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夫からの贈り物
しおりを挟む今頃になってそんな事に気付くとはなんて鈍いのだろう。
他の奥様達と比べて私は日に焼けていて肌が荒れている。
だからこれ以上酷くならないように、ブルーノ様は私を外へ出さないようにしているんだわ。
きっと夫は友人や知り合いの男性に私の事で馬鹿にされたり、同情されているのに違いない。
私はようやくその事に気が付いて落ち込んだ。今の私ではあの美しい夫に釣り合わないわと……
たしかあと三ヶ月後に王宮のパーティーがある筈だ。そこで私はブルーノ様の妻として王族の方々に初めてご挨拶する。
それまでに自分をもっと磨かなければと、私は遅まきながら肌の手入れに力を入れ始めた。
夫は私の様子が少し変わった事にすぐに気付いて、どうしたのかと尋ねてきたが、まさか、自分が貴方に相応しくないから落ち込んでいるとはとても言えなかった。
夫はそんな私を心配して以前にも増して花を買ってきては、私に愛の言葉を囁いてくれるようになった。
ところが、私は夫が贈ってくれる花を見る度に余計に落ち込んだ。
何故なら夫が贈ってくれる花は造花やプリザードフラワーやドライフラワーばかりだったからだ。
それらはどれもみな美しく、とても高価な品で、決してそれらが気に入らなかったわけではない。
しかし私は切り花の花束が好きなのです。
それを知っている筈なのに、何故切り花を買ってきてくれないのかがわからなくてイライラしました。高価な薔薇や蘭じゃなくても、野に咲く花でもいいのに……
婚約中ブルーノ様はいつも花束を贈ってくれた。
時には、お住まいの庭先の花を摘んで持って来てくれた事もあって、私はそれがとても嬉しかったのに。
そんなモヤモヤした気持ちを抱えて落ち込んでいた私は、どうにか気分を晴らしたいと、地下街の花屋へと向かった。
花屋はかなり遠くにあると聞いていたので、それまでは行った事がなかった。
そう、地下街は地上とは違って、自動車や馬車などの乗り物を使えないのだ。
しかしその花屋へ向かう途中で、私は一人の女性に呼び止められた。
それはとある侯爵令嬢で、あまり評判の良くない方のようで、夫や友人達から用心するように注意を受けていた。
「まあ、ボルドール公爵夫人ではありませんか。お久しぶりですわね」
「ごきげんよう、ナタリー・ドット侯爵令嬢」
「一緒に御茶でもいかがですか?」
「お誘い頂いてありがとうございます。でも残念ですが、買い物に行く途中ですので、また次の機会の時に……」
「何をお買いになりたいのですか?」
「部屋に飾るお花を買うつもりですの」
「お花とは鉢植えですか?」
「いいえ、切り花ですわ」
「まあ、切り花ですか?」
ナタリー嬢は一瞬驚いた顔をした後で、意地の悪い顔をしてこう言った。
「もしかしたらボルドール公爵夫人は、公爵様から花束を頂いた事がないのではないですか?」
私はカチンとして
「貰った事くらいありますよ。当然ですわ」
と言うと、側にいた侍女がこう言った。
「旦那様は、奥様に対する変わらない愛を表すために、プリザーブドフラワーやドライフラワーを贈られているのだと思いますわ」
「ほうら、やっぱり頂いた事がないのですわね。
そのご様子ではお庭のお花も切って頂いた事がないのでは?
それはそうですわよね。カミラ様が大切にお世話されていた花壇の花を、ボルドール公爵様が切られるわけがありませんものね、オホホ……」
ナタリー嬢の馬鹿にしたような笑い声が頭の中で響き渡った。
その後、私はどうやって屋敷まで帰ってきたのかわからなかった。
夫が私を愛しているなんて大嘘だった。
夫は元の奥様か婚約者か恋人かはわからないけれど、カミラ様という方をずっと愛しているのだわ。
その方と生き別れか死に別れかはわからないけれど、その方と一緒に居られなくなったので、その身代わりに私と結婚したのよ。
もしそうでなかったらあんなに結婚を急ぐわけがなかったし、わざとらしくあんなに愛してるって毎日連呼したりしないわ。
「アリスティ、アリスティ……
どうか僕を置いて行かないで。
君無しでは僕は生きて行けない。
だからどうか外へは出ないで。
アリスティ、愛してる!」
なるほど、あの言葉の意味がようやくわかったと思った。
私までカミラ様のように逃げ出したりしないように、庭にも出さないようにしたんだわ。
しかもカミラ様が庭に造った花壇の花を私なんかには見せたくなかっただろう。
しかもその大切な花を切って活けるだなんて、それこそとんでもない事だったんだわ。
本当に愛の力は強いわね。
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