65 / 70
第65話 ー光の果てに抱かれてー
しおりを挟む
崩れ落ちる神殿の奥で、黄金の心臓は狂ったように鼓動していた。
ドクン、ドクン――その一撃ごとに大地は裂け、空気は焼け、赤黒い光が世界を呑み込もうとしていた。
セレーナは血に濡れた手で胸を押さえ、震える声を洩らした。
「……もう、世界ごと……終わってしまう……」
瞳には絶望が映っていた。だが同時に、レイジの背を見つめるその眼差しは、祈りに似ていた。
影の女王もまた、力なく宙に吊られながら呻いた。
「……あやつ一人に……世界を背負わせるのか……」
唇は血に濡れ、声は掠れていた。それでも心の奥底で、彼の覚悟が全てを覆すかもしれないという直感が生まれていた。
レイジの身体は既に限界を超えていた。皮膚は裂け、骨は砕け、血が絶え間なく滴り落ちている。だがその腕だけは緩むことなく、むしろますます強く娼王を抱き締めていた。
「……もう十分だろ……。神を抱いた? なら次は……俺だ……」
その声は掠れていたが、神殿を震わせるほどの強さを持っていた。
《愚カナ……命ハ尽キル……汝モ……抱カレテ終ワル……!》
娼王の仮面の群れが一斉に絶叫した。黄金の心臓はさらに膨張し、爆発のような脈動が広間を引き裂いた。無数の腕が暴風と化し、レイジを引き裂こうと押し寄せる。
だが、その全てをレイジは自らの腕に抱き込んだ。血まみれの掌が肉を掴み、骨が砕けるたびに、その抱擁はさらに強固なものとなっていった。
「……お前を抱くために……俺はここに転生してきたんだ……!」
その言葉を聞いた瞬間、セレーナの胸に激しい衝撃が走った。涙が溢れ、声にならない嗚咽が漏れる。
「……レイジ……あなた……」
影の女王もまた、瞳を大きく見開いた。
「……転生の意味が……そのため……だったと……?」
娼王は仮面を震わせ、声を乱した。
《馬鹿ナ……我ハ抱クモノ……抱カレル側ニハ……!》
レイジは血の泡を吐き出しながら、それでも笑った。
「……そうだ……最後に抱かれるのは……お前だ……!」
広間を満たす赤黒い光が一斉に揺らぎ、娼王の無数の腕が痙攣した。黄金の心臓すら、恐怖に震えるように脈動を乱す。
レイジの命は、燃え尽きようとしていた。
それでも、その腕は一片の迷いもなく、娼王を抱き締め続けていた。
黄金の心臓が爆ぜるように鳴り響いた。
ドクン、ドクン、ドクン――その鼓動は大地を揺るがし、神殿の残骸を粉砕し、空を裂くほどの力を持っていた。
《認メヌ……認メヌ! 我ガ抱カレル事ナド、絶対ニ認メヌ!》
娼王の仮面の群れが一斉に絶叫した。無数の腕が嵐のように広間を覆い尽くし、鋼より硬く、炎より熱く、レイジを圧し潰そうと迫る。
レイジの身体は、既に限界を通り越していた。血が滝のように流れ、皮膚は裂け、骨は砕け、内臓は焼けただれている。それでも彼の両腕は緩まなかった。むしろ、その腕はさらに強く、娼王を抱き締めていた。
「……だから言ったろ……最後に抱かれるのは……お前だ……!」
その言葉と同時に、彼の胸の奥で炎が燃え上がった。
これまで積み重ねてきた「性技」の記憶、技術、情熱――すべてが血と魂を燃料にし、一つの奔流となって解き放たれた。
セレーナはその光景を目にして、息を呑んだ。
「……こんな……力が……レイジの中に……」
涙が頬を伝い、嗚咽が声にならなかった。
影の女王もまた、唇を噛み切り、声を震わせた。
「……愚か者……だが、その愚かさが……神すら超える……」
娼王の肉体が痙攣し、無数の腕が震えた。仮面の顔が次々に割れ、黒い血を噴き出す。黄金の心臓ですら、不規則な鼓動を刻み、恐怖に怯えるように揺れていた。
《馬鹿ナ……馬鹿ナ! 我ハ神ヲ抱イタ王! 抱カレル存在デハ……!》
その否定の声は、必死の悲鳴に近かった。
レイジは血まみれの顔で笑った。
「……違うな……。お前はもう……俺の腕の中で……ただの一つの……化け物だ……!」
黄金の心臓がさらに強く脈動し、神殿全体が崩れ落ちていく。天井は砕け、赤黒い光が大地を裂いた。
