ジグソーパズル

はじめまして、彼女さん

頭のおかしな変な人

「……てめっ……！」
ブン、と不良が腕を振り上げる。
殴られてしまう、と一瞬身構えたものの私の前には青年がおり。この状況で飛び込んでくるのだからさぞ腕には自信があるのだろうと思い直したところで。

人が殴られる鈍い音を聞いた。

「え、ちょ、え？」
そしてむしろ殴った不良の方が驚いていた。
「いったいなぁ、もー……。人を殴ってはいけません。って、小学校で習わなかったの？」
「う、うるせえ！！」
再度、不良は手を振り上げる。
フラフラ揺れながらも私の前から引こうとしない彼がどんな表情をしているかなんて、私にはわからない。
けれど、それでも。
小馬鹿にしたような声と口調は、当事者でない私でも僅かにイラっとしてしまうものだった。
「……もしかしたら、小学校通ってなかった？だとしたらごめ、」
「っまれおらあああ！！」
駄目押しのような言葉に、振り上げた腕を勢いよくおろし。二度、三度と殴りつける。
響く音は耳を塞ぎたくなるほど鈍く、耳障りなものだった。
「……はぁ、はぁ……。」
「あー……も、ほんといたい……人間なら言葉で解決しようよ……暴力でどうにかしようっての、ジャングルでしか通用しないよ？」
その音は、確かに青年が不良に殴られていた音で間違いはないのに。
鈍い音が響くたび、不良の顔に焦燥が見え隠れし始め。それはじきに、怯えに変わった。
「ねー、聞いてるー？もしもーし。……あれ、もしかして人間じゃなかったのかな。」
まるで、殴られたことなど覚えていないかのように青年は喋り続ける。
「だとしたら参ったなぁ、僕、人間語しかわかんないし……しかも日本語限定。」
青年はユラユラと変わらず横揺れを続けながら、腕組みをして考え込む。
その光景は……はたから見て、とてつもなく奇妙で。異様なものだった。
「……っくそ、もういい！」
声を震わせ、膝を笑わせ。
不良はこの場を足早に立ち去る。
その顔には、はっきりとした恐怖が刻み込まれていた。
「動物語も習っとくべきだった……てあれ、さっきの人どこいった？あれ？」
……残念ながらというか、幸運ながらというか、青年には捨て台詞さえ認識してもらえなかったようだけれど。
「んー、ま、いっか。……あ、ところで大丈夫だった？藍田瑠璃さん。」
困ったように頭をかきながら青年が振り返る。
「みぎゃああああ？！」
その顔は、控えめに言って……ゾンビゲームの敵役に見えた。