58 / 164
第五章 彼岸花
独立
しおりを挟む
黄虎が南宮に発って約半月が経ち、九虎の身体は日毎に発作の回数も増え、時折頭の中に怪しげな声まで聞こえていた。
「ゔッ…はぁはぁ…」
九虎が胸を押さえ苦しみだす。怪しげな声は〝クルシイノカ?〟と笑いながら問いかける。
「おっ…お前っ… ゔッ…はぁはぁ…」
顔を皺くちゃに歪め額に汗を垂らす。
「ゔッ…はぁ…はぁ…」
身体に霊力を流し込むと、怪しげな笑い声は徐々に消えていった。
「はぁ…はぁ…」
痛みが少しずつ治まり、九虎は手拭いで汗を拭う。
「九虎様」
戸の外から侍女が声をかけた。
九虎は呼吸を整えてから返事する。
「…何事か」
「黄虎様が只今南宮から戻られました、朱雀家の朱翔様もご一緒です」
九虎は訝しむ。
「何故朱翔も?」
「久々に遊びに参られたと聞いております」
「……それで、今黄虎は?」
「白龍殿に報告と挨拶に行かれております。その後、ご挨拶にこちらに参るとのことです」
「わかった、下がりなさい…」
「はい」
侍女は戸の前から去って行った。
朱翔は道中妹朱夏が、蒼万を酔わせて寝床に連れ込もうとしていた出来事や、蒼万に好いた女子がいるからと婚約を断られ、頭を抱える父朱能のことを笑いながら話した。黄虎と蒼万は、黄怜の死後話すことはなかった。「蒼万にも想う人がいたのだな」微笑んで言うと「蒼万は結構変態かもしれないぞハハハハ」楽しそうに笑う。黄虎は「いや蒼万は私達の中で誰よりも芯が強い、きっと相手を大切にするよ。蒼万が慕うのはどんな女だろうな」と言っても「あいつを虜にするぐらいだ、体つきが艶美なのは間違いないハハハハ」怪しげに笑う。黄虎は話にならないと黙った。
蒼万が今回柊虎と共に動くと分かり、蒼万ならと期待していた。いつか蒼万ともきちんと話さなければと思いながら、二人は南宮を出て二日目の未の刻に中央宮に着いた。
「父上、母上、只今戻りました」
「黄理様、美虎様、お久し振りです」
黄虎と朱翔は二人に会釈する。
黄理が頷きながら言う。
「二人共ご苦労であった、掛けなさい」
「はい」二人は椅子に腰掛けた。
美虎が明るく尋ねる。
「朱翔は立派になられて、もうすぐ婚姻するからかしら?」
「それもありますが、私は元々男前なのですよ。美虎様はご存じでしたでしょ?ハハハ」
「そういう所は相変わらずね」
「美虎様もお変わりない美しさですよ」
朱翔は恥ずかしげもなく美虎を誉めた。
「ハハハ朱翔は女子を口説くのが上手だな」
「いいえ黄理様、私は玄葉一筋ですから」
そう言って、朱翔は胸に手を当て微笑む。
玄葉は玄武家の者だが、他神家の女子と比べても、容姿が秀でた訳でもなく神力霊力共に謎が多い。更に口数も少なくあまり笑わない。朱翔との婚約が決まった時は、皆が家の決め事だと思っていた。だが、後から婚約を申込んだのが朱翔だと分かっても、未だにその理由は誰も知らない。
黄理が黄虎に言う。
「お前もそろそろ、虎春と婚約しても良いのではないか?」
「父上その件ですが…」
言葉を詰まらせる黄虎に美虎が尋ねる。
「虎春と…何かあったの?」
「いいえ何も… 私も虎春を嫁に貰いたいと、考えております…」
黄虎が婚姻に対し初めて意見を言った。
「そうか! では早速っ盛虎様に通達を出そうではないか!」
「ええあなた!」
「お待ち下さいっ」
「…どうしたのだ?」
「今は、お待ち下さい… その時が来れば私が直接、盛虎様にご挨拶に伺いますから…」
……。
ぬか喜びした黄虎の両親は、息子の言葉に理解ができず言葉を失う。
黄虎は目を泳がせ黙り込む。
「あのっ 黄虎はもう少し、えっと、こっ今回の妖魔退治や民の救済で学ぶ事が多かったようで… そうだろ黄虎? おいっ」
機転を利かせた朱翔がその場を取り繕った。だが、行きあたりばったりの策のない黄虎の思考に、朱翔は困惑することになる。
「はっはい、最近は一度に大量の妖魔が出る事もなく、今回私自身未熟な部分に気付かされました。ここで暫く休んだ後、朱翔と共に北宮へ参りたいと存じます」
へ?
