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第2章 魂に触れる熱
第22話
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「頭守っとけ!!」
絶望を感じる彼の耳に、唐突に聞こえる人の声。音のする方向を見る暇もなく、レナードは体ごと頭を抱え込んで空中で丸まった。視界の端には自分を捕まえていた物とはまるで違う、真っ黒な太い帯のような物が無数に飛んでいき、すぐさまレナードの体が守るかのように包む。そして数本が蔦の先に向きなおり、音もなくそれを断ち切った。
急に自身を引っ張る力がなくなったために、地面で踏ん張っていたレナードはバランスを崩して倒れ込む。足首にはまだ太い蔓が巻き付いていたが、力を失ったようでぐったりとしている。細い蔦は切れた衝撃で周辺に飛び散ったようだった。
「馬鹿野郎! よりによって夜の森に入りがって。見せてみろ、怪我は?」
呆然自失状態のレナードはのろのろと思い頭をもたげ、ようやく声の主を見た。そこには初日に廊下で会ったきりの、ルプスの姿があった。相変わらず教師にあるまじきボタンの開き様だが、決定的に違うのは彼の背に映える黒い羽のようなものだった。よくよく見れば、羽の一つ一つは根元から分かれており先ほど彼を守ってくれた帯状のものだと分かる。
「いえ、かすり傷位で……すみません、助けて下さってありがとうございます」
森に入ったのは自分の意志ではなかったものの、好奇心で光量の減った柱の傍までいった事は事実だ。ただ夜の森に対して野生動物に襲われる危険への警戒はあっても、今まで都会にいたために正直な所警戒心は薄かった。人が住んでいる以上、動物は明かりのある場所に無闇に近づかない。だから村の中ならば大丈夫だろうと過信していた。
だが野生動物どころか、突然あんな化け物蔓に見えない位置から引きずり込まれるなど、想定外にも程があった。こんな目に合う危険性が分かっていれば、そもそも夜の森近くに散歩に出るなどという愚行は侵さなかっただろう。
しゅんとした様子のレナードを見て、ルプスは傷の具合を確かめた後、ほっと息を吐いた。
「大丈夫そうだな。とにかく森を出るぞ、ここはまだ危険だ」
そう言うなり背中の羽が大きく広がり、軽々とレナードを抱えたまま出口に向かって跳躍する。浮遊感が先ほどの恐怖を思い起こさせ、思わず彼はルプスの体にひしっと抱き着いてしまう。その様子に少し笑われたような気がしたものの、いまだ恐怖は彼の体根付いているのだ。
「ここまで来れば大丈夫だ」
大きな跳躍を二度繰り返しただけで、あんなにも遠く感じた出口はすぐさま眼前に現れた。柱からも大きく離れ、学園の寮近くまで来た所でレナードを降ろす。ようやく安心できる場所、そして地面に辿り着き、彼は脱力したようにへたり込んでしまった。
「まだ生きた心地がしません……」
「文字通り命拾いをしたな。疲れてるだろうが立てるか? 一応保健室で見て貰ったほうがいい」
はい、とレナードはのろのろと重い体を起こす。本当ならば地面に大の字で寝てしまいたい位だったが、擦り切れた肌からは少ないながらも血が滴り落ち、全身泥まみれになっている。
自業自得とはいえ、泣きたい気分だった。
保健室に向かう道すがら、廊下にパタパタと駆ける音が響く。こんな夜更けに一体誰だろうかと振り返れば、慌ただしく近寄るクルスの姿があった。
「レナード君! 大丈夫ですか!!」
目に一杯の涙を溜め、今にも泣きそうになりながらレナードの体を上から下まで凝視する。かすり傷ですよ、と彼が伝えた所でようやく立ち止まり、クルスは文字通り胸を撫で下ろした。
「もう、心配したんですからね!」
安心のためか遂に零れ落ちた涙をぐしぐしと拭い、クルスは赤い瞳を更に赤く染め、下から睨み上げる。本来であれば心配させたことを教師に謝るべく、申し訳ない気持ちになるべきシーンなのだろう、しかしレナードはこんな時でも可愛いなんて凄いなという別の感想を思い浮かべていた。加えて彼は就寝中だったのだろう。ガウンは羽織っているものの中はもこもこした寝間着を来ており、ほんわかした気分に陥ってしまう。
「すみませんでした」
そんな気分をおくびにも出さず、レナードは頭を下げる。何にせよ、彼は自身のことを心配してこんな夜中に走ってきてくれたのだ。
「こいつは俺が保健室まで連れていく。心配しなくても大丈夫だ」
「貴方が連れていく時点で不安しかありませんよ、傷の手当できるんですか?」
「うさぎちゃんこそ上手く出来るのか?」
またそういう、とクルスは反論しかけたが、立ち尽くすレナードを見て小さく首を振った。
「わかりました、3人で行きましょう。異論は認めません」
思いのほか強い口調でクルスがそういい、3人はそれ以上の話をやめて保健室に向かった。
絶望を感じる彼の耳に、唐突に聞こえる人の声。音のする方向を見る暇もなく、レナードは体ごと頭を抱え込んで空中で丸まった。視界の端には自分を捕まえていた物とはまるで違う、真っ黒な太い帯のような物が無数に飛んでいき、すぐさまレナードの体が守るかのように包む。そして数本が蔦の先に向きなおり、音もなくそれを断ち切った。
急に自身を引っ張る力がなくなったために、地面で踏ん張っていたレナードはバランスを崩して倒れ込む。足首にはまだ太い蔓が巻き付いていたが、力を失ったようでぐったりとしている。細い蔦は切れた衝撃で周辺に飛び散ったようだった。
「馬鹿野郎! よりによって夜の森に入りがって。見せてみろ、怪我は?」
呆然自失状態のレナードはのろのろと思い頭をもたげ、ようやく声の主を見た。そこには初日に廊下で会ったきりの、ルプスの姿があった。相変わらず教師にあるまじきボタンの開き様だが、決定的に違うのは彼の背に映える黒い羽のようなものだった。よくよく見れば、羽の一つ一つは根元から分かれており先ほど彼を守ってくれた帯状のものだと分かる。
「いえ、かすり傷位で……すみません、助けて下さってありがとうございます」
森に入ったのは自分の意志ではなかったものの、好奇心で光量の減った柱の傍までいった事は事実だ。ただ夜の森に対して野生動物に襲われる危険への警戒はあっても、今まで都会にいたために正直な所警戒心は薄かった。人が住んでいる以上、動物は明かりのある場所に無闇に近づかない。だから村の中ならば大丈夫だろうと過信していた。
だが野生動物どころか、突然あんな化け物蔓に見えない位置から引きずり込まれるなど、想定外にも程があった。こんな目に合う危険性が分かっていれば、そもそも夜の森近くに散歩に出るなどという愚行は侵さなかっただろう。
しゅんとした様子のレナードを見て、ルプスは傷の具合を確かめた後、ほっと息を吐いた。
「大丈夫そうだな。とにかく森を出るぞ、ここはまだ危険だ」
そう言うなり背中の羽が大きく広がり、軽々とレナードを抱えたまま出口に向かって跳躍する。浮遊感が先ほどの恐怖を思い起こさせ、思わず彼はルプスの体にひしっと抱き着いてしまう。その様子に少し笑われたような気がしたものの、いまだ恐怖は彼の体根付いているのだ。
「ここまで来れば大丈夫だ」
大きな跳躍を二度繰り返しただけで、あんなにも遠く感じた出口はすぐさま眼前に現れた。柱からも大きく離れ、学園の寮近くまで来た所でレナードを降ろす。ようやく安心できる場所、そして地面に辿り着き、彼は脱力したようにへたり込んでしまった。
「まだ生きた心地がしません……」
「文字通り命拾いをしたな。疲れてるだろうが立てるか? 一応保健室で見て貰ったほうがいい」
はい、とレナードはのろのろと重い体を起こす。本当ならば地面に大の字で寝てしまいたい位だったが、擦り切れた肌からは少ないながらも血が滴り落ち、全身泥まみれになっている。
自業自得とはいえ、泣きたい気分だった。
保健室に向かう道すがら、廊下にパタパタと駆ける音が響く。こんな夜更けに一体誰だろうかと振り返れば、慌ただしく近寄るクルスの姿があった。
「レナード君! 大丈夫ですか!!」
目に一杯の涙を溜め、今にも泣きそうになりながらレナードの体を上から下まで凝視する。かすり傷ですよ、と彼が伝えた所でようやく立ち止まり、クルスは文字通り胸を撫で下ろした。
「もう、心配したんですからね!」
安心のためか遂に零れ落ちた涙をぐしぐしと拭い、クルスは赤い瞳を更に赤く染め、下から睨み上げる。本来であれば心配させたことを教師に謝るべく、申し訳ない気持ちになるべきシーンなのだろう、しかしレナードはこんな時でも可愛いなんて凄いなという別の感想を思い浮かべていた。加えて彼は就寝中だったのだろう。ガウンは羽織っているものの中はもこもこした寝間着を来ており、ほんわかした気分に陥ってしまう。
「すみませんでした」
そんな気分をおくびにも出さず、レナードは頭を下げる。何にせよ、彼は自身のことを心配してこんな夜中に走ってきてくれたのだ。
「こいつは俺が保健室まで連れていく。心配しなくても大丈夫だ」
「貴方が連れていく時点で不安しかありませんよ、傷の手当できるんですか?」
「うさぎちゃんこそ上手く出来るのか?」
またそういう、とクルスは反論しかけたが、立ち尽くすレナードを見て小さく首を振った。
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