置き去りの恋

善奈美

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紫綺&忍編

01 困った訪問者⁈(貴羅視点)

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 何時ものように営業が終わって、片付けをしている。今日は土曜日で、響也が明日休みだから泊まりに来るし。朝、何を食べようかなぁ、とボンヤリ考えていたら扉を壊さん破壊的な音が響いた。流石の俺も吃驚するから! 車でも突っ込んで来たのかと、恐る恐る視線を向ける。が、そこにはえらい仕立てのいいスーツに身を包んだまだ、二十代中盤の男。おい、扉の札見なかったのか? closeになってただろうが。
 
「相続権放棄するのはやめてくれないか!」
 
 はい? 此奴、何者? 相続権って、あれか? 秋保家の相続権か? それとも氷室家のか? どっちにしても、相続する気も、継ぐ気も全くないからな。
 
「やだ」
 
 誰かは分からないけど、面倒事は回避するに限る。
 
「営業時間すぎてんのよ。申し訳ないけど、回れ右して帰ってくれないかな」
 
 直感で俺の三人弟の誰か。年齢的に若く見えるから、暁のすぐ上あたりかな? が、関わる気は一切ない! 特にあの馬鹿男と莫迦女の血族なんて暁だけで十分。
 
「困るんだよ。何のために無能をアピールしてたと思うんだよ」
 
 ん? 無能じゃないのか?
 
「あのさ。今更だけどあんた誰? 俺が認識してんのは莫迦親二人と暁だけなの」
 
 俺が素直にそう告げると、バツが悪そうに顔を歪めた。まあ、会ったこともないし、知っていたとしても会う気すらなかっただろうね。面倒が増えるだけだし。
 
「紫綺だ」
「何方の莫迦親? 秋保? 氷室?」
 
 俺が軽い口調で面っと莫迦親とか言ったからか、目を見開いてる。
 
「秋保の方」
「あんた的に長男? 次男?」
 
 俺が流すように訊くのが意外なのか、少し唇を噛み締めてるな。苛めるのは駄目かな。いろんな意味でさ。
 
「とりあえず、ここに座ったら」
 
 ここ、って指さしたのはカウンター席。他の席はもう既に、テーブルの上に上げちゃったしね。少し躊躇った後、素直に席に着いた。お、俺達より格段に素直。
 
「長男は貴方でしょう」
「俺の存在知ってるの?」
「兄貴は知らない」
 
 つまり、秋保的には三番目になるのか。此奴の上に一人ってことか。
 
「で、どうして、相続権放棄に過剰反応してるの? 願ったり叶ったりじゃないの?」
 
 莫迦親共は、爺さん達込みで、俺と暁を無視し続けたんだ。それはつまり、そういう事だろう。相続に関する事柄には一切感知させない。俺としても、あの一族共とは関わり合いたくないしね。
 
「俺も相続放棄を願い出てて、成人前だったんだけど」
「どうして? 俺達とは違って可愛がられたんじゃないの?」
「冗談はやめて欲しい。兄貴だけいたらよかったんだよ。本当は女の子が欲しかっただけらしいから」
 
 ほお、また、捻くれた感じで。俺達に比べたら子供レベルだけどね。男兄弟ばっかりだからな。見事に男だけだからな。此奴、女だったらある意味危険だな。綺麗な顔してるし、中性的だしね。
 