「北宮って私はそんな痛ッ…」
黄虎が机の下で朱翔の足を蹴りつけた。朱翔は「何するんだお前っ」と言わんばかりの顔で黄虎を睨みつけるが、黄虎は目を細め笑って朱翔に言う。
「そうだよな? 朱翔は玄葉に会いに行くのだろ?」
「……」
黄虎に何の意図があるのか、朱翔は皆目見当もつかない。この顔は、話を合わせろということだろう。
「そっそうなんです。今回みたいな事が起こらないよう、妖魔退治をしながら玄葉に会いに行くって言ったら、黄虎も同行したいって…ハッハハ」
「痛ッ…」
朱翔は机の下で黄虎の足を踏みつけてやり返す。黄虎は「私はこんなに強く蹴ってないっ」と目で訴えようと朱翔を睨むが、朱翔は完全に黄虎を無視して微笑んでいた。
「そうなのか黄虎?」
「あっはい!」
黄理が黄虎をじっと見つめる。
「お前本当は…」
二人はその眼差しに背中に冷や汗を垂らす。
「久々に友に会って、少し遊びたくなったのではないのか?ハハハハ」
二人はどっと気が抜けた。
「行ってきなさい」
「あなたっ、義母上に何と申し上げるのですかっ?」
「美虎良いではないか、黄龍家は四神家との交流も大事にせねばならない、中央宮に居るだけでは他神家や民の事もわからない、婚姻前にしっかり学ばせようではないかハハハ」
「あなたっ」
「父上っ、ありがとうございます!」
黄虎は喜んで頭を下げた。
「だが帰って来たら、もう逃げられぬぞっハハハハ」
「はい、もう逃げたりなどしません」
「やはり黄虎っ、今までこの話から逃げてましたの?」
「はっ母上…」
「美虎良いではないかハハハハ」
「もうあなた達はっ」
嬉しそうな黄理とは別に、美虎は困った顔をした。
黄虎と朱翔は一先ず安堵し見合わせて頷く。
黄理が黄虎に尋ねる。
「いつ頃発つ予定だ?」
「二、三日は、体を休めようかと考えております」
朱翔が微笑んで言う。
「黄理様、中央宮は久々なので、色々観て廻っても宜しいですか?」
「構わぬ、懐かしい思い出もあろう。ゆっくりして行きなさい」
「ありがとうございます」
朱翔は頭を下げた。
黄虎は少し手に汗を滲ませながら尋ねる。
「父上、祖母上はお変わりないですか?」
「最近体調が優れぬのか、殿からあまり出てきておられない、私や美虎が行っても帰されるのだ… お前の顔を見れば喜ぶであろう、この後行ってきなさい」
「わかりました、私もそのつもりでした。祖母上の後、伯母上にもご挨拶に参ります」
「義姉上もお前に会えず寂しがっていたよ、そうしてきなさい」
黄虎と朱翔は二人に頭を下げて部屋を出た。
美虎が尋ねる。
「あなた本当に宜しいのですか?」
「あぁ…黄虎は黄怜が亡くなってから、自分の気持ちをあまり言わなくなった。元々の性分もあるが、いつも私達に気を遣い何か言いたそうな顔をしている…君も気付いているのだろ?」
「……」
美虎はうつむき黙る。
「私も早くに宗主になり、黄虎を構ってやれなかったが、幸いあの子には友がいる。婚姻も嫌がってはいないし、好きにさせてみようではないか」
「……」
「どうしたのだ美虎?」
「…いえ、何でもありませんわ」
美虎は鼻を啜り少し涙ぐみ、黄理は言葉が足りなかったと思い、美虎の肩を抱き寄せる。
「君が黄虎を構っていなかったと言っている意味ではない、君は良く尽くしてくれているよ。母上との間に入り、私や黄虎をいつも庇ってくれている。私は君と婚姻して良かったと思っているよ、私が不甲斐ないせいで、お前には苦労をかける」
二人の婚姻は九虎が決めたのだ。それでも一生懸命尽くす美虎を、黄理は大切に想っていた。そんな黄理の優しい想いは、美虎に十分伝わっている。だからこそ、美虎は苦しかったのだ。
「あなた… ありがとうございます…」
「よいよい、君もたまには泣きなさい」
黄理が微笑みながら優しく美虎の涙を拭う。
美虎はその優しさを失うのが怖かった。恐らくあの日、黄虎は九虎の自室の前で話を聞いていたであろう。あれからずっと何も言ってこない黄虎に対して、いつか追及されるのではと怯えているのだ。九虎が何か企んでいたと知っていても、何をしたのかまでは分からない。誰かを雇い怪我をさせる程度で、まさか本当に黄怜が死ぬとは思わなかったのだ。しかし証拠も何もなく、九虎が本当に手を下したかも不確かだ。
白虎家の同じ傍系の中でも、九虎の出世は憧れの的。自分が目立たないと知っていた美虎は、黄理の嫁として九虎に選ばれ声を上げて喜んだ。初めの内は九虎に忠実だったが、黄理の優しさに惹かれる内に、美虎はあることに気付いた。自分は九虎に認めたれたから選ばれたのではなく、九虎にとって扱い易い存在だったという事実に。
事が起きてしまった後では取り返しがつかない、逃れようとしても九虎の言いなりになるしかなかった。事実が明るみになれば黄虎に嫌われ、黄理に幻滅され、この腕を離されてしまう恐怖に日々怯えているのだ。
美虎は震えながら黄理にしがみつく。
「美虎? 案ずるなハハハ 黄虎が婚姻しても君には私がいる」
黄理は優しく抱きしめる。
「あなた…」
美虎は泣きながら心の中で黄理に詫びていた。
「ゔッ…はぁはぁ…」
九虎が胸を押さえ苦しみだす。怪しげな声は〝クルシイノカ?〟と笑いながら問いかける。
「おっ…お前っ… ゔッ…はぁはぁ…」
顔を皺くちゃに歪め額に汗を垂らす。
「ゔッ…はぁ…はぁ…」
身体に霊力を流し込むと、怪しげな笑い声は徐々に消えていった。
「はぁ…はぁ…」
痛みが少しずつ治まり、九虎は手拭いで汗を拭う。
「九虎様」
戸の外から侍女が声をかけた。
九虎は呼吸を整えてから返事する。
「…何事か」
「黄虎様が只今南宮から戻られました、朱雀家の朱翔様もご一緒です」
九虎は訝しむ。
「何故朱翔も?」
「久々に遊びに参られたと聞いております」
「……それで、今黄虎は?」
「白龍殿に報告と挨拶に行かれております。その後、ご挨拶にこちらに参るとのことです」
「わかった、下がりなさい…」
「はい」
侍女は戸の前から去って行った。
朱翔は道中妹朱夏が、蒼万を酔わせて寝床に連れ込もうとしていた出来事や、蒼万に好いた女子がいるからと婚約を断られ、頭を抱える父朱能のことを笑いながら話した。黄虎と蒼万は、黄怜の死後話すことはなかった。「蒼万にも想う人がいたのだな」微笑んで言うと「蒼万は結構変態かもしれないぞハハハハ」楽しそうに笑う。黄虎は「いや蒼万は私達の中で誰よりも芯が強い、きっと相手を大切にするよ。蒼万が慕うのはどんな女だろうな」と言っても「あいつを虜にするぐらいだ、体つきが艶美なのは間違いないハハハハ」怪しげに笑う。黄虎は話にならないと黙った。
蒼万が今回柊虎と共に動くと分かり、蒼万ならと期待していた。いつか蒼万ともきちんと話さなければと思いながら、二人は南宮を出て二日目の未の刻に中央宮に着いた。
「父上、母上、只今戻りました」
「黄理様、美虎様、お久し振りです」
黄虎と朱翔は二人に会釈する。
黄理が頷きながら言う。
「二人共ご苦労であった、掛けなさい」
「はい」二人は椅子に腰掛けた。
美虎が明るく尋ねる。
「朱翔は立派になられて、もうすぐ婚姻するからかしら?」
「それもありますが、私は元々男前なのですよ。美虎様はご存じでしたでしょ?ハハハ」
「そういう所は相変わらずね」
「美虎様もお変わりない美しさですよ」
朱翔は恥ずかしげもなく美虎を誉めた。
「ハハハ朱翔は女子を口説くのが上手だな」
「いいえ黄理様、私は玄葉一筋ですから」
そう言って、朱翔は胸に手を当て微笑む。
玄葉は玄武家の者だが、他神家の女子と比べても、容姿が秀でた訳でもなく神力霊力共に謎が多い。更に口数も少なくあまり笑わない。朱翔との婚約が決まった時は、皆が家の決め事だと思っていた。だが、後から婚約を申込んだのが朱翔だと分かっても、未だにその理由は誰も知らない。
黄理が黄虎に言う。
「お前もそろそろ、虎春と婚約しても良いのではないか?」
「父上その件ですが…」
言葉を詰まらせる黄虎に美虎が尋ねる。
「虎春と…何かあったの?」
「いいえ何も… 私も虎春を嫁に貰いたいと、考えております…」
黄虎が婚姻に対し初めて意見を言った。
「そうか! では早速っ盛虎様に通達を出そうではないか!」
「ええあなた!」
「お待ち下さいっ」
「…どうしたのだ?」
「今は、お待ち下さい… その時が来れば私が直接、盛虎様にご挨拶に伺いますから…」
……。
ぬか喜びした黄虎の両親は、息子の言葉に理解ができず言葉を失う。
黄虎は目を泳がせ黙り込む。
「あのっ 黄虎はもう少し、えっと、こっ今回の妖魔退治や民の救済で学ぶ事が多かったようで… そうだろ黄虎? おいっ」
機転を利かせた朱翔がその場を取り繕った。だが、行きあたりばったりの策のない黄虎の思考に、朱翔は困惑することになる。
「はっはい、最近は一度に大量の妖魔が出る事もなく、今回私自身未熟な部分に気付かされました。ここで暫く休んだ後、朱翔と共に北宮へ参りたいと存じます」
へ?
「北宮って私はそんな痛ッ…」
黄虎が机の下で朱翔の足を蹴りつけた。朱翔は「何するんだお前っ」と言わんばかりの顔で黄虎を睨みつけるが、黄虎は目を細め笑って朱翔に言う。
「そうだよな? 朱翔は玄葉に会いに行くのだろ?」
「……」
黄虎に何の意図があるのか、朱翔は皆目見当もつかない。この顔は、話を合わせろということだろう。
「そっそうなんです。今回みたいな事が起こらないよう、妖魔退治をしながら玄葉に会いに行くって言ったら、黄虎も同行したいって…ハッハハ」
「痛ッ…」
朱翔は机の下で黄虎の足を踏みつけてやり返す。黄虎は「私はこんなに強く蹴ってないっ」と目で訴えようと朱翔を睨むが、朱翔は完全に黄虎を無視して微笑んでいた。
「そうなのか黄虎?」
「あっはい!」
黄理が黄虎をじっと見つめる。
「お前本当は…」
二人はその眼差しに背中に冷や汗を垂らす。
「久々に友に会って、少し遊びたくなったのではないのか?ハハハハ」
二人はどっと気が抜けた。
「行ってきなさい」
「あなたっ、義母上に何と申し上げるのですかっ?」
「美虎良いではないか、黄龍家は四神家との交流も大事にせねばならない、中央宮に居るだけでは他神家や民の事もわからない、婚姻前にしっかり学ばせようではないかハハハ」
「あなたっ」
「父上っ、ありがとうございます!」
黄虎は喜んで頭を下げた。
「だが帰って来たら、もう逃げられぬぞっハハハハ」
「はい、もう逃げたりなどしません」
「やはり黄虎っ、今までこの話から逃げてましたの?」
「はっ母上…」
「美虎良いではないかハハハハ」
「もうあなた達はっ」
嬉しそうな黄理とは別に、美虎は困った顔をした。
黄虎と朱翔は一先ず安堵し見合わせて頷く。
黄理が黄虎に尋ねる。
「いつ頃発つ予定だ?」
「二、三日は、体を休めようかと考えております」
朱翔が微笑んで言う。
「黄理様、中央宮は久々なので、色々観て廻っても宜しいですか?」
「構わぬ、懐かしい思い出もあろう。ゆっくりして行きなさい」
「ありがとうございます」
朱翔は頭を下げた。
黄虎は少し手に汗を滲ませながら尋ねる。
「父上、祖母上はお変わりないですか?」
「最近体調が優れぬのか、殿からあまり出てきておられない、私や美虎が行っても帰されるのだ… お前の顔を見れば喜ぶであろう、この後行ってきなさい」
「わかりました、私もそのつもりでした。祖母上の後、伯母上にもご挨拶に参ります」
「義姉上もお前に会えず寂しがっていたよ、そうしてきなさい」
黄虎と朱翔は二人に頭を下げて部屋を出た。
美虎が尋ねる。
「あなた本当に宜しいのですか?」
「あぁ…黄虎は黄怜が亡くなってから、自分の気持ちをあまり言わなくなった。元々の性分もあるが、いつも私達に気を遣い何か言いたそうな顔をしている…君も気付いているのだろ?」
「……」
美虎はうつむき黙る。
「私も早くに宗主になり、黄虎を構ってやれなかったが、幸いあの子には友がいる。婚姻も嫌がってはいないし、好きにさせてみようではないか」
「……」
「どうしたのだ美虎?」
「…いえ、何でもありませんわ」
美虎は鼻を啜り少し涙ぐみ、黄理は言葉が足りなかったと思い、美虎の肩を抱き寄せる。
「君が黄虎を構っていなかったと言っている意味ではない、君は良く尽くしてくれているよ。母上との間に入り、私や黄虎をいつも庇ってくれている。私は君と婚姻して良かったと思っているよ、私が不甲斐ないせいで、お前には苦労をかける」
二人の婚姻は九虎が決めたのだ。それでも一生懸命尽くす美虎を、黄理は大切に想っていた。そんな黄理の優しい想いは、美虎に十分伝わっている。だからこそ、美虎は苦しかったのだ。
「あなた… ありがとうございます…」
「よいよい、君もたまには泣きなさい」
黄理が微笑みながら優しく美虎の涙を拭う。
美虎はその優しさを失うのが怖かった。恐らくあの日、黄虎は九虎の自室の前で話を聞いていたであろう。あれからずっと何も言ってこない黄虎に対して、いつか追及されるのではと怯えているのだ。九虎が何か企んでいたと知っていても、何をしたのかまでは分からない。誰かを雇い怪我をさせる程度で、まさか本当に黄怜が死ぬとは思わなかったのだ。しかし証拠も何もなく、九虎が本当に手を下したかも不確かだ。
白虎家の同じ傍系の中でも、九虎の出世は憧れの的。自分が目立たないと知っていた美虎は、黄理の嫁として九虎に選ばれ声を上げて喜んだ。初めの内は九虎に忠実だったが、黄理の優しさに惹かれる内に、美虎はあることに気付いた。自分は九虎に認めたれたから選ばれたのではなく、九虎にとって扱い易い存在だったという事実に。
事が起きてしまった後では取り返しがつかない、逃れようとしても九虎の言いなりになるしかなかった。事実が明るみになれば黄虎に嫌われ、黄理に幻滅され、この腕を離されてしまう恐怖に日々怯えているのだ。
美虎は震えながら黄理にしがみつく。
「美虎? 案ずるなハハハ 黄虎が婚姻しても君には私がいる」
黄理は優しく抱きしめる。
「あなた…」
美虎は泣きながら心の中で黄理に詫びていた。
1
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる