すべてkissのせい~愛されて甘やかされて

早河 晶

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~はじまり

15話 素敵なレストラン

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「これから、どんなところに連れて行ってもらえるのか、楽しみです」
「いいところだよ。修行時代に知り合ったやつがやっている店なんだけどね」
「じゃあ、同じ店で働いていたんですか?」
「あ、いや、あの店でいっしょだった人たちとは、全然付き合いがないよ。あの頃は、休みの日になると、いろんな店を食べ歩いていてね、ほら、食べるのも勉強になるからね」
「わかります」
レシピが分からなくとも、食べて想像することは出来るし、盛り付けなどの工夫なども勉強になる。
「だから、いろんな店に行ってたんだけど、どこに行っても会うやつがいて、初めはストーカーかと思ったよ。あっちもそう思っていたらしいけど」
「偶然、何度も会ったんですか?」
「そう。全くの偶然。でも、やつが働いている店と、俺が働いていた店の休みが同じで、同じ情報源から店を選んでいたから、合う確率は高かったのかもしれないんだけど」
「いろんな偶然が重なりあって。ってことですね」
「そういうことだろうね。同じ雑誌で店を選んでいたなんて、あとで知ったからね。
で、何度も会うから、いっそのこと一緒に行って、情報交換して、料理もシェアすれば、いろいろ見て食べられるって話になってね」
「一人ではたくさん食べられませんもんね」
メグミも、出来ればシェアしていろいろ食べたい派だから、よくわかる。もっともメグミの場合は外食を全くと言っていいほどしないのだけれども。

「で、気づいたらメンバーが増えててね、この車を貸してくれたやつもそうなんだけど」
ちょっと昔を懐かしんだ。勤めていた店では得られなかった人脈が、そんな形で広がったのだ。
「これから行く店は、その最初の一人」
「どんな料理ですか?」
「それが、農園レストランだからか、野菜次第で何でも作るスタイルで、和洋中本当に何でも作るんだ。勉強熱心なやつだったから、毎回驚かされるよ。だから今回も、どんな趣向で出してくれるか、俺も楽しみなんだ」
「農園レストラン・・・」
「そう。野菜から作れば、自由だーとか何とか言ってたな。面白いやつだよ」
「自分で作った野菜で料理を作ってるってことですか?それは素敵ですね」
編み物が好きだから、羊毛から糸を紡いでみたいと思っているメグミには、かなり共感出来る。もっとも羊を育てるという発想は、さすがにないのだが。
「ほら、見えてきたよ」

窓からのぞく景色は、畑が広がり小さな建物がちらほら見える程度。冬の終わりなので、畑はどこかさびしげだ。
でも、レストランの建物は温かみのある、ログハウスのような、ペンションのような感じでメグミはとても気に入った。

駐車場に車を止めていると、店の中から男女が出てきて迎えてくれた。
「よぉ、久しぶり」
大きく快活な声で、男性の方が声をかけるとタモツも笑って答え、握手を交わした。
「急にすまなかった」
「いや、ちょうど良かったよ。昼の部にキャンセルが出て、どうしようかと思っていたところだったんだ」
「そうか、じゃあちょうど良かったから、サービスしてくれよ」
「まかせておけ。リクエストにも応えておいたから、楽しみにしていてくれよ」
気の置けない仲間なんだろうと思えるようなやりとりで、普段のタモツとはまた違う顔を見れて、メグミはまた嬉しくなった。

「さぁ、外は寒いわ。どうぞ中へいらして」
ショートカットが素敵な女性が、中へといざなってくれる。

「可愛い子だな。しかしまた、ずいぶん若いのを選んだもんだ」などといいながら、タモツを肩で小突いた後、男性は裏口から先に建物の中へ戻って行った。
建物を外から眺めた後、メグミ達も中に入った。

ロビーっぽいところを抜けて、レストランの中に入るとそこは、木がふんだんにあしらわれた温もりの感じさせる場所で、まるで家に帰ってきたような安心感があった。

テーブルにつくと
「改めまして、ようこそいらっしゃいました。ご自宅にいるようにおくつろぎくださいね」と女性がにっこりとほほ笑みながらお辞儀をする。

席に着いた後も、ついきょろきょろと周りを見回していたメグミは、どう答えていいのか、というか、こういう場合何か言うのかよくわからず、タモツを見た。
「今日の趣向は?」
「本日のテーマは、カクテルと料理のマリアージュです。と申しましても、アルコールではないお茶をベースにしたカクテルでございますので、どうぞご安心して召し上がってくださいね」

マリアージュ といわれて、ドキッとするメグミ。
カナタと初めてのあの日も、スイーツとお酒のマリアージュの店だった。そして初めてタモツとのデートでも、同じキーワードが出てくるなんて。
驚くメグミをあえて素知らぬふりをしたタモツが、あの日カナタの話を覚えているかどうかは分からない。

