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第1章 見知らぬ村、見知らぬ人
第4話(2020.11.2一部改稿)
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「申し訳ありませんでした」
食堂の前に辿り着くと、クルスが落ち込んだ様子で頭を下げた。しょんぼりした顔の上に垂れ下がった兎耳が見えるようで、頭をぽんぽんと叩きたくなる。流石にそんな行動に出る訳にもいかず、思わず浮いた手で自身の頭を意味もなくかいた。
「つい熱くなってしまいました。生徒の前で喧嘩だなんて、教師失格ですね……」
漫画のワンシーンに例えるならば、ずーん、という吹き出しが見えそうだ。地面に沈み込みそうな程気落ちしている様子に、とにかく意識の方向性を変えなければと食堂を見る。すると言葉を発する前に、レナードのお腹がぐうと鳴った。
「あー、あはは、お腹すきましたよね」
「はい。実は昼も食べてないのでペコペコなんです」
このまま行けばクルスの落ち込みは底がないだろう。レナード自身は全く気にしていない上、何よりも今は食事を優先したい。健康男児である彼にとって、半日の断食は最早拷問に近かった。
「どんな料理が出るのか楽しみです! 早く入りましょう」
若干戸惑いを見せている相手の背をぐいぐいと押し、強引に会話を打ち切った。そしてその後は彼の思惑通り、謝罪を忘れさせることに成功したのだった。
「はぁ……美味しかったです」
レナードはパンパンになったお腹をさすり、恍惚とした表情で背もたれに寄りかかった。正直な所お腹に入れば何でもいい位には空腹だったのだが、全く期待していなかったにも関わらず、素材の味を生かした絶品料理ばかりだった。イギリス料理がまずいなんて噂を一体誰が流したのかと問い詰めたい気分だ。
「沢山食べましたね、ご満足頂けて本当に良かった」
クルスは机の上に並ぶ大量の食器に目を白黒させている。そう言う彼はレナードの5分の1の一程の量しか食べていない。レナードは人の倍以上食べる大食漢とはいえ、体の見た目通り少食のようだ。
学食はバイキング形式になっており、好きな料理を取れるようになっていた。もう夜も遅いので大分選択肢は狭まってはいたものの、レナードはここぞとばかりに肉を中心としたボリュームあるメニューばかり選んだ。一方でクルスは野菜や豆が中心のヘルシーなメニューだったようだ。
やはりここでも小動物らしいイメージが補強されてしまい、ルプスが「うさぎちゃん」と呼ぶのも納得できてしまう。
「それにしても、村という割にはかなり大きい学園ですよね」
「そうですね。この村は子沢山ですから」
でも、とクルスは言葉を切って続けた。
「やはり学年別に分けてしまうと人数に偏りが出るので、基本は学年関係なくプログラムを組んでいます」
その言葉を聞いてレナードはぎくりと肝を冷やす。
「そういえば編入試験がありませんでしたが、俺正直勉強はあまり得意ではなくて……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。見ての通りの田舎ですから、正直レベルはあまり高くないと思います。皆自由に好きな事に打ち込んでいますしね」
クルスはそう言ってほほ笑むと、テーブルの紅茶をふうと覚まして飲んだ。もう大分冷えているはずだが、先程持ってきたばかりの時に火傷しかけたことが忘れられないらしい。どこまでも癒しをくれる先生だった。
腹ごしらえも済み、慣れない距離を歩いたちめにレナードの体はもう限界に近い。眠気も迫ってきているが、どうしても聞きたかったことがまだ残っている。
「先生、ここには俺の親類はいないんですか? 両親にはいないと言われましたが、そもそも故郷の話もまるでしてくれなかったんです。今回手紙を貰わなければ全く知らないままだったと思います」
レナードの言葉にクルスは眉尻を下げ、小さく頭を下げた。
「ごめんなさい。こんな所まで来てもらって本当に申し訳ないのだけれど、レナード君の直接の血縁者の方はもういないんです。ご両親にはご兄弟もいましたが、お子さんもいなかったようです」
彼も薄々分かってはいた。
けれど改めて言われると、一縷の希望が絶たれたようで脱力してしまう。その勢いの良さに、古びた椅子の背もたれがミシリと音を立てた。
食堂の前に辿り着くと、クルスが落ち込んだ様子で頭を下げた。しょんぼりした顔の上に垂れ下がった兎耳が見えるようで、頭をぽんぽんと叩きたくなる。流石にそんな行動に出る訳にもいかず、思わず浮いた手で自身の頭を意味もなくかいた。
「つい熱くなってしまいました。生徒の前で喧嘩だなんて、教師失格ですね……」
漫画のワンシーンに例えるならば、ずーん、という吹き出しが見えそうだ。地面に沈み込みそうな程気落ちしている様子に、とにかく意識の方向性を変えなければと食堂を見る。すると言葉を発する前に、レナードのお腹がぐうと鳴った。
「あー、あはは、お腹すきましたよね」
「はい。実は昼も食べてないのでペコペコなんです」
このまま行けばクルスの落ち込みは底がないだろう。レナード自身は全く気にしていない上、何よりも今は食事を優先したい。健康男児である彼にとって、半日の断食は最早拷問に近かった。
「どんな料理が出るのか楽しみです! 早く入りましょう」
若干戸惑いを見せている相手の背をぐいぐいと押し、強引に会話を打ち切った。そしてその後は彼の思惑通り、謝罪を忘れさせることに成功したのだった。
「はぁ……美味しかったです」
レナードはパンパンになったお腹をさすり、恍惚とした表情で背もたれに寄りかかった。正直な所お腹に入れば何でもいい位には空腹だったのだが、全く期待していなかったにも関わらず、素材の味を生かした絶品料理ばかりだった。イギリス料理がまずいなんて噂を一体誰が流したのかと問い詰めたい気分だ。
「沢山食べましたね、ご満足頂けて本当に良かった」
クルスは机の上に並ぶ大量の食器に目を白黒させている。そう言う彼はレナードの5分の1の一程の量しか食べていない。レナードは人の倍以上食べる大食漢とはいえ、体の見た目通り少食のようだ。
学食はバイキング形式になっており、好きな料理を取れるようになっていた。もう夜も遅いので大分選択肢は狭まってはいたものの、レナードはここぞとばかりに肉を中心としたボリュームあるメニューばかり選んだ。一方でクルスは野菜や豆が中心のヘルシーなメニューだったようだ。
やはりここでも小動物らしいイメージが補強されてしまい、ルプスが「うさぎちゃん」と呼ぶのも納得できてしまう。
「それにしても、村という割にはかなり大きい学園ですよね」
「そうですね。この村は子沢山ですから」
でも、とクルスは言葉を切って続けた。
「やはり学年別に分けてしまうと人数に偏りが出るので、基本は学年関係なくプログラムを組んでいます」
その言葉を聞いてレナードはぎくりと肝を冷やす。
「そういえば編入試験がありませんでしたが、俺正直勉強はあまり得意ではなくて……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。見ての通りの田舎ですから、正直レベルはあまり高くないと思います。皆自由に好きな事に打ち込んでいますしね」
クルスはそう言ってほほ笑むと、テーブルの紅茶をふうと覚まして飲んだ。もう大分冷えているはずだが、先程持ってきたばかりの時に火傷しかけたことが忘れられないらしい。どこまでも癒しをくれる先生だった。
腹ごしらえも済み、慣れない距離を歩いたちめにレナードの体はもう限界に近い。眠気も迫ってきているが、どうしても聞きたかったことがまだ残っている。
「先生、ここには俺の親類はいないんですか? 両親にはいないと言われましたが、そもそも故郷の話もまるでしてくれなかったんです。今回手紙を貰わなければ全く知らないままだったと思います」
レナードの言葉にクルスは眉尻を下げ、小さく頭を下げた。
「ごめんなさい。こんな所まで来てもらって本当に申し訳ないのだけれど、レナード君の直接の血縁者の方はもういないんです。ご両親にはご兄弟もいましたが、お子さんもいなかったようです」
彼も薄々分かってはいた。
けれど改めて言われると、一縷の希望が絶たれたようで脱力してしまう。その勢いの良さに、古びた椅子の背もたれがミシリと音を立てた。
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