置き去りの恋

善奈美

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貴羅&響也編

08 出口のないジレンマ(響也視点)

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 聞いちゃいけないのは分かってたんだ。でも、動けなかった。淡々と言ってるように聞こえっけど、声音が違う。ゆっくり、階段を登った。本当は、皿を返したかったんだけど、あそこに入って行っちゃいけない気がした。
 
 孤独なんて言葉じゃ足りねぇよ。最初から俺達が、離れていくことを前提に話してる。最初は怖いって。近付いたら、タダじゃすまねえって思った。俺はガキだし、それに対して否定はしねぇよ。でもさ、あんな孤独は知らない。
 
 音を立てないように、アカの部屋に滑り込んだ。今、顔を合わせるのは絶対にマズイ。忍が俺の顔色で全部見破ったってことは、正直に表情に表れてるってことだ。
 
 両親の影が全くないのが変だって思って、その理由を前に聞いて、でもよ。俺、本当の意味で理解してなかった。テレビとかで、よく、特番組んで他の国のスラムとかやっていて、犯罪に走るのは親や大人との接触が薄い子供だって。番組でやってるのは、親なりの理由ってものだけど、アカ達の親は意味が違うんじゃねぇの?
 
 荒れるに決まってる。一番感心を示してくれる、一番身近に居る親っていう大人が、全く感心を示さないんだ。
 
 俺は確かにお袋があんな趣味だし、姉貴も染まってて、親父もポヤッとしてる感じで。でもさ、それ以上に、俺を大切にしてくれてることも肌で感じてた。頭で理解してなくてもさ、たとえ、話のネタ寄越せ! って言われてもさ、子供としての当たり前の愛情は貰ってた。
 
 でも、あの二人は違う。だけど、貴羅さんはアカには擬似的でも感じて欲しいって、だから、アカをユキの両親に託した。じゃあさ、貴羅さんはどうするんだろう? 多分、今、話している人が飛弾野さんで、アカが言っていた元総長。
 
 言い方はあれだけど、声音が貴羅さんを心配していた。このままじゃ駄目なんだって。でも、本人はヘラって笑ってる。寂しいって全身で言ってるのに、全身で威嚇もしてる。だから、スゲェ怖いし、近付くのも勇気が要る。今だって、本音を言えばスゲェ怖くて、俺なりに予防線も張ってる。
 
 知らないから、でも、無神経に訊いたりは出来ないし。そんなことをすれば、無視してるだろう傷口に塩を塗るだけじゃなくて、傷口が開くんじゃねぇ?
 
 目頭が熱くなって、雫が板の間に小さな音を立てて零れ落ちた。驚いた。俺、何で涙なんて流してるんだよ……。分かんねぇけど、自分のことじゃないけど、何かモヤモヤして、スッキリしない。 
 
 綺麗な顔して、でも、それだけじゃなくて、男の色気もちゃんとあって。それなのに、笑うと子供みたいなところがあって、凄くアンバランスで危うい感じかするんだ。何かの拍子に崩れて、元に戻れない、そんな危うさ。
 
 この感情がどういったものなのか、俺、分かんねぇよ。何に反応して、泣いてんだよ。悲しいことなんてないし、痛い思いもしてない。でも、胸の奥がズキズキしてる。本当に、何に反応してんだ。涙腺が緩んで、止まってくれねぇし。
 
 ただ、脳裏に映る顔が、妙に引っかかる。最初、アカを見た時と同じ、いや、それ以上に驚いて、本能的に怖くて、でも、寂しそうで、痛そうで。
 
 アカはユキと居るようになって、会った頃より笑顔を見せるようになった。でも、忍に言わせると、俺と一緒に居るようになって、笑うようになったって言ってた。じゃあ、貴羅さんは? あの人はアカより顔は笑ってる。でも、心は笑ってない。ただ、笑うという行動を無意識にとっているだけだ。条件反射のように、身に付いた行動を癖のように繰り返してるだけで、本心じゃねぇし。
 
 こんなことになって、必然的に二人でいる時間が長くなって、でも、俺、本当にあの人を分かってるんだろうか。たかが十六年の時間しか生きてない。親に守られて、本当の意味の苦痛も孤独も痛さも知らない。
 
 この感情のはけ口が見付からない。誰かに言いたいのに、言ってはいけないんだって、本当の意味で俺自身のことじゃない。だから、言えないし、訊けない。
 
 どうしたらいい、って考えてたら、何故かお袋の顔が思い浮かんだ。確かに、腐ってるし、言ってることは無茶苦茶なんだけど、でも、変な知識だけじゃなくて、やっぱり、経験は豊富。色んな意味でな! 多分、親父に訊いてもいいかもしれねぇけど、お袋なら、きちんと聞いてくれるかもしれねぇ。
 
 俺の親だけど、そこんとこは尊敬してっから。問題なのは、腐ってる部分だけだしな! 悶々と考えてても、出口はねぇし! 明日は確か定休日だから、一旦、帰るって話して……。話して、答えが見付かったら、俺、どうすんだろう?
 
 
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