2 / 11
Santa Baby 後編
しおりを挟む
1番客は、黒縁眼鏡にスーツを着た若いリーマンってコイツ
「あれ、祐次くん」
アリサは目をパチクリさせる。
いきなりかよ!
まさか初日の1発目に来るとは思わなかった。
「えへへ、来ちゃいました。アリサさん素敵ですね。ハジメさん、お久しぶり」
祐次は俺を見て固まった。それから顔を真っ赤にして
「めっちゃいい・・・」
と口を覆いながら小声で言った。
「写メ撮っていいですか?」
スマホを素早く取り出してきた。キメ顔で言っても無駄だ。ヤメロ。
「・・・ご注文は?」
他人行儀に言ってやった。客らしくしてろ。
「ヤバい・・・ヤバイですね今の!」
アリサと顔を見合わせてウンウンと頷いている。なんなんだお前ら。さっさと弾くことにした。
「ナット・キング・コール、L-O-V-E」
アリサを見てそれだけ言って、軽快なイントロを弾き始めた。アリサはムッとしていたけど、すぐ歌に入っていったから流石だ。
祐次はポカンと眺めていたが、後藤に呼ばれてカウンターに座り、何やら楽しげに話し始めた。客もポツポツと増えてきて、小1時間もすれば意外にも満席になった。そのタイミングで祐次は
「そろそろ帰りますね。いいものを見られてよかったです」
とホクホクした顔で帰っていった。もう来るな。
弾いてみて分かったが、かなり曲のレパートリーがいる。今日はジャズの定番曲やCMソングなんかをアレンジして凌げたけど、バイトが終わるまで毎日違う曲を弾くなら、下手したら100や200曲じゃきかない。
後藤はそこまではしなくていいと言っていたけど、弾いている最中に
「年配の方が増えてきたから往年の曲お願いします」
「お客さん少なくなってきたから静かな曲で」
なんて指示が入った。
客や雰囲気を見て曲を変えるのは思ったより神経を使う。正直ウエイターに駆り出された時はホッとした。
「今度からアリサが曲選んで」
仕事が終わって、帰り道でアリサに言った。アリサの方が客もよく見えるし、俺もピアノに集中できる。
「分かった。私もレパートリー増やしておくね」
アリサも声に力がない。
「やっぱりまだまだだなあ・・・」
アリサは空を仰いで白い息を吐く。俺はこのバイトが終われば好き勝手に弾くだけだけど、アリサは違う。プロを目指しているらしいからな。
「俺はお前の歌嫌いじゃねえけどな」
アリサはコートを翻してこっちを見た。そして睨みつけてくる。
「ゲイのくせにそういうこと言ってんじゃないわよ」
「ハア?褒めてやったんだろうが」
「褒めっ・・・!あーもう!アンタってホンッット・・・!」
アリサの顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。
「見てなさいよ!ぜーったい上手くなってやるんだから!」
アリサはぷいと顔を背けて、駅の改札を抜けて行った。
日が経つに連れて、段々周りを見る余裕が出てきた。
若い客が多いから賑やかなのがいいかな、とか、カップルが結構いるからラブソングがいいかな、とか。
アリサは確かに声がオーダーストップの時間までしっかり出るようになってきた。でも表情は険しい。
「あんまり根詰めるなよ、声でなくなるぞ」
休憩時間にそう言ってやると
「なによ、そういうとこだけしっかり気付く癖になんで・・・」
とかブツブツ言いながら水を飲んでいた。
また演奏する時間になって、Santa Babyを弾いていると、二十代後半くらいの女達がテーブルで顔を寄せ合って何か話している。
こっちを見ながら。
なんだ?クレームか何かか?確かにこの曲は最低なクリスマスソングとか言われてるけど、アヴリル・ラヴィーンなんかもカバーしてるんだぞ。
休憩時間になって、椅子から立ち上がると、あの女達が俺のところに来た。
ヤベエ、クレーム処理とか数えるくらいしかした事ないんだけど。ギリギリまで気づかないフリをしてたけど、女達はすぐ近くまで来た。
その中の髪を巻いた女が神妙な面持ちで言う。
「あの、バイト終わるのって何時くらいですか?」
予想外の言葉にそっちを見ると、他の女達から何故か黄色い声が上がった。
「ホントだカワイイ!」
「よかったら、一緒に飲みに行きませんか」
「あ、都合が悪かったらまた今度でも。連絡先教えてもらっていいですか」
親鳥から餌を貰おうとする雛みてえに女達はさえずる。マジか。なんなんだこの状況。
頭が真っ白になって思わず後藤を見たが、ニンマリとサムズアップをするだけで何の役にも立たなかった。
「悪い。先約があるから」
本当に。
本当に何にも考えずに、この状況から抜け出す為だけに、アリサの手を掴んだ。
「あ、そっか・・・」
「残念だったね」
女達はしょんぼりして席に戻っていった。
「アンタって本当に最低」
アリサから蔑みの視線が刺さる。
「悪かったよ」
「責任取ってよね」
「は?」
「だから、ご飯連れてってよ!絶対!」
アリサはロッカールームまで足音荒く歩いて行った。なんだかとんでもないことをしてしまった気がする。
こっちがうんと言ってないから誤魔化せると思ったが
「最終日にしよっか、ご飯行くの。その、打ち上げ的な?」
と帰り道で言われて詰んだ。
「わかったよ」
その方がああいうのを躱しやすいかもしれないしな。
「え、ホントに?・・・25日だけど、いいの・・・?」
「や、別にいいけど」
「じゃあお店予約しておくね」
「そこまでする?」
「だってクリスマスだよ」
言って、アリサはしまった、という顔をしていた。
「ユウジさんといなくて、いいの?」
顔色を伺うカホみてえな面をする。
毎日顔を合わせてるんだから別に気にすることじゃない。だから
「いいよ」
と言った。
アリサは少し赤くなった鼻をマフラーで隠して、楽しみにしてるね、とやけにしおらしく微笑んだ。
「あれ、祐次くん」
アリサは目をパチクリさせる。
いきなりかよ!
まさか初日の1発目に来るとは思わなかった。
「えへへ、来ちゃいました。アリサさん素敵ですね。ハジメさん、お久しぶり」
祐次は俺を見て固まった。それから顔を真っ赤にして
「めっちゃいい・・・」
と口を覆いながら小声で言った。
「写メ撮っていいですか?」
スマホを素早く取り出してきた。キメ顔で言っても無駄だ。ヤメロ。
「・・・ご注文は?」
他人行儀に言ってやった。客らしくしてろ。
「ヤバい・・・ヤバイですね今の!」
アリサと顔を見合わせてウンウンと頷いている。なんなんだお前ら。さっさと弾くことにした。
「ナット・キング・コール、L-O-V-E」
アリサを見てそれだけ言って、軽快なイントロを弾き始めた。アリサはムッとしていたけど、すぐ歌に入っていったから流石だ。
祐次はポカンと眺めていたが、後藤に呼ばれてカウンターに座り、何やら楽しげに話し始めた。客もポツポツと増えてきて、小1時間もすれば意外にも満席になった。そのタイミングで祐次は
「そろそろ帰りますね。いいものを見られてよかったです」
とホクホクした顔で帰っていった。もう来るな。
弾いてみて分かったが、かなり曲のレパートリーがいる。今日はジャズの定番曲やCMソングなんかをアレンジして凌げたけど、バイトが終わるまで毎日違う曲を弾くなら、下手したら100や200曲じゃきかない。
後藤はそこまではしなくていいと言っていたけど、弾いている最中に
「年配の方が増えてきたから往年の曲お願いします」
「お客さん少なくなってきたから静かな曲で」
なんて指示が入った。
客や雰囲気を見て曲を変えるのは思ったより神経を使う。正直ウエイターに駆り出された時はホッとした。
「今度からアリサが曲選んで」
仕事が終わって、帰り道でアリサに言った。アリサの方が客もよく見えるし、俺もピアノに集中できる。
「分かった。私もレパートリー増やしておくね」
アリサも声に力がない。
「やっぱりまだまだだなあ・・・」
アリサは空を仰いで白い息を吐く。俺はこのバイトが終われば好き勝手に弾くだけだけど、アリサは違う。プロを目指しているらしいからな。
「俺はお前の歌嫌いじゃねえけどな」
アリサはコートを翻してこっちを見た。そして睨みつけてくる。
「ゲイのくせにそういうこと言ってんじゃないわよ」
「ハア?褒めてやったんだろうが」
「褒めっ・・・!あーもう!アンタってホンッット・・・!」
アリサの顔はみるみるうちに真っ赤になっていく。
「見てなさいよ!ぜーったい上手くなってやるんだから!」
アリサはぷいと顔を背けて、駅の改札を抜けて行った。
日が経つに連れて、段々周りを見る余裕が出てきた。
若い客が多いから賑やかなのがいいかな、とか、カップルが結構いるからラブソングがいいかな、とか。
アリサは確かに声がオーダーストップの時間までしっかり出るようになってきた。でも表情は険しい。
「あんまり根詰めるなよ、声でなくなるぞ」
休憩時間にそう言ってやると
「なによ、そういうとこだけしっかり気付く癖になんで・・・」
とかブツブツ言いながら水を飲んでいた。
また演奏する時間になって、Santa Babyを弾いていると、二十代後半くらいの女達がテーブルで顔を寄せ合って何か話している。
こっちを見ながら。
なんだ?クレームか何かか?確かにこの曲は最低なクリスマスソングとか言われてるけど、アヴリル・ラヴィーンなんかもカバーしてるんだぞ。
休憩時間になって、椅子から立ち上がると、あの女達が俺のところに来た。
ヤベエ、クレーム処理とか数えるくらいしかした事ないんだけど。ギリギリまで気づかないフリをしてたけど、女達はすぐ近くまで来た。
その中の髪を巻いた女が神妙な面持ちで言う。
「あの、バイト終わるのって何時くらいですか?」
予想外の言葉にそっちを見ると、他の女達から何故か黄色い声が上がった。
「ホントだカワイイ!」
「よかったら、一緒に飲みに行きませんか」
「あ、都合が悪かったらまた今度でも。連絡先教えてもらっていいですか」
親鳥から餌を貰おうとする雛みてえに女達はさえずる。マジか。なんなんだこの状況。
頭が真っ白になって思わず後藤を見たが、ニンマリとサムズアップをするだけで何の役にも立たなかった。
「悪い。先約があるから」
本当に。
本当に何にも考えずに、この状況から抜け出す為だけに、アリサの手を掴んだ。
「あ、そっか・・・」
「残念だったね」
女達はしょんぼりして席に戻っていった。
「アンタって本当に最低」
アリサから蔑みの視線が刺さる。
「悪かったよ」
「責任取ってよね」
「は?」
「だから、ご飯連れてってよ!絶対!」
アリサはロッカールームまで足音荒く歩いて行った。なんだかとんでもないことをしてしまった気がする。
こっちがうんと言ってないから誤魔化せると思ったが
「最終日にしよっか、ご飯行くの。その、打ち上げ的な?」
と帰り道で言われて詰んだ。
「わかったよ」
その方がああいうのを躱しやすいかもしれないしな。
「え、ホントに?・・・25日だけど、いいの・・・?」
「や、別にいいけど」
「じゃあお店予約しておくね」
「そこまでする?」
「だってクリスマスだよ」
言って、アリサはしまった、という顔をしていた。
「ユウジさんといなくて、いいの?」
顔色を伺うカホみてえな面をする。
毎日顔を合わせてるんだから別に気にすることじゃない。だから
「いいよ」
と言った。
アリサは少し赤くなった鼻をマフラーで隠して、楽しみにしてるね、とやけにしおらしく微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる