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第4章

第33話 責任の果たし方

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「いつまで寝てるつもり? あんたは私を負かしたんだ。勝者が死ぬんじゃねぇよ」

 ぼやけた視界の先には大きな琥珀色の瞳と、きめ細かな肌を持つ美しい少女の姿が見えた。綺麗な顔からは想像できない口調だが、戦いの最中に見えたシェリアの姿と似ている。
 その少女は綺麗な桃色の長髪を激しく揺らし、ノアの襟を掴んで持ち上げ「さっさと起きろ!」と鼻が当たるほどの至近距離で怒鳴ってきた。

「私に説教をしたくせに、こんなところで死ぬのか? クリスと私を救うんじゃないの!? 罪を償わせるんでしょ! なら、こんなところで死なないで最後まで見なさいよ!」

 名前を聞いたわけではないが、言動からするにシェリアで間違いないだろう。
 何度か身体を揺らしながら怒鳴ってくるが、言っていることは正しい。大罪人としての枷を打ち破り、シェリアとクリスを変えた責任を果たさなければならない。そのために、今はまだ死ねない。

「俺は……まだ死ねない……死ねない!」
「そうよ、その意気で持ち堪えなさい。ほら、あんたの最愛の妹さんが来たわよ」

 左を向いたシェリアの視線の先を見ると、そこにはルナが全力でこちらに向かってくる姿が見えた。そこまで焦らなくてもいいのにと思うが、地面に血が広がっているので焦るのも無理はないかと納得した。

「どうしてあんたがお兄ちゃんの前にいるの! 早く消えて!」

 ノアの前で屈んでいるシェリアに対してルナが激怒している。
 言い争いをする前に手当をしてほしいが、感情的になってしまっているルナにそこまで考えることは無理だ。

「お兄ちゃんを誘惑しているの!? そんな変な服を着て、あなたにはクリスがいるんでしょ!」
「別に何を着ようがあたしの勝手でしょ。それにあんただって、戦闘の影響で服が破けてて結構エロいわよ?」

 シェリアは膝上まであるミニスカートと、肩が出ているTシャツを着ている。
 ルナの方は胸の辺りや腰の部分の鎧が砕け、中に着ている下着が見えていた。エロさでいえばルナの方に軍配が上がるはずだ。しかし、シェリアの方は健康的なエロさを感じるとノアは胸の中で考えていたのである。

「あんた何かエロいこと考えてる? 死にそうなんだから興奮しないで」

 さらに心臓をドキッとさせつつ、ルナが「そんなこと考えていたの!?」と驚いているが今は無視をすることに決めた。

「ていうか、こんなところにいないで早くサレア村に行きましょう。早く手当てしないと死んじゃうよ?」
「そんなこと分かってるわ! あなたがいるからこうなったんじゃない!」
「そんな言い訳いいから、早く行きましょう」

 ノアの左肩を抱いたシェリアは勢いよく立ち上がり、右肩を慌てて抱いたルナと共にサレア村に向かい始めた。

「ありがとうな、ルナ。助けてくれて」
「助けるのは当然だよ! お兄ちゃんが戦ってくれたから、マグナを退けられたんだから。感謝の言葉を言うのは私達の方だからね!」
「そうよ。あんたは私とクリスを救って、サレア村を救ったの。誇っていいのよ」
「ありがとう……大罪人だって、救えるんだ……」

 その言葉を最後にノアは意識を手放してしまう。意識がない中、どこからかお兄ちゃんと自身を呼ぶ声に導かれて目を開くと、そこはベットの上だった。アリベルの部屋とは違い、医療器具や薬が側に置かれている。
 どうやらサレア村に簡易的に作られた医療施設なようだ。部屋の窓から、バタバタと忙しそうにしている医師や看護師の姿が見えるのが証拠だ。
 ふと右側に視線を移すと、身体中に巻かれた包帯を取り替えようと側にいるルナが動く姿が目に映る。

「ル……ナ……」

 上手く声が出ない。
 先ほどまでは気力で喋っていたようで、治療を受け始めてからダメージが浮き彫りになったようだ。一生懸命に包帯を取り替えているルナに、消え入るほどに小さな声は届いていない。

「次は胸か、包帯取り換えるからね」

 胸に巻かれている包帯を解くために、身体を乗り出したルナと視線が合った。
 途端に顔を赤らめて包帯を巻く手を止めてしまう。一体どうしたんだとキョトンとした顔をしていると、ルナが「起きているのなら最初に言ってよ!」と言いながら部屋を飛び出してしまった。

「ル、ルナ!? どこに行くの!? 待ってよ!」

 声が出たのは嬉しいが、ルナが部屋からいなくなってしまった。
 自分で包帯を取り替えたいが、身体を上手く動かせない。血が滲んで気持ち悪いまま放置されるのか考えていると、静かに扉が開く音が聞こえてくる。

「恥ずかしいって叫びながらルナが走って行ったわよ? 何かしたの?」

 部屋に入って来たのはシェリアだった。
 身体を起こして両手で顔を覆っているノアを見て汚物を見るかのような顔をされるが、そこは見なかったことにする。

「あんた三日も寝ていたのよ? クリスの方はすぐに動けるようになったけど、回復力はまだまだなようね」
「あいつと比べられても困るよ。そうだ、身体を乗っ取って怒られなかったか?」

 そう言うとシェリアは顔を伏せるが、怒られたわと素直に教えてくれた。

「鬼のような形相だったわ。勝手に身体を乗っ取って、勝手に負けて、勝手に死にかければ怒る理由も分かるけどね。ただ、次やったら婚約は白紙と言われたのが一番辛かったわ」
「そりゃそう……ていうか、婚約してたの!?」
「そうよ。親同士が決めた結婚だけど、二人で話し合って納得して婚約をしたの。結婚はまだしないけどね」
「そうなのか。身体を乗っ取らなきゃいいだけだから、簡単だろう? 普通に戦っても君は強そうだからさ、クリスと支え合えばいいでしょ」

 ノアの言葉を聞いたシェリアは目を丸くしていた。
 罵倒をされるとでも思っていたのだろうか。ノアからすれば終わったことで、逆に助けてくれたから感謝をしたいくらい気持ちだ。しかし、シェリアに言う気はない。調子に乗らせたら何をされるか分からないからだ。

「まさか、支え合えばなんて言われるとは思わなかったわ」

 そう言うと、シェリアは小さく笑う。
 その顔は戦っていた時よりも幼く、年齢通りの笑顔だとノアは感じていた。こうも違うと別人ではないかと疑いたくもなるが、目の前にいるのは紛れもないシェリアである。

「こんな世界で愛する人と一緒にいられるんだからさ、支え合うのが大切だろ? 俺もそんな人と出会えたら大切にするさ」
「出会えるといいわね。その時はアドバイスくらいはしてあげるわ」
「ありがとう。実はシェリアって優しい?」
「ばっ、馬鹿なこと言っていないで今は身体を休めなさい!」

 照れながらシェリアが部屋を出ていく。
 一体何をしに来たのかと疑問を感じるが、様子を見に来ただけだろうと考えることにした。
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