私は毎日、夫に熱い(暑い)愛を囁かれています!

悠木 源基

文字の大きさ
5 / 8

夫からの贈り物

しおりを挟む

 今頃になってそんな事に気付くとはなんて鈍いのだろう。

 他の奥様達と比べて私は日に焼けていて肌が荒れている。
 だからこれ以上酷くならないように、ブルーノ様は私を外へ出さないようにしているんだわ。

 きっと夫は友人や知り合いの男性に私の事で馬鹿にされたり、同情されているのに違いない。


 私はようやくその事に気が付いて落ち込んだ。今の私ではあの美しい夫に釣り合わないわと……

 たしかあと三ヶ月後に王宮のパーティーがある筈だ。そこで私はブルーノ様の妻として王族の方々に初めてご挨拶する。

 それまでに自分をもっと磨かなければと、私は遅まきながら肌の手入れに力を入れ始めた。


 夫は私の様子が少し変わった事にすぐに気付いて、どうしたのかと尋ねてきたが、まさか、自分が貴方に相応しくないから落ち込んでいるとはとても言えなかった。

 夫はそんな私を心配して以前にも増して花を買ってきては、私に愛の言葉を囁いてくれるようになった。


 ところが、私は夫が贈ってくれる花を見る度に余計に落ち込んだ。

 何故なら夫が贈ってくれる花は造花やプリザードフラワーやドライフラワーばかりだったからだ。

 それらはどれもみな美しく、とても高価な品で、決してそれらが気に入らなかったわけではない。

 しかし私は切り花の花束が好きなのです。
 それを知っている筈なのに、何故切り花を買ってきてくれないのかがわからなくてイライラしました。高価な薔薇や蘭じゃなくても、野に咲く花でもいいのに……


 婚約中ブルーノ様はいつも花束を贈ってくれた。
 時には、お住まいの庭先の花を摘んで持って来てくれた事もあって、私はそれがとても嬉しかったのに。


 そんなモヤモヤした気持ちを抱えて落ち込んでいた私は、どうにか気分を晴らしたいと、地下街の花屋へと向かった。

 花屋はかなり遠くにあると聞いていたので、それまでは行った事がなかった。
 そう、地下街は地上とは違って、自動車や馬車などの乗り物を使えないのだ。


 しかしその花屋へ向かう途中で、私は一人の女性に呼び止められた。

 それはとある侯爵令嬢で、あまり評判の良くない方のようで、夫や友人達から用心するように注意を受けていた。


「まあ、ボルドール公爵夫人ではありませんか。お久しぶりですわね」

「ごきげんよう、ナタリー・ドット侯爵令嬢」

「一緒に御茶でもいかがですか?」

「お誘い頂いてありがとうございます。でも残念ですが、買い物に行く途中ですので、また次の機会の時に……」

「何をお買いになりたいのですか?」

「部屋に飾るお花を買うつもりですの」

「お花とは鉢植えですか?」

「いいえ、切り花ですわ」

「まあ、切り花ですか?」


 ナタリー嬢は一瞬驚いた顔をした後で、意地の悪い顔をしてこう言った。

「もしかしたらボルドール公爵夫人は、公爵様から花束を頂いた事がないのではないですか?」

 私はカチンとして

「貰った事くらいありますよ。当然ですわ」

 と言うと、側にいた侍女がこう言った。

「旦那様は、奥様に対する変わらない愛を表すために、プリザーブドフラワーやドライフラワーを贈られているのだと思いますわ」

「ほうら、やっぱり頂いた事がないのですわね。

 そのご様子ではお庭のお花も切って頂いた事がないのでは?

 それはそうですわよね。カミラ様が大切にお世話されていた花壇の花を、ボルドール公爵様が切られるわけがありませんものね、オホホ……」


 ナタリー嬢の馬鹿にしたような笑い声が頭の中で響き渡った。

 その後、私はどうやって屋敷まで帰ってきたのかわからなかった。

 夫が私を愛しているなんて大嘘だった。
 夫は元の奥様か婚約者か恋人かはわからないけれど、カミラ様という方をずっと愛しているのだわ。

 その方と生き別れか死に別れかはわからないけれど、その方と一緒に居られなくなったので、その身代わりに私と結婚したのよ。

 もしそうでなかったらあんなに結婚を急ぐわけがなかったし、わざとらしくあんなに愛してるって毎日連呼したりしないわ。


「アリスティ、アリスティ……

 どうか僕を置いて行かないで。

 君無しでは僕は生きて行けない。

 だからどうか外へは出ないで。

 アリスティ、愛してる!」


 なるほど、あの言葉の意味がようやくわかったと思った。
 私までカミラ様のように逃げ出したりしないように、庭にも出さないようにしたんだわ。

 しかもカミラ様が庭に造った花壇の花を私なんかには見せたくなかっただろう。 
 しかもその大切な花を切って活けるだなんて、それこそとんでもない事だったんだわ。


 本当に愛の力は強いわね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月るるな
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました

ラム猫
恋愛
 セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。  ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。 ※全部で四話になります。

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

処理中です...