オーバードライブ ・エロス〜性技カンストの俺が魔王をイカせるまで帰れない世界〜

ぽせいどん

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第70話 ー魂は傍らにー ~歴史を紡ぐ抱擁~

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 王都に凱旋してから数日が過ぎた。
 祭りのような熱狂は徐々に落ち着き、街は日常を取り戻しつつあった。だが人々の心には、確かに新しい希望の灯が灯っていた。恐怖の時代を終わらせた者たちの存在は、もはや伝説として語られ始めていた。

 セレーナは王宮の高殿に立ち、遠く街並みを見下ろしていた。朝霧の中に広がる王都の屋根が、まるで新しい未来を象徴するかのように輝いていた。
 だが、その瞳には哀しみが消えることはなかった。

 「……リリィナ、カリーネ、そしてレイジ。あなたたちがいないのに、この景色はこんなにも美しい……」

 その胸を締めつけるのは、深い喪失感だった。勝利の喜びを抱きしめるほど、犠牲の大きさが心に迫ってくる。彼女は涙を拭いながら、小さな声で続けた。
 「……でも、あなたたちが繋いでくれた未来なの。私が守っていくわ」

 背後から足音が響いた。影の女王が現れ、静かに隣に立った。
 「……また泣いていたか」

 セレーナは笑みを作った。
 「強くなろうとしているのに、なかなかうまくいかないの」

 影の女王は視線を街に向け、低く呟いた。
 「強さとは、涙を堪えることではない。涙を抱きながらも前に進むことだ。……愚か者が教えてくれただろう」

 その言葉に、セレーナの胸に温かな記憶が蘇った。
 ――レイジが、無茶をしながらも仲間を守り抜いた姿。誰よりも不器用で、誰よりも熱く、最後にすべてを賭して娼王を抱き潰した姿。

 涙がこぼれ落ちたが、同時に微笑みが広がった。
 「ええ……。レイジは、最後まで私たちに強さを教えてくれたわ」

 その時だった。
 バルコニーを吹き抜けた風が、不思議な温もりを帯びて二人を包んだ。頬を撫でるその感触は、確かに知っているものだった。

 セレーナは息を呑み、胸に手を当てた。
 「……レイジ……?」

 影の女王も目を閉じ、かすかに微笑んだ。
 「……ああ。あの愚か者の魂は、まだここにいる」

 風は優しく彼女たちの髪を揺らし、まるで見守るように静かに吹き去っていった。

 セレーナは涙を零しながらも、笑顔を浮かべた。
 「……ありがとう。あなたが傍にいてくれるなら、私はきっと大丈夫」

 影の女王は隣に立ち、短く頷いた。
 「愚か者の魂は、お前を見守っている。……そして私も」

 二人の影が朝日に溶け合い、長く伸びていった。
 それはまるで、失われた仲間たちも共にそこに立っているかのように見えた。

 ――新たな王国の物語は、ここから始まる。

 玉座の間には静かな光が満ちていた。
 豪奢な装飾に囲まれたその場所に、セレーナは一人腰を下ろしていた。
 ――王女から女王へと歩み出す、その最初の一歩を踏み出すために。

 民衆は彼女を「英雄」と呼び、王宮の重臣たちは「次代の女王」としての資質を口にする。けれどセレーナ自身の胸には、重く、深い不安があった。

 (……私に務まるのだろうか。レイジや仲間たちのように、誰かを守り抜くことができるのだろうか)

 そのとき、背後から気配が寄り添った。影の女王が、音もなく歩み寄っていた。
 「顔に出ているぞ」

 セレーナは振り返り、弱い笑みを浮かべた。
 「やっぱり……隠せないわね」

 影の女王は腕を組み、冷たくも確かな声で告げた。
 「女王になるということは、恐怖に耐え続けることだ。だが……お前はすでに多くを失った。失った者の痛みを知る者が、誰よりも人を導けるのだ」

