Mag Mell -喜びの国-

二見 遊

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第1章 見知らぬ村、見知らぬ人

第6話(2020.11.2一部改稿)

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朝日が黄色い。
レナードは徹夜明けの朝のような気分でカーテンの隙間から漏れ出す光をぼんやりと眺め、次いで皴のついたベッドを見てため息をついた。かろうじて上着は脱いでいたが、あれだけ運動したのにシャワーも浴びずに寝てしまった。休日とは言え、そういえばアラームもかけずにいたなとふとスマホをみる。

「圏外?!」

目を疑う光景に寝ぼけているのかと頭を振るが、画面表示は変わらないままだ。よく見れば室内にはコンセントの穴さえ見つからない。アメリカでのしがらみは捨ててきたものの、あの老夫婦に無事到着した連絡位は入れたかったのにとぼやく。

ひとまず考えるのを止めてベッドにスマホを投げる。頭をガシガシかきながら、ぼんやりと新しい自室を見渡した。狭いながらも一人暮らしには十分な広さだ。敷地が広い故にできるゆったりとした造りなのだろう。幸いトイレもシャワー室もあるので、寝ぐせだらけの髪型を晒して歩かずに済むだろう。

汗を流した後、鏡の前で寝ぐせを直しながら今日の予定について考える。昨日の話では授業が始まるのは明日からなので、荷ほどきや校内の散策をしてはどうかと言われた。
しかしこの広い村内で下手に歩き回れば迷子になりそうで、先生を再び捕まえて道案内を頼むべきか迷ってしまう。レナードがどうしたものかと頭を悩ませていると、部屋の外が突然騒がしくなった。

 「―‐―! ―‐――!!」

レナードが耳をすませると、会話の内容は不明だが人数は二人のようだ。一人がもう一人に対して怒鳴っているように聞こえる。面倒事に思えるが、明らかに部屋のすぐ前で声がする以上全く無関係を装うことも難しそうだ。様子を見て問題なければ収まるまで部屋に戻ろう。レナードは意を決して部屋のドアをそうっと、薄く開けた。

 「だからお前だけで案内するもんでもねぇだろって言ってるだろうが!」
 「分からない人ですね。私は先生から正式に案内役を仰せつかったんですよ。押しかけてきた貴方とは違います」
 「どうせ自分から申し出たんだろう? お前はそういう所抜け目ないからな」
 「おや、貴方に褒められるなんて明日は雨か霰でしょうか」

自信過剰でなければ、どうやらレナードの校内見学のための案内役らしい。クルスが気遣ってくれたのだろうか、現状はなるべく関わりたくない二人にしか見えない。
怒鳴っている方は身長180は優に超えるガタイのいい男だ。目算だが、レナードと20センチ差は違う。鋼色の髪を緩く乱し、大声で喋る様子はかなり威圧感がある。かなりラフにシャツを羽織っていることもその印象を後押ししている。
もう一人の男は清潔感溢れる金髪で、いかにも優等生といった雰囲気で眉を潜めている。身長はこちらもレナードより少し高い。横に垂れた長い髪も相まって、男とは思えない美しさだ。
いっそ本当に部屋に戻ってしまおうか。見なかったことにしたい気分になった時、幸か不幸か金髪の男の方と目があった。

 「起こしてしまったようですね。朝からこの男が騒がしくて申し訳ありません」
 「この男とは何だ! あー、まあお前には悪かったよ」

こちらに気付いた二人は途端に言い争いを止めた。金髪の方は台詞とは裏腹にあまり申し訳なさそうに見えない。対して長身の男は頭をボリボリとかいて音量を大幅に下げて話した。あまりの豹変ぶりに少し戸惑うものの、先ほどまでの話しかけにくい雰囲気が霧散してほっと胸をなでおろす。これからの寮生活を考えれば、隣室まで聞こえかねない大声とは無縁でいたい所だ。

 「私はセクレトと申します。隣の大男はガイル。レナード君で間違いありませんね?」

そう問われ、彼は返事を返したものの、セクレトと名乗る男が主導権を握ったことに若干の違和感を感じる。不思議とガイルはその名乗りに不満そうではあるものの、口を出そうとはしない。

 「恥ずかしながら聞こえていたかもしれませんが、校内をご案内しようと思って参りました。本当は私一人の予定だったのですが……」

セクレトは胡乱気に隣の男を見つめるが、当の本人はどこ吹く風といった具合だ。

 「お前一人に任せると内容が偏りそうで不安だからな! 世の中規則だけで出来てるわけじゃないんだ、その点お前は硬すぎる」
 「分かりましたよ、耳にタコができそうです。少し、いえかなり騒がしいかもしれませんが、三人で一緒に行きませんか?」

レナードは一も二もなく頷いた。丁度知り合いが昨日初対面を果たしたばかりの先生一人、という状況に途方に暮れていた所だ。セクレトの申し出は渡りに船と言える。

 「それではまずは朝食から取りましょうか。ここの食堂は絶品揃いですよ」

セクレトの茶目っ気のあるウインクに、ようやく少しばかり緊張が溶ける。最初は絶対に相容れそうになかったが、段々と緊張が剥がれていくの肌身を実感したのだった。

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