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第2章 魂に触れる熱
第19話
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「三階に行けない?!」
「バリアが貼ってあるわね。でもこれならまだ破れそうよ。問題は音だけど――」
その時、彼らがいる場所と正反対の方向から、盛大に鼓膜を揺らす大音量の叫び声が聞こえてきた。
「だりゃあああああっ!!」
次いで襲い来る熱風。禁止事項に触れるのでまさか本当の炎は出していないだろうとは思うものの、この声と熱さから連想する人物はただ一人。そして熱の来る方向から咄嗟にこちら側に逃げてくる生徒が少なからずいるはずだ。
「マシュー、派手にやってるわね。よし、それならこっちも遠慮なく!」
「ブリジット、狙うならここだ!」
アトラスが空中の一点を指す。三人には見えていないものが彼の目には見えているようだ。ブリジットは力強く頷くと、胸の前で手を合わせ、同時に離せば一本のレイピア型の剣が現れる。細身の刀身が光を放ち四人の頬を微かに照らす。彼女は慣れた動作でそれを構え、階段の一転を見据えると一気に前に突き出した。レナードはガラスを割るようなイメージで割った瞬間身を竦ませたが、耳に響くのはリーン、と鈴を鳴らしたような音だけだ。
「走って!」
音は大きくなかったが、バリアが破られたことは術者にはすぐ伝わるはずだ。マシュー達の攻めと合わせ、ここからは時間と勢いの勝負になった。
四人は三階への階段を一気に駆け上がる。廊下では既に各グループのメンバーが対峙しており、誰かの能力なのか拳大の黒い球体がそこかしこに無数に浮いている。誰もが足を止める中、ブリジットとビハムがまず前に踊り出た。二人は風のような速さで移動しながら、ひらりと球体をかわしつつ布をつけた生徒達にあっという間に近づいていく。
一気に近づく二人に驚いた相手は散り散りになって逃げようとするが、そこを自らが仕掛けた球体と周りからじりじりと近づいていた突入組の生徒が阻む。逃げ場を失った彼らが教室の中に駆け込んでいく。レナードもその後ろを追いかけ、教室に入ったと同時に後ろからアトラスの叫び声が聞こえた。
「危ない、レナード!」
何事なのか。振り返った瞬間、レナードの体は皆の視界から一瞬で掻き消えた。
レナードは、あっという間の出来事ではあったものの、彼は視線の端に黒い球体を捉えていた。同時に誰かがしっかりと自らの手を捕まれる感覚を覚える。思わず球が当たる瞬間目をつむったが、恐れていた衝撃は全くなかった。
彼は恐る恐る目を開けて、と思わずえ、声が漏れ出る。彼は確かに目を開いたはずだったが、目の前には何も映らない。光のない真っ暗闇だけがただ広がっている。
「ここ、どこだ? 誰かいないのか!」
思わってもみない状況に不安が鎌首をもたげ、心の奥からじわじわと押し寄せてくる。何も見えない、自分の声以外何も聞こえない空間で叫ばすにいられなかった。意味がないのではないかと思いながら周囲を見渡し、腕を大きく振ってみる。焦りばかりが心中を支配し、いよいよ途方に暮れそうになって、ようやく自身の手に触れる微かな暖かさに気付く。
それは最初は全く姿のない暖かさだったが、形のない暖かさに手を添えれば、そっと握り返してくれるような錯覚を覚える。否、錯覚ではないのだろう。レナードが手を意識すればする程そこは温度を増し、微かな感触は確かな感触へと変わっていく。彼は縋りつくように自分以外から発せられる熱に全神経を集中させ、痛いほどに掴んだ。
(レナード!!)
声とも、意志の塊とも言える音が頭の芯まで強烈に届く。同時に唐突に意識が戻ってきた。闇に閉じていた視界に突然光が戻り、眩暈がしそうなほどの光量にくらくらしそうになる。だが手の中の熱だけは変わらない。握りしめた手の先をみれば、心配そうな表情でこちらを見つめるビハムがいた。彼の瞳の中の灰色に奥まで吸い込まれそうになり、目が離せない。息を忘れる程呼吸をつめ、ただただ手をぎゅっと握りしめる。強張った表情に気が付き、もう片方の手をビハムが重ねるまで、放さなければという考えに至らないままだった。
「大丈夫?」
横からアトラスの声が聞こえ、はっとそちらを見る。そうしてようやくここが教室内であると思い出し、周りの生徒の姿が見えて急に恥ずかしくなってくる。
「ごめん! 痛かったよな」
慌ててビハムのぱっと手を放して立ち上がる。相手はレナードを伺うようにゆっくり立ち、一通り怪我の有無を確認してから頷いて小さく笑みを浮かべた。そこでようやく周りの様子に気付く。見れば校内側のメンバーは散り散りに消え、教室内には突入組の面々だけどこちらを恐る恐る見ていた。どうやら謎の攻撃に皆の足を止めてしまったようで、慌てて無事であることを言葉と手振りで示した。
「皆いなくなったけど、どっちに逃げたんだろう?」
安心した様子のアトラスが教室の外を覗こうとした時、再び頭の中にノアの声が響く。
(突入組全員に通達。ノアグループはマシューグループと合流、目標の中心部隊と交戦中。校舎一階ロビーへ集
合、打ち漏らしの撃破に努めてくれ)
視線を彷徨わせていた教室内の面々は一様に頷き、一斉に階下へ向かう。階段付近では何人かの面々が廊下を走り回っている。既に布を取られたものも出たらしく、廊下の端をとぼとぼ歩いている姿が見受けられた。レナードは先ほどの経験から前に出るのに躊躇してしまう。攻撃ではなかったのかもしれないが、あの真っ暗闇の空間は世界から取り残されたようでぞっとした。ビハムの光があったからこそ、自分を見失わずに戻ってこれだのだ。
「バリアが貼ってあるわね。でもこれならまだ破れそうよ。問題は音だけど――」
その時、彼らがいる場所と正反対の方向から、盛大に鼓膜を揺らす大音量の叫び声が聞こえてきた。
「だりゃあああああっ!!」
次いで襲い来る熱風。禁止事項に触れるのでまさか本当の炎は出していないだろうとは思うものの、この声と熱さから連想する人物はただ一人。そして熱の来る方向から咄嗟にこちら側に逃げてくる生徒が少なからずいるはずだ。
「マシュー、派手にやってるわね。よし、それならこっちも遠慮なく!」
「ブリジット、狙うならここだ!」
アトラスが空中の一点を指す。三人には見えていないものが彼の目には見えているようだ。ブリジットは力強く頷くと、胸の前で手を合わせ、同時に離せば一本のレイピア型の剣が現れる。細身の刀身が光を放ち四人の頬を微かに照らす。彼女は慣れた動作でそれを構え、階段の一転を見据えると一気に前に突き出した。レナードはガラスを割るようなイメージで割った瞬間身を竦ませたが、耳に響くのはリーン、と鈴を鳴らしたような音だけだ。
「走って!」
音は大きくなかったが、バリアが破られたことは術者にはすぐ伝わるはずだ。マシュー達の攻めと合わせ、ここからは時間と勢いの勝負になった。
四人は三階への階段を一気に駆け上がる。廊下では既に各グループのメンバーが対峙しており、誰かの能力なのか拳大の黒い球体がそこかしこに無数に浮いている。誰もが足を止める中、ブリジットとビハムがまず前に踊り出た。二人は風のような速さで移動しながら、ひらりと球体をかわしつつ布をつけた生徒達にあっという間に近づいていく。
一気に近づく二人に驚いた相手は散り散りになって逃げようとするが、そこを自らが仕掛けた球体と周りからじりじりと近づいていた突入組の生徒が阻む。逃げ場を失った彼らが教室の中に駆け込んでいく。レナードもその後ろを追いかけ、教室に入ったと同時に後ろからアトラスの叫び声が聞こえた。
「危ない、レナード!」
何事なのか。振り返った瞬間、レナードの体は皆の視界から一瞬で掻き消えた。
レナードは、あっという間の出来事ではあったものの、彼は視線の端に黒い球体を捉えていた。同時に誰かがしっかりと自らの手を捕まれる感覚を覚える。思わず球が当たる瞬間目をつむったが、恐れていた衝撃は全くなかった。
彼は恐る恐る目を開けて、と思わずえ、声が漏れ出る。彼は確かに目を開いたはずだったが、目の前には何も映らない。光のない真っ暗闇だけがただ広がっている。
「ここ、どこだ? 誰かいないのか!」
思わってもみない状況に不安が鎌首をもたげ、心の奥からじわじわと押し寄せてくる。何も見えない、自分の声以外何も聞こえない空間で叫ばすにいられなかった。意味がないのではないかと思いながら周囲を見渡し、腕を大きく振ってみる。焦りばかりが心中を支配し、いよいよ途方に暮れそうになって、ようやく自身の手に触れる微かな暖かさに気付く。
それは最初は全く姿のない暖かさだったが、形のない暖かさに手を添えれば、そっと握り返してくれるような錯覚を覚える。否、錯覚ではないのだろう。レナードが手を意識すればする程そこは温度を増し、微かな感触は確かな感触へと変わっていく。彼は縋りつくように自分以外から発せられる熱に全神経を集中させ、痛いほどに掴んだ。
(レナード!!)
声とも、意志の塊とも言える音が頭の芯まで強烈に届く。同時に唐突に意識が戻ってきた。闇に閉じていた視界に突然光が戻り、眩暈がしそうなほどの光量にくらくらしそうになる。だが手の中の熱だけは変わらない。握りしめた手の先をみれば、心配そうな表情でこちらを見つめるビハムがいた。彼の瞳の中の灰色に奥まで吸い込まれそうになり、目が離せない。息を忘れる程呼吸をつめ、ただただ手をぎゅっと握りしめる。強張った表情に気が付き、もう片方の手をビハムが重ねるまで、放さなければという考えに至らないままだった。
「大丈夫?」
横からアトラスの声が聞こえ、はっとそちらを見る。そうしてようやくここが教室内であると思い出し、周りの生徒の姿が見えて急に恥ずかしくなってくる。
「ごめん! 痛かったよな」
慌ててビハムのぱっと手を放して立ち上がる。相手はレナードを伺うようにゆっくり立ち、一通り怪我の有無を確認してから頷いて小さく笑みを浮かべた。そこでようやく周りの様子に気付く。見れば校内側のメンバーは散り散りに消え、教室内には突入組の面々だけどこちらを恐る恐る見ていた。どうやら謎の攻撃に皆の足を止めてしまったようで、慌てて無事であることを言葉と手振りで示した。
「皆いなくなったけど、どっちに逃げたんだろう?」
安心した様子のアトラスが教室の外を覗こうとした時、再び頭の中にノアの声が響く。
(突入組全員に通達。ノアグループはマシューグループと合流、目標の中心部隊と交戦中。校舎一階ロビーへ集
合、打ち漏らしの撃破に努めてくれ)
視線を彷徨わせていた教室内の面々は一様に頷き、一斉に階下へ向かう。階段付近では何人かの面々が廊下を走り回っている。既に布を取られたものも出たらしく、廊下の端をとぼとぼ歩いている姿が見受けられた。レナードは先ほどの経験から前に出るのに躊躇してしまう。攻撃ではなかったのかもしれないが、あの真っ暗闇の空間は世界から取り残されたようでぞっとした。ビハムの光があったからこそ、自分を見失わずに戻ってこれだのだ。
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