私は毎日、夫に熱い(暑い)愛を囁かれています!

悠木 源基

文字の大きさ
4 / 8

異国での新婚生活

しおりを挟む

 私が嫁いだ国の王都は、母国とは違ってとても大きな都市だった。

 高くて厳かで立派な建物がそびえ立つ町並みは、雪を被っていてとても綺麗だった。


 結婚式を終えて初めて自動車でこの王都に入った時、私はその美しさに見惚れた。そして春になったら夫と一緒にこの町並みを歩きたいと思った。


 そしてようやく遅い春が来て雪が溶けた後数回、私は夫と王都へ出かけ、ショッピングをしたり、食事をしたり、お茶をしたりした。

 主人の職場の方々や、主人の友人のご夫婦とも街中で出会ってご挨拶をした。私達は皆さんに祝福してもらい、とても幸せだった。


 しかし、二月ほど経つと、私は街どころか屋敷の庭にも出られなくなった。

 窓にも扉にも魔法がかけられていて、開かないようになっていたのだ。


「アリスティ、アリスティ……

 どうか僕を置いて行かないで。

 君無しでは僕は生きて行けない。

 だからどうか外へは出かけないで。

 アリスティ、愛してる!」

 最初のうちは夫のこの言葉に照れていたが、全く外へ出してくれなくなった夫に恐ろしさを覚えるようになった。

 もしかしたら私を監禁しようとしているのじゃないかしら…… 嫉妬で私を他人と会わせないようにしているのではないかと。


 私がそう疑い始めると、それに気付いた夫は、慌てて屋敷から出してくれた。
 そして再びショッピングやレストランにも連れて行ってくれるようになった。

 そして夫がいなくても、舞踏会で知り合った奥様方と喫茶店でお茶をする事も許されるようになった。

 とはいえ、短い春が終わってからというもの、私は一歩も屋敷の表玄関から外へ出た事がなかった。夫は毎日玄関から王城へ登城しているというのに。


 ではどうやって私が街へ出かけているのかというと、地下道を通っているのだ。

 王都では地下道というか地下街が、各屋敷の地下室と繋がっていたのだ。


 この地下道は元々は坑道だったらしい。

 この国は地下資源が豊富で、その地下資源を利用した鉱業や工業で繁栄してきた国だったのだ。


 そしてこの国は一年の三分の一ほど雪に覆われていて、外を移動するのはかなり大変なことだという。そこで、使われなくなっていた坑道を地下街に整備したようだ。

 ただし、客は地下街から地上の店舗へとは上がれない構造になっていた。


「今は夏なのだから、地下ではなく地上をお日様を浴びながら街を歩きたいわ」

 お茶を飲みながら私がため息混じりにこう愚痴ると、奥様方がとんでもない!という顔をした。

「この国のお日様の威力は凄いのよ。常春の国から嫁がれた貴女にはわからないでしょうけど」

「日焼けしたらどうなさるおつもり?」

「それに紫外線もすごいのよ。少し外を歩いただけでもシミだらけになるわ」

「そうそう。その上、紫外線はシミだけじゃなくて、将来シワにもなるのよ。恐ろしいわぁ~」


 なるほどと私も思った。
 皆さんは外へ出かけないので、お肌があんなにも白くて、シミの一つもないなのですね。

 私は自分の手に目をやってため息をついた。


 私は学生の頃は植物学を選考していて、フィールドワークを常に行なっていた。

 珍しい植物が見つかれば、すぐに現地に訪れては直接観察をしていたのだ。

 そのため、一般的なご令嬢と比べると外を出歩いていた時間が長く、いくら対策をしていたとはいえ、お日様を浴びていた時間はかなり多かった。

 まだ十八ですからシミやシワはさすがにまだないが、こちらの奥様方のような色白美肌にはほど遠い私だった。

 しかも手は対策し辛かったので、かなり荒れている上に白魚の手とはまさに正反対だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

処理中です...