 セレーナは胸に手を当て、息を呑んだ。
 「……私にできる?」

 影の女王は短く答えた。
 「できる。できぬなら、我が支える。それが参謀の務めだ」

 その言葉に、セレーナの瞳に涙が滲んだ。
 「……ありがとう。あなたがいてくれるなら、私は……きっと」

 影の女王は軽く首を横に振った。
 「礼は不要だ。これは愚か者の遺志でもある。あの男は最後にすべてを賭してこの世界を守った。……その魂はまだ我らの傍にある」

 そう告げた瞬間、広間に吹き抜けた風が、二人の髪を揺らした。
 温かな風――まるでレイジがそこにいるかのように。

 セレーナは思わず笑みをこぼした。
 「……レイジ。あなたは本当に、まだここにいるのね」

 影の女王も瞳を閉じ、低く呟いた。
 「……ああ、愚か者め。お前の魂が背を押している。ならば、私もここに残る意味がある」

 二人の間に沈黙が流れた。だがそれは、悲しみではなく確かな絆の沈黙だった。

 やがてセレーナは立ち上がり、玉座に視線を向けた。
 「私はこの座に就く。女王として、皆を導く。そして……あなたは隣で参謀として、影を抱きしめていて」

 影の女王は静かに頷いた。
 「よかろう。光が掲げられる限り、影もまたそこにある」

 その言葉に、セレーナの心に力強い決意が宿った。
 (……そうね。私はもう一人じゃない。仲間の犠牲と魂が、この国を包んでいる。だから私は進める)

 窓の外から差し込む光が二人を照らした。
 それはまるで、失われた仲間たちが微笑みながら見守っているかのようだった。

 ――女王と参謀、光と影。
 その絆の誓いが、確かに未来を照らしていた。

 王都の広場には、かつてないほど多くの人々が集まっていた。
 王城の高い壇上には黄金の装飾が施され、その中央にセレーナが立っていた。彼女の隣には影の女王が控え、兵士や重臣たちが整列している。鐘楼の鐘が鳴り響き、人々のざわめきが次第に静まっていった。

 セレーナは胸に手を当て、深く息を吸い込んだ。
 (……ここからが始まり。王女ではなく、女王として)

 彼女はまっすぐに群衆を見渡し、声を響かせた。
 「王都の民よ! 私はセレーナ。このたび、女王としてこの国を導くことを誓います!」

 その言葉に、広場全体が揺れるほどの歓声が上がった。
 「セレーナ女王万歳!」
 「女王陛下に栄光を!」

 セレーナは続けて力強く言葉を紡いだ。
 「この勝利は、私一人のものではありません。リリィナ、カリーネ、そして……レイジ。彼らが命を賭して繋いでくれた未来です。どうか、皆も忘れないでください。犠牲を、痛みを、そして希望を!」

 一瞬の沈黙の後、民衆の目に涙が浮かび、次第にその声が大きな合唱となった。
 「リリィナ! カリーネ! レイジ!」
 人々はその名を呼び、失われた英雄たちを讃えた。

