王女殿下の大罪騎士〜大罪人にされたので、第三王女の騎士になる〜

天羽睦月

文字の大きさ
3 / 39
第1章

第3話 業炎と王女の叫び

しおりを挟む
「は、弾いた!? あれほどに強力な魔法を!? あなたは何者なの!?」
「俺はただの大罪人だ。あんたは王国騎士だろ? あんたに何かあったら俺が断罪されるから、下手に動くなよ」
「下手に動くなって言われても、相手はテネア国の将軍よ!? あなた一人じゃ敵わないわ! 私も一緒に戦う!」

 将軍だろうが関係ない。
 迫りくる脅威は打ち壊す。大罪人はそうするために生かされているのだから、その仕事を全うするだけだ。

「あんたは下がっててくれ。俺が一人で戦う」

 背後から「ダメ!」という声が聞こえるが無視する。今は構っていられるほど余裕がないし、目の前には将軍が燃え盛る槍を手に持って迫って来ているからだ。
 こちらも再度炎剣を発動し、迫る燃え盛る槍を上空に弾く。そして流れるようにそのまま力任せに振り下ろすが、その一撃は後方に避けられてしまい当たらなかった。

「斬れなかったかけど、まあいいか。次で終わらせればいいだけだ」

 次で終わらせるというノアの言葉を聞いた将軍が、目を見開いて「舐めるな!」と叫んでいる。

「舐めるって、戦場を舐めてかかるわけないだろうが!」
「黙れ! ガキの癖に調子に乗るなよ!」

 発した言葉でキレさせてしまったようだが、好都合だ。
 冷静さを欠いた相手は自ら自滅をしてくれるから戦いが楽になるが、舐めてかかることはしない。何せ格上の相手だ。知らない技や奥の手を出されて形勢逆転されるかもしない。

「調子も何も、俺はあんたを早く倒して村に戻るんだ。早く来いよ」
「勘に触るガキだ! さっさと死ね!」

 冷静さを欠いたまま、将軍が燃え盛る槍を振るってくる。
 先ほどとは違って荒い攻撃だ。避けた瞬間に頬が焼けそうになるのは変わりないが、それでも感情に流されて避けやすい攻撃をしてくれてありがたい。

「なぜ当たらん! 何をした!」
「何をしたって、あんたが冷静さを欠いたからだろ? 戦闘を舐めてるのはあんたの方だったってわけだ」
「わ、私が冷静さを欠くわけがない! 将軍だぞ!? 私は将軍にまで上り詰めた男だぞ! こんなガキに負けるわけがない!」
「傲慢だな。部下達に祭り上げられて勘違いしたタイプか」
「お前に何が分かる!? 私は尊敬をされているんだ! 私が絶対なんだ!」

 上に行く人間の大半はなぜこれほどまでに傲慢なんだろうか。
 ノアがこれまで戦ってきた中にも傲慢な敵が多いが、ただ一人尊敬を出来る人間に出会ったことがある。それは今は滅んでしまっている小国の騎士だ。

「前に戦った黄金色の騎士以下だな。この世界には傲慢な人間しかいないのか」

 大きな溜息を吐く。
 剣を握る手に力を入れ、足に魔力を巡らせた。こんな男に関わっている間にも村の大罪人達が戦場で死んでいる。これ以上死者を増やさないために、終わらせなければならない。

「もう終わらせよう。これ以上あんたに関わる時間がもったいない」
「もったいないだと!? 私は将軍だぞ! 全ての人間は私に平伏すべきなのだ!」

 言葉を聞く時間すら惜しい。
 この傲慢な男を倒すべく、ノアは将軍の懐に一瞬で移動をした。

「な、何をした!?」
「何をって、ただ魔力を足に巡らせて身体能力を上げただけだ。そんなこともできないのか?」
「大罪人が調子に乗るな!」
「それしか言えないのか? 終わりにしよう。こっちも暇じゃないんだ」

 炎剣を握る手に力を入れる。
 それもさっきよりも強く、握り部分が軋むほどだ。
 もう逃がさず、確実に一瞬で命を消し飛ばす一撃を放つことに決めた。

「これで消えろ! 業炎一閃!」

 将軍の槍のようにノアも炎剣に炎属性をさらに付与をした。
 燃え盛る炎の剣を、目に見えない速さで斜めに振り下ろす。すると、悲鳴すら上げずに炎が直線上将軍を巻き込んで空に上がっていく。

「あ、剣が砕けたか。さすがにこんなボロボロな支給品じゃ無理もないか」

 鈍い音を立てて砕けた剣を捨て、後方で唖然とした表情をしている王国騎士に話しかけた。

「大丈夫か? 怪我はないか?」
「だ、大丈夫です……あなたは何者ですか?」
「俺は大罪人さ。村に送るよ、王国騎士様」

 ノアの言葉を聞いた少女は、唖然とした表情から凛とした顔に変えて「王国騎士ではありません」と返答してきた。

「私は王国騎士ではなく、オーレリア王国第三王女ステラ・オーレリアです」
「王女様? 王族が戦場に出てくるわけないでしょ。あいつらは安全な王城でただ命令をするだけだしさ。ま、本当の名前をこんな大罪人に教えるわけないよな」

 そう――大罪人達にとって王族は忌むべき存在だ。
 犯罪を犯し大罪人にされるのは分かるが、命を使い捨てにされるような戦いを強いられている。その命令を下しているのが王族なので、大罪人達は王族を憎んでいる。

「そ、そうね。早く村に帰りましょう。被害の確認をしなければならないからね」
「おやっさん達が無事だといいな」
「きっと無事ですよ。あなたのおかげで残りの敵騎士が撤退をしていますしね」

 少女の言う通り、村の方角から多数の敵騎士が逃げている姿が見える。
 おやっさんのおかげで倒す敵が分かったが、時間をかけすぎたと反省していた。一気に決着をつければ被害はより少なかったかもしれないが、それでも物量に押されていた現実がある。

「大罪人だけじゃ戦闘にならないな。もっと王国騎士も戦ってくれないと無理だよ」
「そうなのですか?」
「そうでしょ。この村の現状を見てなかったの? 騎士が駐留してなくて、看守達が実質トップなんだよ。だから国に嘘の報告をして自分達の権力を維持しているんだ。だから今回のような襲撃があった時に初動が遅れちまうんだよ」
「そうなのね……それは大問題だわ……」

 唇に力を入れて何やら考えているようだが、どうせ村のことではないだろう。
 大罪人や、辺境にある村なんて国や王国騎士が考えてくれるとは思えない。これまで捨てられていたも同然な扱いのように、これからも無下に扱われるはずだ。

「煌びやかな生活を送るあんた達王国騎士が、この現状を変えることなんてしないだろうがな」

 そんなことないと少女が声を上げるが、気にしない。
 どうせいつも通り口だけだろう。今までたくさんの騎士が助けると言っても口だけで一切現状が変わることがなかった。むしろ悪くなる一方でしかない。

「村に戻ったら聞きたいことがあるわ」
「聞きたいこと?」

 やはり村を変えると言うのだろうか。
 どうせやらないことを聞いて、報告をして自分の手柄にするつもりだろう。教えたくはないが、教えなければ騎士に逆らったとして殺されてしまう。
 半ば命令だなとノアは思いつつ、説明をすることを考えるしかなかった。余計な仕事を増やしてほしくないが、大罪人なので仕方がないと割り切るしかない。

「ほら、ここが村だよ。大罪人ばかりで騎士がいないだろう?」

 黒煙が上がり、破壊され建物が目立つ。
 特にこれといって特産品もない寂れている村だが、ノアにとっては五年間暮らしている村だ。破壊されれば嫌だし、仲が良い人達が傷つくのは見ていられない。

「そうですね……国の方針では辺境にも王国騎士を駐在させているはずなのに……」
「嘘ばかりだからだろ? 自分達は安全な場所で寛いで、戦闘は主に大罪人が行って手柄は王国騎士様がもらう。これが続いているから多くの国民が苦しんでいるんだ」
「そ、そんなことはないはずよ! だって、お父様は……」

 お父様とか言っているが、王国騎士の父親だろうか。
 本当に第三王女だったらと思うが、こんな場所に来るはずない。ましてや、王国騎士として王族が戦うことをあの国王が許すはずがないだろう。