「それは楽しみです。どうぞよろしくお願いします」

先ほどの男性が、飲み物を持ってやってきた。
「食前酒、ではなく、食前の飲み物としてまずは、この自家製酵素ドリンクをどうぞ。リンゴなどの果物と、糀を使って発酵させたオリジナルでございます」
メグミを見てウィンクをして、テーブルにそっとグラスを置く。

小さな足つきグラスに入った、ちょっとピンク色のドリンクを見て、心が躍るメグミ。

男性はさっと奥に戻って、すぐにお皿を持って戻ってくる。
「そしてこちらが、最初のサラダ、当園自慢の色とりどりの野菜と、バーニャカウダソースをお楽しみください」
そしてまた、メグミにウィンクして立ち去った。

「では、メグミちゃん、遅くなったけど誕生日おめでとう」
グラスを差し出しながら、タモツに言われて驚く。
「えっこれって、わたしの?」
「そう、誕生日祝い。生まれてきてくれてありがとう」
誕生日は祝われるものではない。という家訓(?)のようなもので育ってきたけれど、やっぱり祝われるのって嬉しいかも。と思いながら、グラスを合わせて乾杯した。
「ありがとうございます」

酵素ドリンクは、いろんな甘い香りがして、飲むと意外にあっさりとして深い味わいだった。
そして色とりどりのサラダは、ふつうの大根もあれば、カラフルな大根、黄色い人参、スプラウト等で、見た目も味もさすが農園という感じで、うっかりソースをつけるのを忘れるぐらい野菜自体がおいしかった。

最初のお皿が空になるころ、次の飲み物とスープが運ばれてきた。
スープはじゃがいものポタージュのようだが、今まで食べたことのあるなじみのある味とは異なり、どこかエスニックな風味があって、美味しかった。
添えられたスティック状のパンも美味しかった。メグミはこのパンだけでも満足出来そうな気がした。

その後も、いろんなお茶のカクテルと共に野菜がメインの料理が出され、少ない量で種類が多いという、女性の心をつかむ工夫がなされており、メグミはすっかり満たされた。

タモツは、静かに食事をするメグミを見て、やはり所作が美しいと思っていた。
口にものを入れたまま話したりしないし、口に詰め込みすぎたりすることもなく、適度な量を口に運び、ゆっくりしっかりと味わうように食べている。
おのずと会話は少なくなるのだが、居心地が悪いこともなく、時折目を合わせて微笑みあったりして、静かで穏やかな時間を楽しんだ。

そして最後に出されたのは、珈琲のように濃く出されたほうじ茶で、とてもすっきりした味わい。
デザートプレートには、小さなムースやケーキ、フルーツコンポートなどが乗り、『happy birthday dear megumi』とチョコレートソースで書かれていた。ハートマーク付きである。
誕生日を祝ってもらう習慣がなく、とくに気にしていなかったメグミだが、これには感激してしまって、言葉が出てこなかった。

タモツは優しい笑顔をメグミに向けて、その様子を黙って見ていた。
これからもっと、楽しいこと嬉しいことを増やしていってあげたい。そんなことを思いながら。

「料理はいかがだったかな」
先ほどの男性が、席にやってきて感想を尋ねる
「すごく、美味しかったです。愛情をたっぷり感じられるお料理でした」
つい、タモツより先に答えてしまったメグミは、ハッと気づいて少し恥ずかしそうになる。
「愛情は無限だから、いつにもまして、たっぷり注いでおいたよ」
豪快に笑って答えてくれた。
「よくあんなに細かな仕事が出来ると、感心してしまうよ。とても真似できない」
タモツも絶賛だ。
いろんな料理を少量ずつ提供された、今回のランチコースは、かなり手間暇のかかるものと思われ、しかも自分たち一組のためだけに作られている。
その途方もない手の込み方は、忙しいカフェでは真似できるものではない。

「いやぁ、実はこの後の夜の予約は大人数でね、だから、さほどでもないんだよ」
などと謙遜しているが、そうは言っても。と、同じ料理人としてやはりすごいと思う。

「ドリンクも、どれも美味しかったです、お茶の新しい飲み方を楽しめました」
お茶を様々なジュースと組み合わせたカクテルは、斬新ながらもすべてが美味しく料理と調和していた。
「ありがとうございます。喜んでいただけてうれしいです」
女性も微笑みながら、答えてくれた。
「かみさんはティーコンシェルジェで、すごく勉強熱心でね。今回のマリアージュも二人でいろいろ考えたんだよ」
どうやら二人は夫婦のようだ。
「素敵ですね」
「きっと、夜の団体さんも喜んでくれるだろう」
タモツが太鼓判を押す。
「だといいけどな」

