置き去りの恋

善奈美

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暁×雪兎編

01 置き去りの恋■(雪兎視点)

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『恋人さんが戻ってくるまでで良いので、付き合って下さい』
 
 確かにそう言ったのは僕だった。
 僕が好きになったのは同性の同級生で、その彼の恋人は、何故か、平気で浮気してて、別れる度に彼の元に戻ってくる。
 
 その恋人が僕と同じクラスで、嫌でも状況がわかってしまう。
 
 僕が告白したのはバレンタインデーの前。そして、彼の本命が彼の元に戻ってきたのはホワイトデーの前。
 
 約束は恋人が戻るまで。
 
 だから、僕は彼の前から消えたんだ。同じ学校だし、限界はあるけど、授業が終わったら教室から抜け出して、授業が始まる前に戻って来て、その繰り返し。
 
 告白前には見ることができた姿も見れなくなって、少し後悔してるんだ。
 
 男子校だから、当然、男ばっかりで、でも、こういった行事にはみんな敏感。本当だったら僕も……。
 
「お前さ、こんなとこで弁当食ってたら、風邪引くんじゃね」
 
 いきなり、背後からかけられた声にビクつく。ゆっくり顔を向けると、そこに居たのは幼馴染みの響也。確かに、裏庭の影になる場所にあるベンチで、三月だと寒いけど。

 
「……大丈夫だし」
「うんなわけあるか。鼻真っ赤になってるだろうが」
 
 言われなくてもわかってるけど、教室にはいられないから、仕方ないじゃないか。
 
「あれか、彼奴が戻ったからか」
 
 キョウの言葉に言い返す気力もない。
 
「……そういう約束だったし、迷惑かけたくなかったし」
「で、お前は風邪を引くつもりだったと」
 
 違うと、言いたかったが、くしゃみが出てしまっては、説得力もない。
 
「本人に確認したのかよ」
「する必要はないよ。僕が言い出したことだし……」
 
 自分で言ったのに、ツキりと胸に痛みが走った。
 
「お袋さんは?」
「父さんのところ」
「だったらさ、尚更、風邪引くような行動は控えるべきじゃねぇの」
 
 言ってることが正論すぎて、反論出来ない。キョウのくせに。キッと睨みつけたら、苦笑いされた。
 
「もう、面倒だからさ、此奴なんとかしてくれないか」
 
 キョウがいきなり振り返り、誰かに声掛けてた。僕は首を捻る。
 
「お前もな、諦めいいっていうか、少しはズルくなれよな」
 
 キョウは僕の頭をひと撫でして、離れて行ったんだけど、キョウが居なくなって初めて気が付いた。そこに居たのは、僕がずっと避け続けていた人。
 
 少し困ったように眉尻が下がっている。
 
「案内したんだから、分かってるだろうな」
「分かってるよ」
 
 僕は体が固まった。寒いからとかじゃなくて。ゆっくりと近付いてくる姿に、逃げなきゃいけないのに。
 
「……返事、してないよね」
 
 僕は首を強く横に振った。答えなんて聞く必要はないから。分かってるから。事実は変わらない。
 
「誤解……、してるんじゃないかと思って」
 
 誤解、の言葉に困惑した。
 
「忍はね。俺をダシにして相手の気持ちを確認しているだけなんだよ。昔からで、否定するのも面倒だったし、俺に特定の相手もいなかったしね」
 
 言っている意味がわからなくて、別の意味で固まった。
 
「キョウの幼馴染みだって知ってたから、それとなく、訊いておいたんだ」
 
 僕はポカンと間抜けな顔をしていると思う。だってさ、言ってることが理解出来ないんだ。
 
「はい」
 
 そう言って渡されたのは、少し大きめの紙袋。咄嗟に受け取って、ちょっと中身に視線を向けた。
 
「何味が好きなのかわからなかったから、手当たり次第に作ってみたんだけど」
 
 紙袋の中は、たくさんのクッキー。手作りと聞いて更に驚いた。
 
「バレンタインデーのお返し」
 
 お返し、の言葉に吃驚した。お返しと言うにはすごい量。作ったっていうけど、普通に違和感のないクッキー。マジマジと困った顔を凝視しちゃってる。
 
「俺の趣味なんだ。お菓子作るの。将来そっちの道に進みたいしね」
 
 サラリとすごいこと言った。
 
「ユキ君は俺に作ったお弁当、キョウに渡しちゃったんだよね」
 
 あの日、と言われ俯いた。うん、僕、キョウに渡した。だってさ、滑稽だと思って。キョウなら、前まで作ってあげてたし、違和感なかったし。
 
 あ、恋人とかじゃなくて、僕のお弁当、勝手に食べちゃうからだ。クラス違うのに、なんでかお弁当強奪が楽しかったみたいで。
 
「僕、約束してたし。ウザいって思われたくなかったし」
「うん。キョウも言ってたから。絶対、離れてくぞって」
 
 キョウのくせに、何言ってるんだよ。
 
「学年トップなのにね」
 
 からかうように言われ、黙り込むしかない。勉強の頭がいいからって、何でも出来るとか思うのは、おかしいって思う。それが表情に出ていたみたいで、思いっきり苦笑いされた。別の意味で面白くない。キョウだったら、蹴ってやるのに!
 
「暁君だって、何時も……」
 
 そこまで言って、噤んでしまう。うん、僕がトップだから、彼は何時も二位だ。
 
「何時も負けちゃうよね」
 
 なんとも穏やかに言ってくるから、いたたまれなくなって更に俯く。
 
「でも、手放す気はないから、覚悟して」
 
 言われたことがわからなくて、弾かれたように顔を上げて、彼を凝視しちゃった。視線が反らせない!
 
「今日、忍にははっきり言ったよ。面倒だから自分の尻拭いは自分でやってって」
 
 面倒なのは嫌いなんだよね、って爽やかに言い切った!
 
「それで、何処に行ってやろうか」
 
 やるってなに?!
 僕がワタワタしているのを、楽しそうに笑って見てる。もしかして、僕、罠に嵌ったの?
 
 
■おまけ■(響也視点)
 
「アカは俺のだったのに」
 
 ボヤいてるのはアカの幼馴染みの忍だ。で、何で、俺の隣で二人を覗いてるのかね。ま、俺は心配だったからなんだけど。
 
「いい加減、アカ離れしたら」
 
 キッと、俺を睨んできたんだけどさ、見た目ワンコじゃ、全く凄みないから。
 
「お前に何がわかるの!」
「わっかんねぇけど、彼奴、面倒臭がりだろう。お前、マジ、面倒だし」
 
 事実をスパッと言ってやったら、口噤みやがった。
 
「……やっぱり、面倒に見えるか」
「アカの気を引きたかったんだろうけど、逆効果。まあ、スッパリ諦めるんだな」
 
 俺には関係ないしな。言うのはタダだし。
 
「じゃあ、お前、責任とれ!」
「はあ!? なんだよそれ!」
「お前の幼馴染みだろう! だからだ!」
 
 右手の人差し指を人に突きつけるな。親に教わらなかったのかよ。
 
「俺、莫迦は嫌いだから」
「俺が莫迦だっていうのかよ!」
「おう、万年ドンベ」
 
 アカは学年二位なのに、何でかね。ちなみに俺はあの二人ほどじゃないけど、十番以内だ。
 
「……」
 
 お、黙ったぞ。
 
「その口、絶対、黙らせてやる!」
 
 捨て台詞を吐いて、走って行きやがった。ま、関係ないしな。
 
 
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