置き去りの恋

善奈美

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貴羅&響也編

02 逃げるなら全力でね(響也視点)

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 あの日の次の日、戻って来たユキは、まあ、俺が見ても色っぽくなってたっていうか。姉貴の餌食にならなきゃいいんだけどな。でも、二人して、どうして、そんな目で俺を見んだよ?
 
「あのさ。貴羅さんに何か感じた?」
 
 ユキは言葉を濁したように訊いてきた。珍しいな。昼は二人の時間なんだから、一緒に誘われたことにも吃驚だったけどよ。
 
「アカの兄ちゃん?」
 
 二人で仲良く頷くんじゃねぇ。ユキだけ色気が増したんならまだ、誤魔化せんだけどよ、二人で垂れ流したら丸分かりだろうが。自覚はないんだろうけどよ。
 
「まあ、怖いだろうな。見た瞬間、鳥肌立ったし」
 
 こう言っちゃなんだけど、アカ見た時も、俺は恐かったけどな! 今は慣れたっていうか、今日は別の意味で居た堪れないけど……。
 
「いろんな意味で気を付けて。俺達は多分、役に立たないから」
 
 アカまで何言ってんだよ? 俺、春名の攻撃だけでも参ってんだけど。そこにアカの兄ちゃんまで参戦されたら、身がもたない。って、俺、どうしてそっち方向で考えるんだよ!
 
「その考え、間違えてないから」
 
 もしや、声に出てた!?
 
「キョウが兄さんの本性を一瞬で見破ったから、興味を持たれたんだよ」
 
 いやいや、俺だけが分かるってわけじゃないだろう。あの人、見た目が穏やかで、顔も整ってるから、もう、怖いなんてレベルじゃないんだよ。喰われるんじゃないかってレベルなんだよ!
 
「あの人、両刀だから」
 
 そんな打撃、必要ねぇし。春名に爆弾投下された後だし。それでも、弟の口から出た言葉の方が、重いよな。俺、遠い目になるよ。
 
「両刀?!」
「そう、バイなんだ」
 
 ユキの驚きはよく分かるよ。俺、姉貴だけでも持て余してるっていうの。
 
「節操なし、って言われてたから」
 
 ん? 過去形なのか? 今は違うって言うのか?
 
「今は違うのかよ?」
 
 何となく、掘り下げない方がいい気がしたんだけど、興味あるだろう!?
 
「体力的に無理だって。でも、気に入ればどっちでも良いみたいだけど」
 
 俺的には異性のみにしてくれねぇかな。溜め息出る。それに、どうして俺に的を絞るんだよ! 春名にしろ、アカの兄ちゃんにしろ、苦労せずに誰でも手に入るだろう! あの、容姿なんだし!
 
「兄さん、顔が良いだけの莫迦は嫌いだから」
 
 また、心の声が口を吐いてたのかよ。もう、俺の脳の容量オーバーしてるって言うの!
 
 ん?
 
 莫迦は嫌いって、学生時代、ぶっちゃけ不良してたんだろう。
 
「素行は悪かったけど、首席で卒業してるから」
 
 俺、今日は心の声が、だだ漏れなんだな。で、首席ですか。流石アカの兄ちゃん。只者じゃねぇよ。
 
「俺が万年次席だから、問いただされたことがあって、雪兎に勝てないって言ったら、根性が足りない、とか言われたし」
 
 うん。名前の呼び方、変わったんだよな。ユキも暁って呼んでるの聞いたしな。なんか、疎外感が半端ねぇんだけど。
 
「で、兄さんに伝言頼まれたんだ」
 
 そう言いながら差し出されたのは一枚の封筒。見た瞬間、ゾワッとした。何にとか言われても、わっかんねぇけど。受け取ったら、絶対ヤバい。
 
「拒絶はなし。俺が危険だから」
 
 兄弟だろぉ! なんとかしろよ!
 
「俺、兄さんの恋路を邪魔する気はないから。でも、一応、忠告はしておいたよ。未成年を誑かすのは犯罪だって」
 
 だよな。アカの兄ちゃん、十二歳年が離れてって、俺、早生まれじゃん! 俺とは一回り以上、離れてんだよ!
 
「そうだね。確かに、キョウは二月生まれだもんね」
「兄さんは四月だよ」
 
 更に要らない情報だよ! で、有無も言わさず、封筒押し付けんな!
 
「それ、食事の招待状。多分、ベタだけど、胃袋からだと思う」
「貴羅さんの料理、美味しいよね」
 
 いや、ユキ、その情報も要らないから。で、食べたわけね。
 
「だってさ。あの日、昼も食べてなかったし」
 
 俺、心の声を声にしてんだな。律儀に返してくれっし。
 
「俺は普通がいいって、言ってんだろ!」
「クウちゃんと美和さん、それに、ナッちゃんと莉嘉さんに囲まれてて、普通は無理じゃない」
 
 いや、まあ、小さい時から、イヤってほど刷り込まれましたよ。親父もあてになんない事は、最近知ったよ。が、俺が染まることないじゃねぇか!
 
「キョウ、口悪いけど可愛いし」
 
 ユキ、ねぇ、って、アカに同意を求めんな! 確かにお前より身長はない。それは百歩譲って認めるけど、可愛気の一つも持ち合わせたつもりはないぞ!
 
「その生意気な口調が、兄さんにはツボだと思うよ」
 
 アカ、追い打ちかけんな。
 
「飛弾野さんも気に入りそう」
 
 おい、飛弾野って誰だ?
 
「兄さんの悪友で、あの辺りの初代総長」
 
 俺、罠に嵌った気がするよ。何も悪いことしてねぇって!
 
「逃げるなら全力でね。応援はするよ。頑張って」
 
 アカよ。口調が軽いぞ。本心じゃ絶対ねぇだろうが! 俺の平穏な日常を返してくれ。
 
 
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