「お時間がよろしければ、畑をご覧になりますか?」
誘われたので、遠慮なく見せてもらうことにした。
そしてタモツは、カフェ用に野菜を入手して帰ることになった。

温室や、ハーブ園などを見せてもらい、メグミも少し野菜とハーブを分けてもらって店を後にした。
「夏になると、もっと畑は賑やかになるから、ぜひまた来てくれよな」
夏野菜の料理もきっと美味しいだろう。タモツが「また来る」と答えているのを聞いて、夏の畑を想像しながら、メグミも「夏も楽しみです」と答えた。
 
車に乗り込むとき、メグミはコートを後ろの座席に置いた。
コートをひざ掛けにすると確かに暖かかったが、ちょっと重たくて邪魔だったからだ。

でも、席に座って自分のお腹を見ると、体にフィットするニットのせいでお腹がぽこりと膨らんでいるのが分かった。座ると強調されるのかもしれない。
やっぱりコートで隠すべきだったかも。そんなことを思ったけれど
タモツは、足元は寒くないか心配になりつつも、行きに想像していた、ミニスカートから覗く足を見られてちょっと嬉しかった。

帰りの車の中では、料理の感想で盛り上がった。
全部は無理でも、いくつか真似したい料理があったタモツと、もっと食べたいと思った料理がいくつかあったメグミは、記憶が薄れないうちに、すり合わせをしていた。

「仕入れた野菜をカフェの冷蔵庫に入れていくから、先に帰っているといいよ」
タモツがそう言って、メグミを家に、自分の家にだけど、送ると言うと、店休日で誰もいないだろうから、ついて行って手伝うと答えられたので、二人でカフェに行った。
誰もいない厨房に入って、野菜を片付けると、誰もいない店内で抱き合ってキスを交わした。
そしてその後すぐに店を後にしたのだが、実は店内に一人で人がいた。

その人物は、店のオーナー
彼は店休日にはいつも一人でこっそりとカフェに来て、テーブルに座り、持参の飲み物を飲みつつ、読書を楽しんだり、ぼーっと外を眺めたりして過ごしていた。
電気もつけず、空調もつけず。
変わった趣味の爺さんである。
だから、二人が入って来た時も、いつも通り席に座って本を読んでいた。そして、二人が野菜を抱えてそれを片付けるのも、そのあと抱き合ってキスを交わすのも見ていた。
あの男性は、うちのシェフか。女の子の方は、あぁ、雑貨屋で最近社員になった娘だなと思った。シェフはいい男なのに、どこか何かをあきらめている風だったし、女の子の方も自信がなさげだったけど、今見ると二人は幸せそうで微笑ましく思えたので、そのまま温かく見守ることにした。
社内恋愛は禁止にしていないし、お互いを高めあい、良い関係を築き、それが店の為になるならば望ましいことだと考えている。

そんな視線に全く気付かない二人は、再び車に乗り込んだ。
車を持ち主の駐車場に返し、宅配ボックスに土産の野菜などを入れる(もちろん、家主が今日のうちに帰宅することを確認済みだ)。

メグミの家から割と近かったので、先に車を返すことにして、そこから二人で手をつないで歩いた。
メグミのアパートの前に着くと、メグミはまだ一緒にいたいと思いつつも
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」と別れようとした。
タモツは、何を言っているのか分からないという顔をして
「今日もうちに来てくれるよね?泊まる準備、なんなら明日そのまま出勤できる準備をしておいで」と促した。
メグミは一瞬、考えたのちに
「はい、えっとじゃあ、準備する間、うちにいらっしゃいますか?」と尋ねた。
タモツはその誘いに乗って、初めてメグミの家に入った。

メグミの住むアパートは1K、狭い部屋にベッドと足踏みミシンが置いてあり、余計なものを出来るだけ排除したシンプルな部屋で、テレビも置いていなかった。
タモツのゆったりとした1DKに比べるとすごく狭いので、メグミはちょっと恥ずかしそうに
「実家の自室が畳の部屋で、お布団を敷いて寝ていたので、ベッドに憧れて、無理やり入れたんですよ。で、祖母に譲り受けたミシンもあるせいで、こんな感じになっちゃって、服の製図をするスペースがないんですよ」と苦笑いしつつ、部屋を見回した。
それでもメグミ一人なら問題ないのだろう。

「あ、着替えるので後ろを向いていてくださいね」
今更ながらだが、着替えを見られるのは嫌なのか、メグミが頼むと
「それは嫌だなぁ。その服、まだよく見せてもらっていないから、そのままでいてほしいな」
と、お願いしてきたので、メグミは素直に従い、明日店に着ていく服をバッグに詰めた。
泊まる準備が整うと、二人で部屋を出てタモツの家に歩いて向かう。
荷物の詰まったメグミのバッグは、当然のようにタモツが持ってくれた。
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