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プロローグ
しおりを挟む「この世で一番強いのは愛の力よ!
愛があればなんでも乗り越えられるのよ!」
これが母の口癖だった。
そして父も母の言葉に毎回頷いていた。
そう。両親の頭は未だにお花畑なのです。
しかしながら現実に二人は幸せなのだから、彼らにとってはそれは嘘ではない。
ただしそれが他の人にも当てはまるのかと言えばそれは違うと私は思っていた。
それなのに・・・
✽
私が夫のブルーノに初めて会ったのは、隣国との国境近くにあるスキー場たった。
私の生まれた国は一年中常春の気候に恵まれ、しかも土地は平坦で土壌も豊かだった。
国内どの場所でも住みやすく、どこか一所に人口が集中する事がなかった。その結果、この国には大都市どころか都市というものが存在しなかった。
私の実家のある王都でさえ、せいぜい大き目な町?程度で、とても都とは呼べないくらいこじんまりしていた。
そしてどこもかしこも一年中草花が咲き乱れ、とても美しいけれど、特徴のない、ただのんべんだらりとした風景が続く国だった。
まあ、そのおかげで豊かなで暮らしやすい国の割に、侵略してくる敵が全くいなかったのだと思う。
何せ何処を攻め落とせば征服できるのか、さっぱりわからないだろうから。
しかしそんな特徴のない平坦な国にも、唯一北との国境近くに山岳地帯があった。
そう。そこは常春の国で唯一雪が降る場所で、この国では珍しいリゾート地、つまりスキー場になっていた。
運動が得意でなかった私は、当然スキーなどにも全く興味がなかった。だから、誰に誘われても私はスキー場へは行かなかった。
ところが学院の卒業が間近に迫った冬のある日、私は友人達と共にそのスキー場に遊びに行く事になった。いわゆる卒業旅行というやつですね。
卒業したらほとんどの友人達が結婚する予定になっていた。今後みんなで何処かへ出かけるなんて事はないに違いない。そう思って私も参加する事にしたのだった。
もっとも、私以外の友人達は『ゲレンデマジック』というものを期待して参加したらしいのだが。
ゲレンデでは恋人が出来る確率がかなり高いらしい。それが『ゲレンデマジック』というもので、ゲレンデでは男性が三割増しで格好が良く見えるというのだ。
しかし、言い換えればそれはマジック、魔法なのだから日常に戻ったら消えてしまうのではないの?
私がそう言うと、友人達には呆れた顔をされた。
「そんな事わかっているわよ。
大体魔法から醒めないと寧ろまずいでしょ。みんな婚約者持ちなんだから。最初から不貞するつもりはないのよ。
でも結婚する前に一度でいいから、胸がドキドキする経験をしてみたじゃない。」
友人達はみんなそこのところは弁えているようだった。
伯爵家の娘でありながら未だに婚約者がいない私とは違って、友人達は皆大人だったのだ。
うちの場合は、両親が恋愛結婚なので、子供達にも自由恋愛を推奨していて、結婚相手を見繕ってはくれなかった。
兄二人と姉は自力で相手を見つけて結婚し、両親同様「愛は最強」を声高く叫んでいる。
しかし周りが熱いと、それを見させられている側は却って冷めるものらしい。
幸せな家族の様子を見るのは、私だって嬉しいけれど、だからといって自分がそれに憧れるかと言うと、それはまた別ものなのですよ。
私は植物学の研究者になりたいなどと、未だに漠然と考えている世間知らずなのだ。
結婚も誰か私に見合う男性を見繕ってくれないかしら、とくらいにしか考えていなかった。
そしてどうやらこの私の心の声は周りにはだだ漏れだったらしく、それ故に友人達がこのスキーイベントを計画してくれたようだった。素敵な男性と巡り会えるようにと。
スキー場に向かう途中で友人達からそれを教えられ、私は涙ぐんだ。
私自身は男性とお知り合いになりたいとはそれほど思ってはいなかったが、彼女達の友情に感動してしまったのだ。
そして、結果的にみんなの思惑通りに、私はそのスキー場で『ゲレンデマジック』にかかってしまったのだった。
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