Mag Mell -喜びの国-

二見 遊

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第1章 見知らぬ村、見知らぬ人

第8話

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訓練場は学校の裏側に陣取った広いスペースだった。森がくり抜かれたように丸く縁どられたそこは、その名の通り能力の訓練を行う場所だと言う。
三人が訪れた時も何組かの生徒が相対しており、中でも目立っているのが大きな木の剣を持つ赤毛の男だった。彼は剣を訓練相手に向け睨みつけているものの、微動だにしない。相手もまた警戒して弓を構えている。
はっ!と叫び、突然赤毛の男が叫び走り出した。その瞬間、レナードの目に信じられない光景が飛び込んでくる。剣の周囲に炎がまとい、立ち昇るように渦巻き始める。一瞬剣が燃えたように見えたが、木で出来ているにも関わらず焦げ目一つない。弓を構えている方は驚く様子もなく冷静に矢を番え、向かい来る相手に素早く攻撃を放った。

 「甘いぜ!」

瞬時に目の前に迫った矢に対し剣を一振り。剣先は届かないようにレナードの目には見えたが、纏った炎の風圧で矢はあらぬ方向に飛ぶ。相手はすぐに次の矢を番えようとするが、その動きを見逃す程赤毛の男は遅くなかった。始めは20M程あった距離が、一瞬で埋まっていく。弓側は咄嗟に逃げようとするが、その動きを剣の炎が遮ったことで勝敗が決した。

 「くそー、またマシューに負けた!」
 「修行して出直してこい、未熟者」

彼は剣を肩にかつぎ、意気揚々とわらった。このタイミングを待っていたのだろう、黙って練習を眺めていたガイルが声をかけた。

 「精が出るな、マシュー」
 「副会長!! 来てるなら何で声かけてくれなかったんですかー!」
 「集中しているのに邪魔しちゃ悪いだろ」
 「声かけられた位で集中切れたりしませんよ!」


(マシュー by Jpon様)

マシュー、と呼ばれた男は碧い目を吊り上げて文字通り地団太を踏み、先ほどのかっこいい姿からは想像出来ない程ガイルに突っかかっている。しかし怒っている様子は全くなく、むしろちょっかいをかけられるのを随分喜んでいるよう見える。

 「ばーか、そう言うのを慢心って言うんだよ。お前は一対一なら強いんだから、視野を広げればもっと強くなれるぞ」
 「あ……! ありがとうございます! 俺、頑張ります!!」

彼は感極まったように目の奥を光らせ、ばっと頭を下げた。ここまでくると最初に部屋の前で会った時の印象と今のガイルは全く別人に思える。訓練場がいた他の面々も徐々にこちらへ笑顔で集まって来ている。皆から兄の様に慕われている存在なのだろう。

「さっきガイルさんが副会長って呼ばれてませんでした?」

囲まれている彼を見ながら、レナードは手持無沙汰にしているセクレトに問いかける。

 「言ってませんでしたね。彼はこの学校の生徒会で副会長を務めています。因みに、私が会長なんですよ」
 「えっ? そんな大事なことは最初の自己紹介の時に言ってくださいよ!」

あまりにさらっと重大情報が明かされるので、嘘のようだ。しかし当人は全く気にしていないらしく飄々とした表情を浮かべている。

 「ふふ、更なる情報を開示しましょうか?」
 「ちょっと怖い気もしますが、ここまで来たら聞かないと後悔する気がします」
 「私とガイルはね、兄弟なんです」

衝撃的重大事実だ。二人の見た目には全くと言っていい程共通点はない。確かにたまに妙に息が合っているとはレナード自身感じてはいたが、お互い家族らしからぬ壁を感じでもいた。しかしここで似ているとも似ていないともコメントしづらく反応に困る。
似ていると言えば嘘だと丸わかりだし、似ていないというのも失礼に思える。そんな様子を見て、再度セクレトがおかしそうに笑った。

 「似ていないでしょう? 腹違いでして、ガイルは父親に似たんです。私は母に似ているそうですがね」
 「やっと納得出来ました」

しかしそうなると別の問題が浮上する。二人とも根はきちんとした人のようなのに、どうしてこうも反目し合っているのかと思っていたが、父の不貞が理由なのであれば問題の根は深い。

 「その顔は道理で仲が悪いはずだと思っていますね? 別に父の浮気ではありませんよ」
 「違うんですか?! あ、いえ、すみません」
 「いいんですよ。法的には母一人父一人が当たり前なんですからね。まず私たちは、お互い両親がきちんといますし、彼らの仲はむしろいい位です。それはこの村の風潮に起因しています」

風潮、とレナードは首を傾げる。どうも今の話の流れにそぐわない言葉のように感じた。

 「良く言えば、この村では誰の子供であろうと自分の子供のように育てるんです」

古き良き時代と言ったら聞こえはいいが、最早血縁が入り混じりすぎて誰の子供でも我が子であるのと変わらない、ということなのだろうか。どうにも閉鎖的な村のようなので、レナードには村外からの移住者などあまりいるようにも思えない。

 「そしてこれが要なのですが、この村には不貞という言葉が存在しません。夫婦であろうとなかろうと、性交は行われます。趣味みたいなものです」

一瞬の静寂。レナードは真意を図るように相手の顔をまじまじみたが、セクレトはさもおかしそうに笑うだけだ。だんだんとそれが真実だとわかるにつれ、彼の頭はパンクしそうになった。
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