Mag Mell -喜びの国-

二見 遊

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第3章 折り重なる感情

第24話

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体が重い。レナードはベッドに戻りたがる体を引きずるようにして身を起こした。洗面所で顔を洗うものの、こびりつく疲れは芯に残ったまま、どことなくぼーっとしながら身支度を整える。そんな最中、ふと入り口の扉前に見慣れないオレンジ色のカードを見かける。

 『土曜の夜、教会に来てください   セクレト』

簡素なメッセージだけが書かれたカードだ。念のため裏返してみるものの、他に言葉は綴られていないようだった。

 「一体なんだろう?」

言葉少なというのは時にどうしようもない不安を掻き立てる。セクレトは校内案内で世話になった人物だが、それ故にあの時感じた得体の知れなさから少しばかりお近づきになりたくない人種だった。とにかく今日の学校で真意を確かめよう。レナードは一気に覚醒した頭でそう考え、きびきびと朝食に向かった。

全校生徒の人数はそう多くない学校のはずだが、特定の人物を探すとなると中々難しい。レナードは三回目になる会長の居場所はどこか、という質問を道端の生徒に繰り返し、また歩き始める。
移動先が知れているのは注目度の表れだろうが、それにしても目的の人物と出会うことがこんなにも難しいとは思わずに、レナードはへとへとになって中庭に腰を下ろした。少し休憩しようと目を閉じたが最後、次に目覚めたのは自身のクシャミが原因で辺りはすっかり暗くなっていた。夕食に間に合わなくなると慌てて立ち上がり、その日は結局会えずじまいだった。次の日も、そのまた次の日も、放課後に校舎内を走り回る。だが結局セクレトの姿さえ見ることはないまま、遂に土曜日の朝を迎えてしまったのだった。

 「はぁ、一体何するんだろ……」

大いに不安を抱えたまま、レナードは重い足を引きずりながら教会への道を辿っている。夕焼けの過ぎた夜の空は曇っていて、雲間に見える満月だけが彼を照らす。
寮で借り受けたランタンは薄オレンジ色のぼんやりとした光で足元を照らすのみであり、一度行ったきりの教会に果たして辿り着けるのか不安になってくる。懐中電灯の一つも備えていないなんてどうなっているのかと1人ごちる。
加えて宴会でもしているのか、学園から少し離れているはずの民家から時折微かに叫び声のような物が微かに聞こえてくる。森からは不気味な呻き声が聞こえ、嫌な思い出が蘇る。
早く用事を済ませてしまいたい。レナードは縮こまったまま足を早めた。

  「こんばんは、道に迷いませんでしたか?」
 
暗い教会の扉の前で、セクレトが同じくランタンを手に立っている。ようやく人の姿を認め、レナードは詰めていた息をそっと吐き出した。

 「どうにか大丈夫でした。光る柱のお陰です」
 「よかった、ではこちらからどうぞ」

彼は正面の大扉ではなく、教会に沿って歩き出した。。側面の途中に表に比べれば随分と小さな扉があり、そこをセクレトが取り出した金色の鍵で開く。不思議な程静かに、軽そうな扉は奥に開いた。内部は真っ暗で明かりが全くなく、レナードの不安を更に煽る。
扉近くの蝋燭に火が灯されてようやく、そこが小さな部屋だと気付いた。端にはシングル用らしきベッドが置かれ、小さなテーブルと一脚の椅子が備え付けられている。部屋の奥には更にドアがあるようだ。セクレトがテーブルに持っていたランタンを置くと、レナードに中に入るように促した。

 「ここで少し待っていてください。儀式の準備をしてきますので」
 「あの、今更何ですが今日何をするんでしょうか?」

レナードの質問にセクレトははてと首を傾げる。

 「言いませんでしたか? 能力の開花をします」
 「えっ! それってつまり……」

セクレトの顔をちらりと見る。まさかとは思うが、ここで彼と寝るという事だろうか。特に気にしていなかったベッドがやけに生々しく思え、レナードは足を踏み入れた部屋から思わず後ずさりしたくなる。男を抱く趣味も、抱かれる趣味もない。
レナードの脳裏にありえない絵面が浮かび、絶望の未来に顔を青く染めた。
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