1 / 8
プロローグ
しおりを挟む「この世で一番強いのは愛の力よ!
愛があればなんでも乗り越えられるのよ!」
これが母の口癖だった。
そして父も母の言葉に毎回頷いていた。
そう。両親の頭は未だにお花畑なのです。
しかしながら現実に二人は幸せなのだから、彼らにとってはそれは嘘ではない。
ただしそれが他の人にも当てはまるのかと言えばそれは違うと私は思っていた。
それなのに・・・
✽
私が夫のブルーノに初めて会ったのは、隣国との国境近くにあるスキー場たった。
私の生まれた国は一年中常春の気候に恵まれ、しかも土地は平坦で土壌も豊かだった。
国内どの場所でも住みやすく、どこか一所に人口が集中する事がなかった。その結果、この国には大都市どころか都市というものが存在しなかった。
私の実家のある王都でさえ、せいぜい大き目な町?程度で、とても都とは呼べないくらいこじんまりしていた。
そしてどこもかしこも一年中草花が咲き乱れ、とても美しいけれど、特徴のない、ただのんべんだらりとした風景が続く国だった。
まあ、そのおかげで豊かなで暮らしやすい国の割に、侵略してくる敵が全くいなかったのだと思う。
何せ何処を攻め落とせば征服できるのか、さっぱりわからないだろうから。
しかしそんな特徴のない平坦な国にも、唯一北との国境近くに山岳地帯があった。
そう。そこは常春の国で唯一雪が降る場所で、この国では珍しいリゾート地、つまりスキー場になっていた。
運動が得意でなかった私は、当然スキーなどにも全く興味がなかった。だから、誰に誘われても私はスキー場へは行かなかった。
ところが学院の卒業が間近に迫った冬のある日、私は友人達と共にそのスキー場に遊びに行く事になった。いわゆる卒業旅行というやつですね。
卒業したらほとんどの友人達が結婚する予定になっていた。今後みんなで何処かへ出かけるなんて事はないに違いない。そう思って私も参加する事にしたのだった。
もっとも、私以外の友人達は『ゲレンデマジック』というものを期待して参加したらしいのだが。
ゲレンデでは恋人が出来る確率がかなり高いらしい。それが『ゲレンデマジック』というもので、ゲレンデでは男性が三割増しで格好が良く見えるというのだ。
しかし、言い換えればそれはマジック、魔法なのだから日常に戻ったら消えてしまうのではないの?
私がそう言うと、友人達には呆れた顔をされた。
「そんな事わかっているわよ。
大体魔法から醒めないと寧ろまずいでしょ。みんな婚約者持ちなんだから。最初から不貞するつもりはないのよ。
でも結婚する前に一度でいいから、胸がドキドキする経験をしてみたじゃない。」
友人達はみんなそこのところは弁えているようだった。
伯爵家の娘でありながら未だに婚約者がいない私とは違って、友人達は皆大人だったのだ。
うちの場合は、両親が恋愛結婚なので、子供達にも自由恋愛を推奨していて、結婚相手を見繕ってはくれなかった。
兄二人と姉は自力で相手を見つけて結婚し、両親同様「愛は最強」を声高く叫んでいる。
しかし周りが熱いと、それを見させられている側は却って冷めるものらしい。
幸せな家族の様子を見るのは、私だって嬉しいけれど、だからといって自分がそれに憧れるかと言うと、それはまた別ものなのですよ。
私は植物学の研究者になりたいなどと、未だに漠然と考えている世間知らずなのだ。
結婚も誰か私に見合う男性を見繕ってくれないかしら、とくらいにしか考えていなかった。
そしてどうやらこの私の心の声は周りにはだだ漏れだったらしく、それ故に友人達がこのスキーイベントを計画してくれたようだった。素敵な男性と巡り会えるようにと。
スキー場に向かう途中で友人達からそれを教えられ、私は涙ぐんだ。
私自身は男性とお知り合いになりたいとはそれほど思ってはいなかったが、彼女達の友情に感動してしまったのだ。
そして、結果的にみんなの思惑通りに、私はそのスキー場で『ゲレンデマジック』にかかってしまったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
うっかり結婚を承諾したら……。
翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」
なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。
相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。
白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。
実際は思った感じではなくて──?
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました
ラム猫
恋愛
セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。
ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
※全部で四話になります。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです
みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。
時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。
数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。
自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。
はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。
短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました
を長編にしたものです。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる