置き去りの恋

善奈美

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紫綺&忍編

16 紫で繫がるモノ(忍視点)

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 正直に恥ずかしかった。
 
 俺は自分の存在の不安定さにいつも悩んでいて、何時でも消えることが出来るように、そればかりを考えていた。勉強にしてもそうで、だから、キョウに莫迦は嫌いだと言われて、初めて駄目なんだって気が付いた。
 
 目の前の人が俺を剥くなんて思ってなくて、抵抗出来たのに驚きが体を竦ませた。その後は……、正直に恥ずかしかった。レイプはされたけど、体をあんな風に弄られたことはなかったんだ。
 
「そこから動いたら、本当に監禁する」
 
 秋保さんがそう言うと、部屋に明かりを灯し、俺が身に付けていた物を持って部屋を出て行った。当然、何も身に付けていなくて、辺りを見渡したらベッドの上のタオルケットしかない。とりあえず、それを体に巻き付けた。
 
「……わけ分かんない……」
 
 貴羅さんに頼まれたから、俺のそばに居てくれたんだから。その俺がもういいって言ってるんだから、解放されたって喜ぶところじゃないか。戻って来た秋保さんが今度はクローゼットの中を漁り出した。どう見ても衣服関係じゃない。逃げないから何か身に付けたいんだけど。
 
 戻って来た秋保さんがベッドに腰掛けた。
 
「左耳かせ」
「如何してさ……」
「言うこと聞くよな?」
 
 如何して、いきなり人が変わったようになるの? 彼奴等を簡単にあしらっていたことを思い出して、素直に従った。
 
「これ、外すぞ」
 
 そう言われると、左耳に付けていたシリコンのピアスが抜かれた感覚があった。え? 如何して外すのさ?
 
「お前を野放しにしたら、後々大変なことになる。素直に俺のそばに居ろ。遼さんに遠慮があるなら、此処に居てもいい。でも、出で行くのも、他人になった振りをするのもなしだ」
「……分かんない」
 
 外されたピアスの代わりに、何かひんやりした物が差し込まれた。何なの?
 
「まさか、役に立つとは思わなかった」
 
 役に立つ?
 
「これ、鎖な。俺が外さない限り、そばから離れるのは許さない」
 
 恐る恐る左耳に触れる。指先に感じたのはひんやりした硬い感触。
 
「何付けたの?」
「ピアスだな」
「そんなのは分かるよ! これ、宝石でしょう? なんの宝石?」
「バイオレットダイヤモンド」
 
 はい? 今、凄いこと言わなかった? そんな色のダイヤモンド、聞いたことないんだけど。それ以前に、この人、ピアスホール無いじゃん! ピアスを持ってる意味が分からないんだけど?!
 
「何でピアス何て持ってるの?!」
 
 それに鎖って何?!
 
「大学時代の友人に売付けられたんだよ」
 
 言わせてもらうけど、聞いたことない色のダイヤモンドだよね。高いんじゃないの?
 
「それに、その辺で売ってるのを付けても、鎖にならないだろうが」
「何、その貴羅さんみたいな感覚」
 
 最初は温厚かと思ったけど、この人見た目と違う。やっぱり、あの二人の兄弟だよ。
 
「好きな女の人にプレゼントしたら良かったじゃん!」
「結婚する意思がないのに、こんなもん渡したら誤解するだろうが」
 
 ……後最もです。
 
「俺って面倒だろう? いろんな意味でさ。だから、解放するって言ってんのに」
「面倒だと思ってないから問題ないだろう? それより、その体に誰かが触れる方が不愉快」
 
 何言ってるの?
 
「莫迦兄の影響で面倒だと思ってないのかと思ったが、さっき試してみて違うって分かったからな」
 
 さっきって。あの、無理矢理、俺をイカせたこと? あの、羞恥が半端なかったこと? 俺さ、もう高校生で、恥ずかしい年頃なんだけど。
 
「……本当に有り得ない………」
 
 タオルケットで顔まで隠した。綺麗な顔して、やる事えげつない。
 
「忍が可愛くない発言を連発したからだろうが」
 
 驚いて思わず顔をタオルケットから出して、秋保さんを凝視した。
 
「汚れてるだの、出てくだの。挙げ句の果てには秋保さんときた。本当に可愛くないな」
 
 半眼で凝視しないで。貴羅さんの睨みも怖いけど、この人の凄んだ顔も違った意味で怖い。綺麗な顔で無表情で半眼とか、本当にやめて……。
 
「それに、遼さんが息子に春名さんとか言われたら傷付くぞ」
「他人じゃん」
「育てたのは遼さんだろう。世の中には血の繋がってない親子なんてザラにいる」
 
 そうなんだけどさ。俺の場合、産みの母親に捨てられたんだけど。
 
「血が繋がってたって、俺の家族みたいな特殊なのもあるんだ。それ言ったら、アカはどうするんだ? 血の繋がった親に捨て置かれた挙句、実の兄のせいで貧乏くじだろうが」
 
 あれ? 如何してこの人、アカのこと詳しく知ってるの? あの二人が話すとは思えないんだけど。
 
「何、不思議そうな顔してるんだ? 調べたに決まってるだろう。予備知識もなしに、会ったこともない兄弟の所に来るほど図太くないんでね。ましてや、俺達の場合は特殊なんだ。受け入れてもらえるとは考えていなかったんだよ。それに、忍関係である程度聞かせてもらったんだ」
 
 俺、顔に疑問が出てたんだな。
 
「遼さんがあんなに心配してくれてるんだから、血の繋がりとか、そんな拘り捨てるんだな」
 
 一瞬、躊躇ったんだけど、素直に頷いた。そうしたら、秋保さんの表情が柔らかくなって、頭を撫でられた。
 
「後、秋保とか呼ぶのやめてくれないか? もう、秋保と氷室とは関わりたくないんだよ。それに、貴羅もアカも秋保なんだよ」
 
 あれ? いつの間に貴羅さんを呼び捨てになってるの?
 
「……紫綺さんって呼ぶ」
 
 なんか、嬉しそうなんだけど。
 
「ねぇ。このピアスって、一つなの?」
「一対だが」
「どんな色か見てみたい」
 
 付けてもらったのを鏡で見るより、直に見てみたい。差し出されたケース。うん、ケースからして高そう。黒のベルベット地に、本来なら隣り合うように一対のピアスが並んでるんだろうけど、今は一つ。綺麗な青味の強い紫色の宝石。カットを見ないとダイヤモンドだって分からないかも。
 
「如何して、売りつけられたの?」
「彼奴、宝飾関係の企業に就職して、上を目指してるみたいで、この紫色のダイヤモンドを見た瞬間に俺に売りつける気満々だったらしいんだ」
 
 いまいち、理解出来ないんだけど?
 
「如何して紫綺さんなの?」
「俺の名前が紫綺だからだ」
 
 更に分からないんだけど?
 
「名前に紫が入ってるんだから、お前が買えって、阿保か」
 
 持って来た時から、ピアス加工がされていたらしく、挙句に、ピアスホールを開けろと言われたんだって。凄い友人だ。
 
「箪笥の肥やしだから、いらないって言ったんだけどな、無理矢理、押し付けていったんだ。金額請求も忘れずに」
 
 上昇志向の人って凄いな。まあ、紫綺さんが社長令息だからだろうけど。
 
「これ、紫綺さんも付けようよ」
「は?」
「キョウと貴羅さんみたく」
「いや、俺は開ける気ないが」
 
 俺に付けといて、自分は付けないとか狡いじゃん。それに、使わないのはピアスが可哀想じゃん。
 
「貴羅さんに相談していい?」
「如何して、そこで貴羅が出る?!」
「面白がって、やってくれそうだから」
 
 もしかしたら、アカも参戦してくるかもしれない。もれなく、キョウと我妻も出てくると思うけど。
 
「本気で言ってるのか?」
 
 思いっきり頷いてみせた。如何して悩むのさ。
 
「本気」
 
 面倒じゃないって言ったでしょう? だったら、我が儘も聞いてくれるんでしょう? 俺は目に見える確かなものが欲しいんだ。
 
「……考えておく………、だから、貴羅には相談しないでくれ……」
 
 紫綺さんも貴羅さんには弱いんだな。当たり前だけど。でも、此処にいていいんだ。それが、凄く嬉しかった。
 
 
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