 セレーナの瞳からは涙が溢れた。だが、その涙は悲しみではなく、確かな誇りと未来への誓いを含んでいた。

 隣に立つ影の女王はその光景を見つめ、低く呟いた。
 「……愚か者ども。ようやく、お前たちの犠牲がこの王都に刻まれたな」

 その瞬間、広場を吹き抜ける風がまたも温もりを帯びていた。旗がはためき、花びらが舞い上がり、まるで仲間たちの魂がそこにいるかのように群衆を包み込んだ。

 セレーナはその風を全身で受け止め、空を仰いだ。
 「……レイジ、感じるわ。あなたがここにいるって」

 影の女王も同じ空を見上げ、目を閉じた。
 「愚か者……見守っていろ。光と影が、必ずこの国を未来へ導く」

 民衆の歓声と、魂の温もりがひとつになった瞬間、広場はまるで聖域のように輝いていた。

 セレーナは涙を拭い、声を張り上げた。
 「これより私は、この国の女王として歩みます! 影の女王を参謀とし、皆と共に新しい未来を築いていきましょう!」

 群衆の大歓声が再び広場を揺らした。
 「女王陛下万歳!」
 「参謀に栄光を!」

 その声の中に、セレーナも影の女王も、確かに仲間たちの存在を感じていた。リリィナの無邪気な笑い声、カリーネの毅然とした微笑み、そして――レイジの熱い叫び。

 「……俺が抱いてやる! この世界を!」

 幻のように蘇るその声が、二人の胸に響いた。

 セレーナは涙に濡れた笑顔で囁いた。
 「ええ……あなたはまだ、ここにいる」

 影の女王は深く頷き、心の奥で同じ言葉を繰り返した。
 「魂は傍らに。決して消えはせぬ」

 ――王都は歓声に満ち、未来の扉が今、力強く開かれていった。

 その夜、王都は遅くまで人々の歓声と歌声に包まれていた。
 灯火が町を照らし、笑顔と涙が交錯する。戦乱と恐怖の時代を終わらせた女王の即位は、王国全土にとって新しい時代の幕開けを告げるものだった。

 だが、王宮の高殿では静かな時間が流れていた。
 セレーナは夜風を受けながらバルコニーに立ち、遠くに広がる光の海を見下ろしていた。祭りの喧噪が夢のように広がっているが、その瞳には柔らかな涙が浮かんでいた。

 「……リリィナ、カリーネ、レイジ。あなたたちがいない夜は、とても広くて、寒いわ」

 言葉は風に溶け、夜空に消えていった。
 その隣に、影の女王が歩み出てきた。彼女は相変わらず冷ややかな顔をしていたが、その眼差しはどこか優しさを含んでいた。

 「……また泣いているのか、女王殿下」

 セレーナは苦笑した。
 「女王になったのに、まだ泣いてばかりね」

 影の女王は夜空を見上げ、静かに言った。
 「泣くことを恐れるな。愚か者が教えてくれただろう。涙は弱さではなく、強さの証だと」

 その言葉に、セレーナの胸が熱くなった。レイジの不器用な笑顔が、まるでそこに浮かんでいるかのようだった。

 「……ええ。あの人は、最後までそうやって私たちを導いてくれた」

 バルコニーを吹き抜ける風が、優しく二人を撫でた。
 それはただの風ではなかった。温かく、どこか懐かしい気配を帯びた風――。

 セレーナは思わず微笑み、胸に手を当てた。
 「……レイジ。あなたはまだ、ここにいるのね」

 影の女王も瞳を閉じ、低く囁いた。
 「魂は消えぬ。お前の隣に立ち、我の隣に立ち……愚か者は、この世界に刻まれ続けている」

 二人の間に静寂が訪れた。だが、その沈黙は寂しさではなく、確かな安心に満ちていた。

 セレーナは涙を拭い、まっすぐ夜空を見上げた。
 「……これから先、私たちは決して一人ではない。光と影、そして魂が傍らにある。ならば私は、女王としてこの国を守り抜く」

 影の女王は口元に微笑を浮かべ、低く言った。
 「我も参謀として影を抱こう。……愚か者が築いた道を、共に歩もうではないか」

 夜空に星々が輝き、そのひとつがひときわ強く瞬いた。
 まるでレイジの魂が微笑んでいるかのように。

 セレーナはその星を見つめ、静かに囁いた。
 「レイジ……あなたの魂は確かにここにある。だから私は、もう迷わない」

 影の女王も星に目を向け、短く頷いた。
 「愚か者……見守れ。我らはお前の遺した未来を決して裏切らぬ」

 ――こうして、異世界に転生したひとりの男の物語は終わりを迎えた。
 だが彼の魂は消えず、仲間の傍らにあり続けた。

 光と影が手を取り合い、未来を紡ぐ王国に。
 彼の存在は永遠に刻まれている。

 そして、人々の心にいつまでも響いていた。
 ――「神をも抱いた王を、俺が抱く!」
 その叫びと共に。
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