すべてkissのせい~愛されて甘やかされて

早河 晶

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~はじまり

14話 はじめてのデート

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メグミを送り出して食器を洗い片付けをし、シャワーを浴びて、メグミはどんな服装を選んでくるのかと楽しみにしつつ、出かける用意を済ませた。

メグミは、自転車に乗り出来る限り急いで、でも危険な真似はせずにアパートに帰った。
帰る途中も頭の中では、何を着ていくか、何と組み合わせるかで頭がいっぱいだった。

自宅に着くとすぐに、頭の中で思いついた服を数着取り出し、何度か着たり脱いだりを繰り返し、なんとか決めると、次は髪の毛をどうするか鏡の前で悩む。首をゆったり覆うタイプのニットのワンピースだから、肩まで伸びた髪とちょっと相性が悪い。かといって、一つにまとめるスタイルだと、いつもの仕事モードになってしまう。髪の毛を持ってあっちに引っ張ったりこっちに引っ張ったりして、悩んだ末、いっそ服を取り換えようかとも思ったけれど、このワンピースをタモツに見せたいし、うーむと悩んで結局、両サイドの髪だけを後ろでまとめる大人しめのスタイルに決めた。

メイクはせず、ピンクのリップだけを軽く塗って、最後に鏡に向かってニッコリ笑ってみた。タモツに言われた通り。
当たり前だが、鏡の中の自分も、にっこり笑う。
可愛いかどうかはともかく、タモツが可愛いと言ってくれるのだから、それを信じよう。それを否定することは、彼の言うことを否定することに繋がってしまう。

どこに連れて行ってくれるかわからないけれど、足元が冷えないように厚手のタイツを履いて、靴はショートブーツに決めた。
ワンピースは膝上のミニだから、バランスは良いだろうと思う。

・・・お迎え、まだかな。
なんだかドキドキしてきちゃった。体は隅々まで見られてしまっているのに、それでもなお、ドキドキしてしまう自分がいて、それがちょっと嬉しい。

そんなことを思いながら、数秒ごとに時計を見てしまうメグミだった。

そして、まちわびた電話が鳴り(タモツは無事にメグミの電話番号を入手した)、タモツの到着を知ると、いそいそと家を出た。

外では、車の脇にタモツが立って待っている。
タモツは、小走りで駆け寄ってくるメグミをじっくり眺めたが、分厚いコートを着ており、その裾からちらりと見えるニットのスカートと、タイツを履いた足、ショートブーツしか分からなかった。

助手席のドアを開け
「車の中は暖かいから、コートは脱いだ方がいい。でも、足元が冷えるといけないから、コートは膝に置くといいよ」と勧めた。
素直に従ってコートを脱ぐと、ニットはワンピースだと判明した。
ニットのワンピースは体のラインにぴたりとそって、実にセクシーで可愛らしかった。

運転席に座り、デートに出発だ。

車を運転しながら、横目でちらりちらりとメグミを見る。コートを膝の上に置くことを進めたのは失敗だった。あのスカートの長さを考えると、コートがなければ座席に座るメグミの足が堪能出来たのに。などと残念に思っていた。

一方メグミは、運転するタモツの横顔をうっとりと眺めた。
正直、タモツがかっこよすぎて正面から見ると恥ずかしいし、見られているのも恥ずかしい。だから今朝、寝ているすきにと見ていた。今は、運転しているから横顔なので、見放題だ。一瞬こちらを見るので目が合うけれど、ほんの一瞬だから平気。
それに、長袖で隠れているのが残念だけど、あの腕。あのたくましい腕が素敵すぎる。あの手で触れられていると思うと、すごくドキドキして、変な感じになってしまうから、昨日、あんなことを・・・思い出したらすごく恥ずかしくなって顔が赤くなって暑くなってしまった。両手を頬に当て、身もだえしてしまうメグミ。

女性が男性の腕や手に弱いのは、やはりその手に抱かれることを、潜在意識で考えてしまうからだろうか。
メグミもご多分に漏れず、タモツの腕に弱かった。
そして、シフトレバーを握るタモツの手に、そっと自分の手を重ねた。
すると、あっという間に手の位置が逆になり、タモツの手の下に自分の手が置かれたことに驚くメグミ。
「えっ?」と声に出すと、タモツが一瞬メグミの方を見て、にっこりと笑った。

この、『運転中の彼が、シフトレバーごと彼女の手を握る』。というのは、昔からある光景だ。
もし手を握り返してくれなかったら、その彼には脈がないし、車の運転バカには怒られる可能性もあるから注意が必要だ。
だが、タモツはそのどちらでもないので、喜んでメグミの手を握った。

手のふれあいでドキドキする段階は、体をつなぎ合った二人にはとうの昔に過ぎたと思うだろうか。そう思うのは全くの間違いで、シチュエーションが異なれば、ドキドキしてしまうもので、メグミも初々しくドキドキして、そして何よりうれしかった。

「くるま・・・」
「ん?」
「車、ドライブって思ってなかったから、ちょっとびっくりしました」
「意外だった?実はこれね、友人から借りたんだよ」
「そうなんですか」
「そう。近くに住んでいる友人がね、車好きなんだけど、仕事が忙しくて、今も地方に行ってて、忙しくて車に乗れず、でも乗らないと傷むから、貸してやるからたまに乗ってくれって言われてて、ごくたまに借りてるんだよ」
「へー。車って維持費が大変だけど、それでも持っていたいんですね」
「そうみたいだね。あれ、メグミも免許持ってる?」

維持費が大変なんて、車の運転が出来なければ知らない情報だ。
「はい。田舎で就職するには車の免許は必須で、みんな高校卒業前の18歳になるタイミングでとれるように、早い人は夏休みに車高に通ったりして、でも、わたしは二月生まれで、仮免テストとかに落ちたりして、免許をとれたのは春になってからでした。だから、免許はもってても、車はほとんど運転してないんですよ」
「高校卒業してすぐ、東京に出てきたの?」
「いえ、最初は地元の小さな会社に就職したんです。そんなに遠くなかったし、自分の車を買うほどでもなかったので自転車通勤してました。
だけど、事務職って、全然向いていなくて、その会社の業務自体に興味があったから選んだんですけれど、事務って、毎日同じようで、仕事はつまらないし、その会社の人たちって、その場にいない人の悪口を言うんです。他に話すことがないからかもしれませんけれど、それで堪えられなくなって、三か月くらいで辞めちゃったんです」
「あっという間だね。仕事が楽しくなる前って感じだけど、人間関係は重要だもんなー」
ちょっと自分を振り返るタモツ。五年堪えたのは、仕事を覚えたかったからで、それがなければ自分もさっさと逃げ出していたかもしれない、と思う。
「はい。自分でも駄目だなぁって思うんですけど、わたし、嫌なことは本当に出来なくて、一回嫌って思うと、もうダメなんです。嫌って思わなければ、なんでも出来るんですけどね」
「あぁー」
そう言われると、いろいろ納得してしまうタモツ。なんでも受け入れるのかと思っていたけど、そうじゃないんだ。
「もしかして、実は頑固者だったりする?」
「あぁ、それよく家族に言われます。お前は頑固だって。自分ではそういうつもりもないんですけど・・・そうですよね、頑固かもしれないですね」
「じゃあ、俺もメグミに嫌って思われないようにしないと」
握った手に、ちょっと力を込めると、嬉しそうに微笑み
「タモツさんを嫌って思うこと、ないと思いますよー」と答える。
「そうかな?」
「はいっ」
きっぱり言い切ると、ふふふとメグミは楽しそうに笑った。

「運転してみたい?してみる?」
「いえっこんな車、怖くて運転できませんよ」
この車は、メグミには詳しいことはよくわからないけれど高級そうに見える。何しろ左ハンドルなのだ。
「実家には車が何台かあったので、数回運転しましたけど・・・国産の大衆車ですよ。
それにわたし仮免の試験や、本免の試験も一回で通らなかったくらいで、あんまりセンスがないみたいです」
「ふーん。車が何台もってことは、家族はみんな運転できるの?」
「はい。祖母から姉まで、免許を持っているのは全員出来ますし、みんな上手いですよ」
田舎に住んでいると、どうしても移動は車になってしまうため、免許を取ると自転車に乗るような手軽さでみんな車に乗る。
祖母は山道が得意だし、姉も軽自動車を自分の足のごとく乗りこなしていた。
見た目も平凡、取り柄もなく、車の運転もダメと、メグミは自分を卑下してしまう要因に事欠かなかった。

ちょっと沈んでしまったメグミを見て、慌てて話題を変えようと
「ところで、その服すごく可愛いね」
と、ほめてみるタモツ。
「ありがとうございます。苦労して作ったので、ほめられると嬉しいです」
とたんにメグミは明るく笑顔になって答えた。
「えっ?・・・作った?」
実を言うとしっかりと見れていないのだが、信号待ちのタイミングでちらちらと見ていたその服は、パッと見ただけでも複雑な編み目のニットでかなり手が込んでいるように思える。メグミはそれを自分で作ったというのか?
「そうなんですよ。祖母が持っていた古い編み物雑誌に載っていたデザインで、すごく可愛いから作ってみたんです。自分の体に合うように製図しなおしたり、着心地の悪い部分を修正したり、スカートの部分も本当はタイトスカートなのですけど、腰の辺りから少しだけ広がるようにしたりで、何度も編み直した力作です」
鼻息も荒く、かなり自慢げだ。
「すっすごいね」
メグミの言っていることがほとんどわからなかったタモツだが、なんだかすごいことだけは分かった。
「実家にいたら、祖母が手直しなど手伝ってくれたと思うのですが、あ、うちの祖母は本当に何でも作れるんですよ。でも、これはこっちに来てから作ったので、全部自分でやらないといけなくて、大変でした。しかも、作ったものの、結局着ていくところなんかなくて・・・だから、今日やっと着ることが出来てうれしいです」
にこにこと嬉しそうに笑うメグミを見て
「ぷっ」と吹き出してしまった。
「え?なんで笑うんですか?」
運転しながら、笑いが止まらなくなるタモツだが、メグミの機嫌が悪くなる前に、息を整えて自分を落ち着かせる。
「いや、だって」
横に手を伸ばし、メグミの肩から腕を、その自慢のニットを優しく撫でる。
「すごく、滑らかで気持ちいい服だね」
「はい。ニットのちくちくが苦手なので、肌触りの良いものを吟味して、この毛糸はわたしにしてはかなり奮発したんです」
自らも編地をなで、柔らかな肌触りを確かめるメグミ。
ニットのワンピースを作るにはかなりの毛糸が必要だったのだが、手触りの良い品質の良い毛糸は高く一度に買えないため、ロットが異なってしまうことを考えても、数回に分けて購入した、いろんな苦労が詰まった一着だった。

「こんなすごいものを作れるのに、自分のことを平凡で取り柄がないって思ってるんだなぁって。それが平凡なら、本当の平凡の人に怒られるよ」
「えっだって、みんな出来ますよ」
「みんなって?」
「えっと、祖母とか、同級生とか」
「おばあさんはともかく、同級生も?」
「えぇ。わたしは高校の服飾科ってとこに通っていたので、そこで洋裁も編み物もやっていたから、同じ科の人たちは、みんな出来ます。えっと、たぶん」
「みんな、自分の服を自分で作ってる?」
「えー・・・いえ、わたしは欲しい服が買えないから、下着やTシャツ以外は何でも作ってますけど、みんなは買ったものを着ているかなぁ」
「ほらね。っていうか、着る服をほとんど自分で作ってるの?」
「はい。パンツは前ファスナーのところとか面倒なので、スカートとかシャツとか、簡単なものが多くなっちゃいますけど、普段着ている服は全部自作です」
「あはははは、それはすごいよ。メグミ。すごいと思うよ。いないよ。そんなことする人絶対。平凡じゃないよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
そう言われたら、そうかもしれない。自分に出来ないことばかりに目が行っていたけれど、出来ることに目を向けると、案外自分は平凡じゃないのかもしれない。
タモツといると、どうやら自分をちゃんと見ることが出来るみたいだった。
またちょっと嬉しくなってしまった。

「しかし、そんなにいろいろ作れるのに、そっちの道に進もうと思わなかったの?」
最初に働いた会社では事務だったというし、今も雑貨屋の店員だ。服作りとは全く関係がない。
「あぁ、そうですね。学校の勉強、そういう勉強は楽しかったし、祖母にもいろいろ教えてもらって大抵のものは作れるようになりましたけど、なんだかそれを仕事にするのは違う気がして・・・それに、服飾系に就職しようと思うと、もっとしっかり勉強するために専門学校に行ったり、大学に行ったりしなきゃ難しいみたいで、でも、うちは姉が短大に行ってたし、弟もきっと大学に行きたがるだろうけど、そんなにお金があると思えないしで、服を作るのは趣味でいいかなぁって、就職することにしたんです。まぁ続けられませんでしたけどね」

両親は何も言わなかったけど、子どもを三人上の学校に行かせるのが大変なのは、なんとなくわかっていた。高卒で働くのは大変かもしれないけれど、経済的に早く独立したかったというのもある。
「でも、おかげでこっちに来る時の、部屋を借りるための費用と、最初の一か月分くらいの生活費をもらえました。学費より断然安いですからね」
「こっちに来たのって、まだ成人前だよね」
「はい。最初の仕事をやめた時に、遠いとはいえ縁故就職だったから、新しい仕事も見つけづらそうで、思い切って東京に出ようと思ったんです。ずーっとお年玉とか貯めていたので、それで何とかなるかなぁって」
「すごいね」
タモツも高卒で親元を離れたが、仕事先となる修行が決まっていて寮があったので、メグミとは全く異なる。
「やっぱりすごいよ。メグミは」
「そうですか?あーでもラッキーでした。アパートを探して回って疲れていた時に、紹介された物件を見た帰り道でカフェを見つけて入って、そこですごく癒されて、そのまま雑貨屋のスタッフ募集の貼り紙を見て、飛び込んで、採用されて」
「すごいめぐり合わせだね」
「タモツさんのご飯に、あの時から癒されていて、それで、その人が運転する車の助手席に座ってるんですよね・・・なんだか夢みたいです」

そんなメグミが可愛くて、すごいと感心しつつ、手を伸ばしてメグミの頭を撫で、自分の方に引き寄せた。
メグミはタモツの肩にもたれかかって、顔を少し上げて、前を見て運転するタモツの顔を眺めた。
そして、信号待ちで止まった時に、待っていたかのようにタモツはメグミに軽くキスをする。
車の中とはいえ、白昼堂々のキスにメグミは照れてしまって、慌てたように元の位置に座り直した。
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