「お父様が誰かは知らないけど、これが現実だよ。王国騎士様にはどうにかしてもらいたいものだね」
「これが国の現状だというの……」

 村に入ると、手当てを受ける住民や倒壊した家屋を片付ける大罪人達が見える。
 怪我を負っているのにも関わらず、村を立て直すために働いている大罪人に対して看守が労いの言葉をかけずに罵声を浴びせている姿がステラの目に入ったようだ。

「どうして看守が罵声なんかを!」
「どうしても何も、これが看守と大罪人の関係だよ。逆らったら王国騎士に報告をされて殺されるからな。今まで何十人とそうされてきた大罪人を見て来たよ」

 逆らったら王国騎士に殺され、戦場に出て弱ければ敵国騎士に殺される。
 大罪人とは死神の鎌を常に首筋に当てられ、国に尽くす奴隷だ。この現実をノアの隣を歩く、ステラ・オーレリアと名乗った少女は理解しただろうか。

「こ、これが大罪人の現状だというの……」
「そうだよ。王国騎士の怠慢でこうなったんだ。犯罪を犯した身だから何も言わないけどさ、現に大罪人達のおかげで国が守られていると言っても過言じゃないよ」
「そ、それでも! それでも! 王国騎士は……」

 現実を直視できず、目を右往左往させて動揺を隠せないようだ。
 唇を噛んでどこか悔しそうな表情をしている姿が横目に映る。さて、どうしたものか。なんて声をかけていいか分からないまま時間だけが過ぎてしまう。
 腕を組んでどう話しかけようか悩んでいると、背後から凛とした声で女性が「離れろ愚かな大罪人!」と罵声を浴びせてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

追放された『ただの浄化係』、実は国中の魔石を満たしていた精霊姫でした〜今さら戻れと言われても、隣国のイケメン皇帝が離してくれません〜

ハリネズミの肉球
ファンタジー
「おい、城の噴水が止まったぞ!?」 「街の井戸も空っぽです!」 無能な王太子による身勝手な婚約破棄。 そして不毛の砂漠が広がる隣国への追放。だが、愚かな奴らは知らなかった。主人公・ルリアが国境を越えた瞬間、祖国中の「水の魔石」がただの石ころに変わることを! ルリアは、触れるだけで無尽蔵に水魔力を作り出す『水精霊の愛し子』。 追放先の干ばつに苦しむ隣国で、彼女がその力を使えば……不毛の土地が瞬く間に黄金のオアシスへ大進化!? 優しいイケメン皇帝に溺愛されながら、ルリアは隣国を世界一の繁栄国家へと導いていく。 一方、水が完全に枯渇し大パニックに陥る祖国。 「ルリアを連れ戻せ!」と焦る王太子に待っていたのは、かつて見下していた隣国からの圧倒的な経済・水源制裁だった——! 今、最高にスカッとする大逆転劇が幕を開ける! ※本作品は、人工知能の生成する文章の力をお借りしつつも、最終的な仕上げにあたっては著者自身の手により丁寧な加筆・修正を施した作品です。

ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら
ファンタジー
千年の時を孤独に生き、魔法を極めた大魔女。 彼女は唯一の弟子に裏切られ、命を落とした――はずだった。 次に目覚めると、そこは辺境伯家の屋敷。 彼女は、魔力コアが欠損した「落ちこぼれ」の幼女、エルシア(6歳)に転生していた。 「魔力がすぐに切れる? なら、無駄を削ぎ落とせばいいじゃない」 エルシアは前世の膨大な知識を駆使し、省エネ魔法を開発。 サボり魔だが凄腕の騎士を共犯者に仕立て上げ、密かに特訓を開始する。 すべては、今世で初めて知った「家族の温かさ」を守るため。 そして、迫りくる魔物の脅威と、かつての弟子がばら撒いた悪意に立ち向かうため。 「おねえちゃん、すごい!」 可愛い弟デイルと、拾った謎の**黒猫に懐かれながら、最弱の令嬢による最強の領地防衛戦が幕を開ける!

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

処理中です...