精霊国の至純

ハナラビ

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旅路

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 なんだかひどく暖かくて、曖昧な夢の中にいた。
 寂しくて寂しくて仕方がなかった。
 そんな自分に腹が立つ。

「僕はあの家で一人で生きていけます。大丈夫です」
 
 そう言って頑張ってきた。でもなんの為に?
 僕はなんの為に生きているのだろう。
 寂しかった。
 これから先ずっと何の目的もなく、ただ存在する為だけに一人で生きていくのだと思うと寂しくて、必死で考えないようにしていた。
 
 顔の綺麗な透明だから一緒にいてやる、と言われるのは悲しかった。
 だってそこに、僕はいない。
 それは僕の持ち物なのかもしれないけど、表面的な要素だけで、その要素があるなら別に僕じゃなくたっていい。
 
 寂しかった。
 僕を僕として認め、一緒に生きてくれる人がいたらいいのに。
 僕の気持ちを汲んで、刺繍も好きだと言ってくれたこの人が、ずっと一緒に……いてくれたらいいのに。
 
 ……そういう、夢を見ていた。
 
 
 
 エディをもてなす宴会が開かれた村長の家では、僕とエディが隣に座り、ラロが僕のそばに控えて手伝ってくれた。
 少人数でとはいえ、流石にこの宴会の席で部屋を暗くするわけにもいかず、かと言って長いベールのままでは食事がとりにくい。そこでラロが……僕にはどうやっているのか分からなかったけれど、ベールをつけ直して上手く折り留め、鼻の辺りまでの長さに調節してくれた。
 これなら口元は自由で、目元はちゃんとベールの下だ。帰り道は暗くなっている筈なので日光に当たる心配もない。
 
 たまに振られる会話はやっぱり気が滅入りそうだったけど、食事自体は楽しく取ることができたので、僕はうっかりしていた。
 お酒なんて飲んだことが無いのに、それを伝えるのを忘れてしまった。
 この国では大人の許可があれば成人前からお酒を飲んでもいいらしい。田舎ではその判断が曖昧な所為で、少々若く見られる僕にも当然のようにお酒が出されていた。
 ラロも気遣わしげではあったけれど、僕の年齢を知っているのと宴席での流れもあり、止めはしなかった。最初の一杯を疑問に思いつつも平気で飲んだのがいけなかったんだと思う。
 確かに喉が少し熱くなるような、不思議な飲み物だと思った。でも僕に合わせて出されたお酒はとても甘く美味しかったので、特に気にせず勧められるまま色々と飲んだ。
 
 そうして僕は途中から、寂しくて仕方がない夢の中にいたのだ。
 
 
 
 隣のエディにしがみついてぐずり始めた僕を見兼ね、宴会はじきにお開きとなった。
 エディは僕を抱えて宿に戻りつつ、ラロに布屋で取り置きの受け取りと、僕が欲しがりそうなものを適当に見繕うように言ってお金を渡した。
 僕はすでにほとんど周りの音が聞こえておらず、宿に戻る夜道の中でもずっとエディにしがみついていた。
 そうしていると安心した。
 絶対離したくないと、そのときは本気で思っていた。
 
 エディがルシモスに何事か言付けて、宿の部屋に防音がかかる。既に部屋には一泊するために必要な着替えや道具が運び込まれており、僕の為に照明の明るさも調節してあった。
 エディは一度寝台に僕を下ろそうとしたが、僕は昼間に部屋を確認して寝台が二つあることを知っていたので、慌ててエディの服を掴み直した。エディが隣の寝台に行ってしまうことさえ今は嫌だった。
 
「……フィル、フィル。俺は何処にも行かないよ」
 
「でも、はなれちゃうでしょ……?」
 
「フィル……」
 
 僕がべそをかくと、エディはへにゃりと眉尻を下げて、再び僕を抱えてベッドに座ってくれた。すると物凄く満足できて、僕の機嫌はたちどころに良くなる。
 
「ふふ」
 
「どうした?」
 
「うれしいです」
 
「……そうか」
 
 エディに頭を擦り付けようとしたところで、折り込まれたベールがごわごわして邪魔なことに気が付く。不機嫌な手で強引に取ろうとすると、エディが慌てて僕の手を掴んだ。
 
「フィル、待ってくれ。俺がやろう」
 
「うん!」
 
 エディがやると言ってくれると、何でも頼もしい。一緒に暮らしているときもそうだった。エディが手を貸してくれると、嬉しくて恥ずかしくて、照れ臭い。
 エディが慎重にコサージュとベールを繋ぐピンを取り、ナイトテーブルに外された一式が置かれると、僕はすっきりした頭部をようやくエディに擦り付ける事ができた。
 
「フィル……酒のせいなんだろうが、今日は一段と可愛らしいな。普段は戸惑っているのに」
 
「いつもだって、いやなわけじゃないです」
 
「そうか?」
 
「そう……」
 
 なんでそんな分かりきったことを聞くのだろう。嫌だったら触らせないに決まっているし、触られたとしても魔力を流して逃げるのに。皮膚接触ではあまり魔力の循環効率は良くないけれど、それでも僕が全力でやれば、エディだって具合が悪くなる程度には出来ると思う。使えないだけで魔力量は多いのだから。
 それをしないということは、普段から触られるのは構わないから。必要なことだから。
 それに……今はエディにそばにいてほしいから。
 思えばずっとこうしたかった気さえしてくる。
 王都とか、そんなのどうでもいい。
 エディと一緒にいたい。
 
 ……あれ?
 でも……エディはどうして僕と一緒にいてくれるんだろう。
 
「エディ。エディも、僕が至純だから一緒にいてくれるんですか?顔が綺麗だから、そんなに優しくしてくれるんですか?」
 
「フィル……?」
 
「僕は、至純じゃなかったら……エディのそばにいる価値なんて、ないのかな……」
 
 エディが必要なのは僕という人間ではなく、半身のフリをしてくれる至純だ。見た目がいいとより都合がよくて、僕は偶々当て嵌まった。
 いつもならこんなことは聞かないし、王子様相手に何を烏滸がましいことを思っているんだと自分を叱責するところだけど、今夜の僕は、自覚のないたちの悪い酔っ払いだった。思ったことやりたいことは殆ど口に出る。
 
「フィル……そんなことはない。確かに……それが出会うきっかけだったのかもしれないが、俺は……」
 
 僕は顔を上げてエディを見上げた。目が合うとエディは言葉を詰まらせ、眉根を寄せた。
 
「フィル、こそ……嫌じゃないのか?染められるのは怖いんだろう?」
 
「……エディは僕のことを染めたいんですか?」
 
「……それ、は……」
 
 気遣わしげなエディの片手が僕の目の前で所在を無くしていたので、思わずそれを捕まえてぎゅっと握り込んだ。エディの手がびくりと強張る。
 
「フィル……だめだ。今日の君は酔っている。きっと本心では無いことも言っているのだろう」
 
「僕は酔ってないし……ほんとのことしか言ってません」
 
 ちゃんと言ってくれないエディに腹が立ってきて、手を握る力を強くする。
 
「フィル……頼む。あまり俺を惑わせないでおくれ。これでも必死なんだ」
 
「必死……?魔力を動かさないように?」
 
「……それも、あるが……そうか。魔力は、やはり分かってしまうか」
 
「僕に隠したい気持ちがあるなら、それでもいいです。いま、エディがこうしてくれているなら。うそでも……いいです。で、でも……エディ。できれば僕に……ずっと僕に、優しくして……下さい……」
 
 今度は猛烈に悲しくなってきた。実際に瞳も潤んで、俯くとエディの手にぽとぽとと雫が落ちた。
 そもそも僕は寂しかったのだ。だからエディを隣のベッドに行かせることも我慢ならなかった。なのに今そんな話をしないでほしいと思った。そんな話にしたのはこちらなのに、僕は真剣に悲しんでいた。酔っ払いの思考と感情はめちゃくちゃだ。
 
「フィル……泣くな。大丈夫。フィルに優しくしている気持ちは、嘘ではないよ」
 
「本当ですか?」
 
「ああ」
 
「よかったぁ……」
 
 アルコールによって感情の振れ幅が極端になってしまった僕は、僕の手から抜け出して涙を拭ってくれるエディの手が嬉しくて堪らなくなった。
 暫くエディにニコニコしながら抱き着き、その間中僕は幸せだった。今日はどうやらエディの方が戸惑っているようで、それも何だか勝った気がして楽しかった。
 いつもの仕返しが出来ている!
 喜ぶ僕に、エディが水をさすようなことを言う。
 
「フィル……昨日は身体を拭いただけだったろう?シャワーを浴びたくはないか?」
 
「う……浴びたい……です、けど」
 
「ラロが帰ってきたら手伝ってもらうといい」
 
「エディは……?」
 
「俺は後からで……フィル?」
 
 僕はエディを見上げて睨んだ。そう言って僕から離れていってしまうのだと分かっていたからだ。どうしてすぐに離れようとするのだろう。それが猛烈に許せなくなって、僕は怒りに燃えた。
 
「やだ。エディと離れたくないです」
 
「フィ、フィル……」
 
「エディも一緒に入りましょう。じゃないといやです」
 
 表情でエディを困らせてしまっているのが分かったけれど、ここは譲るつもりはなかった。今日は絶対にエディと離れない。
 
「フィル……流石に二人で入って、更にラロが手助けできるほど、ここの宿のシャワー室は広くはない。我慢しておくれ」
 
「……じゃあふたりで入ればいいじゃないですか。僕と、エディで」
 
 エディの手が再び固まってしまったので、僕はもう一度それを手の中に捕まえた。エディは戸惑いを通り越し、珍しく狼狽えていた。
 
「いや、しかし……それは……」
 
「……僕と一緒じゃ、いやですか……?」
 
「決して、嫌では……ないが……すまない。では……そうだな……あ、明日早起きして入ることにしないか?フィルがちゃんと起きて、酔いを覚ましてから……まだ、俺と二人で入りたかったら、一緒に入ろう」
 
 僕はエディと一緒にお風呂に行けることに随分と期待してしまっていたらしく、あからさまにがっかりすることになった。
 
「エディ…………やっぱり、僕がいやなんじゃ」
 
「嫌ではないよ。そう言っただろう。これは……俺の理性の問題だ。実は今もうかなり限界で……この上裸になってしまったら、正直何をするか……」
 
「理性が、限界?どうして?」
 
「フィル……フィル。すまない。もう寝てしまおう。俺が獣にならぬうちに、お願いだから眠っておくれ」
 
 僕は思わずエディの指に齧り付いた。
 
「いっ……!フィル!」
 
「い!や!」
 
 エディの眉尻が、また情けなくへにゃりとした。
 
 
 離れるなと怒る僕をエディが宥めすかし、なんとか自分と僕の上着を脱がせてベッドに入る。僕は三度満足していた。
 エディはそんな僕を困ったように見つめている。

「フィル……今日はとても可愛いが、普段の練習もこれくらい素直に…………いや、それはそれでまずいか……すまない。今のは聞かなかったことにしてくれ」
 
 酔っ払いにそんな要求が通る筈もない。僕はうとうとしかけた目をぱっと開けた。
 
「ん……れんしゅう?なにか練習しますか?」
 
「ああ、いや。いいんだ。今日は練習しなくていいよ」
 
「どうして?」
 
「どうして、と言われても……フィルは今、とても酔っているし」
 
「全然酔ってないです」
 
「酔っている者は、皆そう言うんだ」
 
 本当に酔っていないのに……じゃあどうやって信じてもらえばいいのだろう?相変わらず僕には酔っ払いとしての自覚が一切無かったので、僕は大真面目に悩み、また気持ちがしゅんと萎んできた。先程まではあれほど満足感の中に浸っていたのに。気持ちの上下がほぼ直角で忙しい。
 
「……エディ。練習しましょう。どんなことをしますか?さいごは、どこまで練習するんですか?」
 
「さ、最後、は……いや、待ってくれフィル。今日は」
 
「確か……儀式で……」
 
 僕はそう言って、流石に少し恥ずかしくなった。心臓がドキドキしてきて、でもそれをやってみたくなって、僕は縋るようにエディを見詰めた。
 
「フィル……」
 
「エディ、僕……」
 
 口付けてみて欲しいなんて、流石にこの状態でも言えなかった。だからいつもみたいにエディに気付いてほしいと思った。僕が魔力を視てやっと察して動くところを、エディはそんなものなど無くても絶妙なタイミングで僕を手助けしてくれたみたいに。
 ああこういうのって、ずるいのかな。
 エディになんでもしてもらって、僕は本当に駄目なやつだ。これじゃあいけない。
 そう思って、何とか少しでも伝えたいと思って顔を寄せようとしたのだけれど、そこでふと気付く。
 ……そんなにしたいなら、自分からすれば良いんじゃないか?
 エディは本当に嫌だったら僕を振り解くなんて簡単だろうし、僕に対して優しいのは嘘じゃないと言ってくれたし、それに……
 
「練習、しなきゃ……」
 
「フィル、待っ……」
 
「んっ」
 
 エディのシャツを掴んで、僕はその身体に乗り上げるような格好で強引にエディに口付けた。エディの唇は、お酒を飲んだ僕よりも温かくて、ああやっぱりこの人は僕よりずっと体温が高いんだと思った。
 唇を押し当てて見たけれど、この後どうしたらいいのか分からない。いつの間にか閉じていた目を開けると、驚きに見開かれていたエディの美しい赤と橙のオッドアイが、すっと細められた。思わず唇を離す。
 
「エ、ディ……?」
 
「どうなっても、知らないからな……」
 
 せっかく我慢したのに、と恨みがましく言われて、体勢が入れ替わる。僕を押し倒し、頭のそばに肘をついたエディが再び唇を寄せてきた。
 押し付けただけの僕とは違い、なんとエディは僕の唇に吸い付いてみせた。そこでぼんやりと、キスってこうやって吸ったりもするのかと思った。
 
「ん……ぅ、んっ」 
 
 ちゅ、ちゅと態とらしく音を立てながら何度も唇を吸われていると、背筋がぞくぞくとして指先が痺れてくる。エディのシャツも掴んでいられなくなって、力が抜けた。
 顔の横に落ちた僕の手に、エディの指が絡む。痺れたそれを撫でられると、身体が震えてますます力が抜けていく。
 だめだ、魔力が、流れてしまいそう……一旦落ち着かせてほしい。
 
「ん……ぁ、はぁっ、待って……んんっ」
 
「待てない。誘ったのは、フィルの方だ」

 エディから怒ったような視線を投げ付けられ、僕の心臓が縮み上がる。流れそうになる魔力を必死で堪えながら、僕は段々と自分の思考が混乱してくるのを感じていた。
 頭では離れるべきだと思っているはずなのに、身体はエディと離れたくないと叫んでいた。そうして鈍った頭は身体に負ける。
 
 エディを怒らせてしまったみたいだ。
 後からどんなに怒られてもいい。
 だから今は離れないでほしい。
 ずっとこうしていてほしい。

 ああでも、そうすると今にも魔力が流れてしまいそうだ。それじゃあ何もかも意味がなくなってしまう。
 僕は慌ててエディから顔を背けようとした。
 
「んッ待っ」
 
「フィル、フィル……逃げないでくれ」
 
「ぁ、あっだめッ、だめ、んッ……ぅ、んんっ」
 
 逃れようとした顎を熱っぽい手に捉えられ、再び唇を塞がれた。
 熱い舌先に僅かに魔力が流れて、それを必死で押し止める。確かにこれは練習が必要なのかもしれなかった。魔力を流さないように何度もキスをするのは、相当な努力をする必要があるらしい。
 
「フィル……」
 
 エディのオッドアイの中に切実な葛藤が見えて、それが堪らなかった。あまり読み解いた記憶のないその感情の名前を、僕はまだ知らない。だけど、それが今自分に向けられていることが嬉しいと思った。
 将来この人に求められる誰かは、きっと幸せに違いない。
 
 でも、それを理解しているのに……僕がこんなことをしてしまっている……
 
「エディ、エディ……ごめんなさい、僕」
 
「大丈夫、魔力は流さない。その為の練習だ。ほら……口を開けて」
 
「あ、違……ンッ!ん、はっ……んぅッ」
 
 潜り込んできた熱い舌に、なす術なく口内を蹂躙される。舌を絡め取られたり、舌先で口の中の至るところを擽られていると、段々と苦しく……もどかしくなってくる。
 必死に息継ぎをしながら、僕はその衝動を逃がそうと腰を引いた。おかしい。どうしてキスだけでこんな……
 すると逃げに気付いたエディの手が、僕の腰を捉えて引き寄せる。その上、僕の脚の間にするりと自分の脚を潜り込ませて、股座を押し上げてきた。僕は堪らず叫ぶ。
 
「あ、あッ!」
 
「フィル……嫌なら、言ってくれ」
 
「ぁ、あっだめ、です!そこ、は……いま、僕っ……変、なんです……っ」
 
 下腹部に不穏な気配を感じて、慌ててそこへ伸びるエディの腕を掴んだけれど、僕如きの握力でエディをどうにかできるわけもない。
 エディの熱い手が、僕の抵抗などまるで感じていないかのように、するりと下着の中に潜り込んでくる。そこは既にエディの手に負けない程熱くなっていた。僕は触られて初めて、自分でその硬さを意識して、たちまち頬に熱が集まった。
  
「嫌なら、"嫌だ"と……ちゃんと言ってくれ。そうでなければ、もう……止まれそうにない」
 
「ぅ……っん、ぁ、あッ」
 
 先端は既に濡れていた。そこから滑りを広げるように擦り上げられて、目の奥が熱くなった。
 エディの手が僕のものを触っている。その事実に目眩がしそうだった。いけないと思った。こんなことを、エディにさせてはいけない。
 
「だめ、エディ、あッうぅっ……っ離し……んッ」
 
「フィル、"嫌"か?」
 
 僕は首を横に振った。嫌ではない。エディに触れられて、心から嫌だったことなんて一度もない。
 嫌ではないが……でも、駄目だと思う。
 エディにこんなことをさせているのが駄目なのか、この行為で僕がおかしくなるのが駄目なのか……
 僕はとにかく必死でエディの腕を掴む手に力を入れる。どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 
「おかしい、へん……変です、こんな、どうして……ぁあッ」
 
「フィル、大丈夫だから……こちらだけに集中してくれ」
 
「ん、あっ」
 
 ぐちゅ、と粘着質な水音が耳の中に響いて、くらくらした。
 
「気持ちいいか?」
 
「う、ん、きもち、ぃ……ッん」
 
 震える手で口元を押さえると、その手を外され、また顎を掴まれた。すると次にされることが分かって、僕は思わず引き結んでいた口を薄く開く。
 
「フィル……」
 
「んんっ」
 
 握り込まれたそれを激しく擦り上げられながら、エディの舌に口内を貪られる。何度も舌を吸い上げられ、上顎を擽られて、僕は情けない声を上げ続けた。
 
「は、ぁっん、あッ!んっ……う、ぁあっ」
 
 息が苦しくて頭がぼーっとしてくる。普段大して自慰もしたことがない……というか殆どした記憶のない僕では、限界はすぐに訪れた。
 
「だめ、あ、っあ!も、出ちゃう……ん、エディ……っ」
 
「フィル……大丈夫。出してしまうといい」
 
「あ、ぁっやッ、ん、ぁあっ!」
 
 激しく動いていたエディの手が、僕が身震いする頃には随分と優しくなって、僕はそこへとろりとした白色を零した。
 ぜぇぜぇと荒い息をしているのに、エディが口付けようとしてくる。僕は酸欠になりながら、キスの合間に何とか息をした。
 
「はぁ、ッん……ぁ……っ」
 
「フィル……俺にこんな可愛い姿を見せてしまって……本当に獣になってしまいそうだ」
 
「エディ……僕……」
 
「……後は綺麗にしておいてあげるから、寝てしまうといい。フィル」
 
 名残惜しそうに、最後にちゅ、と唇を吸われた後、僕は急に訪れた眠気に抗うことができなくなった。
 ああそんな……まだ、聞きたいことが何も聞けていないのに。
 それでも寂しかった夢は凪いで、僕は安心して意識を手放すことができた。
 

 

 
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