上 下
111 / 120

第111話 来栖と美桜

しおりを挟む
来栖はその溶けた地面を見ると顔を歪め、あの攻撃は受けることが出来ないと考えていた。同じ攻撃が連続で放たれると、避けることは出来ないと察した。

「しかし、どこからあの攻撃が……私も見たことがない魔法だぞあれは……」

来栖が剣を構えて弦十郎を見ると、両手を横に広げて弦十郎は空を見上げた。すると太陽の光で見えなかった影が空から降りてきた。その姿は来栖も見たことがある人であり、見たことがない人であった。

「天神美桜か? 前に見た姿とは全く違うな」

来栖が空から降りてきた美桜を見て言う。来栖が見ている美桜は、白い翼を二枚背中から生やし、その服装は弦十郎の側近が来ている黒いスーツであった。白い翼が黒いスーツに映え、美桜の無表情も相まって威圧感を与えてくる。

「いいぞ美桜! 使えなかった人生のお前が! 今! この瞬間! 国一番の強さを誇る来栖卿を一度後退させた!」

弦十郎は両手を下ろし、再度剣を手に取った。弦十郎は剣を手にすると、美桜に来栖卿を倒せと命ずる。

「分かりました。 すぐに倒します」

美桜は無表情のまま宙に浮きながら先ほど攻撃をした地面を溶かす攻撃をする。

「激光」

そう意思がない言葉で美桜が魔法を口にして、右手の掌を来栖に向けた。するとその掌から光輝く光線が放たれた。来栖はその放たれた光線を避けることは出来ないと感じ、来栖は光属性の防御魔法を展開させる。

「リヒト!」

来栖が右手を前にしながら光属性の防御魔法を展開する。来栖の防御魔法と美桜の攻撃が衝突すると、耳を劈く程の音が辺り一帯に鳴り響く。その音は地下に避難をしている避難民にまで側で鳴り響くかのように聞こえる程であった。

来栖はギリギリのところで美桜の攻撃を耐えているが、美桜は無表情のまま攻撃を続けていく。来栖は顔を歪めながらその攻撃を受け続けると、防御魔法を右斜め上に移動し、身体をずらして上方向に攻撃を向けた。

「これならどうだ!」

来栖が美桜の攻撃を空に逸らすと、美桜はすぐに攻撃を止めた。そして、羽を左右に動かして羽根を来栖に飛ばす。

「そんな羽根など! がぁ!?」

来栖の発動している防御魔法に羽根が当たると、その羽根が爆発をした。先ほどの攻撃の威力には満たないが、それでも爆発の威力によって来栖は後方に吹き飛んでしまった。

その様子を見た弦十郎は、美桜の強さと来栖にダメージを与えられたことに喜び、周囲の戦っている仲間に好機だと叫ぶ。

「来栖卿のことは美桜に任せて、お前達は来栖以外の敵を滅ぼせ!」

その弦十郎の声を聞いた側近やその部下達は、国立魔法部隊や出雲達の後にその場所に来た皇家を含めた貴族達がいた。その貴族達は美桜の姿を見ると天使のようだと口を揃えて呟いている。

「天使? あんな天使がいてたまるか!」

出雲がそう叫ぶと、美桜の名を叫ぶ。

「美桜! 俺達が来たぞ!」

出雲が美桜に向けて叫ぶも、美桜は出雲の咆哮も向かず、眉も動かさず、目線すらも向けなかった。出雲はこちら側を見ない美桜に再度声をかけて呼びかける。だが、出雲は無視されようが何度も何度も美桜の名前を呼び続ける。

「あれは美桜の好きな男か。 そんな呼びかけで美桜の洗脳が解ける訳がない」

弦十郎が出雲を見て言うと、出雲に近づく。美桜は出雲に近づく弦十郎を見ると、目線の端で動く影を見つけた。美桜は身体ごとその影に向けると、その影は額から血を流している来栖であった。

「こんな場所で死ぬわけにはいかないものでね……この国は守らせてもらうよ!」

そう来栖が叫ぶと、その様子をテレビ中継で見ている避難している人や家からテレビ中継を見ている人達が来栖を応援していた。

「まだまだだ!」

来栖はそう叫び、雫がしている剣に属性を付与をして斬撃を飛ばす攻撃をする。美桜はその攻撃を右手の掌で掻き消すと、来栖が瞬きをした一瞬のうちに来栖の目の前に移動をした。

「なに!? 瞬間移動だと!?」

来栖は歯を喰いしばりながら剣を美桜に向けて振るうと、美桜は左手で剣を掴んで、右手を握り作った拳で来栖の腹部を殴った。来栖はその美桜の腹部への攻撃を受けて、その巨大な衝撃で大量の血を吐いてしまう。

「予想以上の強さだ……その力は一体なんだ!」

来栖は後ずさりながら目の前にいる美桜に問いかけると、美桜は真なる属性の使用者と感情のない声色で言う。その言葉を聞いた来栖は、眼を見開いて弦十郎の方を向く。

「そういうことか……自分の娘をその姿にしてまで……」

来栖は何かを察した顔をするも、思い通りにはさせないと弦十郎に向かって叫んだ。
しおりを挟む

処理中です...