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第3章
しおりを挟む六年前にこの国では大きな災害が続けざまに起こりました。長びく大雨による洪水、崖崩れ、大風。
そしてそれらに伴う農産物の不作・・・
ただでさえ、その数年前にようやく戦争が終了したばかりで、国中が疲弊しきっていたというのに。
その中でも特にショーン様のイイラント領は山国で、被害が思いの外大きかったのです。
しかも元々主産業が林業と養蚕業と畜産業くらいで、その他に大した産業もなく、貧しい領地だったので、領土の復興のための備蓄金がなかったらしいのです。
その上借金をしたくてもどこも貸してはくれなかったのだそうです。
イイラント伯爵様は領民を守るために、領土を国へ返還しようなさったそうですが、
「そんな不良債権などいらん。自分達でどうにかしろ」
と切り捨てられたそうです。
ただしその時伯爵様は、国王からどうとでも好きにして構わない、という言質を取り付けたそうです。
しかもついでとはかりに、後で言いがかりをつけられないようにと一筆書いて頂いたそうです。
そして、それを持って伯爵様は私の父、ロックアップ男爵の元にやって来たのです。
伯爵は国王からの手紙を父に見せて頭を下げられたのです。
どうか自分の領地領民を、ロックアップ領に併合してもらえないだろうかと。
「不良債権を私に押し付けて自分達だけ逃げ出したいという事ですか?」
「とんでもありません。できましたら私達家族も一領民として働かせて頂きたいと思っています。貧しい土地とは言え、先祖代々守ってきた土地を捨てて逃げ出すような真似だけは決していたしません」
そして父ロックアップ男爵は、イイラント伯爵様の確固たる決意を聞いて、併合するのではなく復興のための融資を申し出たのです。
そして資金回収のためだと言って、再建案まで提供して差し上げたのです。
この事でイイラント伯爵様及び領民達は、今でもロックアップ男爵である父に深く感謝しているそうです。
口にこそ出しはしませんが、領民の方々は領主様の次に、私の父に永遠の忠誠を誓っているそうです。国王陛下ではなく・・・
この時、ショーン様は私同様まだ十歳にもなっていませんでしたが、私の父に向かってこう言いました。
「融資して頂いたお金がもし父の代でお返し出来なくても、必ず僕がお返しできるように頑張ります」
と。
実のところ、父は親の負の遺産を子供にまで引き継がせようとは思っていなかったようです。
しかし、彼の心意気に感心し、見所があると思ったようで、借金返済はともかく彼を育ててみたいと考えたらしく、こうショーン様にこう提案しました。
「これだけの借金を返そうと思うのなら、ひとかどの人物にならねば無理であろう。
いずれは貴族の嫡男として王都にある王立学園に入るにしろ、その前に我が領地の優秀な教師陣から学んではどうかね。
我が領土にある初等学園は国内外から優れた教師を招致している。この地に留まって学ぶ気はないかね?」
学問好きで好奇心旺盛なショーン様は、この申し出にすぐに飛び付いたのです。
そしてショーン様はロックアップ男爵家の客人となり、私達姉妹と共に学園へ通う事になったのでした。
三姉妹のうちで私がショーン様と一番仲が良くなりました。同い年だったし、本や勉強や実験好きなところがよく似ていたからでしょうか。
私は自分の領地の事をショーン様にも好きになって欲しくて、ロックアップ領の話を色々と語りました。そしてそのお返しにショーン様も、大好きな故郷の話を私にしてくれました。
私の母親は一番下の弟を産んだ後、精神的に不安定になりました。子供の姿が見えていないと直ぐに泣き叫ぶようになったのです。
特に何故か私に執着しました。それ故に、私は年の離れた弟の面倒をみながら、屋敷内で過ごすことが多くなりました。
ただし、次第に母の症状も良くなっていったので、ショーン様がいらっしゃった頃は、泊りがけでなければ離れていても大丈夫になっていました。
それ故に領地を駆け回って、父親の手伝いを少しずつ任されていました。しかし、領地から外へ出ることはありませんでした。
だからある日私は何気なくこう言ったのです。いつかはイイラント領へ行ってみたいわ、と。
すると彼は私の両手を取って、真剣な顔でこう言いました。
「僕の故郷はまだ貧しいけれど、出来るだけ早く復興させて、いずれは豊かな領地にしたいと思っているんだ。とっても素敵な場所なんだ。
トーミリエ、君も手伝ってくれないか?」
「もちろん手伝うわ。友達じゃないの」
私がこう答えると、ショーン様は首を横に振りました。そして顔を赤らめてこう言ったのです。
「ただの友達じゃなくて、僕のお嫁さんとしてイイラント領に嫁いで来て欲しいんだ。
借金まみれの貧乏伯爵家の息子が、豊かな領地のご令嬢をお嫁さんに欲しいだなんて、図々しいという事はわかっているんだ。
でも、僕、トーミリエとならどんな困難でも乗り越えて幸せになれると思うんだ。
だって、僕はトーミリエが大好きで、ずっと一緒にいたいんだもの」
そう。まあ、こんな感じで十一歳の時にプロポーズをされ、私達はショーン様が王都の学園に入る直前の十三歳の時に婚約しました。
私の父からその話が伝わると、イイラント伯爵夫妻はびっくりして飛んで来ました。
そして父に向かって、まるで米つきバッタのような勢いで何度も頭を下げていました。何故でしょう?
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