セレーナは嗚咽混じりに叫んだ。
「レイジ! それ以上は……あなたが燃え尽きてしまう!」
影の女王も血を吐きながら声を振り絞った。
「お前が死んで……何になる……! 我らは……!」
だがレイジは二人に目を向け、静かに言った。
「……俺は……死んでもいい……。お前たちが生き残れば……それで十分だ……」
その言葉に、二人の心は引き裂かれた。
黄金の心臓が最高潮に達し、膨張を続けた。
《滅ベヨ……! 汝モ……仲間モ……大陸モ……全テ抱イテ滅ボス!》
世界そのものが崩壊へと引きずり込まれる中、レイジは命の炎を限界まで燃やし上げた。
「……終わらせる……俺が……!」
その叫びと共に、彼の抱擁はさらに強くなった。命を賭して放たれたその力は、娼王の絶望的な抵抗すら呑み込んでいった。
――レイジの命は、燃え尽きる寸前にあった。
黄金の心臓が悲鳴を上げるように脈動した。規則正しいはずの鼓動は乱れ、まるで獣が喉を裂かれて喘ぐかのような震えを伴っていた。
《や……め……ヨ……我ガ……抱カレル事ハ……!》
無数の仮面が次々と割れ、黒い血と共に空気を震わせる悲鳴が漏れた。かつて神を抱き、世界を覆ってきた「原初の娼王」が、初めて「敗北」の影を帯びていた。
一方で、レイジの身体は完全に崩壊へ向かっていた。腕の骨は粉々に砕け、皮膚は裂け、臓腑からは絶え間なく血が溢れている。吐息は途切れ途切れで、もはや立っていることすら奇跡だった。
だが、その両腕だけは決して緩まなかった。
「……言っただろ……。最後に抱かれるのは……お前だ……」
その声は掠れていたが、確かに響いた。
セレーナは涙を滲ませ、必死に叫んだ。
「やめて……もう十分! それ以上は、あなたが……!」
彼女は分かっていた。このままではレイジが命を燃やし尽くし、二度と戻らぬ存在になると。だが止めることはできなかった。
影の女王も、血に濡れた唇を噛み切り、嗚咽混じりに呟いた。
「愚か者……その命を賭す愚かさが……我らを生かすというのか……」
黄金の心臓がさらに膨張し、爆ぜるように鼓動した。光の奔流が広間を満たし、壁も床も溶けていく。世界そのものが抱き潰されるかのようだった。
《滅ベヨ……! 汝ノ命モ……仲間モ……大陸モ……!》
娼王の怒号が轟く。だがその声は次第に悲鳴へと変わっていった。
レイジの腕の中で、娼王の肉体が激しく痙攣していた。抱かれるたびに力を削がれ、仮面の顔は次々に砕け散る。黄金の心臓すら、恐怖に怯えるかのように脈を乱し、ひび割れを走らせていた。
「……もう終わりだ……お前は……」
レイジの視界は赤黒く染まり、仲間の姿すら霞んでいた。呼吸は浅く、胸の炎は今にも消えようとしている。だがその瞳だけは、確固たる輝きを宿していた。
セレーナは涙を流し、声を震わせた。
「……お願い……帰ってきて……」
影の女王も嗚咽混じりに叫んだ。
「まだ……死ぬな……!」
だがレイジは微笑み、血に濡れた顔で言った。
「……大丈夫だ……俺は消えても……お前たちの中に残る……」
その瞬間、黄金の心臓がひときわ大きな鼓動を放ち、ついにひび割れから光が溢れ出した。
《や……めロ……! 我ハ……抱ク王……抱カレル側ニハ……!》
絶叫は悲鳴に変わり、神殿全体を揺るがした。
レイジの命は燃え尽きようとしていた。だが、その抱擁だけが確かな現実として残り、娼王を崩壊へと導いていた。
黄金の心臓がついに限界に達した。
大地を裂くような轟音とともに、ひび割れは全体へ広がり、内側から白と黒が入り混じった光が溢れ出した。
《や……めロ……我ハ……抱ク王……神ヲモ抱イタ王……ナゼ……人ノ子ニ……》
無数の仮面が一斉に砕け散り、悲鳴と共に黒い血を撒き散らす。その声は絶望と恐怖に染まり、もはや威厳のかけらもなかった。
レイジの腕は最後まで緩まなかった。砕けた骨で肉を裂かれながらも、血に塗れた掌で娼王の全てを抱き締め続けていた。
「……だから言ったろ……最後に抱かれるのは……お前だ……」
掠れた声は、確かに響いた。
