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第ニ章 桜草

十七 新たな始まり

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 一ヶ月後、五日間の指導会のため、蒼亞は兄夫婦と妹と共に中央宮を訪れた。集合場所、黄龍殿門前広場で皆が続々と集まり蒼亞は壱黄、海虎、玄史と、互いに期待に満ちた顔で抱擁を交わす。指導会へは義兄も講師として、朱翔は見張り役として呼ばれ、当然、禪虎以外のちびっ子達も付いて来た。子守役として張り切って喜ぶ彼に出された条件は「志瑞也、分かっているよな?」特訓見学の禁止。これは指導会を四神家に通達する際、反対意見がでないよう彼への配慮として、黄理が先に取り決めた。条件を呑まなければ、彼は東宮に帰るしかない。皆の前で朱翔に念を押され「わ、わかってるよ…」露骨に肩を落とす。彼の悲しげな顔に事情を知らないちびっ子達も黙り込み、その場がしんとなる。今にも泣きそうな彼を兄は抱き寄せ「翠を頼む」と頭をなでた。彼は眉をひそめ微笑み、仕方ないと頷く。だが、頬をなで口づけしようとする兄を「ふんっ」と躱し「皆行こうっ」不機嫌に黄花、玄咊、ちびっ子達を連れ銀龍殿へと去って行った。兄は見送りながら……笑っていた。

 庭園の広場で兄は柊虎、磨虎、義兄と集まり、蒼亞達四人は準備運動をする。
 海虎が両腕の筋を交互に伸ばしながら言う。
「蒼亞いよいよだな、私は昨夜緊張してなかなか眠れなかったよ」
「私だって兄上に指導してもらうのは初めてさ」
「そうなのか?」
「うん」
 蒼亞は足を大きく広げ、しゃがんで片足ずつ太腿裏から足先を伸ばし尋ねる。
「壱黄、黄花は?」
「ああハハハ 皆とお団子作るって、朝から張り切って銀龍殿に行ったよ」
 壱黄は腕をぐるぐる回して肩を慣らす。
 玄史は腰を回し、後屈、前屈、屈伸しながら言う。
「もしや玄咊のためか?」
「うん、私が玄咊の好物教えたら、仲良くなるためおやつに作るってさハハハ」
「流石黄花だな、今頃志ぃ兄ちゃん感動しているぞ」
 彼が瞳をきらきらさせるのを想像して、四人は笑う。
 玄史が尋ねる。
「蒼亞、志瑞也さんの友も来ているのか?」
「いいや、朱濂と朱囉に朱虎、十玄が来るって言ったら露骨に嫌な顔してさ、今回は行かないって言って置いてきたんだ、特に朱濂と朱囉は悪戯が激しくてな、二人が東宮に来るとあいつら嫌がるんだハハハ 昼餉は皆で取るから紹介するよ、そういえば朱翔様は?」
 三人は顔を横に振り、先程まで居たはずだがと辺りを見渡す。何処にも見当たらなくきっと彼の所だと、四人は思わずほっとする。

 準備運動が終わり、指導日程の説明を受ける。初日と二日目は蒼龍家、三日目玄武家、四日目白虎家、五日目朱雀家と指導者を変えて行う。四人は、如何なる修行にも耐えてみせると意気込む。だが、気軽に笑っていられたのはここまでだった。予想以上に兄は凄まじく、とても、とても、恐ろしく……厳しかった。

 第一ノ試練、兄の結界を突破せよ!

 兄が広場の中央に立ち瞼を閉じ呼吸を整えると、風が止まり辺りがしんと静まり返った。暫くして、地面の小石が這うように転がりだす。途端、突風が吹き荒れ、兄は青の熱風を旋回させながら結界を作り上げた。
 柊虎が四人の前に立ち説明する。
「お前達、まずは結界に入り蒼万の側まで行くのだ、それができれば次の段階を教える。但し全員ができるまでだ、よいな?」
 四人は揃って返事する。
「はい!」
 四人は互いの間隔を空け、兄の威圧感に押されながら結界に近づき、試しに力を使わず手掌で触れてみる。
「痛ッ」
 びりっと青光りと共に弾かれた。霊力の結界であれば、弾かれても痛みはない。
(神力の結界だ…)
 四人は瞳を光らせ、霊力で結界を張り試みるが、直ぐに崩され弾き飛ばされる。霊力に攻撃力はないため、同等の力かそれ以上でなければ無理だ。ならばと、攻撃に適した神力で結界を張り近づく。だが、今度は兄の神力が反応し、攻撃を返され倒れ込む。神力は威力が強ければ強い程、かなりの体力を消耗する。通常、神力を使う際は持続性を保つため、霊力を内に込め身体を守り掛け合わせるのだ。だとすれば、この特訓は霊力と神力を掛け合わせた結界を張り、均衡を保ちながら侵入しろというのか。しかも、明らかに力の差がある。こんな特訓の仕方、誰も受けたことがない。四人の力は同じではない、全員の達成とは兄に何の意図があるのか。他の三人の指導者達は〝自分達で考えろ〟と言わんばかりに傍観している。手取り足取り教えてもらえると甘い期待を抱いていた四人は、なす術のない未熟さにぎりっと奥歯を噛みしめた。
 兄は仁王立ちで腕を組み、結界の中で四人の侵入を悠々と待ち構えている。その顔はまるで〝かかって来い〟と言っているようだ。
「くそっ、皆行くぞっ」
 蒼亞の声で四人は立ち上がり、各々の戦法で兄へ挑む。弾き返されては立ち上がり、結界を壊されては張り直す。何度も、何度も、繰り返し地面に跳ね飛ばされ、片手どころか指一本すら入れられない。霊力の高い玄史でも胸を押さえ肩で呼吸し、四人は兄に触れることなく、見事に叩きのめされ両膝を突いた。
 柊虎が四人の前に立つ。
「お前達、午前はこれまでだ」
 既に誰も立ち上がれない。
「柊虎様っ、もっもう少しお願いしますっ」
 柊虎が見下ろして低く言う。
「駄目だ海虎、休み方も覚えるのだ」
「…はい」
 海虎は悔しそうに太腿の衣を握りしめた。
「兄上お願いします、玄弥お前もだ」
 そう言って、柊虎は蒼亞の横に下がる。
「はい柊虎さん」
「お前達、よく見ていろ」
 兄に対し磨虎は右斜方向、義兄は左斜方向に向かい合い、磨虎が結界の中の兄に目で頷くと、兄は腕を解いて拳を握り胸元で交差させた。結界への攻撃に防御するのかと思いきや、金色に眼光を放ち神力を更に増大させた。たちまちその場は、加速した旋回により砂埃が舞い上がった。信じ難い光景に四人は息を呑む。兄は休む事なく二刻も結界を張り続け、更にそこから増大させるなど、今までのは一体何だったのか。
「ふっ流石蒼万だな、行くぞ玄弥っ」
「はい、磨虎さんっ」
 磨虎は鼻で笑い瞳を銅色に光らせ、義兄は頷いて瞳を緑色に光らせた。二人は動じる事なく、同時に白と緑の熱風を放ち、力の均衡を保ちながら結界を張りだす。兄、磨虎、義兄の気迫に、四人はただただ呆気に取られた。三人は同時に見合い、磨虎と義兄は猛烈な兄の結界に躊躇いなく踏み込む。結界同士がぶつかり合い、刺々しい亀裂音を響かせて突き破る。青の結界に入った磨虎と義兄は、一歩、一歩、何事もなく前進していく。白と緑の結界は神力の攻撃を受け、表面には絶えず光の筋を走らせた。それでも結界を維持したまま、二人は兄の側に到達したのだ。
(磨虎様も、義兄上も…す、凄い…)
「皆、三人の力を肌で感じろ、これができない内は高度な技を習っても身を滅ぼすだけだ。まず玄弥は霊力だけで中に入った」
「れっ霊力だけで?」
 蒼亞は柊虎を見上げた。
「そうだ。玄弥の結界は一切の乱れがない、相手の結界が神力である以上、一歩間違えば完全に攻撃を受ける。玄武家の結界がどの神家よりも強いのは、ただ単に霊力が高いからではない、相手を傷つけず己も周囲も守る強い意志があるからだ」
「義兄上…」
 蒼亞は義兄を見た。
 柊虎は説明しながら蒼亞の前を通過する。
「逆に兄上のは神力のみだ。当然持続性はないが、中に入るだけなら神力でも十分できるとお前達に教えるためだ。だが少しでも蒼万より強い結界を張れば、蒼万が傷を負うことになる」
「磨虎様はっ、蒼万様の力に合わせて結界を張っているのですか?」
 柊虎は立ち止まり腕を組んで言う。
「そうだ海虎、相手の力を肌で感じ瞬時に見極めているのだ。同等の力であればぶつかり合っても互いに傷つけることはない、相手との力の均衡を肌で感じることができれば、結界を張りながらでも強弱が可能なのだ」
 柊虎は歩き出して言う。
「互いが霊力のみの結界だと中に入れば術を解く事ができるが、神力だと常に攻撃されているから、蒼万が結界を解かない限り玄弥も結界は解けない。ちなみに蒼万の結界に入るのは、兄上も玄弥も今日が初めてだ」
 壱黄は前を通過する柊虎を目で追う。
「では神力の結界はっ、自分以外を傷つけるだけなのではっ?」
「壱黄、神力の結界は力を使えない者達・・・・・・・・を守り、同時に敵を攻撃する力なのだ。初めから中に入っていれば、力を使わない限り影響はない」
「民、ですか…?」
 柊虎は壱黄と玄史の間で立ち止まって言う。
「そうだ玄史、私達の力は民のものだ。蒼万は身体で覚えた事を頭で整理する、そしてまた身体に叩き込む、そうすれば咄嗟の時に判断し身体が同時に動く、これが〝蒼万流〟の教え方だ。蒼万は無駄・・な事はしない、お前達の実力を見極めた上で引き出そうとしているのだ。わかったか?」
「……」
 四人は無言で頷く。
「ふっ、もう立てるだろ?」
「はっはい!」
 四人は急いで立ち上がる。
 柊虎が片手を上げ合図を送ると、先に兄が力を弱め結界を解き、続いて磨虎と義兄が同時に結界を解いた。四人と柊虎は兄、磨虎、義兄に近づく。地面には兄の結界によって削られた後が刻まれ、誰も呼吸の乱れもなく汗もかいていない。
 磨虎が兄の肩に手を置き得意げに言う。
「ハハハ蒼万、私もなかなかやるだろ、どれぐらい力を出したのだ?」
「…三割だ」
「さっ三割?」
 驚愕して固まる磨虎に義兄が笑う。
「磨虎さん、決闘はもう諦めて下さい」
 兄は低く言う。
「玄弥、流石だな」
「蒼万さん、ありがとうございます」
 義兄は嬉しそうに兄と目で頷き合う。
「三人共流石だな、私からの説明も皆理解したようだ」
 指導者同士微笑んで頷き合う。
 兄が言う。
「お前達、怪我はないか?」
「ありませんっ」
 四人は背筋を正す。
 柊虎が四人の頭をなでながら言う。
「一刻後に再開したら酉の刻まで続きをするから、昼餉の後はしっかり身体を休めるのだぞハハハ」
「ありがとうございました!」
 四人は深く頭を下げた。
 決して笑い事ではない、休まなければ持たないのだ。歴然とした力の差に四人は言葉を失う。先程が三割なら、自分達のはそれ以下……これが破壊神の力。確かに、兄の特訓には柊虎の説明が必要だ。この五日間、無事に乗り越えられるのか、波瀾が起きそうな予感がした。

 食堂では彼が皆の食事を準備し、子供達と待ってくれていた。兄が彼に近づこうとすると、朱濂と朱虎が彼の後ろに隠れて裾を掴み、じっと兄を睨みつけた。それを見て、朱翔は吹き出し腹を抱えて笑う。この男は何処に行っていたのか、今は詮索する気力すらない。兄は無言で二人をじろっと見た後、仲間達と席を共にした。
「お前達そんな怖い顔するなよ、蒼万は優しいんだぞ」
 彼は笑いながら言うも、ちびっ子達は一切信用せず疑いの眼差しを兄に向ける。だがその時は、蒼亞達四人も思わずちらっと兄を見てしまった。彼が海虎と玄史に群がるちびっ子達を紹介するが、愛想笑いしかできない。妹は玄咊と手を握り、すっかり懐いているようだ。雰囲気を察した彼が「ほら皆、兄ちゃん達は遊びに来てるんじゃないんだ、向こうで食べるぞ」と、席を別にしてくれた。

 四人は食事を済ませ、一休みしようと宿舎へ戻ることにした。
「皆待って!」
 廊下から走って来た彼が、心配そうに四人の姿を見る。
「こんなに汚れて…」
 何度も地面に膝を突いたのだから、土や埃塗れなのは当然だ。
「志ぃ兄ちゃん大丈夫だよ、私達は少し休みたいから行くよ」
「…わかった、頑張ってな」
 眉をひそめて微笑む彼に、壱黄が笑顔で言う。
「伯父上、半刻後に起こしに来て下さい」
「わかった、夕餉に食べたい物があったら言うんだぞ」
 彼は嬉しそうに手を振って見送った。

 四人は重い空気で部屋に入り、無言で横になる。休もうにも頭は突破口を探すばかり、寝れるわけがない。このまま午後の特訓が再開されても、また叩きのめされるだけだ。悔しさのあまり、蒼亞は泣きそうになる。食堂でも一言も会話せず、彼はきっと気になって声をかけたのだ。
「壱黄、さっきはありがとうな…」
「いいよ、蒼亞は真面目だからなハハハ ずっと考えているのだろ?」
「うん…」
「私はもう見つけたよ、お休み」

 ……。

「えっ?」

 三人が同時に体を起こし、笑いながら体を起こす壱黄の側に、四つん這いでばたばたと集まる。
 座るなり海虎が食いつく。
「いっ壱黄どうするのだ?」
 壱黄は胡座を組んで指を差す。
「ハハハ簡単だよ、海虎と蒼亞は主に神力で試したのだろ?」
「うん」
 二人は頷く。
「全力でやったか?」
「うん」
 二人は真剣に頷く。
「ならどんなに頑張っても私達では蒼万様の結界には入れないよ。私は玄史の隣にいたけど、玄史の霊力の結界でも無理だった、それなら二つを掛け合わせても均衡を保つのに精一杯で、誰も結界は維持できないよ。ましてや攻撃を受けながらなんて」
 壱黄はお手上げだと笑い顔を横に振る。
 海虎は眉を寄せる。
「ではどうするのだ?」
 壱黄はにんまりと言う。
「皆よく思い出すのだ、柊虎伯父上は助言を与えてくれていたよ。『全員』とは言われたけど、一人ずつとは言われてないだろ?」
 玄史がにやりと鼻で笑う。
「ふっ壱黄、なかなか鋭いな」
「この中では私が一番力は低い、三人が駄目ならどう考えてもあれは私には無理だよハハハ」
 顔の前で手を振って笑った後、壱黄は得意げに指を立てながら言う。
「霊力の高い玄弥様、神力の高い磨虎伯父上、二人を見て気づいたのだ、二人ずつ組めば神力は無理でも、霊力でならできるかもってさ」
 蒼亞は険しい顔で壱黄に尋ねる。
「それで駄目ならどうするんだ?」
「駄目なら四人で試すのさ」
「でも…」
 壱黄は鼻息をつき蒼亞の肩に手を置く。
「蒼亞、お前焦り過ぎてないか? 明日もあるし、指導会は毎月あるのだ、蒼万様の考えはお前の方が分かるだろ?」
 兄もまた策士、となれば何か考えがあっての事、冷静に考えれば気づけていた。強くなりたい、兄や彼を守りたい、その思いに捉われ過ぎていたのだ。それに本来、神族の役目は民を守る事、兄は常にそう心掛けている。
「もしかして兄上は初めは協力させて、いずれは一人でもできるようにさせるつもりなのか…それができれば、協力した時は数倍もの力になる…」
 蒼亞の表情が変わり、壱黄は微笑んで言う。
「それなら尚更焦るだけ遠回りだ、それに『身体で覚えた事を頭で整理する』『無駄な事はしない』て言っていただろ?」
 壱黄は蒼亞と目で頷く。
「柊虎伯父上の言い方だと、あの結界は私達の実力で必ず侵入できるはずだよ。でも一人では駄目だと皆身体で感じただろ?」
 それもそうだと、壱黄の微笑みに三人は納得して頷く。力に誇示せず常に調和を考え、周りを見る力が壱黄にはある。元より、壱黄は好んで戦いはしない。戦わずに済む方法を常に考えている。己の意志で特訓を望んだ以上、足を引っ張らないよう懸命に兄に挑んだが、誰よりも先に無理だと自覚したのだ。壱黄が気づけたのは、力の差を足掻かずに受け入れたからこそだ。
 玄史が顎に手をあて落ち着いて言う。
「今の話でわかったのだが『肌で感じろ』て、まず私達が互いの力を身体で覚えろって事ではないのか?」
 海虎が頷いて言う。
「私は神力の攻撃を持続させるため、内に込める霊力の特訓を主にしてきた。だが結界は放出だ、攻撃を受けながら張り続けるのは難しいな、蒼亞もか?」
「うん、壱黄は?」
 壱黄は腕を組んで首を傾げる。
「私もだよ、玄史は?」
「私は霊力だけの結界ならまだ保てるが、あんなに攻撃を受けながらの特訓はしたことがない、神力での結界となると余計に安定性が難しいな、蒼万様が指摘した通りだ…」
 言いながら、玄史は首を捻り鼻息をつく。
 各々の得意不得意がわかり、蒼亞はにんまりと言う。
「要は相手を知るにはまず味方からって事だな、それに送り込めるのは霊力だけだ」
「うん」四人は頷く。
 壱黄が明るく言う。
「それなら午後は四人でやってみよう、まずは中に入る事からだ」
 四人はだんだん楽しくなってきた。
 玄史がうきうきと尋ねる。
「蒼亞、誰からするのだ?」
「そうだな、私はお前の結界に入ってみたいな」
「私も入ってみたいっ」
 玄史がにやけながら言う。
「皆一度入っているではないか」
「あ、そっか…」
「でも全然気づかなかったよ?」
 蒼亞は金龍殿の時を思い返し、壱黄と首を傾げ頷く。
 海虎が玄史に尋ねる。
「あの結界は何だ?」
 玄史は片眉を上げ得意げに言う。
「ふっあの結界は少ない霊力で薄く膜を張るだけだから守りの効力はないが、内外関係なく結界に向かって力を使ったら直ぐに崩れるのだ。蒼亞の針に反応しないよう、柱の外側に張ったのだ。朱翔様が言っていただろ?『仕掛け』てハハハ」
 霊力を駆使した玄武家らしい術だと蒼亞、壱黄、海虎は感心する。先程まで沈んでいた気持ちは何処へやら、四人は早く試したくなり怪しげに笑みを浮かべた。
「ふっ…ハハハハハ!」

「バン!」勢いよく扉が開く。
「ゔお前達っ、何が『ハハハ』だっ、身体休めるんじゃなかったのかっ?」

「しっ志ぃ兄ちゃんっ」
「伯父上っ、まだ早いのではっ?」
 彼が鬼の形相でずかずかと畳に上がり、腕を組んで見下ろし睨みつける。
「ったく、洗濯物取りに来たら汚れた衣のままで何してるんだっ? 早く着替えて少しでも休むんだっ、怪我でもしたらどうするんだっ! 俺に稲妻落とされたいのかっ?」
「───っ!」
 彼が言うと冗談には聞こえない。四人は顔を引き攣らせて横に振り、急いで着替え汚れ物を渡す。
「なんだよっ、話ならさっきご飯の時すればいいじゃないかっ、今頃楽しそうに笑っちゃってさっ」
 もしや、彼は可愛い弟達の成長過程が見れない事に、本当はいじけていたのだろうか。ぶつくさ言いながら、靴を並べ荷物をまとめて部屋を出て行った。四人は笑いながら大人しく横になり、夕餉に食べたい物を考え眠りについた。
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