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第四章 七変化
酒の好み
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朱翔は赤雀殿に来ていたが、父朱能どころか母朱梨も自室にはおらず、侍女に「父上の殿より私の殿へ来ないか?」や「君の微笑みはいつ見ても素敵だよ」と愛想を振りまきながら居場所を教えてもらう。
「父上! こちらにいらしたのですね」
「朱翔ではないか」
朱能は自殿の庭園の奥で、神獣の雀と一緒に散策していた。
「父上、散策とは何か考え事ですか?」
朱能は悩みがあると雀と散策する。
「今朝、父上から報告があってな…」
「祖父上から? 何ですか?」
「何と言えば…」
朱能は頭を抱え顔を曇らせる。
普段、顔に出さない朱能がこれ程までに悩むのは珍しい。朱雀家が同家で争う事は滅多にないが、余程の事が起きているのだろう。場合によっては、黄虎に付いて行くのは難しくなる。
朱翔は焦った。
「何をですか父上っ」
「蒼万が…」
…へ?
「朱夏との婚約を断ったのだ…」
「……」
「父上が直接話を出したが、好いた女子がいるから無理だと言われたそうだ… 朱夏に何と言えばよいか、朱翔何か良い案はないか⁉︎」
「まさか父上は…それで散策をされていたのですか?」
「そうだ…」
朱夏に振り回されたかと思うと癪に障るが、一先ず真剣に悩む朱能を無視して、朱翔は自分の用件だけ伝えることにした。
「それはご自分でお考え下さい。私は明日、黄虎と共に中央宮に参ります」
「朱夏は私の言うことなど」
なぬ?
「中央宮に?」
朱翔は微笑んで頷く。
「何をしに?」
朱翔は雲雀を出す。雲雀は雀に会釈すると、二羽は空へ飛び立った。目で追いながら、中央宮がある方向を見る。
「友の殿に遊びに行くだけです」
朱能は朱翔の横に立ち並び、同じ方向を見て尋ねる。
「…他にも一緒か?」
東宮と西宮の方向を見て言う。
「宴会を予定しています」
「…甘い酒か?」
天を見上げる。
「いいえ…恐らく、苦い酒になりそうです」
朱能も天を見上げながら尋ねる。
「お前もその酒を、呑むのか?」
「はい…」
「何故?」
「友だからです」
「友の、ためか…わかった、私も宴会に参加しようか?」
「今はやめといた方が良いでしょう。寝かせ過ぎた酒であれば、父上達のお口に合うかと…」
「そうか…辛い酒は、呑みたくないな」
朱翔は顔を下ろし朱能を見る。
「私もです」
朱能も顔を下ろし息子の眼差しを見る。
「…気をつけて行きなさい」
二人はまた天を見上げた。
朱翔は黄虎と柊虎の会話を全て聴いていた。昨日何気なく志瑞也に絡んだ事で、蒼万を怒らせ彼を傷つけたと思い、詫びを入れに朱雀殿に行っていた。だが、既に二人の姿はなく、次に黄虎の様子を見に向かう。途中柊虎を見かけ、驚かそうと微笑みゆっくり後をつけたが、柊虎は黄虎の自室の近くで立ち止まり、胸に手をあて何か考え込んでいた。黄虎の状態が、そんなに悪いのかと心配したのも事実。
朱雀本家直系の男子は、他神家に比べると耳や目が良い。神力を使い更に遠くを見たり、わずかな音でも聴くことができる。柊虎が部屋に入った後、朱翔は離れた所から聴き耳を立てた。柊虎だけでなく、黄虎の鼓動にも明らかに乱れがあった。黄怜の名が出た瞬間、朱翔は記憶の中に一気に引き戻された。朱翔の中でも、黄怜はあの頃のままで止まっていた。自分も黄怜の本当の死因を知るべきだ、あれから皆話さないだけで、誰一人黄怜の死は乗り越えられていない。
黄怜の死の追及に柊虎達が動くとわかり、場合によって自分達の手に負えない可能性もある。蒼万に関しては分からないが、幼い頃から柊虎と黄虎のことはよく知っている。二人共策を練れる性分ではない。他にも何かある雰囲気は感じられたが、事が明るみになればいずれわかると朱翔は考えていた。
朱能は晟朱から朱夏の婚約の話以外に、雀都と志瑞也の出来事を聞かされていた。その事が何を意味するのだろうか。息子自ら決断したのであれば、辛い酒でないことを祈った。
朱雀鳥は誇り高く天を舞い、悲しみながらもこの世の全ての邪を焼き尽くす。上空を羽ばたく雀と雲雀を見つめながら、全てが邪でないことを二人は願った。
翌日、朱翔は柊虎に「これで何処に居てもわかる」と雲雀の羽根を一枚渡した。朱翔は黄虎と中央宮へ、柊虎は蒼万達を追って北宮領域女宿へと向かったのだった。
─ 第四章 終 ─
「父上! こちらにいらしたのですね」
「朱翔ではないか」
朱能は自殿の庭園の奥で、神獣の雀と一緒に散策していた。
「父上、散策とは何か考え事ですか?」
朱能は悩みがあると雀と散策する。
「今朝、父上から報告があってな…」
「祖父上から? 何ですか?」
「何と言えば…」
朱能は頭を抱え顔を曇らせる。
普段、顔に出さない朱能がこれ程までに悩むのは珍しい。朱雀家が同家で争う事は滅多にないが、余程の事が起きているのだろう。場合によっては、黄虎に付いて行くのは難しくなる。
朱翔は焦った。
「何をですか父上っ」
「蒼万が…」
…へ?
「朱夏との婚約を断ったのだ…」
「……」
「父上が直接話を出したが、好いた女子がいるから無理だと言われたそうだ… 朱夏に何と言えばよいか、朱翔何か良い案はないか⁉︎」
「まさか父上は…それで散策をされていたのですか?」
「そうだ…」
朱夏に振り回されたかと思うと癪に障るが、一先ず真剣に悩む朱能を無視して、朱翔は自分の用件だけ伝えることにした。
「それはご自分でお考え下さい。私は明日、黄虎と共に中央宮に参ります」
「朱夏は私の言うことなど」
なぬ?
「中央宮に?」
朱翔は微笑んで頷く。
「何をしに?」
朱翔は雲雀を出す。雲雀は雀に会釈すると、二羽は空へ飛び立った。目で追いながら、中央宮がある方向を見る。
「友の殿に遊びに行くだけです」
朱能は朱翔の横に立ち並び、同じ方向を見て尋ねる。
「…他にも一緒か?」
東宮と西宮の方向を見て言う。
「宴会を予定しています」
「…甘い酒か?」
天を見上げる。
「いいえ…恐らく、苦い酒になりそうです」
朱能も天を見上げながら尋ねる。
「お前もその酒を、呑むのか?」
「はい…」
「何故?」
「友だからです」
「友の、ためか…わかった、私も宴会に参加しようか?」
「今はやめといた方が良いでしょう。寝かせ過ぎた酒であれば、父上達のお口に合うかと…」
「そうか…辛い酒は、呑みたくないな」
朱翔は顔を下ろし朱能を見る。
「私もです」
朱能も顔を下ろし息子の眼差しを見る。
「…気をつけて行きなさい」
二人はまた天を見上げた。
朱翔は黄虎と柊虎の会話を全て聴いていた。昨日何気なく志瑞也に絡んだ事で、蒼万を怒らせ彼を傷つけたと思い、詫びを入れに朱雀殿に行っていた。だが、既に二人の姿はなく、次に黄虎の様子を見に向かう。途中柊虎を見かけ、驚かそうと微笑みゆっくり後をつけたが、柊虎は黄虎の自室の近くで立ち止まり、胸に手をあて何か考え込んでいた。黄虎の状態が、そんなに悪いのかと心配したのも事実。
朱雀本家直系の男子は、他神家に比べると耳や目が良い。神力を使い更に遠くを見たり、わずかな音でも聴くことができる。柊虎が部屋に入った後、朱翔は離れた所から聴き耳を立てた。柊虎だけでなく、黄虎の鼓動にも明らかに乱れがあった。黄怜の名が出た瞬間、朱翔は記憶の中に一気に引き戻された。朱翔の中でも、黄怜はあの頃のままで止まっていた。自分も黄怜の本当の死因を知るべきだ、あれから皆話さないだけで、誰一人黄怜の死は乗り越えられていない。
黄怜の死の追及に柊虎達が動くとわかり、場合によって自分達の手に負えない可能性もある。蒼万に関しては分からないが、幼い頃から柊虎と黄虎のことはよく知っている。二人共策を練れる性分ではない。他にも何かある雰囲気は感じられたが、事が明るみになればいずれわかると朱翔は考えていた。
朱能は晟朱から朱夏の婚約の話以外に、雀都と志瑞也の出来事を聞かされていた。その事が何を意味するのだろうか。息子自ら決断したのであれば、辛い酒でないことを祈った。
朱雀鳥は誇り高く天を舞い、悲しみながらもこの世の全ての邪を焼き尽くす。上空を羽ばたく雀と雲雀を見つめながら、全てが邪でないことを二人は願った。
翌日、朱翔は柊虎に「これで何処に居てもわかる」と雲雀の羽根を一枚渡した。朱翔は黄虎と中央宮へ、柊虎は蒼万達を追って北宮領域女宿へと向かったのだった。
─ 第四章 終 ─
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