黄金の心臓が爆ぜる。光の奔流が天井を突き破り、赤黒い空を貫いた。神殿全体が崩壊し、世界の大陸すら震えた。
娼王の仮面はすべて割れ落ち、黒い肉は崩壊し、かつて「神をも抱いた王」と呼ばれた存在は、ついにレイジの腕の中で沈黙した。
――勝利は確定した。
だがその代償は、あまりに大きかった。
セレーナが絶叫した。
「レイジ――っ!」
影の女王もまた、嗚咽と共に叫んだ。
「やめろ……やめてくれ……それ以上は……!」
二人の声は届かなかった。
レイジの身体はすでに限界を超えていた。血を吐き、瞳の光は薄れ、全身から命の灯が消えかけていた。それでも彼は微笑んでいた。
「……これで……みんな……救える……」
その言葉は、彼自身の終焉の宣告でもあった。
セレーナは必死に手を伸ばした。
「だめよ! 消えないで! あなたがいなければ……誓いは……!」
影の女王も涙を流し、喉が裂けるような声で叫んだ。
「愚か者……お前まで……犠牲になるな……!」
だがレイジは二人に最後の微笑みを向けた。血に濡れた唇で、静かに言葉を紡いだ。
「……誓いは……お前たちが……続けてくれればいい……俺は……魂だけになっても……ずっと……そばにいる……」
セレーナの頬を涙が流れ落ち、影の女王の瞳からも血混じりの涙が零れた。
黄金の心臓が最後の脈動を放ち、粉々に砕け散った。光が奔流となって広間を包み、すべてを洗い流していく。
その中で、レイジの肉体は静かに崩れ落ちていった。
だが――その場に一つだけ残ったものがあった。
血に濡れた床に、淡く光を宿した「魂の残滓」。
セレーナはそれを見て、嗚咽を洩らした。
「……やっぱり……あなたは……ここにいる……」
影の女王も震える声で呟いた。
「愚か者……。だが、その魂は……永遠に我らを抱き締めているのだな……」
光が収まり、神殿は瓦礫と化した。
大陸の崩壊が始まろうとしていた。
――だが、最後の戦いは終わった。
レイジは命を賭して、原初の娼王を抱き潰したのだ。
ドクン、ドクン――その一撃ごとに大地は裂け、空気は焼け、赤黒い光が世界を呑み込もうとしていた。
セレーナは血に濡れた手で胸を押さえ、震える声を洩らした。
「……もう、世界ごと……終わってしまう……」
瞳には絶望が映っていた。だが同時に、レイジの背を見つめるその眼差しは、祈りに似ていた。
影の女王もまた、力なく宙に吊られながら呻いた。
「……あやつ一人に……世界を背負わせるのか……」
唇は血に濡れ、声は掠れていた。それでも心の奥底で、彼の覚悟が全てを覆すかもしれないという直感が生まれていた。
レイジの身体は既に限界を超えていた。皮膚は裂け、骨は砕け、血が絶え間なく滴り落ちている。だがその腕だけは緩むことなく、むしろますます強く娼王を抱き締めていた。
「……もう十分だろ……。神を抱いた? なら次は……俺だ……」
その声は掠れていたが、神殿を震わせるほどの強さを持っていた。
《愚カナ……命ハ尽キル……汝モ……抱カレテ終ワル……!》
娼王の仮面の群れが一斉に絶叫した。黄金の心臓はさらに膨張し、爆発のような脈動が広間を引き裂いた。無数の腕が暴風と化し、レイジを引き裂こうと押し寄せる。
だが、その全てをレイジは自らの腕に抱き込んだ。血まみれの掌が肉を掴み、骨が砕けるたびに、その抱擁はさらに強固なものとなっていった。
「……お前を抱くために……俺はここに転生してきたんだ……!」
その言葉を聞いた瞬間、セレーナの胸に激しい衝撃が走った。涙が溢れ、声にならない嗚咽が漏れる。
「……レイジ……あなた……」
影の女王もまた、瞳を大きく見開いた。
「……転生の意味が……そのため……だったと……?」
娼王は仮面を震わせ、声を乱した。
《馬鹿ナ……我ハ抱クモノ……抱カレル側ニハ……!》
レイジは血の泡を吐き出しながら、それでも笑った。
「……そうだ……最後に抱かれるのは……お前だ……!」
広間を満たす赤黒い光が一斉に揺らぎ、娼王の無数の腕が痙攣した。黄金の心臓すら、恐怖に震えるように脈動を乱す。
レイジの命は、燃え尽きようとしていた。
それでも、その腕は一片の迷いもなく、娼王を抱き締め続けていた。
黄金の心臓が爆ぜるように鳴り響いた。
ドクン、ドクン、ドクン――その鼓動は大地を揺るがし、神殿の残骸を粉砕し、空を裂くほどの力を持っていた。
《認メヌ……認メヌ! 我ガ抱カレル事ナド、絶対ニ認メヌ!》
娼王の仮面の群れが一斉に絶叫した。無数の腕が嵐のように広間を覆い尽くし、鋼より硬く、炎より熱く、レイジを圧し潰そうと迫る。
レイジの身体は、既に限界を通り越していた。血が滝のように流れ、皮膚は裂け、骨は砕け、内臓は焼けただれている。それでも彼の両腕は緩まなかった。むしろ、その腕はさらに強く、娼王を抱き締めていた。
「……だから言ったろ……最後に抱かれるのは……お前だ……!」
その言葉と同時に、彼の胸の奥で炎が燃え上がった。
これまで積み重ねてきた「性技」の記憶、技術、情熱――すべてが血と魂を燃料にし、一つの奔流となって解き放たれた。
セレーナはその光景を目にして、息を呑んだ。
「……こんな……力が……レイジの中に……」
涙が頬を伝い、嗚咽が声にならなかった。
影の女王もまた、唇を噛み切り、声を震わせた。
「……愚か者……だが、その愚かさが……神すら超える……」
娼王の肉体が痙攣し、無数の腕が震えた。仮面の顔が次々に割れ、黒い血を噴き出す。黄金の心臓ですら、不規則な鼓動を刻み、恐怖に怯えるように揺れていた。
《馬鹿ナ……馬鹿ナ! 我ハ神ヲ抱イタ王! 抱カレル存在デハ……!》
その否定の声は、必死の悲鳴に近かった。
レイジは血まみれの顔で笑った。
「……違うな……。お前はもう……俺の腕の中で……ただの一つの……化け物だ……!」
黄金の心臓がさらに強く脈動し、神殿全体が崩れ落ちていく。天井は砕け、赤黒い光が大地を裂いた。
セレーナは嗚咽混じりに叫んだ。
「レイジ! それ以上は……あなたが燃え尽きてしまう!」
影の女王も血を吐きながら声を振り絞った。
「お前が死んで……何になる……! 我らは……!」
だがレイジは二人に目を向け、静かに言った。
「……俺は……死んでもいい……。お前たちが生き残れば……それで十分だ……」
その言葉に、二人の心は引き裂かれた。
黄金の心臓が最高潮に達し、膨張を続けた。
《滅ベヨ……! 汝モ……仲間モ……大陸モ……全テ抱イテ滅ボス!》
世界そのものが崩壊へと引きずり込まれる中、レイジは命の炎を限界まで燃やし上げた。
「……終わらせる……俺が……!」
その叫びと共に、彼の抱擁はさらに強くなった。命を賭して放たれたその力は、娼王の絶望的な抵抗すら呑み込んでいった。
――レイジの命は、燃え尽きる寸前にあった。
黄金の心臓が悲鳴を上げるように脈動した。規則正しいはずの鼓動は乱れ、まるで獣が喉を裂かれて喘ぐかのような震えを伴っていた。
《や……め……ヨ……我ガ……抱カレル事ハ……!》
無数の仮面が次々と割れ、黒い血と共に空気を震わせる悲鳴が漏れた。かつて神を抱き、世界を覆ってきた「原初の娼王」が、初めて「敗北」の影を帯びていた。
一方で、レイジの身体は完全に崩壊へ向かっていた。腕の骨は粉々に砕け、皮膚は裂け、臓腑からは絶え間なく血が溢れている。吐息は途切れ途切れで、もはや立っていることすら奇跡だった。
だが、その両腕だけは決して緩まなかった。
「……言っただろ……。最後に抱かれるのは……お前だ……」
その声は掠れていたが、確かに響いた。
セレーナは涙を滲ませ、必死に叫んだ。
「やめて……もう十分! それ以上は、あなたが……!」
彼女は分かっていた。このままではレイジが命を燃やし尽くし、二度と戻らぬ存在になると。だが止めることはできなかった。
影の女王も、血に濡れた唇を噛み切り、嗚咽混じりに呟いた。
「愚か者……その命を賭す愚かさが……我らを生かすというのか……」
黄金の心臓がさらに膨張し、爆ぜるように鼓動した。光の奔流が広間を満たし、壁も床も溶けていく。世界そのものが抱き潰されるかのようだった。