「乗り込んで来られても、考えは変わらないのよ。何でも、会社やばいんだって?」
「誰から……」
「工藤さん。それに、無能な三兄弟って言ってたけどね」
  
 顧問弁護士だった工藤さんは、随分と弟共に対して評価が低い感じだった。つまり、本当の意味で無能を演じていたなら、凄いことだな。
 
「効果はあったのか。でも……」
「あんたの上。無能なの?」
 
 単刀直入にスパッと訊いてみた。濁したところで時間が掛るだけだし。
 
「まあ……」
「濁さなくても問題ないでしょう。流石にここ作るとき、警戒して作ったし。偵察されてる感じもないし」
 
 偵察されていたら大騒ぎだろうに。何せ、俺と暁の恋人は男だし。俺に至ったら年の差半端ないし。
 
「……、やりたい放題かな」
 
 甘やかしたのはこっちか。で、此奴は女の子を望んだ莫迦男に幻滅されたと。阿呆らし。此奴にしたら災難だな。生まれたところを間違えたんだな。
 
「俺は長くあの会社にいるつもりはなくて、部下? 俺にしたら俺の方が下だと思うんだけど。最初からすぐ居なくなるってことを話して、なるべく、社員の能力に任せて、急に居なくなっても対応出来るように」
 
 此奴は此奴なりに考えてたんだな。じゃあ、部下は知ってるのか。いきなり上司になった若造が無能じゃなくて、振りをしてるって。本当に莫迦親。ちゃんと見てやれよな。
 
「辞めたいって言った時に、会社がやばいことになってることを知ったんだ」
 
 それまで、気が付かなかったか、隠してたかか。本当に阿保すぎて付いてけないわ。
 
「俺が相続権を放棄したのそのせいなんだけどね。引っ掻き回すだけ回して、困ったら爪弾きにしてた息子に再生させようとか。ご都合主義も甚しでしょうが。それで、本来なら莫迦親の時に合併してた筈の会社を俺使ってしようとか。勘弁願いたいね。立て直したその後、可愛い息子に会社を渡す気だろうが。見え見えすぎて可笑しいわ」
 
 俺が軽い感じで、でも辛辣に言ってのけたら黙った。分からなくないけどね。
 
「それに、見てもらうと分かるだろうけど、俺、料理人なの。一般の会社経営何て、今更覚える気ないし」
「頭はいいんだろう。いろんな意味で」
 
 おや。何か知ってるのかな? 別口で調べたみたいだな。
 
「俺より暁の方が、そういう意味では頭が良いよ。勿論、普通にあの年代の子としての頭の良さもあるよ。まあ、あの子は氷室だけどね。そして、一番の被害者だ」
 
 被害者、の言葉に紫綺は黙り込んだ。暁についても調べたみたいだな。
 
「誰よりも負担を強いた存在だよ。暁も相続権を放棄したけどね。言わせてもらうけど、あの莫迦親に子供を育てる能力は皆無だ。そう言う意味では、あんたも被害者」
 
 紫綺はジッと俺を凝視した。本当に俺達とは別の綺麗さだな。あえて言うなら、ユキと近いか。あの子も綺麗だからね。
 
「考えは……」
「変わらないね。変えるつもりもないし。会社に関しては、あの莫迦親がなんとかするのが道理でないの? 何もってことはないだろうけど、会社の仕事をよく知りもしない奴に、役職を最初に与えたら、普通に考えて問題が起こるでしょうが。しかも、経営者の一族なら間違っていても強気でいけるんだろうし。それを注意出来るだけの者がいなかったら、傾くくらいするでしょうが」
 
 俺が当たり前のことを言ったら俯いた。言われなくても分かってたんだろうな。でもさ、同情する気は無いわけよ。そんな話をしていたら、二階に続く階段から軽やかに降りてくる足音。ひょっこり顔を出したのは響也。痺れを切らせたな。
 
「片付けまだ終わらねぇの? あれ? お客さん?」
「違う。弟」
 
 目を見開いた響也が紫綺を凝視する。心底、驚いてるね。まあ、それなりに話はしてあるからね。
 
「あれ? 莫迦じゃないじゃん。まともに見えんだけど」
 
 流石、響也。俺より見る目は確か。って事は、此奴は莫迦じゃない。決定だな。
 
「あの子は?」
「んー? 俺の恋人」
 
 紫綺の表情が驚愕に彩られた。分かる。ごく当たり前のその反応。
 
「高校生に見えるんだけど。それに男、だよな?」
「暁の同級生で、正真正銘、男だね」
 
 あんぐり口を開けた綺麗な顔がある意味見もの。此奴は面白いかも。
 
 
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