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第1章 見知らぬ村、見知らぬ人
第10話
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訓練場を後にし、一行は学校から少し離れた場所にある教会に向かった。レナードは無宗教だ。
教会を見学したことくらいはあるものの、基本的に縁がない場所なので野次馬根性で中を覗く。逆にガイルは全く興味がないようで、入り口の辺りで外を見ている。
「ガイルさんは行かないんですか?」
「俺とは反りが合わない場所なんだよ。気にせずに見てきな」
教会内部は誰もいないせいもあり、侵しがたい静寂に支配されている。左右に長椅子が縦に連なり、自然と奥に置かれた祭壇へ、そして天井付近に位置するステンドグラスに目が行く。天使を描いているのだろうか。羽の生えた白いローブの男性が空中を舞い、地上へ手を差し伸べている様に見える。天使は女性という固定概念があったために珍しい絵だと感じた。
「ここは見ての通り教会です。毎週日曜の朝に礼拝を行っています」
広い教会には、セクレトの通る声がよく響く。
「レナード君には馴染みがないと思いますが、この村には古くから信仰されている神がいます。信仰は自由ですから礼拝への参加は義務ではありませんが、村内では信仰は尊重されていることなので、否定的なことは言わない方がいいと思いますよ」
レナードは首をぶんぶんと縦に振った。人の宗教に口を出しても全くいいことはない。しかし村のほとんどが信仰している宗教ならば、知らぬ間に禁忌を侵したりしないようにある程度内容を知る必要はあるだろう。
「この信仰に名前はあるんですか?」
「特にありません。私たちの神に名前はありませんし、外の人と話すこともありませんから、不便も感じなかったんでしょう」
〇〇教、といった名前がついていることが普通だったものだから、少し面食ってしまう。
「あのステンドグラスに描かれている方は?」
「神だ、と伝えられています。村は元々何の信仰もなかったのですが、数百年ほど前、村に凶悪な動物が集団で襲い掛かり、壊滅状態に陥ったそうです。村の人々は手に農具などを持って戦いましたが全く敵わなかった。その時滞在していた旅人が不思議な力で退け、皆はその方を神だして信仰し始めたと言われています」
話を聞く限り、英雄や神の使徒が遣わされたような物語のように語られている。けれども超常的な力はともかくとして、神の登場シーンとしては少し地味な気がした。口が裂けても言えない考えだ。
「もしかして、皆が使っている能力も?」
「そうです。神は村の人々と男女を問わず七日七晩交わり続け、やがて天に還ったとされています。神の不在に皆が嘆く中で、能力の発現に気付いたのです」
思わずセクレトの顔を二度見してしまう。ギリシャ神話もびっくりな予想外の展開だ。物凄くセックス好きの神だったのだろうか。
正直な話、異能に恵まれたエロ親父の旅人にしか聞こえないために反応に困ってきてしまう。ツッコミどころしかない。
男女問わずという所だけでも衝撃的なのに、神話を語るセクレトの表情は全く感情を乗せておらず、突っ込んでいい所なのか判断に迷う。
どうにも困って入り口のガイルの方を見ると、丁度新たな訪問者がやってきた所だった。
「ガイル先輩、こんな所で会うなんて奇遇ですね。セクレト様もこんにちは。それと――もう一人は、もしかして転入生ですか?」
笑顔を浮かべながら入ってくる彼は、レナードと同じ位の背でありながら妙にひょろ長く見えた。肌が若干青白く、少し不健康な印象だ。けれども浮かべた笑みは安心できるもので、一瞬纏った緊張はすぐに薄れていく。自ら近寄り名を名乗ると、彼は一層嬉しそうに目を細めた。
「嬉しいなあ、村の外から転入生が来るなんて! 僕はアトラスと言います。僕たちきっと同じクラスだから、仲良くしてくれると嬉しいな」
見た目はほとんど白一色の彼だが、彼が笑みを浮かべると花が咲いたように華やかだ。これでマシューに続けてクラスメイトは二人目の遭遇だ。思わぬ所で知り合いが増えてこれからの生活に光明が差したようだ。加えて何故だか彼は初めからとても好意的だ。
「もしかして、転入生って珍しいの?」
「珍しいなんてものじゃないよ! 少なくとも僕は他に聞いたことないな」
レナードのようにこの村に縁がなければ、わざわざ越してくることもないのだろう。時代から置いて行かれたような場所なので、ある意味田舎暮らしを求める人には需要はあるのかもしれないが、入り口の分かりにくさからしてそもそも村の存在自体知られていない可能性が高い。
そういえばネット地図の航空写真では、森が深すぎて村が見えなかったことを思い出す。最早税の取立てさえなさそうだ。現代に取り残された村。そんな呼称が、レナードの脳裏に浮かんだ。
教会を見学したことくらいはあるものの、基本的に縁がない場所なので野次馬根性で中を覗く。逆にガイルは全く興味がないようで、入り口の辺りで外を見ている。
「ガイルさんは行かないんですか?」
「俺とは反りが合わない場所なんだよ。気にせずに見てきな」
教会内部は誰もいないせいもあり、侵しがたい静寂に支配されている。左右に長椅子が縦に連なり、自然と奥に置かれた祭壇へ、そして天井付近に位置するステンドグラスに目が行く。天使を描いているのだろうか。羽の生えた白いローブの男性が空中を舞い、地上へ手を差し伸べている様に見える。天使は女性という固定概念があったために珍しい絵だと感じた。
「ここは見ての通り教会です。毎週日曜の朝に礼拝を行っています」
広い教会には、セクレトの通る声がよく響く。
「レナード君には馴染みがないと思いますが、この村には古くから信仰されている神がいます。信仰は自由ですから礼拝への参加は義務ではありませんが、村内では信仰は尊重されていることなので、否定的なことは言わない方がいいと思いますよ」
レナードは首をぶんぶんと縦に振った。人の宗教に口を出しても全くいいことはない。しかし村のほとんどが信仰している宗教ならば、知らぬ間に禁忌を侵したりしないようにある程度内容を知る必要はあるだろう。
「この信仰に名前はあるんですか?」
「特にありません。私たちの神に名前はありませんし、外の人と話すこともありませんから、不便も感じなかったんでしょう」
〇〇教、といった名前がついていることが普通だったものだから、少し面食ってしまう。
「あのステンドグラスに描かれている方は?」
「神だ、と伝えられています。村は元々何の信仰もなかったのですが、数百年ほど前、村に凶悪な動物が集団で襲い掛かり、壊滅状態に陥ったそうです。村の人々は手に農具などを持って戦いましたが全く敵わなかった。その時滞在していた旅人が不思議な力で退け、皆はその方を神だして信仰し始めたと言われています」
話を聞く限り、英雄や神の使徒が遣わされたような物語のように語られている。けれども超常的な力はともかくとして、神の登場シーンとしては少し地味な気がした。口が裂けても言えない考えだ。
「もしかして、皆が使っている能力も?」
「そうです。神は村の人々と男女を問わず七日七晩交わり続け、やがて天に還ったとされています。神の不在に皆が嘆く中で、能力の発現に気付いたのです」
思わずセクレトの顔を二度見してしまう。ギリシャ神話もびっくりな予想外の展開だ。物凄くセックス好きの神だったのだろうか。
正直な話、異能に恵まれたエロ親父の旅人にしか聞こえないために反応に困ってきてしまう。ツッコミどころしかない。
男女問わずという所だけでも衝撃的なのに、神話を語るセクレトの表情は全く感情を乗せておらず、突っ込んでいい所なのか判断に迷う。
どうにも困って入り口のガイルの方を見ると、丁度新たな訪問者がやってきた所だった。
「ガイル先輩、こんな所で会うなんて奇遇ですね。セクレト様もこんにちは。それと――もう一人は、もしかして転入生ですか?」
笑顔を浮かべながら入ってくる彼は、レナードと同じ位の背でありながら妙にひょろ長く見えた。肌が若干青白く、少し不健康な印象だ。けれども浮かべた笑みは安心できるもので、一瞬纏った緊張はすぐに薄れていく。自ら近寄り名を名乗ると、彼は一層嬉しそうに目を細めた。
「嬉しいなあ、村の外から転入生が来るなんて! 僕はアトラスと言います。僕たちきっと同じクラスだから、仲良くしてくれると嬉しいな」
見た目はほとんど白一色の彼だが、彼が笑みを浮かべると花が咲いたように華やかだ。これでマシューに続けてクラスメイトは二人目の遭遇だ。思わぬ所で知り合いが増えてこれからの生活に光明が差したようだ。加えて何故だか彼は初めからとても好意的だ。
「もしかして、転入生って珍しいの?」
「珍しいなんてものじゃないよ! 少なくとも僕は他に聞いたことないな」
レナードのようにこの村に縁がなければ、わざわざ越してくることもないのだろう。時代から置いて行かれたような場所なので、ある意味田舎暮らしを求める人には需要はあるのかもしれないが、入り口の分かりにくさからしてそもそも村の存在自体知られていない可能性が高い。
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