《滅ベヨ……! 汝ノ命モ……仲間モ……大陸モ……!》
娼王の怒号が轟く。だがその声は次第に悲鳴へと変わっていった。
レイジの腕の中で、娼王の肉体が激しく痙攣していた。抱かれるたびに力を削がれ、仮面の顔は次々に砕け散る。黄金の心臓すら、恐怖に怯えるかのように脈を乱し、ひび割れを走らせていた。
「……もう終わりだ……お前は……」
レイジの視界は赤黒く染まり、仲間の姿すら霞んでいた。呼吸は浅く、胸の炎は今にも消えようとしている。だがその瞳だけは、確固たる輝きを宿していた。
セレーナは涙を流し、声を震わせた。
「……お願い……帰ってきて……」
影の女王も嗚咽混じりに叫んだ。
「まだ……死ぬな……!」
だがレイジは微笑み、血に濡れた顔で言った。
「……大丈夫だ……俺は消えても……お前たちの中に残る……」
その瞬間、黄金の心臓がひときわ大きな鼓動を放ち、ついにひび割れから光が溢れ出した。
《や……めロ……! 我ハ……抱ク王……抱カレル側ニハ……!》
絶叫は悲鳴に変わり、神殿全体を揺るがした。
レイジの命は燃え尽きようとしていた。だが、その抱擁だけが確かな現実として残り、娼王を崩壊へと導いていた。
黄金の心臓がついに限界に達した。
大地を裂くような轟音とともに、ひび割れは全体へ広がり、内側から白と黒が入り混じった光が溢れ出した。
《や……めロ……我ハ……抱ク王……神ヲモ抱イタ王……ナゼ……人ノ子ニ……》
無数の仮面が一斉に砕け散り、悲鳴と共に黒い血を撒き散らす。その声は絶望と恐怖に染まり、もはや威厳のかけらもなかった。
レイジの腕は最後まで緩まなかった。砕けた骨で肉を裂かれながらも、血に塗れた掌で娼王の全てを抱き締め続けていた。
「……だから言ったろ……最後に抱かれるのは……お前だ……」
掠れた声は、確かに響いた。
黄金の心臓が爆ぜる。光の奔流が天井を突き破り、赤黒い空を貫いた。神殿全体が崩壊し、世界の大陸すら震えた。
娼王の仮面はすべて割れ落ち、黒い肉は崩壊し、かつて「神をも抱いた王」と呼ばれた存在は、ついにレイジの腕の中で沈黙した。
――勝利は確定した。
だがその代償は、あまりに大きかった。
セレーナが絶叫した。
「レイジ――っ!」
影の女王もまた、嗚咽と共に叫んだ。
「やめろ……やめてくれ……それ以上は……!」
二人の声は届かなかった。
レイジの身体はすでに限界を超えていた。血を吐き、瞳の光は薄れ、全身から命の灯が消えかけていた。それでも彼は微笑んでいた。
「……これで……みんな……救える……」
その言葉は、彼自身の終焉の宣告でもあった。
セレーナは必死に手を伸ばした。
「だめよ! 消えないで! あなたがいなければ……誓いは……!」
影の女王も涙を流し、喉が裂けるような声で叫んだ。
「愚か者……お前まで……犠牲になるな……!」
だがレイジは二人に最後の微笑みを向けた。血に濡れた唇で、静かに言葉を紡いだ。
「……誓いは……お前たちが……続けてくれればいい……俺は……魂だけになっても……ずっと……そばにいる……」
セレーナの頬を涙が流れ落ち、影の女王の瞳からも血混じりの涙が零れた。
黄金の心臓が最後の脈動を放ち、粉々に砕け散った。光が奔流となって広間を包み、すべてを洗い流していく。
その中で、レイジの肉体は静かに崩れ落ちていった。
だが――その場に一つだけ残ったものがあった。
血に濡れた床に、淡く光を宿した「魂の残滓」。
セレーナはそれを見て、嗚咽を洩らした。
「……やっぱり……あなたは……ここにいる……」
影の女王も震える声で呟いた。
「愚か者……。だが、その魂は……永遠に我らを抱き締めているのだな……」
光が収まり、神殿は瓦礫と化した。
大陸の崩壊が始まろうとしていた。
――だが、最後の戦いは終わった。
レイジは命を賭して、原初の娼王を抱き潰したのだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる