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結婚して見知らぬ国へ

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 そしてあっという間に私はブルーノ様と婚約したかと思うと、気が付いたら結婚式を挙げる事になっていた。

「ブルーノ様。今更なのですが、何故これ程までに結婚を急がれましたの?

 婚約はまだわかります。でも結婚は雪が溶けて春になるのを待ってからでもよろしかったのではないですか?」

 外はまだ銀世界で、自動車で帰国するのは大変だ。

「しかし、私の任期は今月までで、来月頭までには国へ戻らないといけません。

 そうしたら貴女とは暫く会えなくなってしまうでしょう? 

 私の住む王都と貴女の住む王都は遠く離れていて、片道一週間もかかってしまうのですから」

「それはそうですが、私は貴方のご両親やご兄弟、そして親類の方々とはまだお会いしていないのですよ? 

 もし反対されたら、私は異国の地でどうすればよいのですか?」

「貴女の事は手紙で伝えてあります。両親も姉も弟もそれはもう喜んでいました。間違っても反対などしていませんよ。

 我が国では自由恋愛が主流だし、結婚の基準は双方の合意であって、それ以外の者が干渉するなんて事はありえません。だからそんな心配はいりませんよ。 

 私は貴女のような素敵な女性と結婚出来て、世界一の幸せ者です。貴方を誰にもとられないように、大切に大切にします」

 婚約者は美しい緑色の瞳を輝かせ、熱くこう語ると、熱く熱く私を抱きしめたのだった。


 私は夫からのこの熱い情熱さえもらえれば、たとえ見知らぬ国でもどうにかやっていけると思った。


 両親だって結婚を反対されて駆け落ち婚をして、底辺の生活をしながらも、その熱い情熱でそれを乗り越え、結局は数年後に諦めた両親に許されて呼び戻され、この伯爵家を継いだのだから。


 しかし、情熱だけでは乗り越えられないものもあった。

 いえ、むしろその熱い熱い熱によって、私は今息絶えようとしていた。


 何? 何なの? どうしてこんな事になったの? 私はただ庭に出てみたかっただけなのに……

 お父様、お母様、先立つ不幸をお許し下さい。

 別れ際に、

「この世で一番強いのは愛の力よ!

 愛があればなんでも乗り越えられるのよ!」


 といつもの台詞で見送られたが、愛の力だけではこの国では生きてはいけなかった……


「アリスティ!!・・・」


 遠くから愛するブルーノ様の声が聞こえる。

 どうか、私の事など早く忘れて新しい奥様を見つけて下さい。私のように言い付けを破る事のない従順な方をお選び下さいませ……

 嫉妬のあまりコロッと騙されるなんて本当に情けないわ……


 

 激しい頭痛と気持ち悪さ、そして身体中の水分が出てしまうかのような大量の汗をかき、衣服から出た身体の部位に焼けるような痛みを覚えた。
 私はここで死ぬのだな、そう私は思った。



 ✽✽✽



 ところが今度はあまりの冷たさに、このままでは凍死する! 

 そう思った瞬間、私は目は覚ました。

 私はドレス姿のまま浴室の氷風呂に突っ込まれていた。


「アリスティ、アリスティ……

 死なないで、僕を置いて行かないで。君無しでは僕は生きて行けない。アリスティ、愛してる!」

 このような事態になっても通常モードの夫の台詞に、氷水の中で私は思わず笑ってしまった。 


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