Mag Mell -喜びの国-

二見 遊

文字の大きさ
12 / 33
第1章 見知らぬ村、見知らぬ人

第12話

しおりを挟む
昨日よりも少ない量の朝食を食べる。一緒に食べる相手がいない食事は空しいものだ。レナードの両親が健在だった時は、朝と夜はほぼ必ず食卓を共にしていた。お陰で兄弟がいなくても全く気にはならない位、騒がしく楽しい毎日だった。当たり前だった日常が終わった時初めて、なくなると寂しいものだと気が付いた。
中途半端な時間だったためか、まばらにしかいない生徒の数もまた哀愁を誘った。

 「もう! 何で待っててくれないかな!」

ぼんやりとパンを咥えていると、食堂の入り口からドタドタと音がした。白金に近い色の髪をはねさせた男子生徒が、持っているトレーをテーブルにダンと置く。そして物凄い勢いで口に入れ始める。慌ただしく食べているにも関わらず、食べ方には一切荒れた様子が見られず手つきがとても綺麗だ。レナードは自分の分を口に運ぶのも忘れて、ただただその食べっぷりを眺めてしまう。やがて一段落ついたらしい彼が意識を食事から外した時、ふとこちらに視線が向いた。まずい、と目を逸らそうとしたが間に合わなかった。

 「何見てるんですか?」

どう見ても怪訝な顔つき。当たり前のことだ。見知らぬ人物が自身の食事風景を眺めているなど気味悪がられてもおかしくない状況だ。レナードがどう言い訳したものかと困っていると、相手はため息を一つついて、先ほどよりもゆっくりしたペースでまた料理を口に運び始めた。

 「あの……特に他意はなかったんです、ごめんなさい」

見ていたのはもう完全にバレているので、レナードは素直に謝った。彼はちらりと視線をこちらにやり、小さく頷いて手招きをした。弱い立場故に従う他にない。距離感が分からずに彼の目の前の席に座る。六人用のテーブル席を独り占めにしていた彼の周りには誰もおらず、ぽつんとしていて気まずさが加速する。更に言えば彼は何も喋ろうとしない。

 「ええと、本当にすみません。悪気はなかったんですけど、食べるスピードが早いのに食べ方綺麗だなって思ったら、つい眺めちゃって」

何か言った方がいいのかと、思わず考えていたことを口に出す。しかし口に出してからすぐに後悔した。褒めているとはいえ気持ちの悪い観察の仕方に変わりはない。撤回すべきかと頭を悩ませているレナードを尻目に、目の前の彼の食事は終わりようやく顔を上げた。

 「初めて見る顔ですけど、もしかして貴方が噂の転入生?」
 「噂のかは分からないけど、今日から転入します」

少々幼い外見に反して、彼は強い気配を漂わせている。恐らく年下だろうとは思うものの、つい敬語になる。

 「普通に話してかまいませんよ。貴方の方が年上でしょう?」
 「いや、謝ってるのにため口はどうかと思って。君こそ敬語なんていいから」
 「僕のこれは、癖みたいなものなので気にしないで下さい」

ふいと視線を逸らされ、そこで会話が終わってしまう。彼は食事を終え、端に寄せていたティーカップを手にした。たっぷりとミルクを注いだ中身をスプーンでクルクルと回し、何か考えているように見える。螺旋を描くミルクが紅茶と完全に溶け合った頃、彼はようやく口を開いた。

 「そういえば名乗ってませんでしたね。僕はヨハンと言います。貴方のことはアトラスから聞きました」

ここでようやく合点がいった。昨日会ったアトラスは既に転入生が入ることを知っていたようだし、当の本人に会ったとなれば誰かにその話くらいするだろう。

 「アトラスの友達だったんだね。俺はレナード。昨日来たばかりでまだ何も分からないんだけど、これから宜しく」

アトラスの友人であればまた話す機会もあるだろう。そう考えての言葉だったが、彼の表情は晴れない。

 「アトラスは、僕の幼馴染なんです。今日彼の姿を見ませんでしたか?」
 「いや、今日は見てないけど……どうかしたの?」

いえ、別にと答える彼は暗い顔のまま首を振った。話題の方向性を変えた方がよさそうだ。

 「この村の人は同年代と大体幼馴染って聞いたけど、やっぱり君たちも幼馴染が沢山いるの?」
 「アトラスはそうですね。僕はあまり。同年代の子よりも上の年代の方達といることが多かったので」

これまた地雷の香りのする話題を選んでしまったかもしれない。ひょっとすると友達が少ないのだろうかと無用な心配をしてしまう。この話を広げるべきか違う話題を改めて振るかを悩んでいると、食堂に救世主が現れた。ヨハンはその姿にすぐに気付いてはっと顔を上げ、すぐに表情を変えた。

 「アトラス、遅いよ!」
 「ごめんヨハン、今日は早いんだね。しかもレナードと一緒なんて驚いたな。二人ともおはよう」

爽やかな笑みを浮かべてアトラスが向かい側の席に座る。ヨハンは少し怒っているようだが、隣に座った彼を見る表情は先ほどに比べて大分明るい。レナードは気まずい雰囲気を打破するきっかけになってくれた彼に対し、心の中でお礼を言った。

 「アトラスは食べないの?」

同じ席についたにも関わらず、彼はトレーさえ持ってこようとしない。紅茶のカップを傾けるヨハンをにこにこと眺めているだけだ。

 「僕はもう食べてしまったんだ」

レナードの問いに、ちらちらとヨハンを見ながら答える。笑顔が曇り、きまずそうだ。そういえばヨハンは食堂に来た時誰かと待ち合わせした風だった。きっと朝食を一緒にとる約束でもしていたのだろう。

 「俺、お邪魔だったかな?」

少しおどけたように聞く。二人は幼馴染というだけあって、無言でも繋がっているような気安さがあった。しかしその言葉に対する反応は真逆だ。アトラスは慌てた風にとんでもないと手を振り、ヨハンは目線をカップに落としたまま弱く否定したのみだ。そんなお互いの認識の差異に気付いているのは、どうやらヨハンだけのようだった。

 「さて、俺はもう行くよ。初日だし早めに教室に行きたいから」
 「それなら僕も行こうか?」

着いてきそうなアトラスを押しとどめて立ち上がる。先に行けという暗黙の圧力がヨハンから漂っている気がする。このまま教室に連れ去ってしまえばヨハンからどんな恨みを買うか分からない。睨まれたり何か言われた訳ではないが、アトラスの行動を見る目は暗く濁っている。夫婦喧嘩は犬も食わないというし、と一瞬そう思ったものの男同士の幼馴染という関係に対する表現でもないなと思いなおす。雰囲気としてはまさしく適切だったものの、ともかく口を挟める雰囲気ではない。そうして早々と食堂を退散した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...