の抱擁はさらに強くなった。性技の奔流が血と魂を燃料にして放たれ、娼王の肉体を内部から震わせた。仮面が次々に割れ、悲鳴が幾千も響く。
《や……め……ヨ……! 抱カレル事ハ……我ガ……!》
黄金の心臓が激しく脈動し、光が爆ぜる。広間が崩壊し、大地が軋む。
セレーナと影の女王は、その中心に立つレイジの姿を見た。血に塗れ、肉体は崩壊寸前。それでも彼は微笑み、ただ腕を広げ、娼王を抱き締め続けていた。
「……最後に抱くのは……俺だ……」
掠れた声は静かに、しかし確かに響いた。
――命の炎が、燃え尽きようとしていた。
セレーナは血に濡れた胸を押さえ、呻くように声を洩らした。
「……もう、限界よ……私たちには……抗う力なんて……」
視界は赤黒く染まり、吐血で喉が焼ける。もはや自分の命の灯は風前の灯だと悟っていた。
影の女王もまた、腕の嵐に絡め取られ、必死に闇糸を放とうとしたが、指先からは血が滴るばかりだった。
「……くっ……我が糸すら……届かぬのか……」
誇り高い王女であった彼女の瞳に、今は絶望しか映っていなかった。
その中でただ一人、レイジは血まみれになりながらも両腕を広げていた。全身の骨はきしみ、皮膚は裂け、臓腑は悲鳴を上げている。それでもなお、彼は微笑んでいた。
「……神をも抱いた王……か。だったら……俺が……お前を抱き潰してやる」
その宣言に、娼王の仮面が一斉に揺れた。千もの顔が嗤い、千もの声が同時に囁く。
《愚カナ……命ヲ賭シテ抱クト? 滑稽ナリ。汝ノ犠牲ハ無意味。抱クモノハ常ニ我。汝ハ抱カレル側……》
黄金の心臓が強く脈打つたび、無数の腕がレイジに絡みついた。だが彼は、その全てを自らの腕で掴み取り、血で濡れた手に力を込めた。
「……そうだ、抱かれる……でもな……俺は違う。俺は抱き返す……命ごと!」
腕が軋み、骨が砕ける音が響いた。喉から大量の血が噴き出した。それでもレイジは、死の予感を恐れなかった。むしろその死を、最後の力に変えようとしていた。
セレーナは涙を流し、かすれ声で叫んだ。
「やめて……そんなことをしたら……あなたは……!」
影の女王も呻きながら声を振り絞った。
「愚か者! 命を投げ出して勝つなど……勝利ではない……!」
だがレイジは二人を見つめ、微笑んだ。血に濡れ、崩れ落ちそうな顔でありながら、確固たる決意を宿していた。
「……犠牲を見てきた。仲間の涙を背負ってきた。だから……最後は俺が犠牲になる。俺が命を賭けて、この世界を……救う」
その言葉に、二人は声を失った。彼の決意はあまりに重く、そして美しかった。
娼王の仮面が再び嗤った。
《抱ク? 汝ガ我ヲ? 不可能ナリ! 汝ノ命ハココデ潰エル!》
神殿が震え、床の肉が波打ち、三人を呑み込もうとした。
だがレイジは両腕をさらに広げ、迫り来る闇を抱き締めるかのように叫んだ。
「来い……! 俺の全てを懸けて……お前を抱く!」
その瞬間、黄金の心臓の鼓動が止まり、広間に静寂が訪れた。
――命を賭した抱擁が、いま始まろうとしていた。
静寂を破ったのは、レイジの鼓動だった。
ドクン、とひとつ鳴るたびに、空気が揺れ、黒い肉の波が押し戻される。
「……感じるか……俺の全てを……」
レイジの声は掠れていたが、確かな響きを持っていた。これまで培ったすべての「性技」が、肉体の奥底で解き放たれていくのを自覚していた。
その瞬間、彼の身体から熱が放たれた。抱擁、愛撫、淫靡な技の数々――積み重ねてきた行為の記憶と技巧が、呪文のように彼の血肉を通じて放射される。
《……何ダ……此ノ感覚ハ……?》
娼王の仮面が一斉に震えた。無数の手がレイジを締め上げようと迫るが、逆に彼に抱かれた瞬間、震え、痙攣した。
「……これは……抗えぬ……」
セレーナは息を呑んだ。かつて彼女も、レイジの腕に抱かれ、その技に溺れたことがある。だが今、目の前にいるのは、彼女が知る以上の存在だった。
影の女王もまた、震える声を洩らした。
「……まさか……性技だけで……ここまでの……」
レイジの肉体は崩壊寸前だった。骨は軋み、臓腑は裂け、血が滲み続けている。だが彼の抱擁は、娼王の無数の腕を包み込み、その支配を逆転させ始めていた。
《馬鹿ナ……我ハ抱クモノ……抱カレル側ニハナリ得ヌ!》
娼王の声は怒号へと変わった。黄金の心臓が暴れ狂うように鼓動し、神殿の壁を裂いた。像が崩れ、黒い肉が洪水のように押し寄せる。
レイジは全身を抱き締め、呻くように叫んだ。
「……神をも抱いた王……なら……俺が神を超えて抱き尽くす!」
圧がさらに強まり、血が噴き出す。視界は赤に染まり、意識は薄れかける。だが彼の腕だけは緩まなかった。
セレーナは涙を流し、嗚咽した。
「……レイジ……やめて……そんなことをすれば……本当に……」
彼女は理解していた。この力は彼の命を燃やす炎そのものだと。
影の女王も声を振り絞った。
「お前が消えたら……我々は……!」
レイジは微笑み、血に濡れた顔で答えた。
「……大丈夫だ。俺は……消えても……お前たちの中に……残る」
その言葉に、二人は嗚咽し、力なく首を振った。
娼王は怒号を放ち、さらに無数の腕を解き放った。
《我ヲ抱クナド、許サヌ! 神ヲモ抱イタ我ガ、汝如キニ屈スハズ!》
黒い腕の奔流が広間を覆い尽くし、三人を呑み込もうとした。
だが、その中心でレイジの抱擁は揺るがなかった。むしろ彼の全身から迸る「性技の奔流」が、娼王の肉を痙攣させ、仮面の笑みを歪ませた。
「……ほら、感じてるだろ……これが……俺の全てだ……!」
黄金の心臓が、初めて怯えるように震えた。
黄金の心臓が乱打のように鳴り響き、神殿は崩壊寸前の震動に包まれていた。壁の神像はすべて割れ落ち、砕け散った石片さえ黒い肉に吸い込まれていく。天井の亀裂から赤黒い光が差し込み、広間全体を業火のごとく染めた。
レイジの両腕は血に濡れ、皮膚は裂け、骨は露わになりつつあった。抱き締めるたびに、自身の肉体が砕けていくのを感じていた。それでも彼は決して腕を緩めなかった。
「……俺は……抱かれる側じゃない……俺が……抱くんだ……!」
その声と同時に、彼の体から奔流のような熱が放たれた。快楽と絶望を刻み続けてきた「性技」の全てが、血と魂を燃料にして迸る。抱擁はただの力ではない。肉体を溶かし、精神を崩し、存在の根幹にまで侵入する圧倒的な「技」だった。
《馬鹿ナ……ッ! コノ我ガ……揺ラグ……?》
娼王の仮面の群れが一斉に歪み、数千の唇から悲鳴が洩れた。これまで神をも抱いてきた存在が、今初めて「抱かれる側」として揺らいでいた。
セレーナはその光景に息を呑んだ。
「……まさか……本当に……」
誓いを失いかけていた彼女の胸に、再び希望の炎が灯る。
影の女王も涙を滲ませ、かすれ声で呟いた。
「……愚か者……だが、その愚かさが……王をも超える……」
だが娼王は屈しなかった。黄金の心臓が強烈に鼓動し、広間に血の波が溢れ出す。無数の腕が暴風のように広がり、レイジを押し潰す。
《我ハ抱ク者! 抱カレル事ナド、許サヌ!》
その怒号と共に、レイジの身体が音を立てて圧し潰されかけた。骨が砕け、血が噴き出し、視界が白に飛ぶ。
「ぐっ……があああああ!」
それでもレイジは笑った。血に濡れた顔で、苦痛に歪みながらも確かな笑みを浮かべた。
「……だから……言ったろ……。抱かれるんじゃない……俺が抱くんだ……!」
全身を引き裂かれながら、彼の腕はさらに強く閉じた。その瞬間、娼王の肉体が激しく痙攣し、広間に響く声が一斉に乱れた。
《や……め……ヨ……我ガ……ッ……》
仮面の顔が次々と割れ、黒い血を噴き出した。黄金の心臓ですら、まるで恐怖に震えるかのように脈動を乱した。
セレーナと影の女王は、その光景を涙に濡れた瞳で見つめた。希望と恐怖と悲しみがないまぜになり、胸を引き裂いた。
「レイジ……やめて……! 命が燃え尽きてしまう……!」
「愚か者! それ以上は……お前自身が……!」
だが、レイジは二人に目を向け、静かに頷いた。
「……心配するな……。俺の命は……もうお前たちに預けた……」
その言葉に、二人は嗚咽し、言葉を失った。
広間全体が震え、神殿が崩れ落ち始める。黄金の心臓が絶叫のように鳴り響き、無数の腕が最後の抵抗を見せた。
だが、その中心でレイジは全てを抱き締め続けていた。命を燃やし尽くしながら。
――決戦は、今まさに極限を迎えていた。
黄金の心臓が、雷鳴のような轟音を上げて鳴り響いた。神殿の壁は崩れ落ち、天井は裂け、赤黒い光が奔流となって流れ込む。その光に照らされ、娼王の仮面の群れが一斉に口を開いた。
《許サヌ……許サヌ……! 我ガ抱カレル事ナド……断ジテ許サヌ!》
無数の声が絶叫となって広間を揺るがした。その瞬間、黄金の心臓が脈動を変え、膨張し始めた。光の奔流が迸り、神殿全体がまるで内側から爆ぜようとしていた。
セレーナが青ざめた顔で叫んだ。
「……これは……心臓そのものを解き放とうとしているの!?」
影の女王の目も見開かれ、血に濡れた唇から言葉が洩れた。
「……愚か者……これは……大陸そのものを呑み込むつもりだ……!」
娼王は最終手段に出ていた。抱かれることを拒み、全てを呑み込む「終焉の波」を放とうとしていたのだ。
レイジの身体は既に限界だった。骨は砕け、皮膚は裂け、血が滝のように流れ続けていた。だが彼は腕を緩めなかった。むしろその腕にさらに力を込め、全身を燃やすかのように抱き締め続けた。
「……逃がすか……お前だけは……俺が……抱き潰す……!」
黄金の心臓が爆ぜ、光と闇が渦巻いた。無数の腕が狂ったように暴れ、レイジを引き裂こうとする。
《滅ベヨ……汝モ……仲間モ……大陸モ……全テ我ト共ニ!》
その怒号と共に、セレーナと影の女王の身体も宙に持ち上げられた。血に濡れた腕が二人を引き裂こうと迫る。
「いやあああ!」
「くっ……離セ……!」
絶望の声が広間を覆う。
だが、その中でレイジは最後の力を振り絞った。血に濡れた瞳が燃えるように輝き、掠れた声が響く。
「……ふざけるな……誰も……お前なんかに……渡すもんか……!」
その瞬間、彼の抱擁はさらに強くなった。性技の奔流が血と魂を燃料にして放たれ、娼王の肉体を内部から震わせた。仮面が次々に割れ、悲鳴が幾千も響く。
《や……め……ヨ……! 抱カレル事ハ……我ガ……!》
黄金の心臓が激しく脈動し、光が爆ぜる。広間が崩壊し、大地が軋む。
セレーナと影の女王は、その中心に立つレイジの姿を見た。血に塗れ、肉体は崩壊寸前。それでも彼は微笑み、ただ腕を広げ、娼王を抱き締め続けていた。
「……最後に抱くのは……俺だ……」
掠れた声は静かに、しかし確かに響いた。
――命の炎が、燃え尽きようとしていた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる